(14日 遼寧省大連市 化学工場から有害物質の流出の恐れがあるとして、工場の撤去を求める市民ら1万2千人以上が同市政府庁舎前に集まりました。市当局は、市民の抗議活動を受け、工場の即時操業停止と早期移転を即日で決定しました。 “flickr”より By treasuresthouhast http://www.flickr.com/photos/74568056@N00/6040583127/ )
【市民に過度な暴力を振るう「城管」】
中国の住民抗議による“暴動”は、ごく日常的な現象と言えるほど多発しています。
その原因としては、地方政府による土地収用に関するものが多いと聞きますが、「城管」と呼ばれる路上の取り締まりを担当する機関の職員による暴力行為に対する抗議もしばしば発生しています。
11日に貴州省で起きた暴動も、そうした「城管」の暴力がきっかけとなったようです。
****中国・貴州省で暴動、「城管」の暴力がきっかけ****
11日午後、中国・貴州省で暴動が発生し、数千人が路上に出て翌日未明まで車両の破壊や放火などを行った。国営新華社通信が12日、報じた。この暴動で警察官10人が負傷した。
国営ラジオ放送CNRのウェブサイトによると、暴徒はトラックで幹線道路を封鎖したという。
新華社によると、「城管」と呼ばれる路上の取り締まりを担当する機関の職員が、違法駐輪したとして女性から自転車を押収しようとした際に、この女性に暴力を振るったことが暴動のきっかけだったという。
中国版ツイッター「新浪微博」では12日、この暴動についてのコメントは遮断されている。
■暴動を引き起こす「城管」
城管の職員は、市民に過度な暴力を振るうと批判されることが多く、多くの中国人に嫌われている。近年の暴動には城管職員の行為がきっかけになったものも多い。
前月にも中国南部の都市で、城管職員が足の不自由な果物売りの男性を殴ったことをきっかけに数百人規模の暴動が起きている。違法駐車したとして荷車を押収されたことに抗議していたというこの男性は、殴られた際のけががもとで死亡した。【8月12日 AFP】
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他のアジア諸国同様に、中国でも路上を占有した商行為はごく普通に見られますので、城管の職員がそれを厳しく取りまろうとすれば、トラブルが多発することは容易に想像できます。
【社会の安定のために早期の事態収拾】
環境汚染が深刻な状況を受けて、地方政府と結託した企業による有害物質垂れ流しなどへの抗議行動もしばしば見られるパターンです。
****中国:市民抗議で化学工場移転へ 大連で若者らデモ****
中国遼寧省大連市は14日、市内の化学工場の移転を求める若者を中心とした市民の抗議活動を受け、工場の即時操業停止と早期移転を決定した。中国当局が市民の抗議活動の要求を即日受け入れるのは極めて異例。
中国東北部最大の経済都市で市民らの抗議が地元政府を公然と批判するまでに発展、社会の安定のために早期の事態収拾を図る必要に迫られたためとみられる。
新華社電によると、抗議活動の参加者は約1万2000人。午前に市政府庁舎前で始まった抗議は午後に入り、工場建設を許可した当時の市トップの責任追及や官僚の腐敗一掃を求める声も目立つようになり、数百人の警官隊が動員された。参加者の一部は市内でデモ行進したが、大きな衝突はなかった。
市民らが移転を要求したのは大連福佳大化石油化工有限公司の工場で、ポリエステル繊維などの原料となるパラキシレンを生産している。
8日に台風が接近した際、工場近くの防波堤が決壊。有毒物質が漏れ出す恐れが強まり、住民らが避難した。正式な許可が出る前に生産を開始していたとの疑惑も出ており、工場の移転を求める声が一気に高まった。
市民らは抗議活動で「福佳大化は出ていけ」「大連の環境を守れ」と連呼。一時は大連市トップの唐軍・共産党委員会書記が市民らの前で工場移転を約束、デモ解散を求めたが、座り込みは移転決定が伝えられた夕方まで続いた。
関係者によると、デモ呼び掛けの中心になったのは学生ら。中国当局はネット上の呼び掛けを削除するなどしたが、携帯電話のショートメッセージなどを通じ広まった。【8月15日 毎日】
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“中国当局が市民の抗議活動の要求を即日受け入れるのは極めて異例”とのことですが、市民の抗議行動による社会混乱への危機感がそれだけ当局側に強いということでしょう。
市民側で、ショートメッセージなどが活用されるのは、中国に限らず世界的な現象です。当局側にとってはコントロールが難しくなっています。
【「地元当局が停電地域を選別している」】
四川省成都では停電に抗議して道路封鎖などの抗議行動が行われたことが報じられています。
