(ノルウェー・オスロ 凄惨な事件に抗議する市民 “flickr”より By OyvindBjorgo http://www.flickr.com/photos/oyvindbjorgo/5981505795/ )
【「ブルカ禁止法」】
イスラム圏からの多くの移民を労働力不足の解消のため受け入れてきた欧州諸国ですが、01年のアメリカの9.11テロで欧米社会とイスラムの対立が表面化し、08年の金融・経済危機以降は雇用をめぐる自国民と移民の経済的競合が激しくなり、また、地域社会に溶け込まず従来の文化を維持しようとする移民との間で文化的摩擦も大きくなっています。
こうしたなかで、移民、特にイスラム圏からの移民に対する批判的な風潮が強まっていますが、その傾向を象徴しているのが、イスラム教徒の女性が使う「ブルカ」や「ニカブ」といった顔や全身を覆う衣装の公共の場での着用を禁じる法律、いわゆる「ブルカ禁止法」です。
今年4月に「ブルカ禁止法」が発効したフランスに続いて、ベルギーでも7月に施行されています。また、イタリアも9月に議会審議されることになっています。
****ベルギーもブルカ禁止法施行へ…欧州で2か国目*****
ベルギーで、イスラム教徒の女性が使う「ブルカ」や「ニカブ」といった顔や全身を覆う衣装の公共の場での着用を禁じる法律が13日付の官報に掲載された。
23日から施行される。フランスで今年4月、「ブルカ禁止法」が発効しており、ブルカ着用を国内全域で禁止するのは、ベルギーが欧州で2か国目となる。
法律は、テロ対策や犯罪防止を目的に掲げ、道路や商店内も含むすべての公共の場所で、顔を覆う衣装の着用を原則禁止し、違反すれば15~25ユーロ(約1600~2800円)の罰金か禁錮1~7日を科す。フランスのようなブルカ着用を強制した家族への罰則は設けていない。
ベルギーでは、自治体レベルで既にブルカの着用を禁じているところもあり、法律の施行で適用範囲が全国に拡大される。人口約1000万人の同国で、ブルカやニカブを着用している女性は200人足らずと推計されている。【7月13日 読売】
***************************
****イタリア:「ブルカ」禁止法案を可決 下院・憲法問題委****
ANSA通信によると、イタリア下院の憲法問題委員会は2日、ベルルスコーニ政権与党で中道右派の自由国民などが提出したイスラム教徒の女性の顔や体を覆う衣装「ブルカ」や「ニカブ」について、公共の場での着用を禁止する法案を賛成多数で可決した。9月に本会議で審議される予定。
同様の法律は既にフランスやベルギーで制定されている。イタリアでも同法案が成立すれば、ノルウェーの連続テロで取りざたされた欧州の反イスラム的な傾向に拍車が掛かりそうだ。
法案は治安上の懸念を理由に自由国民や、連立与党を組む北部同盟が立案した。違反者に150~300ユーロ(約1万6000~3万2000円)の罰金または「(地域への)同化を促すため」の奉仕活動を科すとしている。
イタリアのイスラム系団体は「個人の自由を侵す不公正な法だ」などと反対の声を上げた。最近のイタリアでの世論調査では、国民の73%が公共の場でのブルカなどの着用に反対している。【8月3日 毎日】
***************************
イタリアのカルファーニャ機会均等相は「狭い文化の枠に閉じこめられている女性を救い出すものだ。彼女たちが社会にとけ込めるようにしていく」と委員会での可決を評価。さらに「全身を覆うことは決して女性の選択の自由ではない。文化的、物理的な抑圧の象徴だ」とも述べています。
【「多文化主義は失敗」】
政治の世界では、「欧州のイスラム化」を批判する反移民政策を掲げる右翼政党が勢力を伸ばしていることは、これまでもたびたび取り上げてきたところです。
これまで進めてきた移民との共存を目指す「多文化主義」について、欧州主要国首脳らが「多文化主義は失敗」との発言も続いています。
****ノルウェー連続テロ 欧州首脳「多文化主義は失敗」*****
・・・・ドイツでは昨年、社会民主党(SPD)の政治家で同国連邦銀行(独中央銀行)理事だったティロ・ザラツィン氏が自著『ドイツが消える』の中でトルコ人などイスラム系移民について「生産性が低い上、社会保障に依存している人が多く、ドイツに経済的利益をもたらさない」と批判し、解任された。
しかし、ドイツでは一部のイスラム系移民が独自の風習に閉じ籠もり、男女平等や教育の義務といったドイツ基本法(憲法)を守らないため、ザラツィン氏の主張を支持する声もある。
メルケル独首相は昨年10月、自ら率いるキリスト教民主同盟(CDU)の集会で「多文化社会を築こうという取り組みは失敗した。完全に失敗した」と述べ、喝采を浴びた。
