孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン  ギリシャと並ぶ、欧州信用不安のもうひとつの火種

2012-06-04 22:50:41 | 欧州情勢

(スペイン・バルセロナ 3月29日、政府の労働市場改革に抗議するゼネスト スペインの失業率はギリシャを凌ぐ24.4% こうした状況で、労働市場を柔軟化する改革によって、賃下げや解雇が容易になるため労働組合が反発したものです。 “flickr” By Matthew and Heather http://www.flickr.com/photos/matthewandheather/6887211616/

不動産バブルの崩壊で深刻さを増す銀行の不良債権
先月25日、スペイン大手銀行バンキアが190億ユーロの公的資金注入を要請すると発表したことを契機に、かねてより市場から不安視されていたスペインの状況が改めてクローズアップされ、スペイン国債が売られ、ユーロ安が進む展開となっています。

****スペイン金融不安に恐々 欧州危機再燃、進むユーロ安****
再燃した欧州債務(借金)危機で、スペイン発の金融不安に世界が戦々恐々としている。不良債権問題が銀行経営を直撃し、金融システムを守るべきスペイン政府も財政難で立ち往生している。欧州の信用不安で円高が進み、日本経済にも影を落としている。

■銀行救済めぐり迷走か
スペインに市場の厳しい目が向けられている最大の理由は、不動産バブルの崩壊で深刻さを増す銀行の不良債権問題だ。処理には公的資金を入れなければならないが、財政赤字を抱える政府に巨額の支援をする余裕はないとみられている。

経営難に陥ったスペインの大手銀行バンキアが25日に190億ユーロの公的資金注入を要請すると発表した。だが、国債を使った救済計画について、欧州中央銀行(ECB)が拒否した、と30日の英紙フィナンシャル・タイムズが報じた。
これを受け、市場では懸念が一気に強まり、スペイン国債が売られ、ユーロ安も進んだ。ECBは声明で「立場は表明していない」と報道を否定して火消しに走ったが、市場はおさまらなかった。

欧州連合(EU)の行政執行機関の欧州委員会も、スペインの銀行部門の健全化を求めている。だが、銀行への公的資金の注入を急げば、政府の財政赤字が増す。EUのルールで、国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率を2013年に3%以下にしなければならないが、無理に赤字を減らそうとすれば、景気悪化に拍車をかけかねない。
そのため、欧州委のレーン副委員長は30日、「目標の期限を14年に延ばすことを検討する準備がある」と述べた。

ただ、スペインの金融・財政問題を抜本的に解決するわけではない。市場ではEUからの支援は避けられないのではないかとの見方が強まっているが、スペインのラホイ首相は「支援はいらない」との姿勢をまだ貫いている。(後略)【6月1日 朝日】
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スペインの場合、不動産バブルの崩壊によって、金融機関が抱える不良債権がどれだけあるのかはっきりしないこと、また、EU・IMFに救済を求める事態となったときに支えきれるのか疑問視されていることがあります。

****スペインも支援要請の可能性 止まらぬ欧州危機の連鎖の火****
欧州不安が世界の市場を振り回している。最大の懸念はギリシャだが、ここにきてスペインの金融システム不安という別の火種が大きくなってきた。欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は何が何でも最悪の事態は回避しようとするだろうが、市場の不安は簡単には収まりそうにない。危機の連鎖は止められるのか。

ギリシャのユーロ離脱懸念がくすぶる欧州で、別の火種が大きくなっている。
焦点は、スペインである。不動産バブルの崩壊による銀行の不良債権増大と、地方政府の財政難が深刻化。市場は、アイルランドの二の舞いになるのではないか、と不安視している。

アイルランドも、不動産バブル崩壊から金融危機に陥り、銀行への公的支援で政府債務が増大、財政が悪化した。最後は政府が資金繰りに行き詰まり、2010年11月、金融支援要請に追い込まれている。
スペインの住宅価格は、ピーク時から約20%下落しているが、アイルランドに比べ落ち方は緩やかだ。つまり「不動産価格の調整は道半ば」(伊藤さゆり・ ニッセイ基礎研究所主任研究員)である。一方で銀行の不良債権比率は08年の1%から足元で8.4%まで上昇しており、不動産価格下落によるさらなる増大 は不可避だ。

スペイン政府も、国内金融機関の再編を進めるとともに、引当金の積み増しと自己資本比率の増強を義務付けるなど、手を打ってはいる。しかし、引当率を今年2月以降段階的に引き上げたことは、市場には「状況の悪化」と捉えられてしまった。前提となる資産評価が適正な価格なのか、あるいは正常債権と分類されているものは本当に大丈夫なのか、という疑念もある。政府は外部の監査機関に資産評価を依頼し、さらに欧州中央銀行(ECB)と国際通貨基金(IMF)が監督につく見通しとしているが、疑念を払拭するには至っていない。

