(6月8日 シリア国内で虐殺犠牲者を悼む人々 “flickr”より By مشروع ذاكرة ثورة السوريه http://www.flickr.com/photos/chroniclesyrianuprising/7351320140/ )
【ホウラに続いてクベイルでも】
シリアでは、5月25日、中部ホウラで49人の子供を含む108人の市民が殺害された事件に続いて、6月6日、中部ハマ州クベイルで新たな虐殺事件が起きたことが報じられています。
****シリア虐殺の村に満ちた「血と悪臭」、国連監視団が現場入り 西側は制裁要求へ****
市民への弾圧が続くシリアで8日、新たな虐殺が起きた中部ハマ州クベイル村に国連の停戦監視団が初めて入った。監視団は7日に実態調査のため現場に向かったが、シリア政府軍の攻撃を受け立ち入れずにいた。
国連のマーティン・ネシルキー報道官によると、村に入った20人余りの監視団は、血まみれの壁や「人が焼けた強い悪臭」に出迎えられたという。シリア政府は、虐殺について「外国の支援を受けたテロリスト」や反体制派による犯行だと主張し責任を否定しているが、監視団は村内で武装車両の痕跡やロケット弾・手投げ弾などで破壊された家々を確認したという。
「壁や床に血がべったりと付いた家もあった。家々はまだ燃えていて、肉の焼ける強い悪臭がたちこめていた」(ネシルキー報道官)
村内は無人で、監視団は虐殺の目撃者と接触することはできなかったが、近隣の村の住民たちから話を聞くことができたという。
シリア人権監視団によると、6日に起きた虐殺では少なくとも55人が殺害された。国連監視団に同行していた英国放送協会(BBC)特派員はマイクロブログのツイッターで、クベイル村で焼き払われた建物を目の当たりにしたと述べ、生存者がいる気配はないと現場の様子を伝えている。
クベイル村の虐殺を受け、国連とアラブ連盟のシリア特使、コフィ・アナン前国連事務総長は、シリア政府に対する「さらなる圧力」が必要との認識を示した。
一方、国連外交筋によると、英米仏は速やかに国連安全保障理事会の対シリア制裁決議案を策定する方針。「近日中に、国連憲章第7条に基づく措置を盛り込んだ決議案採決に向けた動きがある」という。国連憲章第7条の規定に基づく決議案が採択されれば、制裁や、場合によっては軍事行動の発動が可能になる。【6月9日 AFP】
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【主要な利害関係国の「連絡グループ」構想】
ホウラの事件も、シリア対策の“転換点”とも言われていましたが、今回クベイルの事件を含む最近の情勢から、アナン特使による停戦調停は失敗に終わったとみなされています。
アナン特使自身が、「(自身の停戦)調停案が履行されていないと率直に認めなければならない」と失敗を認めていますが、問題は、他に有効な対策が今のところないことです。
国際社会は、「次の手」として、主要な利害関係国による「連絡グループ」をつくって問題解決の糸口を探ろうとしています。
****シリア情勢:停戦調停頓挫 アナン特使「次の手」協議へ****
アサド政権による反体制派の弾圧が続くシリア情勢を巡り、アナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)は8日、クリントン米国務長官とワシントンで会談する。停戦調停の頓挫にアナン氏が初言及したことを受け「次の手」を協議する。
両者はクリントン氏が提案した民主政権への移行を目標に、主要な利害関係国の「連絡グループ」構想を検討すると見られるが、アサド政権支持のロシアを翻意させられるかがカギだ。
アナン特使は7日の国連総会で「(自身の停戦)調停案が履行されていないと率直に認めなければならない」と明言。停戦は4月12日の開始直後からなし崩しの状態だったが、アナン氏が「失敗」を認めたのは初めて。特使は、「調停案を実現するために何ができるか、他の選択肢があるのか、決めるときが来た」とも発言し、シリア情勢打開のため新たな対応が必要な段階に入ったとの認識を示した。
特使はこの後の国連安保理非公式会合で、「連絡グループ」を新設する構想を提案。米主要メディアなどによると、常任理事国に加え、アサド政権に影響力を持つイランや、周辺国のトルコやサウジアラビア、カタールなどの参加が想定されている。
米国としては、有志国で「アサド後」に向けた対応を協議したい考えだ。クリントン長官は6日、トルコ・イスタンブールで欧州や中東諸国の外相らとシリア情勢を協議した際に、シリアの政権移行戦略として、(1)アサド大統領退陣(2)暫定政権樹立(3)自由で公正な選挙実施−−との「行程表(ロードマップ)」を示していた。
潘基文(バン・キムン)国連事務総長は7日、「情勢が転換点から限界点に変わるのは容易だ」と述べ、シリア国内の暴力悪化に懸念を示したうえで、18〜19日にメキシコで開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議でシリア問題を主要課題として取り扱うよう求めた。来月6日にはパリでシリア反体制派支援国会合も開かれる予定で、今後に向けた議論が本格化するのは確実だ。
