(3月12日 ポルトガル首都リスボン “Geração à Rasca”のスローガンのもとに、若者中心に20万人が参加したデモ “Geração à Rasca”とは、失業・低賃金で希望がない破れかぶれのデスパレートな世代・・・といった意味合いのようです。 “flickr”より By novais822 http://www.flickr.com/photos/13192468@N07/5520352540/ )
【リビア空爆による「世界の傍観者」からの復権】
アメリカがリビア・カダフィ政権に対する空爆に消極的だったのに対し、最も積極的に主張してきたのがフランスとイギリスです。その背景には石油権益などの「カダフィ後」のリビアとの関係に対する思惑の他に、「欧州の裏庭」での混乱への対処によって、国際社会での地位が低下したと見られている欧州外交の復権を期待するところもあります。
****リビア攻撃:英仏、外交への信頼回復かけ*****
多国籍軍によるリビア空爆が無難に滑り出したことは、現時点で、これを政治的に主導したサルコジ仏大統領とキャメロン英首相の「外交的勝利」と受け止められている。しかし、反政府勢力への弾圧阻止を目指して「時間との闘い」(キャメロン首相)の中で開始した軍事介入の成否は未知数で、国際社会の支持を維持できるかが今後の焦点だ。
リビアへの飛行禁止空域設定を主目的にしたこれまでの空爆では、巡航ミサイル・トマホークやステルス爆撃機の投入などで米国が圧倒的な存在感を示している。同盟国に「責任の分担」を求める米国は、カダフィ政権の防空能力をそいだ後、欧州側にバトンを渡したい思惑だ。
しかし、欧州にその軍事能力があるかどうかは未知数だ。英紙フィナンシャル・タイムズのフィリップ・スティーブンス氏はコラムで「英国は十数機の戦闘機と数隻の駆逐艦、1隻の潜水艦を出して、これで精いっぱいと言っている。フランスは空母も出しているが、それでも手いっぱいだ」と指摘する。両国とも財政再建で軍事費削減を進めているほか、アフガニスタン派兵などで戦力に十分な余力がない不安を抱えている。
米国はこれまで国際問題で軍事介入する「政治的意思」と「軍事的能力」を兼ね備えた唯一の国と見られてきた。しかし、アフガンとイラクで戦線が伸びきる中、オバマ政権の新たな軍事介入への政治的意思は大きく後退している。米国にとって、英仏が前面に出る「欧州の裏庭」での軍事介入の成否は、世界の安全保障で各国に応分の負担を求めるオバマ・ドクトリンの実効性を占うことになる。
一方、英仏にとってリビア介入には、失墜しかけていた欧州外交への「信頼」の回復がかかる。財政危機や新興国の台頭などで国際社会での地位が著しく低下した欧州は、「世界の傍観者」とまでやゆされ、チュニジアやエジプトの民衆蜂起では存在感を示せなかった。
キャメロン首相とサルコジ大統領は昨年、軍事協力強化で合意している。背景には、国力が衰退する中で、共同で国際社会での影響力確保を図りたい思惑がある。リビア介入の成否は、この「英仏協商」の可能性を測る試金石ともなりそうだ。【3月27日 毎日】
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【欧州発の「世界経済危機」の懸念】
欧州の“国際社会での影響力確保”ということですが、リビア空爆の成否とは別に、国力の基盤となる経済面での危機が欧州では続いており、足元から崩れかねない状態です。
****ヨーロッパ経済に「激震」警報発令****
世界の注目が日本に向けられるなか、欧州は新たな金融危機を回避しようと懸命になっている。世界経済は今後、日本を襲った悲劇を上回る「激震」に見舞われるかもしれない。
世界経済に日本が占める割合は6%だが、欧州の場合は20%に上る。日本は阪神淡路大震災後のように予想より速く復興する可能性もあるが、欧州の債務問題が悪化を続ける限り「世界経済危機」が起きる恐れはある。そして現実に、債務問題は悪化している。
EUは先週、4400億ユーロ規模の救済基金の実質的な貸し出し能力を、現在の約2500億ユーロから名目どおりの額へ引き上げるため、詰めの協議を行った。基金の目的は高債務国に融資し、国債のデフォルト(債務不履行)を防ぐこと。さもなければ金融機関は巨額の損失を被り、投資家はEU各国の国債の投げ売りに走り、欧州も世界も景気後退に逆戻りするだろう。
残念ながら、目的達成の確率は5割以下だ。格付け会社ムーディーズは先頃、ポルトガルとスペインの国債の信用格付けを引き下げた。
だが頭が痛いことに、融資する側の国も巨額の債務を抱えている。イタリアの昨年の公的債務のGDP比は、スペイン(72%)を上回る131%。フランスは92%、ドイツは80%だ。
経済が堅調との判断から、今もドイツとフランスは健全な投資先だと見なされているが、投資家の信頼を失うのは簡単だ。債務国が債務国にカネを賃す現在の構図は、投資家が国債売却に走り、金利引き上げを要求すれば崩壊しかねない。
欧州の苦境の原因は3つある。高福祉国家が財政赤字を膨らませたこと、アイルランドやスペインが先般の金融危機で金融機関支援を余儀なくされたこと、単一通貨ユーロの導入が思わぬ副作用をもたらしたことだ。
ユーロの目的は繁栄と政治的統合の促進にあり、導入国は低金利と共通通貨の恩恵を享受できるはずだった。試みは成功するかに見えたが、低金利は一部の国で持続不可能な好況を生み出し、バブル崩壊とともに景気後退と財政赤字を招いた。
今や欧州には不協和音が漂っている。支援する側の国は将来的な代償に憤り、支援される側は厳しい融資条件に怒りを感じている。
