孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  テロ増加 更に、カルザイ大統領3選不出馬で政権求心力低下

2011-08-28 21:03:20 | アフガン・パキスタン

(カルザイ大統領(右端)と、弟のアフメド・ワリ・カルザイ氏(左から3人目) アフメド・ワリ・カルザイ氏は南部カンダハル州議会議長を務め、同州の商業・政治上の取引を支配していた人物です。アヘン取引や民間警備会社と裏でつながっているという疑惑やアメリカCIAとの関係が取りざたされる一方で、同州に秩序をもたらしたと評価する声もありました。 この弟と、友人で相談役のシャン・ムハンマド・カーン氏がタリバンによって惨殺されたことで、大統領の意欲が萎えてしまったと言われています。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5929542067/

連日のように、全土で、一般市民が犠牲
米軍撤退を控えたアフガニスタンでは、相変わらずと言うか、今までにも増してテロが頻発しています。
最近のニュースの見出しと概要を列挙しただけでも、以下のような状況です。

****タリバンが州知事庁舎襲撃、22人死亡…アフガン【8月15日 読売】
(東部パルワン州 襲撃時、庁舎内では知事や州警察長官、国際治安支援部隊(ISAF)の担当者らが出席して治安対策会議が開かれていましたが、いずれも無事でした。)

****アフガン南部で警備会社襲撃、4人死亡【8月16日 読売】
(南部カンダハル州 襲われた警備会社は、北大西洋条約機構(NATO)軍の基地に隣接し、NATO軍向けの燃料を運ぶトラックの護送に携わっていました。)

****道路の仕掛け爆弾爆発 市民ら24人死亡 アフガン【8月18日 朝日】
(西部ヘラート州 ミニバスは市場に向かうところでしたが、同地区ではこの日、別の場所でトラックも仕掛け爆弾の被害に遭い、4人が負傷しています。)

****アフガニスタン:タリバンが攻撃、住民3人死亡…カブール【8月19日 毎日】
(首都カブール 武装集団がイギリスの文化施設「ブリティッシュ・カウンシル」を襲撃したもので、駐留米軍が7月に撤収を開始して以降、首都カブールが本格的な武装勢力の攻撃を受けたのは初めてです。)

****アフガン:車爆発し市民4人死亡 爆弾テロか【8月27日 毎日】
(南部ヘルマンド州 時、現場近くの銀行には給料を受け取るために兵士や警官が並んでいたそうです。
 また、北西部ファリャブ州のモスク付近で爆弾が爆発し、参拝者4人が死亡、14人が負傷しています。)

まさに“連日”といったところですが、テロの起きている地域もタリバン勢力が強い南部だけでなく、首都カブールを含めたアフガニスタン全土にわたっています。
また、犠牲者は巻き込まれた一般市民が大部分を占めています。

アメリカ国務省の報告によれば、テロ件数は2010年に前年比1.5倍に増加しているそうです。上記状況では2011年は更に増えそうな勢いです。

****アフガンのテロ件数、前年の1.5倍超 米国務省報告書****
米国務省は、2010年の世界のテロ状況をまとめた年次報告書を18日に発表した。テロ件数は、米軍が増派されたアフガニスタンで1.5倍以上に増加。減少傾向にあったイラクでも再び増加に転じており、両国の治安回復の難しさが浮き彫りになった。

国家テロ対策センターの集計によると、世界全体のテロ攻撃数は1万1604件で、09年から約6%増加した。アフガンは前年比56%増の3307件。08年に比べると約2.7倍で、オバマ政権が駐留米軍増派を進めたにもかかわらず、増加傾向に歯止めがかかっていないことが分かった。

米軍が昨年夏に戦闘任務を終えたイラクでも、テロ件数は2688件と09年比で約1割増加した。米軍は今年末に戦闘部隊の完全撤退を予定するが、今月も無差別テロで多数の市民が犠牲になるなど、治安の安定にはほど遠い状況だ。【8月21日 朝日】
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弟と友人の惨殺で闘志が萎える
米軍撤退後、治安維持の責任を担うのがアフガニスタン国軍・警察ですが、その能力に大きな疑問がもたれているのは周知のところです。
その軍・警察を指導すべき立場にあるカルザイ大統領は、3選禁止を規定したアフガン憲法に従い、14年の大統領選に出馬しない考えを表明しています。

