
(左端がアフマディネジャド大統領、横向きで立っているのが改革派と組むラフサンジャニ公益判別会議(最高評議会)議長・元大統領、ジャンナティ監督者評議会(護憲評議会)議長、中央に立つのがラリジャニ国会議長、身をかがめるのがシャフルーディ司法府長官(当時)、右から二人目がナデクヌーリ前国会議長、右端がムサビ前首相・・・大統領選挙直前の09年6月4日、ホメイニ師の死から20周年の式典でのイランお歴々 アフマディネジャド大統領は血筋・宗教的権威でつながるイラン権力層の枠外にいます。一方、ラリジャニ国会議長などはエリート中のエリートです。イランでは、ハメネイ師を頂点とする神権政治の終焉が取り沙汰されています。
“flickr”より By pouriya2007 http://www.flickr.com/photos/21562976@N07/3599526107/ )
【「イスラムの教えに反することだ」】
長崎を訪れたイランのラリジャニ国会議長はイラン保守派の実力者でもありますが、イランの核開発疑惑に関して、「イスラムの教えに反することだ」と否定しています。また、「原爆投下こそが米国が引き起こした真のホロコーストだ」とも。
****イラン議長、原爆資料館を訪問=核は「全人類の脅威」-長崎****
イランのラリジャニ国会議長は27日、長崎市の平和公園を訪れ長崎原爆資料館を見学し、「世界に一つでも原子爆弾があれば、全人類にとって脅威であることが分かった。あらゆる大量破壊兵器はイスラムの教えに反することだ」と語った。
また、2カ月後に首都テヘランで核軍縮の国際会議を開き、長崎市の田上富久市長らを招待したいと表明。「世界の人々は核のない世界に向け立ち上がるべきだ」と述べた。
ラリジャニ氏は同館を見学後、原爆落下中心碑に移動し献花。案内をした田上市長によると、イランが核兵器保有国にならないよう要望したところ、「当然のことだ」と応じたという。【2月27日 時事】
****************************
【天野IAEA 疑惑を明示】
先月18日に示された国際原子力機関(IAEA)のイラン核問題に関する報告書は、昨年12月に事務局長に就任した天野新事務局長のもとでの初めての報告書ということもあって、注目されていました。
報告書内容は、エルバラダイ前事務局長のもとでの慎重な姿勢から、イランの核兵器開発疑惑をはっきり指摘する形に、踏み込んだものとなっています。
****IAEA:報告書に対してのイランの対応 厳しく批判*****
国際原子力機関(IAEA)は、イランが核兵器開発を進めている可能性を初めて指摘した18日の報告書で、核問題に関するイランの対応を「IAEA理事会や国連安保理決議の要求を満たしていない」と厳しく批判した。低濃縮ウランの国外加工計画をイランと交渉した米仏露3カ国などは外交攻勢を強めており、国際社会の危機感がIAEAの判断にも影響した形だ。
イラン核問題に関する報告書は、昨年12月に就任した天野之弥(ゆきや)事務局長体制では初めて。
エルバラダイ前事務局長は、イランが核兵器製造を目指しているという疑惑で未解明点が多く残ることを認めつつ、「核兵器を作った証拠はない」と慎重な姿勢を貫いていた。これに対し、今回の報告書は「IAEAが入手した情報は、状況と一致し信用できる」として、核兵器開発疑惑が払拭(ふっしょく)されていない現状をはっきり指摘。天野事務局長がイランに「核開発断念」を迫る強い姿勢を打ち出したことを印象付けた。
さらに「あらゆる核活動が平和目的だと確認するのに必要な協力をしていない」「保障措置協定の完全実施に向けた措置を講じるよう要求する」と強い調子でイランに迫った。イランに向けて、かなり明確なメッセージを発信したといえる。
一方、昨年9月にイランがIAEAに申告した中部コム近郊の第2濃縮施設について、改めて申告の遅れを批判した。(中略)
イランは、がん治療用アイソトープを生産するテヘラン実験炉の燃料用として、中部ナタンツでウランの濃縮度を3・5%から20%まで高める作業に着手した。IAEA査察官も18日、イランが濃縮度20%のウランを実際に製造したことを確認した。
イランがこれまでに生産した低濃縮ウランの大半に当たる1950キロを従来の貯蔵場所から、20%への高濃縮化作業を始めた施設に移したことも明らかになった。IAEA査察官の監視下にあるとはいえ、イランは全量の高濃縮化を狙っている可能性があり、米欧などの反発は避けられない情勢だ。
**************************
【「宗教上も禁じられている」】
今回報告書は欧米諸国のイラン批判に沿う内容となっていますが、それだけにイラン側は反発を強めています。
****イラン:核兵器製造を否定…IAEA報告にハメネイ師反発*****
イランの最高指導者ハメネイ師は19日、国際原子力機関(IAEA)がまとめた報告書で同国の核兵器開発疑惑が指摘されたことを受け、「我々は、核兵器は人類を絶滅させるものであると考えており、製造するつもりは全くない」と反論した。イラン政府は以前から核兵器製造を繰り返し否定してきたが、これまで慎重だったIAEAが核兵器開発疑惑に踏み込んだことでより反発を強め、改めて自国の主張を強く展開しているとみられる。