銀行の資本増強は、まず自力で行い、それができなければ政府が支援、さらに政府の能力を超えれば、欧州連合(EU)が政府を通じて支援を行う決まりだ。
BNPパリバ証券の試算によれば、スペインの銀行が今後要する追加資本は900億ユーロ、楽観的にみても500億ユーロ。国際金融協会(IIF)の試算でも750億ユーロと目されている。

一方、5月11日に発表された追加の引当金目標は300億ユーロ程度で、想定が甘いと取られても致し方ない。現に、大手銀行のバンキアは5月25日、当初の政府想定の2倍以上となる190億ユーロの支援要請を行った。
つまるところ、「損失規模はどれほどなのか、現行のスキームで救済できるのか、市場が疑心暗鬼に陥っている」(田中理・第一生命経済研究所主任エコノミスト)のだ。

政府による救済は銀行再編基金(FROB)を通じて行うのが前提だが、その原資は50億ユーロ程度しかないともいわれる。政府は銀行支援と、さらに資金繰りに窮している地方政府の支援のため、債券発行により市場で資金調達する方針だ。
しかしスペイン国債(10年債)の利回りは7%近くに上昇しており、調達コスト増大と、財政と景気への悪影響は避けられない。金融システム不安への対応が財政悪化懸念を招き、いっそう対応を難しくするという悪循環である。

スペインの支援要請でイタリアにも波及の恐れ
スペイン政府はあくまで自力での問題解決を強調しているが、結局はEUに支援を仰がざるを得ない、とみる向きは多い。ところが、「その際のセーフティネットも盤石とはいえない」(中空麻奈・BNPパリバ証券投資調査本部長)ことが、不安に拍車をかけている。

スペイン政府が支援要請した場合、欧州金融安定基金(EFSF)あるいは7月1日から稼働予定の欧州安定メカニズム(ESM)を利用することになる。ESMの融資可能額は5000億ユーロとされているが、資本金は分割して払い込まれるため、12年中ではEFSFと合わせて3400億~4400億ユーロ程度にとどまる。IMFの支援枠と合わせても7300億ユーロだ。

スペインだけなら、これでも何とか事足りる。しかしスペインが支援要請に至った場合、イタリアにも危機が波及する可能性が高い。イタリアは、財政再建も比較的順調に進んでおり、状況はかなり異なるのだが、過去の経緯からすると市場は同一視しがちであり、現に両国の国債利回りは危機時には連動している(下のグラフ参照)。スペインに加えてイタリアが資金調達できなくなれば、必要な支援額は合わせて1兆ユーロを超えると予想されている。

無論これは最悪に近いケースであり、実際にはその前に、スペインに対し金融システム対策に絞った“予防的”な支援が行われ、危機の波及と拡大は何とか食い止められる公算が大きい。

「問題が単純化され過ぎており、現在の市場の不安は行き過ぎ」(藤岡宏明・大和証券キャピタル・マーケッツ金融市場調査部副部長)との見方もある。
「すべての銀行に公的資金注入が行われ、政府の負担がGDP比40%に達したアイルランドに対し、スペインは最大手の2行が健全で、負担額のGDP比も2%」(藤岡副部長)というのが根拠だ。

ECBによる長期資金供給(LTRO)第3弾や国債買い入れの再開など、波及を食い止める手段もまだ残されている。
だがこれらは時間稼ぎにすぎず、今回は乗り切れたとしても、事あるごとに危機が再燃する状況は変わらない。【6月4日 週刊ダイヤモンド編集部】
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【「悪夢に近いシナリオ」の可能性
万一、ギリシャの再選挙で混乱が生じると、危機はスペイン、更にはイタリアと連動しかねません。
その意味で、スペインの今後はギリシャ情勢に大きく依存しています。
現在の世論調査では、緊縮財政支持派が幾分持ち直していると言われていること、仮に急進左派連合が勝利を収めても、ある程度現実路線に公約を“修正”するとみられていること、またEU・IMF側にも、支援条件で譲歩を行う可能性があること・・・などで、一気にギリシャが混乱することはないのでは・・・とも見られてはいます。

しかし、“再選挙でまたもやどの党も過半数を取れず、政治的混迷が長引く危険はある。また急進左派連合が支援条件撤回に固執する可能性も皆無ではない。ギリシャがユーロ離脱には至らなくとも、“時間切れ”で支援を打ち切られてデフォルト(債務不履行)に追い込まれ、欧州経済が大混乱に陥るという、「悪夢に近いシナリオ」(伊藤主任研究員)もあり得る”【同上】とも。

【「スペグジット(Spexit)」】
一方で、“スペインはギリシャや他の周辺国家よりもユーロを離脱する可能性が高い”という議論もあるようです。スペインが救済するには大きすぎるうえ、欧州連合(EU)と決別することに政治的こだわりもない・・・といったことが背景にあります。

