(12月8日 ソウルで対北朝鮮対応を韓国側と協議するアメリカ海軍のマイクミューレン統合参謀本部議長(左列の左から2番目男性 “flickr”より By Chairman of the Joint Chiefs of Staff
http://www.flickr.com/photos/thejointstaff/5243547683/ )
【北朝鮮の第2次挑発の可能性を巡ってぎりぎりの分析】
目下の国際社会の注目は、韓国の大延坪島(テヨンピョンド)付近の海域での射撃訓練が実施されるのかどうかに集まっています。そして、一番対応に悩んでいるのは韓国政府です。
****射撃訓練実施に悩む韓国 北朝鮮の挑発、見極め難しく*****
北朝鮮軍による砲撃を受けた大延坪島(テヨンピョンド)付近の海域での射撃訓練を巡り、韓国が苦悩している。韓国軍は18日から21日の間に実施すると発表したが、北朝鮮が強く反発。18日は実施を見送った。韓国政府内で、北朝鮮の第2次挑発の可能性を巡ってぎりぎりの分析が続いている模様だ。
韓国軍は「最も気象条件の良い時期に1日だけ実施する」と発表。天候を理由に18、19両日は実施しない見通しという。しかし、18日は同島周辺でほぼ晴天が続いていたため、こうした理由に疑問の声が上がっている。
韓国政府関係者らによれば、韓国軍が訓練実施に最も熱心とされる。元々、先月23日に実施中の射撃訓練が、北朝鮮軍の砲撃で中断。軍は「早く再開しないと、この海域で演習できないという悪例を残す」と主張しているという。軍事関係筋は「発表した以上、延期すれば更に北を有利にする」と語る。
一方で、政府内には北朝鮮の2次挑発を憂慮する声もある。韓国軍は北朝鮮が砲撃すれば、「断固たる対応を取る」と宣言。航空機による空爆も検討している。北朝鮮も「より深刻な状況を再現させる」と警告しており、戦闘が拡大する可能性がある。拡大しない場合でも、2次挑発が韓国社会や経済に深刻な影響を与えることは必至だ。
韓国全面支援を表明している米政府は表向き、「韓国は主権国家として軍事訓練をする権利がある」(クローリー国務次官補)と理解を示している。クローリー氏は17日の会見でも、「北朝鮮は訓練をさらなる挑発行為の口実にすべきではない」と牽制(けんせい)した。
ただ、北朝鮮の出方が読み切れない中、米側は「銃撃の応酬という連鎖反応が起きかねず、事態が拡大して制御できなくなる懸念がある」(米統合参謀本部のカートライト副議長)との不安も強めている。米軍はアフガニスタンとイラクの二つの戦場で疲弊、朝鮮半島のこれ以上の軍事的緊張は避けたいのが本音だ。【12月19日 朝日】
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【安保理緊急会合開催】
この件に関しては、ロシアがいつになく敏感に反応しています。
6カ国協議のロシア首席代表をつとめるボロダフキン外務次官は17日、米国と韓国の駐ロシア大使を呼び、朝鮮半島の緊張がさらにエスカレートするのを防ぐため韓国軍が予定している海上射撃訓練を中止するよう要請。更にロシアは18日には、安保理議長国の米国に会合開催を要請しています。ロシアは南北双方に緊張緩和を促す安保理声明の発表を目指す方針とされています。
****朝鮮半島情勢で安保理緊急会合開催へ、ロシア「深刻に懸念」*****
ロシアのチュルキン国連大使は18日、韓国軍が予定している延坪島での射撃訓練計画をめぐり朝鮮半島の緊張が再び高まっていることに深刻な懸念を表明するとともに、19日午前に安保理の緊急会合が開かれる見通しを明らかにした。
韓国軍は北朝鮮の砲撃を受けて4人が死亡した延坪島で、18─21日の期間に射撃訓練を実施する予定。これに対し北朝鮮側は、訓練が実施されれば再び攻撃を行うと強く警告している。
ただ、聯合ニュースによると、韓国軍関係者は18日、悪天候のため訓練に遅れが出るとの見方を示した。
チュルキン大使は、「朝鮮半島でさらに緊張が高まることを深刻に懸念している」と述べ、この問題がロシアの安全保障にとって大きな関心であるとの考えを示した。
また、朝鮮半島情勢で安保理が19日午前11時に緊急会合を開くとした上で、「安保理が両国に自制するようシグナルを送るとともに、政治的、外交的な手段による二国間のあらゆる紛争課題の解決に向けて、外交活動を支援する必要がある」と訴えた。
この問題をめぐっては、平壌を訪問した米ニューメキシコ州のリチャードソン知事が、北朝鮮に強く自制を求めたほか、中国も両国に対して事態をさらに悪化させないよう求めている。【12月19日 ロイター】