****中国:成都で住民5000人が道路封鎖 停電に抗議*****
香港紙「東方日報」は15日、中国四川省成都で14日夜、地元住民約5000人が停電に抗議して道路をふさぐなどの抗議行動を起こし、警察当局と衝突したと伝えた。死者や負傷者は確認されていない。
報道によると、現地では気温40度近い日が続くが、電気や水が止まった状態となっている。停電は、収入の比較的少ない人たちが多く住む地域で発生しており、住民は「地元当局が停電地域を選別している」と不満を募らせていた。【8月15日 毎日】
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【抑圧された住民の意思が大衆行動として噴出】
こうした頻発する抗議行動の原因は様々ですが、地方政府のトップから末端の城管に至るまで、住民の利益ではなく自分たちの利益追求・保身に走り、往々にして企業と癒着していること、公権力行使にあたっても住民保護の意識が希薄で強権的な権力行使が行われることなど、住民側に地方政府への不満・不信感が強く存在しています。
欧米や日本のような社会であれば、中央政府にしろ地方当局にしても、選挙によって選ばれた住民・国民の代表によって管理される建前であり、なにがしらかの民意が反映されるシステムが存在しますが、事実上の共産党一党支配体制の中国にあっては、政府は住民とは関係ないところで存在するものであり、住民と特に地方政府の間には対立の構図があるように見えます。
住民と権力の間に相互依存的な一体感が欠如しているため、普段は抑圧されている住民の意思が、何らかのきっかけで抗議行動や“暴動”という形で噴出しやすいように思われます。
数千に、あるいは一万人を超える住民が集まり、当局の責任者を批判する様は、文化大革命当時の激しい大衆行動を彷彿とさせるものもあります。
当局側は、そうした住民の大衆行動を恐れ、普段から何とかこれを抑え込もうとする・・・ということにもなります。
【「高官も水飲み百姓の苦しみを理解しろ」】
下記の記事は、「政府高官」に対する中国庶民の批判的感情を表しているように思えます。
****一等車の「後退的進歩」に見る中国の高速鉄道文化が日本にまだ及ばない点****
今年1月、時事通信社が発行する時事速報にある私のコラムで、次のようなことを取り上げた。
昨年の9月のことだ。内陸の安徽省合肥市の訪問を終えて上海に帰る際、新幹線の中国版である高速鉄道を利用した。そこで予想外のトラブルに巻き込まれた。
私と妻が乗っていたグリーン車に相当する一等席車両に、数人の男女が空席を見つけて勝手に入り、席を占領した。ほどなく検札に来た若い女性の車掌が問題に気付き、駅の入場券しか持っていないこの男女らに一等席車両を出てもらうよう求めた。しかし、男女らはいろいろな理由を並べ、頑として動こうとしなかった。車掌はかなり訓練を受けているらしく、ずっと笑顔を保ったまま説得し続けた。
娘とそう年齢の変わらないこの車掌に感心して、私は「車掌さんの勧めに従ったら」と思わず援護射撃的な発言をした。すると男女らが一斉に矛先を私に向けてきた。「余計なお世話だ。お前に関係ないだろう」。
そこまで言われると、私もそう簡単には引き下がれない。「この車両の乗客として私にも関係があるのだ」と反論した。
男女らがさらに騒ぎ出した。その戦術には呆気にとられた。
「あんた、見た目では高官のようだな。あんたは百姓である俺たちの血税を使ってこの一等車に乗っているのだろう。俺の女房は病気にかかっているよ。どうして俺たち貧乏人がこの車両に乗ってはいけないんだ、高官も水飲み百姓の苦しみを理解しろ」
私を政府高官に仕立てて攻撃してくる戦術だ。これは今、中国各地で見られる社会現象である。特権的な地位にある政府関係者、公務員、警察、「城管」と呼ばれる都市治安補助員に対し、国民は大きな反感を抱いている。庶民がこうした政府関係者らと衝突を起こすと、人々はまず政府関係者側を批判する。しかも、その批判はたいてい的を射ている。
一方、こうした社会現象に目をつけ、私利私欲を満たすため新手の戦術を練りだした輩もいる。この高速鉄道の一等車でまさにそうした人たちに出会ったのである。喧嘩になると、「政府高官」とされてしまう私は立場が悪くなる。相手はそこを計算してしたたかに攻撃してきたのだ。
幸い、一等車内の乗客は私と同じ立場にいる人間ばかりで、誰もその手の攻撃に関心を払おうとしなかった。結局、男女らは車掌にせかされ一等車から去り、車内はようやく静けさを取り戻した。
共産党の幹部や政府役人が民衆に信頼されない問題があるから、若い女性車掌を助けようとした私が、逆に悪役の「高官」にされてしまったのだ。(後略)【7月21日 DIAMOND online】
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国民側にある政府関係者への反感・批判、“その批判はたいてい的を射ている”ような腐敗構造・・・経済活動でみると日本と殆んど変わらないような中国社会ですが、本質的な部分でかなり異質な社会でもあります。