孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  反体制派の首都包囲網狭まる アメリカは“スマートパワー”で対応

2011-08-17 20:02:49 | 北アフリカ

(8月13日 政府軍との戦闘の末、首都トリポリ防衛の重要拠点ザウィヤの近郊に迫る反体制派 
それにしても、「トヨタ」のピックアップは、テクニカルとして世界中の反政府勢力、ゲリラ勢力御用達です。その性能はもちろんですが、広く使用されるにつれて部品調達が容易になるという利点が更に高まること、また、一種の“ブランド”の魅力があるようです。“flickr”より By DTN News  http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6039968508/in/photostream )

危惧される“寄せ集め集団のもろさ”】
昨日取り上げた弾圧が続くシリア情勢と同様に、一進一退で事態がなかなか進展しないのがリビア情勢。
特に、先月末には、反体制派軍部隊を指揮するアブデル・ファター・ユネス軍最高司令官が東部ベンガジに向かう途中、武装グループに襲撃され、護衛2人とともに殺される事件があり、反体制派の内紛との見方から、内戦状態が膠着しているリビア情勢の先行きに新たな不安を加えました。

ユネス氏は逮捕状が出されたことをうけ、ベンガジでの委員会に呼び出され、事情聴取を受けるためにベンガジに向かう途中で暗殺されました。ユネス氏はカダフィ政権の公安相でしたが2月に離脱、反体制派の軍事作戦を指揮してきました。しかし、カダフィ氏の長年の側近だったことから、政府側との関係継続を疑う声があったと報じられています。

****リビア反体制派司令官殺害、内紛との見方強まる****
リビアの反体制派軍事部門を率いるアブドルファタハ・ユニス最高司令官が7月28日に射殺体で発見された事件は、反体制派の内紛との見方が強まっている。
カダフィ政権の元幹部や、政権に弾圧されたイスラム主義者も加わる寄せ集め集団のもろさが浮き彫りとなっている。

ユニス氏の射殺体は反体制派の拠点ベンガジ郊外で見つかった。反体制派軍事部門の幹部はAP通信に、ユニス氏に同行していた反体制派民兵2人が「裏切り者」と叫びながら発砲した、と証言した。別の反体制派幹部はロイター通信に対し、殺害に関与したのは、カダフィ政権によって投獄され、現在は反体制派に加わるイスラム主義者との見方を示した。【8月1日 読売】
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この事件の混乱を収束するため、リビア反体制派の国民評議会(TNC)のムスタファ・アブドルジャリル議長は今月8日、徹底的な改革を目指すとの理由で事実上の内閣を解散しました。

重要拠点ザウィヤを制圧
内紛含みの反体制派ですが、戦線の方はここにきてようやく首都トリポリ包囲網が狭まりつつあります。
長く争奪戦が続いていたトリポリ近郊のザウィヤを反体制派が制圧したと報じられています。

****リビア:反体制派が首都への補給路制圧*****
リビアの反体制派は14日、首都トリポリから西へ約50キロのザウィヤを制圧した。隣国チュニジアからトリポリへ食料や燃料を運ぶ幹線道路沿いの港町で、政権側への主要な補給路を断った。反体制派がただちに首都へ攻め入る情勢ではないが、東西両側の沿岸を押さえ、包囲網を狭めたことになる。ロイター通信が報じた。

ロイター通信によると、反体制派が13日夜から14日朝にかけてザウィヤを制圧し、中心部の市場で反体制派側の旗を掲げた。少数の政府軍兵士が今もビル屋上などから射撃を続け、ザウィヤからチュニジアへ延びる幹線道路でも戦いは続いている。また政府軍へのガソリンの主要な供給源となっているザウィヤ北部の精製所はなお、政府軍が支配しているという。
報道に対し、リビア政府のイブラヒム報道官は、反体制派による制圧を否定した。

ザウィヤを巡っては今年3月上旬、反体制派が制圧した後に政府軍が奪還するなど、激しい攻防が繰り広げられてきた。北大西洋条約機構(NATO)主導の多国籍軍が、政府軍施設などを空爆し、援護している。【8月15日 毎日】
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内相、“観光”でカイロへ
また、沈みかけた船からネズミが逃げ出すように、政権幹部の離反も報じられています。
****リビア内相、家族とカイロ到着…亡命か****
AP通信によると、リビアのナスル・マブルーク・アブドラ内相が15日、家族9人とともにカイロ空港に到着した。
空港当局者の話として伝えた。アブドラ内相は、チュニジアから特別機で入り、来訪の目的を「観光」と話しているといい、亡命の可能性もある。