イラン国営通信によると、ハメネイ師は「イランで核兵器が製造されているという陳腐な訴えは、敵国の無力さから生じるプロパガンダ(宣伝工作)だ」と批判。「核兵器は人類滅亡を導く象徴であり、宗教上も禁じられている」と語った。
18日のIAEA報告書では、イランが国内でウランの濃縮率を20%に高めていることを確認し、核兵器開発疑惑が払拭(ふっしょく)されていないことを明確に指摘した。IAEAは米欧諸国の指摘とは一定の距離を置き、イランの核兵器開発疑惑にも慎重姿勢を取ってきたが、天野之弥事務局長の就任後初の報告書で見方を修正。しかし、報告書では核兵器製造に関する具体的な証拠は挙げられておらず、イランが態度硬化を加速させる可能性もある。【2月20日 毎日】
******************************
また、イランのサレヒ原子力庁長官は、天野之弥・国際原子力機関(IAEA)事務局長について「独立した行動を取ると思っていたが、(報告書の内容が)米国の圧力を受けていて失望した」と批判しています。
【「イランは軍事独裁国家に向かっている」】
一方、アメリカは、ここのところクリントン国務長官が、イランで台頭する革命防衛隊(アフマディネジャド大統領の出身母体)の脅威を指摘し、「イランは軍事独裁国家に向かっている」との見方を示しています。
クリントン長官はカタールで15日、「イラン政府、最高指導者、大統領、議会は(革命防衛隊に)取って代わられようとしている。これが米国の見方だ」と明言しています。
イラン革命防衛隊に関しては
“イランの国軍は正規軍と革命防衛隊(共に陸海空の3軍がある)が並立する二重構造だ。79年に王政を打倒したイスラム革命体制は、旧王政の指揮下にあった国軍の反革命を恐れて親衛隊的な革命防衛隊を設立した。現在、兵力では正規軍約40万人に対し約12万人と劣るが、特殊部隊や動員力数百万人とされる民兵組織バシジを傘下に置き、対外工作や核開発などを担う。政治的には防衛隊出身者が閣僚の半数以上を占めて政治基盤を強化する一方、経済的にも関連企業を続々設立し、イランの改革派も革命防衛隊の台頭を「新たな特権階級」と称して懸念を示している。”【2月16日 毎日】
国軍が、こうした二重構造をよく容認しているものだと、いつも不思議な感じを受けています。
こうしたクリントン国務長官の発言は、核開発を主導する革命防衛隊の台頭によって、「核兵器開発の危険性が高まっている」との印象を国際社会に植え付けることにある・・・とも報じられています。
****米国務長官:サウジでもイランへの懸念指摘、米国に思惑も*****
中東を歴訪していたクリントン米国務長官は16日、最終訪問地サウジアラビアでもイラン革命防衛隊の「増大する影響力」を指摘し、同日、帰国の途についた。前日の「イランは軍事独裁国家に向かっている」との発言を含め、国際社会の危機感をあおり続けた背景には、制裁に消極的な中国の協力を促してイラン包囲網の構築を急ぎ、イスラエルのイラン攻撃を抑止するなどの目的がある。
イランの核開発能力に関する米国の見解は、情報機関を束ねるブレア国家情報長官が今月3日、議会公聴会で明らかにした。「数年以内に」兵器級の高濃縮ウランを製造する能力はあるが、将来、核兵器製造を決定するかどうかは「分からない」というものだ。
クリントン長官の狙いは、核開発を主導する革命防衛隊の台頭によって、「核兵器開発の危険性が高まっている」との印象を国際社会に植え付けることにあるとみられる。
国連安保理で拒否権を持つ中国に対しては先月、「イランが核兵器を開発すれば、中国の石油供給源である湾岸地域の不安定化をもたらす」と指摘して、圧力をかけた。「軍事独裁化」発言は、それを補強するものだ。
一方で、長官と歩調を合わせてイスラエル入りしたマレン米統合参謀本部議長は14日、イラン攻撃は「予期せぬ結果を生む」と述べ、イスラエルに自制を促した。イラクとアフガニスタンで戦争を抱える米国には、新たな戦争に対処できる能力はないためだ。(後略)【2月17日 毎日】
**************************
今のところ、中国は「制裁を前提とした話し合いはできない」などと強く反対しているとのことで、追加制裁を強く主張する米国やフランスが説得に努めているが、「説得は難航している」と報じられています。【2月18日 協同より】
【疑惑の真相は?】
イランが核開発を目指しているのかどうかは知る由もありませんが、状況は疑惑を深めるものです。
ただ、「核兵器は人類滅亡を導く象徴であり、宗教上も禁じられている」(ハメネイ師)、「あらゆる大量破壊兵器はイスラムの教えに反することだ」(ラリジャニ国会議長)とまで言われると、“そうなのかな・・・”と思うところもあります。
もし、実際に核開発を目指していた場合、“イスラムの教え”はどうなるのでしょうか?
イスラムの敵を欺くためなら、嘘も許されるのでしょうか?
それとも、クリントン国務長官も指摘している核開発を主導する革命防衛隊の台頭によって、最高指導者や保守派実力者も真相を知らされていない・・・ということなのでしょうか?
あるいは、“今現在はイランに核開発能力がないことはイラン自身が承知のうえで、対アメリカの駆け引きとして、敢えて、核開発につながる処理・開発を疑われる処理を行っている”ということでしょうか?