孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国(催涙弾のなかの対米FTA批准案強行採決)、アメリカ(財政赤字削減協議決裂)に見る衆愚政治

2011-11-22 22:19:08 | 東アジア

(10月9日 ソウル アメリカとのFTAに抗議する人々  抗議するのは当然の権利ですが、そうした世論を一定に収れんさせていくシステムがなければ民主主義は単なる衆愚政治に堕します。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6226318678/

タハリール広場の人々が希求するものは・・・
多くの国々で民主化・民主主義を求める命がけの行動が行われています。
エジプト・カイロのタハリール広場では、軍政の継続を批判し、早期の民政移管を求める人々が治安部隊と衝突、死者は20人を超え、負傷者は1700人以上に上っています。
しかし、民主主義を実現していると自負している国々の政治の有り様は、その弊害・問題点も露呈しています。

強行採決に抗議して、議長席そばに催涙弾
日本でもTPPが大きな政治問題となっていますが、自由貿易協定では日本より先を行っていると思われる韓国では、アメリカとの自由貿易協定(FTA)が思いがけず難航し、きょうようやく与党が批准同意案を野党の反対を押し切り強行採決して一応の決着をつけましたが、採決直前に野党議員が催涙弾を破裂させるという混乱を呈しています。

****韓国国会:与党が対米FTA批准案強行採決、可決****
韓国与党ハンナラ党は22日、緊急の国会本会議で、米国との自由貿易協定(FTA)の批准同意案を野党の反対を押し切り強行採決、成立させた。同FTAをめぐる米国側の批准手続きは10月に終了しており、韓国国会での同意案可決を受け、両国が目指していた来年1月の発効が実現する見通しになった。
ただ最大野党の民主党などは強行採決に激しく反発し、李明博(イ・ミョンバク)政権との対決姿勢を一段と強めるのは確実で、李大統領は一段と厳しい国政運営を迫られそうだ。

韓国国会の議員総数は現在、295人で、ハンナラ党は過半数の169人。本会議には与野党議員170人が出席し、採決では賛成151、反対7、棄権12だった。
聯合ニュースによると、採決前には与野党関係者がもみ合い、同FTAに反対する野党の民主労働党議員が本会議場に催涙弾を持ち込み破裂させる騒ぎが起きた。

同FTAをめぐり民主党などは、投資家が相手国の制度で損害を被ったとして相手国政府に賠償を求める投資家保護条項の撤廃を要求。李大統領が15日に異例の国会訪問を行い、FTA発効から3カ月以内に米国に再協議を求める妥協案を提示したが、民主党は拒否した。このためハンナラ党は、民主党が歩み寄る可能性はないと判断、強行採決に踏み切ったとみられる。【11月22日 毎日】
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“採決前には、強行採決に抗議して、議長席そばに催涙弾が投げ込まれた。議員らがせきこみ、目をこする中、催涙弾を投げ込んだ野党議員は取り押さえられ、抗議の声を上げながら警備員に議場の外へ連行された”【11月22日 AFP】とのことです。激高しやすいお国柄・・・ではありますが。

【「政治の季節」で、与野党間の対立激化
李明博大統領の目論見では、10月に批准して、11月のハワイ・ホノルルのAPEC首脳会議に乗り込む・・・というシナリオでしたが、野党側の抵抗で遅れ、APEC直前の国会訪問でも事態を打開することができませんでした。
結果、目処がたたないままのAPEC参加となり、すでに10月21日に大統領の署名まで終えているアメリカに対し面子を失った形となりました。

与野党間で問題となっているひとつは、日本同様、農業問題で、農業団体などは当初から強硬に反対しています。
また、上記記事にもある「ISD条項」への批判も強くあります。
同条項は、企業などが不利益を被ったとき、相手国を国際投資紛争センターに提訴できるというものですが、同センターが世界銀行のもとで設置されアメリカの影響が強い、韓国には一方的に不利だと野党などは批判しています。

しかし、こうした批判は以前からあったもので、もともとFTA合意は現在批判している野党が政権を担っていたときになされたものです。なぜここにきて急にそうした個別の問題がクローズアップされるのか?という疑問があります。

その背景として、「政治の季節」に入った与野党間の対立激化があるとの指摘がなされています。

****2012年の総選挙、大統領選が影響****
・・・最大の理由は第1に、「米韓FTA」が政治問題化してしまったことだ。
韓国では2012年春に総選挙、12月に大統領選挙が実施される。2つの選挙が同じ年に実施されるのは20年に1度のことで、韓国は早くも「政治の季節」に入って与野党間の対立が激しくなっている。

