(ムスリム同胞団独自集計によると、52%を獲得して大統領選に勝利したとされるモルシ氏 “flickr”より By Jonathan Rashad http://www.flickr.com/photos/drumzo/7392551314/ )
【「神の導きで勝利した」】
エジプトでは、イスラム穏健派のムスリム同胞団が擁立したムハンマド・モルシ氏(60)と、ムバラク政権で最後の首相だった元空軍司令官アフマド・シャフィーク氏(70)の間で、16~17日に大統領選挙の決選投票が行われました。
イスラム勢力による政治の革新か、軍出身の旧政権幹部による世俗政治の維持か・・・という選択で、イスラム主義と軍の両方を嫌う世俗リベラル派にとっては選択肢のない選挙でもありました。
結果については、選挙委員会の公式集計はまだ出ていませんが、ムスリム同胞団が独自集計をもとに、モルシ氏陣営は勝利宣言を行っています。
****エジプト大統領選、イスラム主義候補が勝利宣言****
エジプト大統領選の決選投票は17日午後10時(日本時間18日午前5時)、投票が締め切られ、即日開票された。
イスラム主義組織ムスリム同胞団が推すムハンマド・モルシ氏(60)の陣営は18日未明、独自集計(開票率約98%)に基づき、モルシ氏が得票率52・5%で、前政権の元首相アフマド・シャフィク氏(70)の47・5%を破り、当選を決めたと発表した。
1952年以来の共和制下で世俗主義の路線をとってきたエジプトに、イスラム主義の大統領が誕生すれば初めてで、中東各国に広がる民主化運動「アラブの春」の行方にも大きな影響を与えることになりそうだ。モルシ氏は18日未明、「神の導きで勝利した」と勝利宣言した。
シャフィク陣営は同日未明、モルシ氏の勝利宣言を「拒否する」と発表した。選挙委員会は、21日に公式集計を公表するとしている。【6月18日 読売】
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21日に予定されている選挙管理委員会による公式集計がどのような数字になるのか、軍部と近いとも言われているシャフィーク氏陣営が敗北を認めるのか・・・まだ不透明な部分が残っています。
【議会解散、暫定憲法修正】
エジプト最高憲法裁判所は14日、議会選挙に憲法違反があったとして、ムスリム同胞団系の政党が多数を占める人民議会を無効とする判断を下しています。
政党所属者に比例代表と小選挙区の双方への立候補を認める一方、無所属候補は比例代表にしか立候補できない仕組みを違法と判断したものです。
この判決を受けて軍最高評議会は、人民議会に解散を命じています。
****エジプト議会に解散命じる 「違憲」判決受けて軍評議会****
エジプト軍最高評議会のタンタウィ議長は、議会の解散を求める最高憲法裁判所の判決を受け、エジプト人民議会(下院)に対して解散を命じた。17日付の政府系紙アハラムが報じた。憲法裁は14日、「現行の議会選制度は違憲で無効」とする判決を出している。
アハラムが伝えたタンタウィ氏の命令によると、議会は15日付で解散となり、議員らが議会棟に入ることは禁じられるという。 議会では大統領選に党首ムハンマド・ムルシ氏を擁立しているムスリム同胞団系の自由公正党が半数近くを占めている。同胞団は「国民の自由選挙で選ばれた議会を解散する権限は、軍部にはない。解散を巡る国民投票が必要だ」との声明を出し、軍部の決定を批判した。【6月17日 朝日】
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更に、軍最高評議会は、新議会まで人民議会に代わり軍評議会が立法権を握るとの暫定憲法修正を発表し、軍部が実権を掌握する体制を推し進めています。
****エジプトの立法権、軍に 軍評議会が「暫定憲法」修正****
エジプト軍最高評議会は17日、暫定憲法に当たる「憲法宣言」を修正した。政府系の中東通信などが伝えた。修正された暫定憲法では、14日に最高憲法裁判所が人民議会(下院)の解散を求める判決を出したことを受け、新議会ができるまで立法権は軍評議会が握ると規定。また、軍評議会は憲法案の条文に拒否権を持ち、新大統領は軍に治安出動を命じることができるとしている。
軍評議会は憲法裁判決を受け、15日付で議会に解散を命じている。これにより、これまでの議会で半数近い議席を得ていたムスリム同胞団の影響力は衰え、憲法起草と選挙制度改正で軍部が発言権を強めたことになる。
一方、人民議会のカタトニ議長(同胞団)は「軍部に議会を解散する権限はない」と反発しており、次に議会の開会が予定されている19日に、軍の解散命令を無視して議員らが集まる可能性もある。【6月18日 朝日】
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【「憲法宣言を全面的に拒否し、抗議するためにタハリール広場に行く」】
ムスリム同胞団側は、軍部のこうした対応を“ソフト・クーデター”と評して、対決姿勢を強めています。
****同胞団、軍と対決姿勢=「暫定憲法」でデモ呼び掛け―エジプト****
エジプト大統領選決選投票で勝利をほぼ確実にしたイスラム原理主義組織ムスリム同胞団のモルシ氏の陣営関係者は18日、暫定統治する軍最高評議会に立法権を移すとする憲法宣言(暫定憲法に相当)に抗議し、大規模なデモを呼び掛けると語った。実権を掌握する軍部と同胞団の政治的な駆け引きが早くも始まり、政局は混迷しそうだ。
ロイター通信によると、モルシ陣営関係者は「憲法宣言を全面的に拒否し、抗議するために(首都カイロの)タハリール広場に行く」と述べた。さらに、人民議会解散に伴い、新大統領が議会ではなく最高憲法裁判所で就任宣誓するのも拒否、議会解散を容認しない姿勢を示した。
軍評議会が17日夜に発布した憲法宣言では、軍評議会がエジプト軍全般に関する権限を確保。現在の憲法起草委員会が機能不全に陥った場合、軍評議会が新たな委員会を設置し、憲法案に対する拒否権も持つ。【6月18日 時事】
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軍評議会による実権掌握の動きは大統領選挙と連動したものですが、選挙結果の認定やムスリム同胞団側の対応、軍政復活とも思えるような動きに反発する若者層の抗議行動などを含めて、これから波乱含みの展開が予想されます。
もっとも、議会解散で再選挙となれば、世俗リベラル派の若者層にとっては、統一的な政党を立ち上げて議会内に一定勢力を得る機会ともなります。
先の議会選挙では、そうした対応がなく、組織力を持つムスリム同胞団などイスラム勢力に革命の成果を横取りされる結果ともなっています。