(アルカイダ系組織「イラクのイスラム国家(ISI)」のメンバー 組織幹部の逮捕・殺害で混乱が続いている・・・とも言われていますが。 “flickr”より By jihadiste2010 http://www.flickr.com/photos/47065306@N03/4324607832/in/photostream )
【未だ頻発するアルカイダ系組織によるテロ】
アメリカ・オバマ政権にとってはアフガニスタンからの撤退が重要課題であり、また、リビア・カダフィ政権崩壊やシリア・アサド政権のデモ弾圧など、日々各地で新たな問題が起きているなかにあって、米軍が昨年夏に戦闘任務を終え、まがりなりにもマリキ政権が存在しているイラクは、次第に“過去の戦争”、“忘れられた戦争”となりつつあります。
しかし、減少傾向にあったイラクのテロは昨年から増加に転じており、アメリカ国務省の年次報告書によれば、10年のテロ件数は2688件と09年比で約1割増加しています。
そんなイラクの不安定さを強く印象づけたのは、今月15日におきたイラク各地でのテロでした。
全国で18都市とも17都市とも言われる各地で爆弾テロが同日に発生し、74人とも85人とも言われる住民が死亡、300人以上が負傷しています。
****イラク18都市で爆弾などによる連続攻撃、74人死亡****
断食月「ラマダン」中のイラクで15日、南部クートなど18都市で爆弾などによる連続攻撃があり、74人が死亡、300人以上が負傷した。2010年5月以来最悪となった一連の攻撃について、犯行声明は出ていないが、治安当局者は国際テロ組織アルカイダによる犯行との見方を示した。
最も被害が大きかったクートでは、午前8時に路上爆弾が爆発したあと、数分後に付近で自動車爆弾が爆発し、40人が死亡、65人が負傷した。
内務省高官によると、首都バグダッド近郊のユシフィヤでは午後9時半、軍服姿の8人がモスクになだれ込み、反アルカイダの軍人7人の名前を読み上げて外に連れ出したあと、衆人が見守る中で全員を射殺した。8人はアルカイダ系組織「イラクのイスラム国家(ISI)」のメンバーであると名乗っていたという。
中部ティクリートでは、警察の制服を着た2人が警察施設に押し入り、拘束されているアルカイダ系組織のメンバーらの解放を図ったが失敗。施設内で自爆し、警官3人が死亡、少なくとも7人が負傷した。
バグダッドでは、自動車爆弾2個と路上爆弾3個による攻撃があり、2人が死亡、30人が負傷した。
中部のシーア派の聖地ナジャフ、中部バクバ、南部カルバラ近郊、北部キルクークなどでも爆弾攻撃や自爆攻撃が相次いだ。【8月16日 AFP】
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イスラム武装勢力が今回の連続テロを起こしたのは、大規模テロを遂行する力が今もあることを誇示しつつ、米軍駐留継続容認に傾きつつある政府を牽制する狙いがあるためではないかとの見方もでています。
一昨日の8月28日にも首都バグダッドのモスクで礼拝中に自爆テロが起き、29名が死亡しています。
****イラク:バグダッドのモスクで自爆テロ 29人死亡****
イラクの首都バグダッド西部のモスク(イスラム教礼拝所)で28日夜、礼拝中の市民らを狙った自爆テロがあり、連邦議会議員1人を含む29人が死亡、38人が負傷した。AP通信が伝えた。
現場はスンニ派の主要なモスクのひとつ。腕にギプスをして負傷者を装った男が侵入し、礼拝終了後に突然自爆したという。犯行声明は出ていないが、国際テロ組織アルカイダ系勢力の犯行との見方がある。【8月29日 毎日】
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【イラク治安部隊は自力で国を守れるだろうか?】
こうした状況に、米軍撤退後、はたしてイラク治安部隊がイラクの安全を守ることができるのか?という、かねてからの疑問を強くします。
****そしてイラクに悪夢がよみがえる****
連続テロ 米軍駐留部隊の完全撤退を年末に控え、現地の治安部隊も政治家も頼りなさを露呈
イラクはついに、つらい過去に逆戻りしたようだ。先週、各地で合計10台を超える車爆弾が次々と爆発し、市民が犠牲になった。治安部隊を狙った自爆テロと銃撃も発生。北から南まで17の都市で少なくとも85人が死
亡、300人以上が負傷した。
それは多くのイラク人がかつて経験し、二度と経験したくないと思っていた一日だった。
犯行声明は出ていないが、自爆テロで市民を標的にする手口から、イラク・アルカイダ機構(AQI)の犯行である可能性が最も高い。「AQIは依然としてイラク市民を執拗に狙い、危害を加え得る」と、米軍の報道官バリー・ジョンソン大佐は言う。
