(フン・セン首相夫妻 カンボジアのタ・プロム遺跡 “flickr”より By serge.corrieras
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【腫れものに触るような日米関係論議】
普段世界各地から報じられるニュースは概ね何らかのトラブル絡みのものですから、そこで繰り広げられる外交関係は“リング中央で足を止めて打ち合う”ような激しい(場合によっては武力行使を伴うような)ものが殆どです。
そうした外交関係を目にしていると、日本で昨今話題になっている日米関係に関する議論、特に自民党サイドからの「日米関係の重要性を一体何と心得る・・・」といった類の議論には違和感を覚えます。
別に、鳩山政権を含めて、誰も日米関係をないがしろにする考えはありませんし、日米関係なしに日本が立ち行かないのも自明のことです。
ただ、主権国家どうしの関係ですから(それを“対等”と呼ぶか“普通”と呼ぶかは別にして)、お互いの主張はオープンにして、そのうえで妥協点を探ればいいだけの話です。(外交ですから、自国主張が100%とおることはありえません。何らかの、時には苦渋の譲歩も必要になります。)
最初から相手のご機嫌を損ねないようにとの腫れものに触るような議論は、いかがなものか・・・との感じがします。
【リング中央での打ち合い】
“リング中央で足を止めて打ち合う”ような関係のひとつが、最近のカンボジアとタイの関係です。
****カンボジア、タクシン氏の顧問任命発表 タイの反発必至****
カンボジア政府は4日、汚職罪で有罪判決を受け、海外逃亡中のタイのタクシン元首相をカンボジア政府の経済顧問に任命したと発表した。フン・セン首相の私的顧問にも任命するという。タイ政府は各国に対し、タクシン氏を犯罪人として引き渡すよう求めており、反発は必至だ。
発表によると、フン・セン首相の提案を受けたシハモニ国王が10月27日に任命を認める勅令に署名した。ただ、タクシン氏の了承が得られているのかどうかは不明だ。
フン・セン首相は先月23日に、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席するため訪れたタイで、06年の軍事クーデターで追放されたタクシン氏に顧問就任を要請するアイデアを披露。タイ政府やタイのメディアが強く批判していた。
両国は、国境にある世界遺産のクメール寺院周辺の領有権をめぐって対立を続けており、今回の発表で関係がさらに悪化するのは確実だ。
フン・セン首相は、タクシン氏がタイの首相に就任する前からの友人とされ、クーデター後もかばう発言を繰り返している。【11月5日 朝日】
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先日の2日ブログ「カンボジアとタイ タクシン元首相の処遇で確執 望まれる地道な関係改善」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091102)でも取り上げた話題で、そのときは「カンボジアが実際にタクシン氏を経済顧問として迎えることなどはないでしょうし、フン・セン・カンボジア首相の言動はタイ側をからかっている悪乗りにも思えますが、そうした発言が出てくるのは、冒頭に述べたような両国間の対抗心があるからです。」なんて書いたのですが、フン・セン首相、本当にやっちゃいましたね・・・。
タクシン元首相は、過去にカンボジアで携帯電話事業などに投資し、フン・セン首相とは近い関係にあって、フン・セン首相は元首相を「永遠の友人」と呼んでいるそうです。
汚職で有罪判決を受け海外逃亡中のタクシン元首相はインターネットを通じ、カンボジア政府の任命書を受け取ったことを明らかにし「フン・セン首相に感謝する」と語っているそうです。【11月5日 毎日】
“任命書を受け取った”というのは“要請を受ける”ということでしょうか?
タクシン元首相がいくらアピシット現政権と対立しているとはいえ、民族的な対抗心が強く、国境のヒンズー教遺跡「プレアビヒア」の領有問題で衝突しているカンボジア側に与することが、タクシン元首相の利益になるのでしょうか?
当然、反タクシン派は“売国奴”的なレッテルを貼って、今まで以上に激しく攻撃してくるでしょうし、タクシン支持者の理解が得られるのでしょうか?
【本格的な外交紛争へ】
タイとカンボジア間には犯罪人引き渡し条約がありますが、カンボジアはタクシン元首相が入国してもタイへの引き渡しを拒否する構えです。
タイ政府は5日、駐カンボジア大使の本国召還を発表。これを受けてカンボジア政府も同日、駐タイ大使の召還を表明。タクシン元首相を巡る両国の対立は、本格的な外交紛争に発展しつつあります。
****タイ:カンボジアに報復 共同開発合意破棄「国境封鎖も」****
タイのカシット外相は6日、カンボジアがタクシン元タイ首相を政府経済顧問に任命したことへの報復措置として、両国間で結んだ海洋地下資源の共同開発に関する合意を破棄すると表明した。アピシット・タイ首相も同日、カンボジア側がタクシン氏の任命撤回などに応じなければ、さらに強硬な対抗措置を取る考えを示した。国境地帯の領有権問題を背景にカンボジアのフン・セン首相が仕掛けた両国間の対立は、泥沼化する様相を見せている。
カシット外相が破棄を表明した合意は、タクシン氏が首相だった01年に結ばれた。両国沖の未画定となっている境界の画定をめざし、海底の天然ガスなどの地下資源共同開発へ向けて協議を開始するとの内容だが、協議は進展していない。
両国首相は、同日東京で始まった「日メコン首脳会議」にそろって出席している。だが、アピシット首相は、タイ側から首脳協議を申し入れる考えがないことを記者団に明らかにした上で、「(カンボジアの反応がなければ)次の措置を検討する」と強調した。タイのステープ副首相も同日、バンコクで「すべての国境検問所を閉鎖することもありうる」と語り、国境封鎖の可能性に言及した。
両国は昨年から、国境のヒンズー教遺跡「プレアビヒア」付近の領有問題をめぐって関係が悪化。今回の対立は、この問題を背景にカンボジア側が仕掛けた神経戦の色合いが濃い。
フン・セン首相は10月にタイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の直前に、タクシン氏のカンボジア訪問を歓迎すると表明。今回は、「日メコン首脳会議」の直前に同氏の顧問任命を正式発表した。反タクシン派のアピシット首相と顔を合わせる首脳会議の直前に、タクシン氏の問題を持ち出すことでタイ側に揺さぶりをかけている可能性がある。
だが、泥沼化する対立が、ASEAN全体の協力体制に悪影響を与えるのは必至だ。AFP通信によると、シンガポール外務省報道官は6日、「ASEAN全体の利益を考慮してほしい」と述べ、両国に強く自制を求めた。【11月6日 毎日】
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“カンボジア側が仕掛けた神経戦の色合い”・・・・そんなレベルではないような気もしますが。
大使や外交官の召還とか追放というのは外交関係ではよくある話で、先進国・主要国間でもイギリスとロシアが外交官を追放し合っていますが(最近、縁りを戻す動きがあるようですが)、国境封鎖というのは穏やかではありません。
特に、タイ経済に大きく依存するカンボジア経済にとっては大問題ではないでしょうか。
冒頭で“お互いの主張はオープンにして”とは言いましたが、ここまでくると、和をもって尊しとする日本の風潮・外交感覚からすると“お互い、よくやるな・・・”という感がします。