多文化主義を支持してきた英国のキャメロン首相も今年2月、「英国政府による多文化主義政策は失敗した」と発言した。
言論の自由を尊重する英国では大学のサークルなどを舞台にイスラム系移民の過激化が進んでおり、米国から「英国はテロリストの温床になっている」と批判されている。
英国と並んで多文化主義を掲げてきたオランダでもイスラム系移民排斥を唱える極右政党・自由党が勢力を拡大。デンマークでもイスラム系移民規制を訴えるデンマーク国民党が政権に閣外協力し、同党の戦術を取り入れた右派政党がスウェーデンやフィンランドで伸長しており、今回の連続テロが、反イスラムを掲げる同種の凶行を誘発するのではとの懸念が広がっている。【8月2日 産経】
****************************
【欧州の右翼政党はノルウェー連続テロとの関係を否定】
こうした「欧州のイスラム化」を危惧し、反移民の傾向を強める世論を背景にして、ノルウェーで7月29日に起こったのが、アンネシュ・ブレイビク容疑者(32)による爆弾・銃殺連続テロでした。
ブレイビク容疑者は、連続テロを行ったのは「人々が誤解のない強いメッセージを受け取れるようにする」ためであり、その目的は、イスラム教徒がノルウェーや西欧を「植民地化」することから守るためだと主張しています。【7月25日 毎日より】
一方、ブレイビク容疑者と同様の主張をして勢力を伸ばしてきた右翼政党は、事件のような暴力を否定することで、過激なテロのイメージを打ち消すのに躍起になっているとも報じられています。
****欧州右翼、テロ否定躍起 ノルウェー事件容疑者を非難****
欧州の右翼政党が、ノルウェーの連続テロ事件で逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)との関係を打ち消すのに躍起になっている。「反移民」を旗印に政権を狙える位置まで勢力を伸ばしたが、過激なイメージで無党派層の支持を失いかねないからだ。
■政党イメージ悪化を懸念
フランスの右翼政党・国民戦線は、ブレイビク容疑者を「西欧の守護者」とたたえるコメントをブログに書いた党員の資格を停止した。
イタリアでは「彼の考えにはすばらしいところもある」とラジオで述べた北部同盟の政治家に身内からも批判が噴出、政治家は謝罪に追い込まれた。容疑者が一時在籍したノルウェーの進歩党も「今は(容疑者とは)一切関係ない」と強調する。
ブレイビク容疑者は犯行声明や法廷での陳述で、移民や難民への反感をむき出しにし、「イスラム教徒の征服から欧州を救うため」とテロを正当化。右翼政党のリーダーを「精神的な同志」と呼ぶ。
だが多くの右翼政党は正面からのイスラム批判には慎重だ。国民戦線は難民についても「迫害された人を受け入れるのはフランスの基本理念」(ルペン党首)との立場。その中で、モスクの建設禁止などイスラム系移民の排斥を訴えるオランダの自由党も「我々は民主的な政党。暴力に訴えることは決してしない」と容疑者を厳しく非難した。
欧州では近年、移民規制を掲げる右翼政党が勢力を伸ばしてきた。デンマークとオランダでは右翼政党が与党と閣外協力。フランスやフィンランド、オーストリアでは議席数や支持率で第3党になるなど、政権入りをうかがう右翼政党にとって、今回の事件が逆風になる可能性がある。(ロンドン=沢村亙)
■「移民、欧州に合わず」 ベルギーの政党党首
ベルギーの右翼政党フラームス・ブラング(VB)のブルーノ・ファルケニアース党首(56)が朝日新聞の取材に応じた。「暴力には反対」と事件を批判したうえで、移民とイスラムへの反感を声高に主張した。
――VBの主張は容疑者と共通するようですが、事件をどう見ますか。
「VBは民主的選挙を経て議席を持ち、議会やメディアで主張する。容疑者の行動はまともではなく、暴力には断固反対だ。事件の再発防止には、移民をせき止める以外にない」
――なぜ「反移民」を訴えているのですか。
「労働者が仕事を奪われることも問題だが、高学歴層にも反移民感情が高まっている。自分が生まれた土地なのかと思うほど、心を落ち着けて住めなくなっているからだ」
――多くの移民が税金を納めていますが、それでも問題ですか。
「仕事をしているだけならいい。だが、特にイスラム系移民は宗教、法・政治制度、文化などが人権やキリスト教など欧州の価値観と異なるうえ、順応しない。自分たちの流儀を押し通したいのであれば自国に帰るべきだ」【8月3日 朝日】
***************************
事件によって、欧州各国で進む反移民・反イスラムの流れに変化が起きるのか、あるいは同様な凶行が誘発されるのかが注目されます。