(女性抑圧の象徴ともみなされるブルカですが、もともとは畑仕事をしなくてもいい都市生活女性が着用していたこと、農村部女性はたまに町に出かける時にブルカを着用することで男性の視線を気にせず行動できる自由が得られたこと、内戦の混乱から女性の身を守るためにブルカ着用が増加したこと、特に難民のテント生活においてプライバシー確保のためにブルカ着用が増えたこと・・・等々、話は単純ではないようです。タリバンはそうしたブルカ着用拡大を単に制度化しただけとも言えるとか。
ただ、ブルカで身を隠さないと自由が得られないというのは、そうした社会にやはり歪みがあるように思えるのですが。“flickr”より By Yan Boechat
http://www.flickr.com/photos/yanboechat/41496398/)
【カルザイ政権への不信感から増派慎重姿勢も】
アメリカ・オバマ大統領がアフガニスタン増派についてどのような判断を下すか、決定が延びています。
それだけ、判断が難しい問題であるということでしょうが、明確な判断を下せないというイメージはオバマ大統領の支持低下にも影響してきます。
アメリカ大統領たるもの、躊躇は許されない・・・つらい立場ですが、判断を誤るのはもっと許されないことです。
10月28日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、米政府当局者らの話として、オバマ政権がアフガニスタンの人口集中地域10カ所を重点的に防衛するため、米軍を増派する方針を固めたと報じていました。
これによると、増派される兵力の人口集中地域への重点配備は、住民の安全対策を重視するアフガン駐留米軍のマクリスタル司令官と、大規模増派に反対するバイデン副大統領との折衷案で、タリバンを、米国への直接的な脅威はないとして完全に掃討することは断念し、国際テロ組織アルカイダへの攻撃を強化するというものです。【10月29日 産経より】
米CBSは9日、増派について4万人規模になると報じています。駐留米軍は2010年末までに10万人以上に達し、大半は長期的に駐留を続けるとしています。
AP通信も9日、政権当局者の話として、アフガンの拠点都市10カ所の防御を固めるため、来年1月に追加派兵が始まると報じています。治安の状況をみながら、その後約半年で、段階的に4万人まで増やす選択肢も検討されているという報道でした。 【11月10日 朝日より】
ただ、ここにきて、オバマ米大統領が進めるアフガニスタン戦略見直しが、カルザイ大統領への不信感から最終局面で練り直しを迫られているとも報じられています。
米メディアによると、オバマ大統領は11日に行った戦略見直し会議で、アフガニスタン政府の治安維持能力の確立時期を明示した戦略を提示するよう要求、これまでの増派案の修正を求めたと言われています。
ワシントン・ポスト紙(電子版)によると、アイケンベリー駐アフガニスタン米大使がこの1週間に、カルザイ大統領が汚職排除と治安責任を含む実効的な統治に取り組まない限り、米軍を増派しないよう強く進言する極秘メモを2回にわたりホワイトハウスに送っており、これがオバマ大統領の判断に影響を与えていると見られています。【11月12日 時事より】
オバマ大統領は戦略見直し会議で「米国の関与政策が無制限ではないことをアフガン政府に明示すべきだ」との考えを表明。AP通信によれば、大統領は席上、アフガン政府への治安権限の移譲を念頭に置きつつ、米軍当局が作成した増派計画案への承認を避けたとのことです。【11月13日 産経】
【「米国にとって死活的に重要な利益」】
****アフガン戦略見直しに理解求める=訪日経由地の基地で-米大統領****
アジア歴訪に出発したオバマ米大統領は12日、日本に向かう前に経由地のアラスカのエルメンドーフ空軍基地に立ち寄った。オバマ大統領は約1000人の兵士を前に演説し、「米国を守るため、君たちにふさわしい戦略と明確な任務を与える」と述べた。アフガニスタン戦略見直しに時間をかけ、慎重に判断していることへの理解を求めたものとみられる。
オバマ大統領は「任務を完遂するために必要な装備と支援を与える」と述べる一方で、「米国にとって死活的に重要な利益にならない場合は、君たちの命を危険にさらさない」とも語った。【11月13日 時事】
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「米国にとって死活的に重要な利益」とは何か?