イラクでの暴力は過去1年間はおおむね減少していたため、報道はもっぱらアフガニスタンの戦況に焦点を当ててきた。いろいろな意味でイラクは忘れられた戦争になっている。イラクには今も約4万5000人の米軍部隊が駐留しているが、アメリカとイラクの政府が新たな合意に達しない限り、年内に完全撤退する。
そこで重要な疑問が浮かび上がる。イラク治安部隊は自力で国を守れるだろうか。
先週の連続テロが明確な答えのように思える。アメリカが過去8年間、巨費を投じて訓練してきたにもかかわらず、イラク治安部隊はいまだに治安活動を担う用意ができていない。
それは治安部隊だけの責任ではない。イラクの政治家も頼りない。現政権は昨年末に発足したが、内相と国防相と国家安全保障相のポストをめぐってさまざまな派閥が熾烈な争奪戦を繰り広げており、この3つのポストは依然として空席のままだ。すべてヌーリ・マリキ首相が兼任している。
連続テロの前日、マリキは安全保障会議を開き、イラクの治安は改善していて閣僚を任命する必要はないと語ったと、イラク連邦議会のマフムード・オスマン議員は言う。「しかし治安を守るのは政府の責任だ。あら坤る政党が政争に明け暮れている隙にテロリストが付け込む」【8月31日号 Newsweek日本版】
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連続テロ前日のマリキ首相の“イラクの治安は改善していて閣僚を任命する必要はない”という発言は、皮肉としか言いようがありません。
隣国シリアの情勢、宗派対立に絡んでイランやサウジアラビアの介入など、今後更に不安定化する要素があります。
****「レバノン化」の恐れも*****
・・・・折しも現在の中東には問題が山積している。イラクの隣国シリアは数十年ぶりの難題に直面している。反政府デモが拡大し、5ヵ月にわたって国を揺るがしているのだ。最大規模のデモの一部はシリア東部で起きている。イラク西部の部族と深いつながりのある地域だ。シリアのアサド政権がデモ隊への攻撃を続ければ、イラクの部族も黙っていないかもしれない。
イラクにおけるアルカイダの復活を受けて、イランもイラク国内のシーア派武装組織に対する支援強化を加連させる可能性がある。そうなればイラクに住むスンニ派のためにサウジアラビアが介入するだろう。最悪の場合、イラクは80年代のレバノンのように中東の各勢力が争う戦場と化す。米軍が各勢力を引き離しているのも今年末までだ。【同上】
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イラクはスンニ派・シーア派の対立以外にも、クルド問題という厄介な問題を抱えています。
イラクの「レバノン化」というのは考えたくないシナリオですが、宗派対立・民族対立に明け暮れるマリキ政権を見ていると、あながち否定もできないところです。
【アメリカ:訓練を目的とする部隊を来年以降も駐留させる】
アメリカは戦闘部隊を今年末までに完全撤退させますが、訓練を目的とする部隊を来年以降も駐留させる方針でイラクと交渉しています。
****米軍イラク駐留、訓練部隊は来年以降も 戦闘部隊は撤退****
パネッタ米国防長官は19日、来年以降のイラクでの米軍駐留について、同国政府との交渉を始めたことを明らかにした。オバマ米政権は、イラクに駐留する米戦闘部隊を今年末までに完全撤退させる一方で、訓練を目的とする部隊を来年以降も駐留させることになりそうだ。米国防総省で一部メディアの取材に語った。
パネッタ氏は「(米軍の)訓練部隊の規模などについて交渉したいと(イラク政府から)要請があった」と言明。タラバニ大統領らイラクの政権幹部が、先週の協議で決断したことも明らかにした。
戦闘部隊を含む5万人規模のイラク駐留米軍は、今年末の完全撤退を約束したオバマ大統領の方針に従ってすでに撤退を始めているという。パネッタ氏は「イラクは、自国の防衛のために(米軍の)どんな訓練部隊を必要とするのか。それが今後の課題になる」と述べた。
イラクでは死者を伴うテロが依然として続いており、米国は隣国イランによる政治介入にも神経をとがらせている。【8月20日 朝日】
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アメリカとしても、多大な犠牲を払いながら、撤退後に「レバノン化」といいた内戦状態にでもなれば、一体何のための犠牲だったのか・・・ということになります。大量破壊兵器がないことはわかりましたが・・・。