孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バーレーン  反政府行動強制排除 サウジアラビア警戒 アメリカ困惑

2011-02-18 21:21:02 | 国際情勢

(強制排除による犠牲者を悼む女性たち バーレーン首都マナマ 2月17日 “”より By visionshare
http://www.flickr.com/photos/visionshare/5454559523/ )

拡大する中東の反政府行動
チュニジアの政変で始まった中東の市民デモが、エジプトのムバラク政権を崩壊させ、更にリビア、イエメン、バーレーンなど各地で長期政権・独裁政権を大きく揺さぶっていることは連日の報道のとおりです。

****リビアで20人死亡 イエメン4人 止まらない中東デモ****
チュニジアの政変に端を発する中東での市民デモの連鎖が止まらない。カダフィ大佐による事実上の独裁体制のリビアでは17日、同国第2の都市ベンガジなど複数の都市でデモ隊と治安部隊が衝突し、AP通信によると計20人が死亡した。イエメンでも、南部の反政府デモで4人が死亡。イラク北部クルド地域でも、地域政府を批判するデモがあり、2人が死亡した。

リビア北東部ベンガジでは17日、民衆数千人が集結し、カダフィ大佐の写真を破りながらデモを続けた。政権側は反体制デモを認めず、首都トリポリでは逆にカダフィ大佐支持のデモが動員された。

イエメン南部アデンでは、約3千人の反政府デモ隊に治安部隊が発砲。ロイター通信によると、これまでに4人が死亡、17人がけがをした。首都サヌアでも、サレハ大統領の辞任を求める約2千人の反政府デモ隊と大統領支持派が衝突し、少なくとも40人が負傷した。
イエメンでは貧困や失業問題のほか、再分離・独立を求める南部と北部中央政府との対立などもからみ、不安定な状況が続いている。

イラク北部クルド地域のスレイマニアでも同日、強い自治権を持つクルド地域政府のバルザニ大統領が率いるクルド民主党(KDP)の建物に投石したデモ隊3千人と治安部隊が衝突し、AFP通信によると2人が死亡した。(後略)【2月18日 朝日】
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バーレーン:強制排除で犠牲者
そうしたなかでも、今一番注目されているのが人口79万人ほどの小国バーレーンの動向ではないでしょうか。
バーレーンでは、首都マナマの中心部「真珠広場」をイスラム教シーア派住民などが占拠していましたが、政権側は強制排除に着手、多数の犠牲者が出ています。

****緊迫、中東情勢 バーレーンで230人超死傷 首都の広場、戦車や装甲車配備*****
バーレーンの警官隊は16日夜から17日未明にかけて、首都マナマの中心部「真珠広場」を占拠していたイスラム教シーア派住民など数百人に催涙弾を発射し、強制排除した。この際に住民少なくとも3人が死亡、231人が負傷した。約60人が行方不明になっているとの情報もある。同広場周辺には、戦車や装甲車など50台が配備されるなど、厳戒態勢が敷かれている。

政権側は今回の事態を受けて17日、国会(定数40)を緊急招集。フランス通信(AFP)によればシーア派の野党勢力(18議席)は同日、政権に抗議し辞職した。バーレーンやサウジアラビアなど湾岸諸国が加盟する湾岸協力会議(GCC)は同日夜、マナマで緊急外相会議を開き、今後の対応を協議する。

バーレーンで混乱が広がる背景には、ハリファ王家など少数派のイスラム教スンニ派指導層が国家の実権を握り、全体の7割を占める多数派のシーア派住民が住宅、医療、政府への就職などで差別的待遇を受けてきたことがある。
政権は、スンニ派の外国人に積極的に市民権を与えて、宗教人口の比率逆転を狙っており、危機感を抱くシーア派住民の間からは「体制転換」を公然と唱える声も上がり始めている。18日の金曜礼拝後に、大規模デモ実施を呼び掛ける団体も複数出てきた。

バーレーンの動きには、スンニ派王家の隣国、サウジアラビアも神経をとがらせている。同国に住む約15%のシーア派住民を刺激しかねないためだ。
一方、シーア派が多数を占めるイランの保守層は、バーレーンを“イランの14番目の地方”などと呼び、自国側に引き寄せることを狙っている。