****アフガン:カルザイ大統領が不出馬表明 3選禁止規定****
アフガニスタンのカルザイ大統領は11日、3選禁止を規定したアフガン憲法に従い、14年の大統領選に出馬しない考えを表明した。大統領府によると、アフガン議会議員との会合で語った。選挙まで3年あるが、米軍撤収が始まった7月以降、治安悪化などで大統領は求心力を急速に失っている。カルザイ氏がこの時期に不出馬を表明したのは、憲法順守の姿勢を示すことで国民や国際社会の支持を得る狙いとみられる。【8月12日 毎日】
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カルザイ大統領は3選禁止規定の廃止を狙っているのではないかとも噂されていましたが、今年7月に弟のアフメド・ワリ・カルザイ氏と、親しい友人で顧問のシャン・ムハンマド・カーン元ウルズガン州知事が惨殺された事件で、大統領の闘志が萎えてしまった・・・との見方がなされています。

また、かねてより後ろ盾のアメリカとの不和があることも、大統領の意欲をそいでいるようです。
アメリカが自分を差し置いて、タリバンと直接交渉に乗り出す構えを見せていることへの不満、09年の大統領選で不正疑惑が浮上した際、アブドラ元外相との決選投票をアメリカなど国際社会に強制されたこと対する“裏切られた”という感情があるとか。【8月31日 Newsweek日本版より】

次期大統領の候補者
一方、アメリカがそうした行動に出るのは、腐敗・汚職が絶えず、実効的な施策を推進できていないカルザイ大統領の実績・能力への不信感が募っているからですが、さりとて彼に代わる適材がいないというのが悩みの種でもあります。

それは一般国民も同様で、“カルザイが大統領の座に就けた大きな理由の1つは、自らの手を血で汚していないからだ。多くのアフガニスタンの実力者は、旧ソ連軍に抵抗したイスラム武装組織の元司令官で、ソ連撤退後は庶民を食い物にした。09年の大統領選当時、多くの有権者はカルザイの政権運営や政府の腐敗と無能に不満だったが、現職のカルザイに投票すると言った。信頼できる候補者がほかにいなかったからだ。”【同上】とのことです。

アフガニスタンには人口の約42%を占めるパシュトゥン人に加え、タジク人(27%)、ウズベク人(9%)、ハザーラ人(9%)などの少数民族がおり、かつて内戦当時は血で血を洗う戦いを繰り広げたように、根深い対立感情があります。
カルザイ大統領は多数派パシュトゥン人を支持基盤にしていますが、次期大統領はこの複雑な民族構成と対立を克服できる者でなければなりません。

09年大統領選挙で31%近い得票を獲得したアブドラ元外相は、父親は南部出身のパシュトゥン人ですが、本人はタジク人主力の旧北部同盟に近く、パシュトゥン人の間での支持が広がっていません。

カルザイ大統領の意中の後継候補は、国際機関出身のグラム・ファルーク・ワルダク教育相であるとの指摘があります。

“ワルダクはカルザイの外交顧問で、タリバンとの和平交渉を担当する高等和平評議会の有力メンバーでもある。もしカルザイが公式にワルダクの立候補を支持すれば、当選の可能性は高くなるかもしれない。ただし支持基盤は首都カブールと政府機関だけで、地方住民の支持は弱いとみられている。”【同上】

国際社会が期待を寄せているのは、アメリカで教育を受け世界銀行で働いた経験を持つテクノクラートのアシュラフ・ガーニ氏です。

“南部のアフマドザイ部族出身のパシュトゥン人で、カルザイ移行政権の財務相として辣腕を振るったが、カルザイが最初の大統領選に勝った直後の04年、政府の腐敗と機能不全に抗議して辞任した。
09年の大統領選に立候補した際には、当局者の腐敗を助長しているとしてカルザイを激しく攻撃。「ビジョンも指導力も、管理技術もない」と批判した。(中略)
ガーニの能力に疑いはないが、前回の大統領選では幅広い支持を集めるのに苦労した。地方で選挙運動を行うための組織力や人脈をつくれるかどうかは未知数だ。”【同上】

いずれにしても、カルザイ大統領の不出馬宣言で政権の求心力が低下することは避けられません。
米軍撤退計画と併せて、タリバン側には和平交渉を急ぐ理由がなくなったとも言えます。

コメント
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