****スペインがユーロを最初に離脱する6つの理由****
【ロンドン】欧州債務危機は、他の大きな世界規模の経済問題同様、独自の言葉を生んでいる。

「メルコジ」は終わった。今は徐々に「メルランド」もしくは「メルケランド」に慣れつつあるところだ。もちろん両方とも、メルケル独首相とオランド仏大統領を合わせたものだ。ギリシャがユーロを離脱する意味の「グレグジット(Grexit)」はここ数週間のはやり言葉となった。そして次に流行しそうなのが「スペグジット(Spexit)」だ。

これは何か。スペインがユーロを離脱することを意味するもので、混乱が間違いなく予想されるこの夏にたくさん聞くことになるだろう。

スペインはギリシャや他の周辺国家よりもユーロを離脱する可能性が高い。国が救済するには大きすぎるうえ、欧州連合(EU)と決別することに政治的こだわりもない。スペインの国民はすでに緊縮財政にうんざりしており、もっと大きなスペイン語圏の結束を目指すこともできる。
半面、スペインがユーロにとどまるべき理由はあまりない。さらにユーロにとどまることで要求される犠牲にすすんで耐えようという意志もあまり見えない。

ギリシャの再選挙が迫っている今でさえ、スペインは欧州危機のセンターステージを占め、今夏にかけてこのままスポットライトを浴び続けそうだ。スペインの10年物の国債利回りは6.45%まで上がっている。

スペインが最初にユーロを離脱する6つの理由は以下の通りだ。
理由1
スペインは救済するには大きすぎる。ギリシャの経済規模は2300億ユーロ(約22兆5000億円)にすぎない。GDP(国内総生産)の10%を支援してもわずか230億ユーロだ。だがスペインは違う。仮に経済が破たんすれば、救うことができない。自分たちで何とかしなければいけないのだ。

理由2
スペインはすでに緊縮財政にうんざりしている。1年前にマドリードで始まった抗議デモを覚えているだろうか。2011年は各都市で抗議の座り込みが相次いだ。抗議はここからギリシャや他の国へと拡大していったのだ。まだ緊縮財政策は始まっていなかった。ユーロ圏内にとどまれば苦難の年月に直面することになろう。しかし、国がそれに備えているという印がほとんどない。

理由3
スペインの経済は実業で成り立っている。ギリシャに本格的な製造業はないが、スペインの経済は立派な産業をベースに成功している。輸出がGDPに占める割合は26%で、英国、フランス、イタリアとほぼ同規模だ。ほんの先週、日本の日産自動車がスペインへの新規大型投資を発表したばかりだ。

理由4
スペインは政情が安定している。多くの国にとって、ユーロへの参加は経済というより政治だ。ギリシャは(トルコ側ではなく)欧州側に自分たちを組み入れているからだ。ラトビアはロシアの支配下ではなく、EUに入りたかった。アイルランドは英国と一線を画したかった。ドイツがユーロにとどまるのはEUが問題のある過去からの決別を依然、意味するからだ。たとえ若い世代ではその感覚が薄れているにしてもだ。フランスの場合は、中堅どころの欧州諸国がもうあまり存在感を示せない世界において、ユーロが同国の影響力を強化するからだ。しかしスペインはこれらの問題を抱えていない。スペインはユーロやEUが機能しているかどうかに応じて、とどまることも離脱も可能だ。目下のところ、機能していないのは明白だ。

理由5
スペインにはもっと大きな未来が開けている。スペイン経済が部分的に欧州と結びついている一方、中南米のスペイン語圏の新興国とも同様に結びついている(もちろん米国内の巨大なヒスパニック市場にも)。むしろ英国と同様に、スペインは常に欧州市場よりも世界市場を相手にしていた。より大きな商機が向こうにあるのに、なぜ失敗したプロジェクトにしがみつく必要があろうか。

理由6
ユーロの将来についての深刻な議論が、スペインですでに始まっている。主流を占める多くのエコノミストや専門家らが、真の問題はユーロであり、自国通貨のペセタを取り戻して初めて同国経済は復調すると主張している。タブーは破られた。

以上の理由から、ユーロ圏のなかでスペインが、交渉によってユーロから離脱するのは論理的なステップだと最初に結論づける国になる可能性がある。アルファベット順でいえば間違いかもしれないが、「グレグジット」の前に「スペグジット」がくることになろう。【6月4日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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一言で言えば、“ユーロ・EUは失敗であり、これに固執する必要・理由はない。ユーロから離脱してもスペインはやっていける”という議論ですが、どうでしょうか・・・。
ドイツのように経済・財政が良好な状態ならそういう議論の余地もあるでしょうが、金融・財政・経済が追い込まれ、自らの足で立つのが困難な状態にあるスペインのユーロ離脱は、自ら救済の道を断つ自殺行為にも思えます。
コメント
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