バーレーンは、ペルシャ湾やアラビア海などを管轄する米海軍第5艦隊の司令部と、米兵約1300人を抱える米軍の重要拠点だ。同艦隊は計約2万8千人の兵力を擁し、1~2隻の空母部隊を常時運用する。米中央軍の指揮下で、イラクやアフガニスタン作戦を支えるほか、イラン監視や、ペルシャ湾のシーレーン(海上交通路)確保などの役割も担う。バーレーンが不安定化した場合、米国の中東戦略に重大な影響を及ぼしかねない。
ロイター通信によると、クリントン国務長官は17日、バーレーンのハリド外相と電話会談し、バーレーン情勢について「深刻な懸念」を表明した。【2月18日 産経】
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警戒するサウジ 湾岸諸国は軍事介入の可能性も
上記産経記事にもあるように、小国バーレーンの情勢が注目されるのは、同国における騒乱がスンニ派対シーア派という宗派対立を背景にしており、その帰趨はシーア派のイラン、スンニ派のサンジアラビアに大きな影響をあたえかねない・・・という背景があること、サウジアラビアの動揺は中東のパワーバランスだけでなく、石油を通じて世界経済に多大な影響を与えること、更に、バーレーンがアメリカの中東戦略における軍事拠点であることなどの理由によるものです。
なお、バーレーンでは1994年以後、シーア派による暴動が激化し、2001年2月に行われた国民投票によって首長独裁体制から湾岸地域初の立憲君主制へ移行した経緯があります。

****反政府デモの飛び火、サウジはシーア派の台頭に危機感*****
ムバラク前大統領が辞任に追い込まれたエジプト政変に衝撃を受ける隣国サウジアラビアだが、バーレーンで続いているイスラム教シーア派住民によるデモには、一段と強い危機感を募らせている。スンニ派の盟主であるサウジ国内でも、シーア派の改革要求が勢いづく可能性があるからだ。

産油国バーレーンでは長年、スンニ派のハリファ一族が多数派のシーア派を支配している。しかし、エジプトとチュニジアでの政変に触発されたシーア派住民は今週に入り、改革を求めて反政府デモを開始。バーレーン警察は17日早朝、首都マナマ中心部の広場に泊まり込んでいたデモ隊の強制排除を行い、複数の死者が出ている。
専門家らは、バーレーンでスンニ派政権が崩壊すれば、人口の約15%がシーア派住民であるサウジの情勢が不安定になるリスクは格段に増すとみる。サウジ国内でシーア派の多くが生活する東部は、石油資源の豊富な地域

地域大国のサウジと、マナマに第5艦隊司令部を置く米国はともに、バーレーンと同国を統治するハリファ一族を、シーア派国家イランからの影響力に対する防波堤としてみている。
シティの中東チーフエコノミスト、Farouk Soussa氏は「必要とあれば、サウジはバーレーンに軍事的な支援も提供するとみている」と語る。
サウジがすぐに行動を起こす可能性は低そうだが、IHSグローバル・インサイトの中東アナリスト、Gala Riani氏も「(バーレーン)政権の危機が明らかになれば、サウジは介入するだろう」と指摘している。【2月18日 ロイター】
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サイジアラビアだけでなく、湾岸諸国はバーレーンの動向に神経をとがらせており、軍事介入の可能性も取りざたされています。

****バーレーン反政府デモ、激化すれば近隣国の軍事介入も****
チュニジアやエジプトの政変に触発された中東バーレーンの反政府デモで、当局の強制排除で死傷者が出るなか、民衆蜂起の波及を食い止めたい近隣の湾岸諸国が軍事介入する事態にも発展しかねないと、アナリストらが懸念している。
バーレーンを含む6か国からなる湾岸協力会議(GCC)は17日、バーレーンの首都マナマで緊急外相会合を開き、同国を「政治、経済、安全保障、防衛の各面で支援で支援する」ことを確認した。

各国が警戒するのは、バーレーンでのイスラム教シーア派によるスンニ派政府への抗議行動が湾岸諸国に広がれば、それはシーア派国家のイランにとって大きな戦略的勝利となるからだ。
「湾岸諸国は、バーレーンが根本的・急進的な改革を容認できない。立憲君主制への民主化要求は、しかるべきプロセスを経た(自然な)政治的発展を抜きには実行されるべきではない」と、サウジアラビアの政治アナリストDakheel al-Dakheel氏は指摘する。
「バーレーンで政治や治安の混乱が起きれば、イランや他国に介入の余地を与える。そのような事態は湾岸諸国、特にサウジアラビアにとって認められるものではない」

