(旧暦大みそかの昨年2月6日夜、「NHK紅白歌合戦」にあたる中国中央電視台(CCTV)の旧正月年越し番組『春節聯歓晩会』に出演して、話題曲「中國話」を歌う台湾人気グループ「S.H.E」)
【「S・H・E」の「中國話」】
最近の音楽事情については、国内・国外を問わず、全く不案内なため、台湾の人気アイドルグループ「S・H・E」についても初耳でした。
****上海余話 私たちは中国人!*****
台湾出身の女性ボーカルトリオ「S・H・E」は中国大陸でも超人気のアイドルだ。8万人もの収容が可能な巨大スタジアム、上海体育場で先日開かれたコンサートは満席。中台の共通言語、中国語(北京語)で歌う彼女たちの透き通るような声が心地よかった。
女の子のせつない恋心を歌うスローバラードが得意な3人。終盤を迎えて上海のファンが求めた「アンコール」の声に応えて歌ったのが「中国語」というタイトルのラップ曲だった。
中国語の早口言葉をラップで交えながら、「全世界の人がみな中国語を話し始めたよ。孔子さまの言葉もだんだん国際化するね。すっごく賢い中国人、とっても美しい中国語」と繰り返し歌い上げる。中国人はもとより、中国語を話すアジア華人にも連帯感をもたせてプライドをくすぐる。
上海のファンたちも総立ちになって3人と一緒に歌った。興奮の渦だ。
だがちょっと待てよ。戦後の中国国民党政権による教育で台湾も北京語が標準になったため「とっても美しい中国語」は分かるが、「すっごく賢い中国人」には引っかかる。彼女ら3人とも何代も前から台湾生まれ台湾育ちのはずだからだ。
アイドルの歌詞に中台間の微妙な問題を持ち出すのは無粋かもしれない。音楽会社の市場戦略もあるだろう。だがそれでも「私たちは中国人よ!」と上海で歌った3人の姿に、中台関係をめぐる時代の変化を感じずにはいられなかった。【11月23日 産経】
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「中國話」という曲は07年5月頃にリリースされたもののようですが、中国に対する台湾の独自性を重視する考え方も根強い台湾にあっては、やはり発売当時から“中国(大陸)市場でのプロモーションを意識した内容で、あまりにも中国に媚びている”といった批判も浴びたそうです。
【チャイナ・パワー】
「世界中が中国語を話してる 私たちの言葉をみんな真剣に聞くようになってきた」と歌う台湾のアイドルグループに上海のファンが総立ちになるという状況・・・。
中台間の音楽に関する話というと、昔、テレサ・テンが歌う日中戦争中の抗日歌である「何日君再来」が大陸で大人気となり、反日感情を反政府感情にシフトさせる宣伝の道具として、台湾国民党政府は、中国大陸に隣接する金門島から彼女の歌声を大音量で大陸に向けて流したり、音楽テープを付けた風船を大陸に向けて飛ばした、一方、中国共産党政府は彼女の歌を不健全な「黄色歌曲」と位置づけて音楽テープの販売・所持等を禁止する措置を取った【ウィキペディアより】・・・といったエピソードが思い浮かぶ世代としては、“中台関係をめぐる時代の変化を感じずにはいられなかった”という記者の感想には同感です。
また、その歌詞にあふれる、中国人として自信にも感じるものがあります。
昨日のTV番組で、中国映画界における、ハリウッドを越えようとする意気込みの“チャイナ・パワー”を紹介していました。
一方、今朝、やはりTVで、日本が世界に誇るアニメ文化のアジア市場を見据えた展開を紹介していました。
中国映画も日本アニメも、世界に発信する文化ではありますが、一方の「面白くなければ映画じゃない」と、膨大な資金・人材をつぎ込む“勢い”と、他方のややオタク的な世界の差に、ちょっと感じるものもありました。
もちろん、“政治批判の許されない中国での文化とは?”といった問題はありますが・・・・。
経済・政治・軍事、さらには文化における“中国人としての自信”は、政治的な“ひとつの中国”にも影響していくように思われます。
【新たな両岸関係の形成】
中台関係については、今年8月以降、中国が批判するチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の訪台などで波風が立っていましたが、今月に入って、中国側は台湾への積極的な融和攻勢を再開したようで、連日、中台関係に関する記事を目にします。
****中台軍事フォーラム:初の開催「新たな関係形成」*****
中国の著名な学者を招いて中台間の政治・軍事問題などを協議する初の学術フォーラム「両岸一甲子(中台60年)」が13日、台北市内で2日間の日程で始まった。中国の胡錦濤国家主席のブレーン、鄭必堅・中国改革開放フォーラム理事長も出席し、「両岸(中台)関係は軍事対立から交流と協力に向かっており、新たな両岸関係が形成されつつある」と評価した。(中略)
