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(“flickr”より By kurup_man http://www.flickr.com/photos/kuruporissa/4275482593/ )
【「イラクに民主化のきっかけをもたらしたこと誇りに思っている」】
イラク攻撃を正当化する根拠とされた「大量破壊兵器」について、この情報が故意になされた嘘であったということが改めて明らかにされています。
****「イラクの大量破壊兵器情報はうそ」、情報提供者が認める 英紙報道*****
英紙ガーディアンは15日、米国が2003年のイラク攻撃を正当化する根拠とした大量破壊兵器(WMD)に関する情報を提供したイラク人科学者が、サダム・フセイン大統領(当時)を失脚させるためにうそをついていたことを認めたと報じた。
この人物はラフィド・アハメド・アルワン・ジャナビ氏。ドイツと米国の情報関係者に「カーブボール」というコードネームを付けられていた。
ジャナビ氏はドイツ連邦情報局(BND)に、フセイン政権が生物兵器を積んだトラックを保有しているとの情報を提供した。この情報はジャナビ氏の上司だったイラク人によって否定され、ジャナビ氏は態度を後退させたが、それでも情報局は信用し続けたという。
■国連安保理報告でも言及
ジャナビ氏の情報は、コリン・パウエル米国務長官(当時)が2003年2月5日に国連安保理で行ったイラクの大量破壊兵器に関する報告につながった。
国連での報告の中でパウエル長官は情報提供者のジャナビ氏を「イラクの化学技術者で兵器製造工場の1つを統括する人物」と紹介。さらに「生物兵器向け化学物質の製造に直接関与し、1998年の事故現場にも居合わせた」と説明した。
ジャナビ氏はこの演説を聞いてショックを受けたという。だが、パウエル長官は、イラクを攻撃する根拠として、ほかにもウラン濃縮活動と国際テロ組織「アルカイダ」の存在をあげたことから、自身の役割は大きなものではないと考えたという。
ジャナビ氏はむしろ、同氏が提供した情報を他国には漏らさないとの約束を破ったドイツ連邦情報局を非難した。
ジャナビ氏によると2000年、同氏がバグダッドで訓練された化学技術者でフセイン政権の内部情報に通じている可能性があると知った「パウル博士(Dr Paul)」と名乗るドイツ政府関係者が、同氏に接触してきたという。
1995年にイラクを出たジャナビ氏は、ドイツ連邦情報局に、フセイン大統領はトラックで移動が可能な生物兵器を所有しており、兵器工場を建設しているとうそを語った。
だが、ジャナビ氏の証言を、イラク軍需産業委員会で同氏の元上司だったバシリ・ラティフ氏が否定したことから、ドイツ連邦情報局とジャナビ氏は対立することとなった。連邦情報局に対し、ジャナビ氏は「わかった。彼(ラティフ氏)がそんなトラックはないというのなら、ないのだろう」と言ったという。しかしその後も連邦情報局は、ジャナビ氏の主張を真剣に受け止めていたという。
■「フセイン政権打倒のためだった」
さらに2002年、ジャナビ氏は連邦情報局から、協力しなければ身重の妻はドイツに入国できないかもしれないと言われたという。だが、同氏は、情報を提供したのは、亡命を確実にするためではなく、あくまでもフセイン政権を倒したかっただけだと主張した。
イラク戦争では市民10万人以上が犠牲となり、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領、ドナルド・ラムズフェルド米国防長官や米国を支持したトニー・ブレア英首相らが著しく評判を落とす結果となった。
自身が偽の情報を提供したことについて、ジャナビ氏は「正しかったもしれないし、間違っていたのかもしれない」と語る。「彼らは、私にフセイン政権を倒すため作り話をする機会をくれた。わたしも息子たちも、われわれがイラクに民主化のきっかけをもたらしたこと誇りに思っている」
さらに、同氏は「祖国のために、何かをせねばならなかった。捏造はそのためだ。わたし自身は満足している。イラクから独裁者はいなくなったのだから」と付け加えた。【2月16日 AFP】