■強制排除で死者5人に、「政府打倒」に要求変わる
バーレーンは、国王や政府など指導者層はスンニ派だが、国民の大多数はシーア派。14日から始まったシーア派による反政府デモでは、治安部隊の強制排除によってこれまでに5人が死亡した。
当初、体制の改革と「真の立憲君主制」の実現を要求していたデモ隊は、強制排除後に要求内容を引き上げ、「体制の転覆」を呼びかけている。【2月18日 AFP】
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アメリカのダブルスタンダード
アメリカのエジプト政変への対応も、親米ムバラク政権をどこまで支えるかで揺れた感がありましたが、前述のようなバーレーンの地域的特殊性があって、その対応にはエジプトなどのときより更に曖昧なものになっています。

****米国:中東に「二重基準」 バーレーン政権批判は慎重*****
バーレーンの反政府デモで、治安当局がデモ隊を強制排除し死傷者が出た事件について、カーニー米大統領報道官は16日、政権側とデモ隊の双方に暴力停止を求めた。オバマ大統領が前日、イラン政府のデモ弾圧を厳しく批判したのとは対照的だ。反米政権によるデモ封殺を強く批判しながら、親米国の強硬姿勢についてはあいまいな対応しかできないところに、米外交の「ダブルスタンダード(二重基準)」が表れている。

大統領は15日、「世界は変わっている。立ち遅れてはならない」と語り、中東全域での反政府デモ拡大に懸念を示すと共に、各国指導者に改革促進を求めた。特にイラン政府については「国民を射殺したり、殴ったりしている」と政府の弾圧を明確に批判した。
だが報道官は16日の記者会見でバーレーン、リビア両政府のデモ隊への対応への見解を聞かれ、「(対応は)国ごとに異なる」「(政府とデモ隊の)両方に非暴力を求める」などと述べ、政府批判は慎重に避けた。イラン政府の対応を「弾圧」と批判したのとは明らかな違いだ。

米国にとって、バーレーンは戦略的に極めて重要な国だ。同国にある米海軍第5艦隊司令部は中東有事の際に展開するだけでなく、平時もホルムズ海峡やスエズ運河を警戒し、湾岸諸国の原油を欧米に安定供給する役割を果たしている。04年には湾岸諸国で初めて米国と自由貿易協定(FTA)を締結した。
また人口のうち約6割はイスラム教シーア派で、スンニ派はハマド国王を頂点とする支配層など約3割。政府は90年代から民主化を推進。湾岸諸国で初めて女性の参政権を認めた普通選挙を導入するなど、欧米の評価は高い。

一方でバーレーンは地政学的には微妙な位置にある。ペルシャ湾を挟む東隣のシーア派国家イランが影響力拡大を狙っており、バーレーン国内でスンニ派とシーア派の宗派間対立が深まり、民主化の「優等生」である同国が混乱することを米国は懸念している。
さらに同国の混乱は、西隣の「アラブの盟主」サウジアラビアに何らかの影響を与えないとも限らない。スンニ派国家のサウジだが、バーレーンに近い東部にはシーア派住民もいるためだ。米国はバーレーン指導層を批判することで、サウジ国内のシーア派が勢いづくのを恐れているとみられる。
バーレーンでは1990年代中ごろにもシーア派住民による反政府大規模デモが続発したが、このときも米政府はハマド政権を強く支援し続けた。このため、シーア派住民には米政府への反発もある。【2月17日 毎日】
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外交は自国権益を守ることが最優先ですので、「ダブルスタンダード(二重基準)」は今回のことだけではなく、また、アメリカのことだけでもありませんが、世界のリーダーとしては節度も求められます。
クリントン米国務長官は17日、バーレーンのハリド外相と電話で会談し、同国の治安当局によるデモ参加者の制圧に「深刻な懸念」を表明、同国政府に自制を呼びかけると同時に、デモ参加者の殺傷に関与した当局者の責任追及も求めています。

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