今月に入り、経済分野も中台間の交流が活発化している。中国・四川省、広東省広州市、江蘇省から経済貿易訪問団が台湾入りした。【11月13日 毎日】
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****中台、経済枠組み協議加速へ=胡主席と連戦氏が会談-APEC****
中国の胡錦濤国家主席は14日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地シンガポールで、台湾代表の連戦・国民党名誉主席と会談した。新華社電によると、胡主席は台湾との貿易自由化を目指す「経済協力枠組み協定(ECFA)」の協議を年内に始めたい意向を表明。連氏も協議を急ぐ考えを示した。
胡主席は「両岸(中台)関係は歴史的な転換を実現した。これは同胞の願いにかない、国際社会からも歓迎されている」と中台関係の進展を評価。これまで棚上げしてきた政治問題についても「難題を共に解決するため、積極的に条件を作り出す必要がある」と踏み込んだ発言をした。
連氏は「相互信頼は得難いものであり、さらに強化して平和的な発展の方向を定め、中華民族の歴史に新たな1ページを共に記したい」と応じた。台湾の台風被害への中国側の支援にも謝意を表明した。【11月14日 時事】
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APECの機会を利用した両氏の会談は、昨年に続いて2回目。
ECFAが実現すれば、関税撤廃により台湾企業の中国進出が促進されることから、台湾の財界には要望が強く、経済力を背景に台湾を取り込みたい中国側がこれに応えた形です。
“台湾にはECFAについて「主権が失われる」と警戒する声もあるが、中国の陳徳銘・商務相は13日、「金融危機の被害で困難な状況にある台湾経済を考えたら、中国との協力をなぜ恐れるのか」と述べた。”【11月14日 朝日】
今後については、“交渉の行方は予断を許さない。直行便など新しい両岸交流の大枠を決める従来の交渉に対し、各論での交渉では政治的思惑も絡んで双方の利益がぶつかり合うからだ。台湾の対中民間窓口機関、海峡交流基金会の江丙坤理事長は「(中台間に)血管はつながったが、よどみない血流を確保するには課題が多い」と話している。”【11月22日 産経】との見方もあるようです。
****金融監理協力覚書 中台が調印****
台湾行政院(政府)金融監督管理委員会は16日、中国と台湾の金融管理当局が金融機関の相互進出に道を開く金融監理協力覚書(MOU)に調印したと発表した。調印60日以内に発効し、お互いの銀行の支店開設や、証券、保険会社支店の業務拡大が可能となる。これを機に中台間の金融業務が諸外国間並みになり、相互の金融面での交流・協力が本格化することになる。
中台の金融管理当局が調印したのは銀行、保険、証券先物取引に関する3つの覚書。中台の銀行間ではこれまで台湾の銀行が中国に事務所を設置しているのみだった。【11月17日 産経】
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【中台連携とひとつの中国】
訪中したオバマ米大統領は、胡錦濤・中国国家主席との共同記者会見の際、台湾への防衛支援を義務付ける米国の国内法「台湾関係法」などを基礎に「中台が更に連携を進めることを支持する」と述べています。
“米中首脳会談に合わせて米大統領が同法に触れるのは03年以来。台湾の馬英九総統は同日、「米国が台湾を売り渡す心配をする必要はない」と安堵(あんど)感を示した。一方で、米中関係の緊密化により、米国の台湾への関心が低下するとの危機感が台湾で高まっている。”【11月18日 毎日】
しかし、首脳会談後に発表された共同声明に台湾関係法は含まれませんでした。
これについては、“台湾総統府は「理解できる事情だ」と述べ、米国が中国を刺激することを避けたとの見方を示した。”【同上】とのこと。
一方、オバマ大統領が“米国は「一つの中国」政策を改めて支持する”としたことにつき、胡錦濤主席は「中国は、オバマ大統領が一つの中国の原則を再確認したことを歓迎する」と述べ、アメリカが台湾に対する中国の主張を再確認したと評価しています。
依然、同床異夢の中台関係ではありますが、流れは中国に向かっているように見えます。