アルカイダなどのアメリカへのテロを企てる勢力を一掃すること、更には、アフガニスタンでのタリバン勢力拡大が核保有国パキスタンを不安定化させ、テロ組織などへの核拡散が広まることを防止することなどが挙げられますが、アメリカの一般国民にとっては、見たこともない国アフガニスタンで多大な犠牲をだしながら戦闘を続けることへの疑念が大きくなっています。
アメリカのABCテレビなどが10月18日までの4日間、全米の1000人を対象に行った世論調査によれば、オバマ大統領のアフガニスタン政策を「支持しない」(47%)と答えた人が「支持する」(45%)を初めて上回り、戦略の見直しを進めるオバマ大統領に対する国民の目が厳しさを増していることを示しています。
先日のTV報道で、大統領選挙でオバマ大統領を熱烈に支持した人々が、アフガニスタンからの撤退を求めて「反オバマ」に転じていることが報じられていました。
「オバマならアフガニスタンから撤退してくれると信じていたのに・・・」・・・・これは、理解できません。
オバマ大統領はイラク戦争に反対したときから、一貫してアフガニスタン・パキスタンでのテロ勢力一掃の方がイラク戦争より重要だと訴えてきており、その意味で、アフガニスタン介入拡大は公約どおりです。
「アフガニスタンなんて、もううんざりよ・・・」・・・・これは、実に正直な意見です。
「“うんざり”とは何事か!勝手にひとの国へやってきて戦争を行い、多くの民間人犠牲者も出したあげく、もううんざりだから帰る・・・というのは、いかにも身勝手、無責任ではないか!」との批判を浴びそうなので、普通なかなか口にできませんが、本音でしょう。
【タリバンが「女性専用の高等教育機関」設置???】
本音ついでに、私個人のアフガニスタンに関する本音を言えば、「原理主義で人権無視のタリバンなんて嫌いだ!アフガニスタン国民の多くもタリバン支配なんて望んでいない。アメリカが何を好き好んでかの地で血を流しながら戦争しているのかは知らないけど、タリバンを一掃してくれるなら好都合だ。うまくやってよ・・・」といったところです。
そのタリバンが柔軟姿勢を見せているそうです。
****タリバン:イスラム法の規制緩和 復権へ支持集めか****
アフガニスタンで勢いを増している旧支配勢力タリバンの指導部が、政権時代にしていた成年男子への長いひげの義務付けや、全国民に対するテレビや映画鑑賞禁止など、イスラム法に基づいた厳格な規制を緩め、事実上容認していることが複数のタリバン関係者の証言でわかった。
米軍主導の掃討作戦やカルザイ政権への国民の反感の高まりを背景に、現実路線に“チェンジ”し、政権奪取に向けた幅広い支持を集める狙いもありそうだ。
また、タリバンはこれまで、女性の高等教育に否定的だったが、指導部の中には、同じイスラム教スンニ派を国教とするサウジアラビアが設立した女子大学のような「女性専用の高等教育機関」の設置にも前向きな意見があるという。
複数の関係者によると、指導部は「命令」でなく、「黙認」の形で全国各地の「影の州知事」を通じ、実効支配地域の住民に通達。ひげをそっても構わないことや、家庭内鑑賞を条件にジャンルを問わずテレビや映画、音楽鑑賞も認めた。条件に従えば、米映画もOKだという。
ただ、衛星放送やインターネットが普及し、米軍などと戦闘中のタリバンは、規制にまで手が回らないのが実情だ。また、ひげが長いと検問に引っかかりやすいといった事情もある。指導部内には依然、厳格な統治を主張する声もあるといい、「変身」は人気取りの方便の可能性もある。
タリバンは96年、戦争に疲れた多くの国民の支持を得て政権の座に就いた。だが、国際テロ組織アルカイダとのつながりを疑う米国が締め付け策を強化。タリバンは情報統制を目的にテレビや映画を禁じ、ひげも規定の長さに満たない男性は伸びるまで外出を認めないなど、極端なイスラム法の適用をしていた。【11月13日 毎日】
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かつてタリバン政権ができた頃のタリバンは、カンダハルあたりの田舎育ちで、カブールのような都市生活も経験したこともなければ、外国人に出会ったこともない(あったとしても、これまた人権などとは縁がないソ連軍兵士ぐらい)、知っているのは部族社会のルールとイスラム神学校で教わったことだけ・・・そういった環境にあったと思われます。
そうした閉塞的な世界観が、原理主義的な施策強行に影響していたのでは・・・。
その後、カブールのような都市文化、選挙を基盤とした民主主義、ソ連軍以外の外国人・・・そうしたものに触れる過程で、彼らの考えも少しは柔軟になったのでしょうか。
それとも、単なる人気取りのポーズでしょうか。(“ポーズ”であったにしても、ポーズをとるメリットを理解したのであれば、それはひとつの変化でしょうが)
「女性専用の高等教育機関」なんて、タリバンにしては画期的です。
本当にタリバンの姿勢に変化があるのであれば、「タリバンなんて嫌いだ!」という本音部分にも影響してくるところです。まだ、情報が少なすぎて判断できませんが。