両者の危うい関係は経済回復を脅かす新たな要素だ。日本に世界の注目が集まるのは当然だが、さらに大きな危機の現場は地球の裏側にあることを忘れてはならない。【3月30日号 Newsweek日本版】
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【緊縮財政策が否決でポルトガル首相辞任】
現在焦眉の問題となっているのはポルトガルです。
財政再建のための緊縮財政策が議会で否決されたことを受けて、ソクラテス首相は辞任を表明しています。
****ポルトガル首相辞任 ユーロ圏「包括対策」暗雲****
財政危機に陥っているポルトガルの議会で23日、緊縮財政策が否決され、ソクラテス首相はカバコシルバ大統領に辞任を表明した。解散・総選挙が行われるが、2カ月近い政治空白が生じる恐れが強く、ポルトガルが欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に救済を要請するとの観測が強まっている。
欧州単一通貨ユーロ圏(17カ国)で財政危機国の首相が辞任に追い込まれたのはアイルランドに続いて2カ国目。EUは24、25の両日、ブリュッセルで首脳会議を開き、財政危機の再発を防ぐ「包括対策」の一括承認を目指すが、各国で緊縮策への国民の不満が増幅しているため、協議への悪影響が懸念される。
ソクラテス首相が議会に緊縮策を提案したのはこの1年で4度目で、昨年国内総生産(GDP)比で7%だった財政赤字を今年は4・6%、来年は3%に圧縮する計画だった。
しかし、今回の緊縮策には年金への特別課税も含まれており、最大野党・社会民主党が「社会的弱者を標的にしている」と総選挙の早期実施を求めた。議会(定数230)で緊縮策に賛成したのは与党・社会党(97議席)だけだった。
大統領は25日に全政党の責任者を集めて今後の対応を協議。大統領は議会を解散し、55日後以降に総選挙が行われる公算が大きい。社会民主党からは財政再建に取り組むには国民の幅広い支持が必要として、選挙後に社会党などとの「大連立政権」を樹立することを求める声も上がっている。【3月25日 産経】
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ポルトガルは来月、42億3000万ユーロ(60億2000万ドル)の政府債務を借り替える必要があります。
しかし、市場では信用不安が広がっており、ポルトガルがEUに緊急支援を要請するのは確実との見方から、24日の欧州市場でポルトガルの国債の利回りは上昇(価格は下落)、99年のユーロ加盟以来、最高の水準を記録しています。
また、議会が財政緊縮策を否決したことを受けて、24日、格付け会社フィッチ・レーティングスは、ポルトガルの長期国債格付けを「Aプラス」から2段階下げて「Aマイナス」に変更しています。同社は「(ポルトガルが)これまで想定していたように市場から資金を取れるとは考えられない」としています。
更に、格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、ポルトガル同様に信用不安が強まっているスペインの30金融機関を格下げしています。財政への不安が高まるなか、金融機関への公的な支援が弱まる可能性があるためとしています。【3月25日 朝日より】
ポルトガルの次は経済規模の大きいスペインが控えています。
【EU:ポルトガル支援を協議】
こうした事態のなかで、24日から25日にはEU首脳会議が開催され、ポルトガルへの金融支援が協議されています。
****EU、財政難ポルトガルに支援8兆円超か*****
欧州連合(EU)の首脳会議は24日、財政難に陥ったポルトガルへの金融支援に関心が集中した。同国は解散総選挙に突入する公算が大きく、支援要請に踏み切るとしても一定の時間がかかりそうだが、規模は750億ユーロ(約8兆6000億円)に達するとの見方が浮上した。
追加緊縮策を議会で否決され、辞意を表明したポルトガルのソクラテス首相は、支援要請について明言しなかった。一方、同国の10年国債の利回りは同日、一時8・0%近くまで上昇し、過去最高を記録。持続的な財政運営は難しく、カバコシルバ大統領を中心に早急な対応を迫られそうだ。
EUのユーロ圏財務相会合のユンケル常任議長(ルクセンブルク首相)は24日、支援の規模は750億ユーロが「適切」とした。ドイツのメルケル首相も「ポルトガルはこれまで約束した財政再建路線を堅持することが重要」と述べ、支援の可能性を示唆した。
一方、EU首脳会議では、財政悪化国を支援する常設機関として2013年半ばに創設する「欧州安定メカニズム(ESM)」の融資可能枠を5000億ユーロに設定することなどで最終合意。
財政赤字の削減を軸にした経済政策の協調や、域内銀行の健全性を審査する6月のストレステストの結果に基づいて資本増強など適切な措置を講じることでも一致した。(共同)【3月25日 東京】
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【厳しい財政再建の道】
ポルトガルは総選挙でどういう結果になろうとも、緊縮財政による財政再建は避けられないところです。
しかしながら、緊縮財政による公的サービス水準の低下には国民の抵抗が強いのはどこの国も同じです。
ギリシャやアイルランド、ポルトガルといった問題国だけでなく、イギリスなどの国も同様です。
ロンドンでは26日、キャメロン政権の緊縮財政政策に反対する最大30万人規模の抗議デモが行われ、デモ隊の一部は、警官隊と衝突して店舗を破壊し、高級店を占拠したとも報じられています。
日本も同様の問題に今後直面します。
震災で示された従順な国民性から、ロンドンのような騒ぎにはならないでしょうが・・・。