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(“政治経験ゼロで臨んだ総選挙。当初は演説も原稿の棒読みで頼りなかったが、みるみる上達した。インタビューでは相手の目を見て、誠実に回答する。一方で「想定問答」からは外れず、失言や放言は一切ない。華やかな外見とは対照的な慎重、堅実ぶりだ”【8月5日 毎日】とのインラック新首相
最低賃金(日額)を300バーツ(約787円)に引き上げるという選挙公約は「インフレ圧力を強め、失業率の上昇要因になりかねない」との指摘もあります。
兄タクシン元首相については、「兄のよいアイデアは取り入れる」とのことです。
“flickr”より By journalforeignrelations http://www.flickr.com/photos/65478866@N04/5960440854/)
【訪日を手始めに「外交活動」を活発化】
妹のインラック氏がタイ初の女性首相となったタクシン元首相は、亡命中の身ですが、復権へ向けた活動として日本を訪問します。
日本の入管難民法は懲役・禁錮1年以上の刑を受けた外国人の入国を原則として禁じていますが、“総合的判断”で例外規定が適用されたようです。
****タクシン元首相:政府、特例措置でビザ発給****
枝野幸男官房長官は15日の記者会見で、汚職事件により実刑判決を受けたタイのタクシン元首相に特例措置として日本への入国査証(ビザ)を発給したと明らかにした。在ドバイ日本総領事館で発給したという。
日本の入管難民法は懲役・禁錮1年以上の刑を受けた外国人の入国を原則として禁じている。枝野氏は、タイ政府から(1)東日本大震災の被災者支援が目的で、2国間関係の増進につながる(2)インラック政権はタクシン氏の渡航を禁止しない政策を取るのでビザ発給を支援してほしい--と要請があったと説明。「要請を踏まえ総合的に判断した」と述べた。【8月15日 毎日】
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タクシン元首相は、東日本大震災の被災地を訪問し、塩害などでコメ栽培が困難になった農家が希望すれば、タイ北部で中長期にわたり、農地を提供する案を示す予定だそうです。
しかし、汚職事件により実刑判決を受け亡命中のタクシン元首相が、どういう権限で農地提供を保証するのでしょうか?
****タクシン氏訪日へ、被災農家にタイの農地提供*****
タイのタクシン元首相は今月下旬の訪日時、東日本大震災の被災地農家にタイの農地を提供するなど、復興協力策を提案する。
複数の関係者が17日明らかにした。日本の復興に積極的な姿勢を強調し、国際社会に事実上の復権をアピールする狙いもある。タクシン氏は訪日を手始めに「外交活動」を活発化させる構えだ。
タクシン氏は22~28日まで日本に滞在し、都内で超党派議員や経済人と懇談するほか、25~26日は宮城県の被災地を訪れる。その際、塩害などでコメ栽培が困難になった農家が希望すれば、気候的にジャポニカ米の栽培に適したタイ北部で中長期にわたり、農地を提供する案を示す予定という。
被災地の自治体が復興資金を確保するため地方債を発行し、東南アジア各国が購入して資金調達を支援する案も検討している。タクシン氏は首相時代、アジア域内で国債などの取引を活発化させる「アジア債券市場」構想を主導しており、構想に弾みをつける狙いもあるようだ。【8月18日 読売】
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【30閣僚中、約20閣僚が「タクシン・ファミリー枠」】
もっとも、インラック新政権組閣にあたっては、“30閣僚中、約20閣僚が「タクシン・ファミリー枠」として割り当てられ、14閣僚がタクシン氏と前妻の意向によって、それぞれ抜擢(ばってき)された”【下記産経】とのことですので、農地ぐらいどうにでもなるのでしょう。
****タイ新政権発足 国防相にタクシン派 軍出身、交渉役期待*****
10日に正式発足したタイのインラック新内閣の顔ぶれをみると、インラック首相の兄、タクシン元首相の色合いが鮮明だ。国防相には、タクシン政権時代に国防副大臣を務めたユタサック氏が起用され、今後の軍との関係が注目される。昨年の大規模デモを主導した、反独裁民主統一戦線(UDD)の幹部の入閣は、「国民和解」に配慮し見送られた。
全閣僚の就任宣誓式は10日、プミポン国王が入院しているバンコクの病院で行われた。インラック氏が提出した閣僚名簿は、9日に国王の承認を得ていた。
首相を除く全35閣僚のうち、インラック氏が所属する最大与党・タイ貢献党からは、30人が入閣した。