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【「その種のデモがないのはイラクだけだ」】
いささか自己正当化に過ぎる言い分ではありますが、結果としてフセイン政権が打倒され、“イラク民主化”が実現したということについて、現在進行する「中東民主化ドミノ」のなかでイラクだけが民主化要求の動きが起きていないことから、改めてアメリカで評価されているとの指摘もあります。
****反政府デモ イラク波及せず 米指摘「介入で民主化進展」****
エジプトでの政権打倒が触媒となり中東に広がった反政府デモや民主化要求の動きがイラクでは起きていない現実が米国の国政の場で指摘されるようになった。米国の軍事介入の結果にせよ、すでに民主化が進んだことがその理由とされ、ブッシュ前政権のイラク政策の再評価にもつながってきた。
反政府デモが中東諸国に連鎖的に広がっているのに要衝イラクでは政権や統治のあり方自体に抗議する動きが起きていないことについて、まず共和党のマケイン上院議員が「イスラム教の過激派あるいは専制的な政権に民主化を求める動きはいま中東によきウイルスのように広がったが、その種のデモがないのはイラクだけだ」と述べ、イラクではすでに民主化が進んだことを原因として指摘した。
同党のマコネル上院院内総務も「イラクで今回、エジプトに似たデモが起きていないのは、ブッシュ前大統領やマケイン議員の主唱によるイラクへの米軍増派と平定で民主化が軌道に乗ったためだ」と言明した。
ブッシュ氏は2005年イラクに対して「自由への課題」と題する民主主義構想を打ち出し、複数政党や自由選挙を実現させた。
イラクの現状について、15日付の米紙ニューヨーク・タイムズもバグダッド発で「イラクは国民一般が民主的選挙で選ばれた政権の統治を受け入れ、反政府デモはない」と報じた。同報道は、イラクの一部には政府への抗議もあるが、公共サービスや雇用、物価への苦情で、政権の打倒運動ではないとも付記していた。
米国の著名な中東問題専門家ダニエル・パイプス氏も「中東全域でもイラクだけはいま民主化要求デモが皆無だ」と述べ、「イラクではすでに自由な選挙、言論の自由、法の統治など民主主義の要件が備わったからだ」と理由を説明した。
同氏はまた「ブッシュ氏の中東民主化構想は米国内部でもリベラル派から『イスラムの教徒や教義は本質的に民主主義には合致せず、あまりに非現実的だ』と非難されたが、現在の状況はその非難こそが的外れだったことを証明しつつあるようだ」と論評した。オバマ政権も今では中東の民主化を政策目標に掲げるに至ったが、パイプス氏は「民主主義の促進には時間と手間がかかることと、民主化の名の下にイスラム過激派が権力を握る危険があることを銘記すべきだ」と提言した。【2月20日 産経】
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これも、イラク攻撃による多大の犠牲と混乱を捨象した自己正当化の議論のように思えます。
なお、イラクのマリキ首相は4日、今月から自らの給与を半減すると表明し、民衆の抗議デモ発生防止に向けた先手を打っています。
****格差是正を率先、給与半減=民衆蜂起の波及に先手-イラク首相****
ラクのマリキ首相は4日夜、声明を出し、今月から自らの給与を半減すると表明した。所得格差や不十分な公共サービスに対する国民の不満を緩和し、チュニジアを発端に中東に波及する民衆蜂起の影響を回避したいとの思惑があるとみられる。
首相は声明で「給与を50%削減し、今月から国庫に返還する」と述べた。宗教指導者は、中東に広がる民衆の抗議デモがイラクでも発生する可能性があると警告しており、首相は、社会全体の給与格差是正に向け、先手を打った形。AFP通信によると、首相給与は約35万ドル(約2800万円)とみられる。
イラクでは2003年4月、フセイン元大統領の独裁政権を米軍主導の多国籍軍が打倒、憲法を改正するなど民主化された。【2月5日 時事】
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