ただ、事態の打開には親シリア姿勢を維持するロシアと中国の対応が焦点になる。両国は米欧の反体制派偏重を警戒し、支援国会合に参加していない。
ロシアは最近、アナン特使の構想に似た新たな国際会議を独自に提案している。ラブロフ外相は「我々がシリア政府や異なる反体制組織に影響力を行使することで、非道な行為をやめさせ、対話を準備させるのが目的」と趣旨を説明し、イランの参加が必要との見方を示した。イランのアフマディネジャド大統領は「前向きの返答」をしたという。
しかし、イランと核疑惑問題で対立する米国は現時点でイラン参加には消極的で、クリントン氏は6日「アサド政権による自国民への攻撃に関与している国の参加は考えづらい」と述べた。
一方で、米国は8日、ホフ・シリア担当特別調整官をモスクワに派遣、「アサド後」をにらんだ自国の構想をロシア側に説明し、理解を求めたと見られる。ロイター通信によると、ロシアのボグダノフ外務次官は7日、アラブ諸国や米欧が権力移譲を調停したイエメン型の事態解決策について、「シリア国民の合意」を条件に「可能だ」と発言している。【6月8日 毎日】
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記事にもあるように、シリアの後ろ盾となっているロシアをどこまで取り込めるかに成否はかかっていますが、まずは、アメリカが反対しているイランを含めるかどうかが問題となっています。
【「内容が真実かどうか、客観的な裏取りはできない」】
上記のようなシリアをめぐる欧米側の動きは、現在シリアでおきている虐殺はアサド政権側によるものだ・・・という認識にたっています。アサド政権側は、事件への関与を否定していますが、多くの報道がアサド政権関与を裏付けているようにも見えます。
しかし、以前から言われていることですが、シリア国内に外国メディアが入れないことから、多くの報道は人権団体や国内と連絡が取れる亡命シリア人などを情報源としたもので、その信ぴょう性を疑問視する向きもあります。
1991年に勃発したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争では、ボスニア政府はアメリカのPR会社と契約して、セルビア人勢力がセルビア人以外の民族を虐殺して“民族浄化”を行っているとの印象を世界に広めることに成功。セルビア人が「絶対悪」という単純な構図が作り上げられ、結果的に、それがNATOの軍事介入を後押しすることになりました。実際は、虐殺・人権侵害はいずれの勢力にもあったと言われています。
これと似たような展開で、現在シリアでも、“反体制派が「善」で、アサド政権が「悪」”という単純化された図式が、不確かな情報をもとに作られているのではないか・・・という指摘もあります。
****シリアの真実はどこにある****
人権団体や反体制派の 筋書きどおりに描かれた「アサド=悪」のイメージで騒乱の実情は見誤られる
シャル・アサド大統領の過酷な独裁に抵抗する反政府組織が蜂起すると、政府軍の戦車が街を包囲。スナイパーが罪のない女性や子供を狙い撃つ・・・・。昨年1月から1年半近く続くシリア騒乱のこんなイメージは、もうたっぷり世界に浸透している。
大規模な戦闘や爆破事件が起きるたびに、欧米はアサド政権側による弾圧だと非難してきた。シリア政府が否定しても、メディアによってアサド政権が繰り返し殺戮を行っているという印象が増幅され、広く世界に知れ渡る。
ただそれが真実のすべてとは限らない。外国メディアはシリア国内に入れないため、人権団体や国内と連絡が取れる亡命シリア人などを情報源にするしかない。彼らの主張がメディアで伝えられることが多くなるほど、反体制派が「善」で、アサド政権が「悪」とする印象が広がってしまう。
先月25日、シリア中部のホウラで49人の子供を含む108人の市民が殺害された事件も例外ではない。
シリア政府はこの事件の調査で、虐殺は「武装テロ集団」の犯行だと発表した。だが国連のスーザン・ライス米大使は、この調査結果を「見え透いた嘘」だと一蹴した。
誰の犯行なのか分からないまま、国際社会からはアサド政権に対する非難が巻き起こっている。イギリスやフランス、ドイツや日本など、多くの国が自国に駐在するシリア大使に退去を要求。ライスは、有志連合によるシリアヘの「独自行動」も排除しないとし、軍事介入論も高まっている。
ただシリアの現状はそれほど単純ではない。現在、シリア国民評議会や自由シリア軍(FSA)といったいくつかの反政府組織がアサド政権に対して蜂起する一方で、政府側の民兵組織シャビハが暗躍。さらに、アサド政権の空白を狙ってアルカイダ系テロリストなども入り込んでいるとみられ、極めて複雑な勢力図を形成している。
裏取りのできない記事
だが欧米の主要メディアが伝えるシリア騒乱の構図は至って単純だ。国民を暴力で弾圧する独裁的なアサド政権に反対派が抵抗しているが、政府軍の強力な武力で押し返されている。欧米諸国は苦しむ国民をいつ武力で救い出すのか。そんな筋書きが出来上がっている。
シリア国内で記者が自由に取材できない状況を考えれば、やむを得ない部分もある。メディアが情報源として依存しているのは、国内で活動するシリア人の人権団体や活動家、国外に亡命した反体制派たちだ。