タイ政界筋などによると、この30閣僚中、約20閣僚が「タクシン・ファミリー枠」として割り当てられ、14閣僚がタクシン氏と前妻、2閣僚がインラック氏、4閣僚がタクシン氏の別の妹の意向によって、それぞれ抜擢(ばってき)された。
具体的には、ユタサック国防相やスラポン外相、ティラチャイ財務相などが、タクシン氏の後押しで入閣。インラック氏は、ヨンユット貢献党党首と、内相などを歴任したチャルーム氏を、いずれも副首相に起用した。
ユタサック国防相は陸軍出身でもある。インラック政権にとっては、反タクシン派の急先鋒(せんぽう)ともいえる軍との交渉、間合いの取り方をひとつ間違えば、命取りになりかねない。国防相に陸軍出身者を起用したのも、軍との交渉役という重責を見据えてのことだ。
ユタサック氏の起用について、プラユット陸軍司令官は、軍の経験がないよりもいい、との反応を示している。だが、現実には「ユタサック氏の軍への影響力はあまりなく、交渉役として期待はできない」(タイ消息筋)との見方もある。
スラポン外相はタクシン氏の親戚で、貢献党副党首から入閣した。外交経験はなく、タイ紙バンコク・ポストは、外務当局者の「外務省で彼を知る者は、数人しかいない」とのコメントとともに、失望感を伝えている。
一方、貢献党の最大の支持母体で、閣僚ポストを求めていたUDDからの入閣が見送られたのは、反タクシン派の反発を避けるためで、UDD内に一定の不満を残す結果となった。【8月11日 産経】
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“14閣僚がタクシン氏と前妻、2閣僚がインラック氏・・・・”、しかも、その14閣僚に国防・外務・財務などの重要閣僚が含まれるということで、実質的タクシン内閣であることは歴然としています。
政治経験のないインラック氏の推薦枠が2名のみというのは、仕方がないところでしょうか。
しかし、“前妻”とか“別の妹”とか、政治の私物化はごく当然のことと認識されているようです。
それにしても、こうした「タクシン・ファミリー枠」が公然と語られることには違和感もあります。
国民和解を最大課題とするインラック政権ですが、タクシン元首相が前面に出過ぎると、反タクシン派の反感も強まりそうです。「いまさら、そんなきれいごとを言っても何の意味もない・・・」というところでしょうか。
なお、タクシン元首相は組閣関与について、“「彼女(インラック首相)ら自身が決めたが、アドバイスはした」と述べ、一部関与したと認めた”【8月14日 朝日】とのことです。
【タクシン復権で、「プレアビヒア」問題は沈静化の方向】
カンボジアのフン・セン首相と親しいタクシン元首相が背後にいるインラック政権誕生で、カンボジアとの国境紛争は沈静化の方向に動いているようです。
****タイ:カンボジア国境で「軍民の交流再開」…報道官****
カンボジアと国境の管轄権を巡る軍事対立を続けたタイ陸軍第2管区司令部のプラウィット報道官は17日、毎日新聞の取材に対し、「インラック政権発足後に国境の状況は衝突前に戻り、軍や民間人の交流が再開された」と述べ、新たな軍事衝突が起きる可能性がなくなったことを明示した。さらに、24日にタイ側で両軍の現地司令官が出席する「地域国境管理委員会」が開かれるとも明言。紛争地域からの両軍の撤退に向けた交渉も進む見通しとなった。
報道官は「タイ側の農業技術セミナーに150人のカンボジア農民が参加している」と語り、「今月末までには両国貿易のため国境に臨時の検問所も開設される」と述べた。貿易や観光などの経済活動も軍事衝突前の水準に戻る見込み。
両国は06年、カンボジアが国境の山岳寺院「プレアビヒア」を世界遺産登録申請したことをきっかけに対立を深め、今年2月と4月には寺院周辺などで過去最悪規模の武力衝突に発展。タイの地元住民1人を含む少なくとも28人が死亡した。
両国民にはそれぞれ寺院は自国領土との意識はあるものの、両国関係がここまで悪化したのは、タクシン氏支持を明確にしてタイの政治対立に介入したカンボジアのフン・セン首相に、タイの反タクシン派が激しく反発したためだ。
しかし、7月上旬のタイ下院選で2年8カ月ぶりにタクシン派の野党タイ貢献党が圧勝。インラック政権が発足したのを受け、フン・セン氏は「両国間の悪夢は終わった」と発言した。さらに自国のメディアにタイ新政権への批判を控えるよう要請するなど和解ムードを高めている。【8月18日 毎日】
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なお、タクシン元首相は、日本訪問の直前か離日直後に「個人的な旅行」としてカンボジアを訪問する予定です。
どういう理由であれ、カンボジアとタイの緊張が緩和されるのは結構なことです。