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当然、中国も事態鎮静化に動いています。
****中国:南北に自制要求…韓国訓練に北朝鮮「打撃」警告****
中国の張志軍筆頭外務次官は18日、国営中央テレビの取材に応じ、中国外務省が韓国と北朝鮮の駐中国大使を同日までに緊急に呼び出して中国側の立場と主張を改めて伝えたと明らかにした。また、韓国軍が計画している延坪島(ヨンピョンド)周辺での海上射撃訓練に北朝鮮が新たな「打撃」を警告していることを念頭に、自制と衝突回避を重ねて求めた。
この中で張次官は「現在の朝鮮半島情勢は一触即発の状態で、中国側は深く懸念し、憂慮している」と強調。「6カ国協議首席代表による緊急会合の必要性と緊急性がさらにはっきりとした」と語り、早期の対話再開を呼び掛けた。【12月19日 毎日】
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【アメリカも事態悪化を懸念】
一方、アメリカは、表向きは韓国の射撃訓練の正当性を支持する立場にあります。
国務省のクローリー次官補(広報担当)は16日の定例会見で、射撃訓練に関する質問を受け、「韓国は自衛のための適切な措置を取る資格がある」と述べ、北朝鮮のさらなる挑発に備えることは全面的に正当な措置だと評価しています。
ただ、事態がエスカレートしかねない危険性に米軍高官からは懸念も表明されています。
****延坪島周辺での韓国訓練、米軍高官が懸念表明*****
ジェームズ・カートライト米統合参謀本部副議長は16日、国防総省で記者会見し、韓国軍が計画している大延坪島周辺での射撃訓練について、「北朝鮮が撃ち返し、連鎖反応的に銃撃の応酬に発展する恐れがある」と述べ、懸念を示した。
米政府は、韓国が北朝鮮の挑発行為に乗って軍事行動に踏み切り、大規模武力衝突に発展する事態を警戒しており、副議長の発言は韓国軍に自制を促す狙いがある模様だ。
副議長は、訓練地域に米軍の訓練指導員と監視要員計21人を派遣して韓国軍の行動を見守ることを明らかにした。【12月17日 読売】
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カートライト米統合参謀本部副議長は、射撃訓練は従来通りの場所で、海に向けて実施される点を指摘し、「北朝鮮が見たことのないようなものではない」と述べる一方で、「北朝鮮が射撃訓練を誤解したり、この機会を利用したりしないか心配だ」として、事態の激化に懸念を示しています。【12月17日 朝日より】
また、クローリー米国務次官補は17日、「現在の成り行きを非常に懸念している」として、北朝鮮に影響力を持つ中国やロシアなどに対し「北朝鮮に挑発行為をやめるよう、明確なメッセージを送ってほしい」と述べています。【12月18日 朝日より】
韓国出身の潘基文国連事務総長は、「韓国の一市民として誰より懸念している」と述べています。
****「市民として誰よりも懸念」=朝鮮半島の緊張緩和訴え―国連総長*****
国連の潘基文事務総長は17日、国連本部で記者会見し、北朝鮮による韓国砲撃事件後、朝鮮半島の緊張が高まっていることについて、「韓国の一市民として誰より懸念している」と述べ、事態打開に積極的に取り組む姿勢を強調した。
潘事務総長は「事件は朝鮮戦争後で最も重大な挑発行為の一つだ」と指摘し、北朝鮮に改めて自制を求めた。国連と北朝鮮の対話に関しては、今年2月にパスコー政治局長が訪朝したが、「私はまだ(北朝鮮の)最高指導者と会談できていない」とし、引き続き交渉ルートの確立に努めると語った。【12月18日 時事】
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【李明博大統領の苦悩】
さて、どうする・・・・という訳ですが、この際北朝鮮に、危険な挑発行為の代償が高くつくことを明確に示したほうがすっきりするのではという思いもなくはないですが、大規模武力衝突に発展する危険性を考慮すれば、国連・安保理が韓国の面子の立つ形で介入して、韓国に自制を促すというのが穏当なところでしょうか。
次に北朝鮮が攻撃を仕掛けてきたら「断固とした報復措置」を取ると繰り返し明言している韓国の李明博大統領としては、北朝鮮がどこまで反撃に出るかわからないリスク、中止した場合の軍部・国内世論の弱腰批判のリスク、どちらをとるか悩ましいところです。