まだ安定化の糸目が見えないシリアで、罪のない国民がアサド政権と反体制派などの戦闘で犠牲になっているのは間違いない。ただ情報源が限られるため、シリアに関して報じられる内容は偏ってしまう。
実は欧米メディア自身も情報源に偏りがあることを認めている。騒乱が始まってから程なくして、欧米の大手メディアの報道には、こんな「注意事項」がかなりの頻度で登場するようになった。
「内容が真実かどうか、客観的な裏取りはできない」
つまり、シリアに問する報道の多くは、真実かどうかの確証がないまま報じられているのだ。
それは先月25日の虐殺事件にも当てはまる。欧米メディアはこぞって、死んだふりをして虐殺を生き延びた11歳の少年について伝えたAP通信の配信記事を掲載した。この記事は、政府側の民兵組織シャビハが虐殺に関与していると示唆している。
ただ記事の後半には、「彼の話が真実かどうかを確認するのは不可能だ。反体制派の活動家たちの仲介によってこの少年に取材した」という注意書きが記されている。
英ガーディアン紙も同じ少年に取材しているが、さすがに信憑性に不安があったらしく、記者が少年に「なぜ虐殺した人たちが政府側に属していると言えるのか」と突っ込んだ質問をした。その問いに対する少年の答えは「なぜそんなことを聞くんだ。みんな彼らがそうだと分かってる」だった。
この少年の話は真実かもしれないが、反体制派によるプロパガンダの一環である可能性も否定できない。「確認できない」報道は時に大きな間違いを生む。特に顕著なのは、メッセージ性の強い映像や写真だ。
英BBCは先月27日、ホウラの虐殺事件の報道で、白い布にくるまれて並べられた100体以上の遺体の写真を使用した。「活動家の提供」と記されていたこの写真は、実際は通信社のカメラマンが03年にイラク戦争の取材で撮影したものだった。
03年にこの写真を撮影したカメラマンはメディアの取材に、「活動家や市民ジャーナリストなどから提供された写真を確認もせずにメディアが使ってしまうことに驚いた」と語っている。「プロパガンダのために他人の
写真を使っているわけだ」
残虐行為は反体制派にも責任があるという事実も見過ごされている。シリア国内では、アサド側だけではなく反体制派の攻撃によって市民が殺される例も起きている。
反体制派の自由シリア軍は、残忍な政府軍への抵抗を続ける英雄的組織とメディアで扱われることが多い。ただシリア軍から寝返った元兵士が多く属するこの組織は今年4月、シリア軍を爆破攻撃しようとして、誤って数十人の市民を殺害した。
今年3月には、自由シリア軍が拘束したシリア軍兵士を拷問、処刑しているとドイツの週刊誌シュピーゲルが報じ、内容の真偽をめぐって国際的な騒ぎが起きた。
シリアから亡命し、自由シリア軍を支持するあるシリア人弁護士は現在、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチと共に、シリア国内の人権侵害に関する証拠を集めている。この弁護士は「政府側の人物をその場で処刑するなどという事例はない」と言う。
国連調査も信用できず
だが、シリアを脱出した別の弁護士は、「大量に政府側の兵士などを虐殺しているわけではないが、(政権側の民兵組織である)シャビハの構成員は殺さないといけない」と、別の見方を語っている。また、別の自由シリア軍のメンバーは組織的に処刑が実施されていることを認めている。
こうした指摘も、アサド政権の残虐性を大きく伝える報道の中では埋もれがちだ。反体制派の残虐行為が大きく伝えられれば、反政府活動が下火になる可能性もある。それは、アサド政権の崩壊が唯一の問題解決法だ、という立場の欧米諸国の思惑とは一致しない。(中略)
シリア情勢では、国連が発信する情報や調査も冷静に見る必要がある。発言力の強いアメリカ寄りに偏ることが多いからだ。
昨年11月に公表されたシリアに間する国連人権理事会の報告書は、シリア軍はこれまでに256人の子供を殺害した」などと、アサド政権の犯罪行為を指摘している。国連というだけで信じてしまいそうになるが、その調査方法を見れば、情報の信頼性は疑わしくなる。
例えば、調査員は全員シリアに入国を許可されなかった。さらに亡命者や被害者などにNGOの協力で話を間いたと記されているが、具体的な情報は一切ない。これでは人権団体や亡命シリア人頼みの多くのメディアと同じだ。
調査結果が軍事介入を検討する材料になる国連の場合は、メディアのように単なる「間違い」では済まされない。さらにその調査結果は世界中の大手メディアによって全世界に向けて報じられる。(後略)【6月13日号 Newsweek日本版】
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紛争・戦争に加担する勢力が、“人道的”であることなどは考えにくいことであり、なにがしらかの非人道的行為が双方で行われていると思えます。
ただ、そこにはやはり“程度の問題”や“主な責任がどちらにあるか”という問題はあって、“どっちもどっち”では済まない面もあります。
シリアが外国メディアを排除している以上、シリア情勢に関する現在の情報の有り様は致し方ないものがあります。
それによってシリアが不当に悪いイメージを押し付けられているとしたら、それはシリア自身のせいでもあります。