リビアの最高指導者カダフィ氏の打倒を目指す反体制派部隊は、首都トリポリに近い西部ザウィアをほぼ手中に収めるなどカダフィ氏の牙城への包囲網を狭めている。亡命ならば、政権幹部の離反はカダフィ氏にとって大きな打撃だ。
リビアでは、北大西洋条約機構(NATO)指揮の多国籍軍による空爆が始まった今年3月、クーサ外相(当時)が英国に亡命している。【8月15日 読売】
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(その後の報道で、アブドラ氏は内相ではなく、副内相であると報じられています。)

アメリカ:“スマートパワー”で民主化を目指す
内相がこの時期に“観光”はないと思います。
こうした戦線の動き、幹部離反を受けて、手をこまねいていた感もあったアメリカも「カダフィ政権に残された日はわずかだ」(パネッタ米国防長官)と元気になってきました。

なお、“オバマ政権が、カダフィ政権やシリアのアサド政権を退陣に追い込めないことに、野党共和党などからは批判も出ている。これに対し、クリントン長官は「我々は(軍事力に依存しない)スマートパワーを行使している」とし、国際社会と協調して両政権に圧力をかけていく方針を強調した。”【8月17日 朝日】とのことです。

“スマートパワー”とはなんだろう?と思ったのですが、下記毎日記事では“賢明なる力”と訳されています。
軍事力に頼らず、外交力や経済力、文化発信力などを総合した力といった意味合いのようです。

****米国務長官:「賢明なる力」でシリア、リビア民主化*****
クリントン米国務長官は16日、ワシントン市内で開かれたシンポジウムで、民主化運動に対する弾圧が続くシリア、リビア両国の情勢に言及し、米国は軍事力に頼らず、外交力や経済力、文化発信力などの「スマートパワー(賢明なる力)」と国際協調によって両国の民主化を目指す考えを明らかにした。

シリアのアサド大統領に退陣要求せず、リビア空爆で後方支援に徹するオバマ政権の外交に対しては、米内外に「弱腰」や「無策」などの批判もある。クリントン氏の発言は軍事力偏重・単独行動主義だったブッシュ前政権との差異を強調したものだが、一方で弾圧による両国の犠牲者が増え続けているのも事実であり、今後は人道危機に対するオバマ政権の関与の在り方が問われそうだ。

クリントン氏はシンポジウムで、サウジアラビアのアブドラ国王や、シリアの友好国トルコのエルドアン首相が先週、アサド政権を強い調子で非難したことに言及。「米国はこれらのオーケストラの一部であり続けている」と述べ、中東諸国を巻き込んだ国際協調によってアサド政権を追い詰める考えを明示した。

また、クリントン氏は、空爆開始から5カ月が経過した今も最高指導者カダフィ大佐が居座り続けるリビア情勢について「これは戦略的忍耐の実践だ」と述べ、カダフィ氏の打倒をあくまでもリビア国内の反カダフィ派に任せる考えを強調。アラブ諸国がリビアの反体制派支持に方針転換した経緯を挙げ、「これこそが、米国だけでなく全ての人々が普遍的価値のために犠牲を払う私の見たかった世界だ」と述べた。

シンポジウムには、パネッタ国防長官もそろって出席。パネッタ氏は、リビア東部を拠点とする反カダフィ派が戦力を拡大しているとの現状分析を披露し、「カダフィ氏の時代は余命いくばくもない」との見解を示した。【8月17日 毎日】
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「スマートパワー(賢明なる力)」にしろ、「オーケストラの一部」にしろ、世界のリーダーを自負し、先頭に立ちたがるアメリカらしからぬ対応ではありますが、イラク・アフガニスタンで身動きがとれず、財政赤字増大に苦しむ現状では、これ以上の軍事力行使はできないというのが実態でしょう。

トリポリ防衛戦、新政権の性格・・・懸念される問題
「カダフィ氏の時代は余命いくばくもない」かもしれませんが、カダフィ政権側はスカッドミサイルを始めて使用するなどの反撃態勢を強めています。
この先、カダフィ大佐が首都トリポリを死守すべく、住民を人間の盾にした市街戦が展開される事態となれば、決着には相当の時間を要しますし、何より人的被害が大きく膨らむものと懸念されます。

ただ、欧米軍隊と異なりリビア反体制派勢力は、人間の盾にも躊躇しないかも・・・。スリランカ内戦でも起きた事態です。それは最悪の結果をもたらします。

更に、内戦勝利後を考えると、ユネス軍最高司令官殺害で露呈した反体制派内部の問題が表面化してきます。
アメリカが敢えて先頭に立つ気にならないのも、カダフィ後の新政権の性格が不明確なことがあるのでしょう。

コメント
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