国会議員にとっては、何よりも来年春の選挙が最大の関心事だ。
国会で多数を占める与党だが、米韓FTA批准を強行採決すれば、国会で乱闘劇が繰り広げられるのは必至だ。そうなれば、若者を中心に与党離れがさらに加速し、「ソウルなど首都圏では与党議員が全滅する」という恐怖感が広がっている。だから野党の無理な要求にも、なかなか強く出られないのだ。

一方の野党も複雑だ。野党や進歩派勢力の間ではこのところ「左バネ」が強まっている。強硬派労働組合を支持基盤とし、「米韓FTA絶対反対」を掲げる民主労働党は最近の選挙で、全国の主要都市で10%前後の支持率を得ている。1人区の国会議員選挙で勝つためには、こうした「左寄り」政党の支持が不可欠だ。

左派系の市民団体の動きも活発だ。もともと組織力のあるうえ、最近は、「米韓FTAに賛成した野党議員には落選運動で対応する」などと議員を圧迫している。ネットやツイッターをフル活用した威力はすさまじく、「米韓FTA批准」に柔軟な姿勢を見せた野党議員にはネット上で批判が噴き上がり、議員の活動に大きな影響を与えている。・・・・【11月22日 玉置 直司 日経ビジネスONLINE】
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デマに混乱する世論
玉置氏は、第2の理由として、「米韓FTA」が、李明博政権が掲げてきた「大企業重視」の経済政策の象徴とのイメージが特に雇用難に苦しむ若者間で浸透していることを挙げています。
更に、批判的な若者の間で、ツイッターなどで、「米国で人間が狂牛病に感染しても、牛肉の輸入を止められなくなる」「盲腸の手術台が900万ウォンに急騰する」といった“デマ”が飛び交っている状況が事態を混乱させているとか。
確かに、狂牛病絡みの輸入牛肉解禁問題の際も、デマが飛びかい批判を大きくした経緯があります。

誤った情報に踊らされる世論、過激な「大きな声」に引きずられる世論、そうした世論に迎合するだけで理性的な判断が下せない政治家・・・日本でもお馴染みの状況です。こうした事態を目にすると、民主主義の機能不全を感じてしまいます。

与野党譲らず、トリガー条項発動へ
民主主義の機能不全は、韓国・日本だけでなく、民主主義国のリーダーを自負するアメリカでも同様です。
アメリカでは、過激な草の根保守主義「ティー・パーティー」の主張に引きずられる形で、共和党の迷走が続いていますが、ねじれ状態の政局、やはり選挙を意識して“弱腰批判”を受けたくない議員心理などもあって、今後10年間で1.2兆ドル(約92兆円)の財政赤字削減策を詰めるはずだった議会の超党派委員会が、23日の期限を前に、決裂しています。

****米議会:財政赤字削減協議が決裂 金融市場に影響懸念****
財政赤字削減策を協議してきた米議会の超党派特別委員会(民主党6人、共和党6人)は21日夕、「合意は不可能」とする声明を発表し、協議が決裂したことを明らかにした。
オバマ大統領は引き続き協議を続けるよう議会に求めたが、来年11月の大統領選を前にした与野党の対立は深刻で、金融市場や米経済への影響が懸念される。

委員会の最終期限は23日だが、法律上は21日に10年間で最低1.2兆ドルの財政赤字削減策を提示する必要があった。
しかし、富裕層向けの増税を主張する民主党と、増税に反対し社会保障給付などの削減を重視する共和党の対立は最後まで解けなかった。
委員会の共同委員長2人は21日夕、「数カ月の厳しい作業と集中的な協議の結果、期限までに有効な両党の合意を得るのは不可能との結論に至った」との声明を発表した。

特別委員会は今年8月、政府の債務上限引き上げ法の策定に伴い設置された。財政赤字削減策で議会の合意ができなかった場合、13年1月から1.2兆ドルの歳出を強制的に削減するトリガー(拳銃の引き金)条項が設定されている。
削減分の半分は国防・安全保障費が占めており、パネッタ米国防長官は21日、「巨額の国防費の強制削減は国防をあやうくする」との声明を出した。

共和党の一部には強制削減の回避を画策する動きもあるが、オバマ大統領は協議決裂を受けて「自動的な歳出削減を回避する試みには拒否権を発動する」と発言。12年中に議会が赤字削減計画をまとめる努力を続けるよう求めた。【11月22日 毎日】
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利害が対立する問題に対処するためには妥協は不可欠です。
妥協を“弱腰”と批判する風潮が強い昨今の世論、その世論に迎合する政治家・・・という構図は、民主主義というよりは衆愚政治と言うべきでしょう。
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