孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国新パスポート問題と南シナ海  アメリカ上院、日米安保に基づく尖閣諸島防衛を明確化

2012-12-01 20:41:14 | 中国

(問題となっている中国の新パスポート 南シナ海は破線で領有権が示されています。【11月24日 msn産経】http://photo.sankei.jp.msn.com/kodawari/data/2012/11/1124passport/

【「誠意に欠ける」】
中国が最近発行した新旅券(パスポート)に、台湾、インドとの国境係争地、南シナ海を自国領とする地図などが記載されている問題で、関係国が一斉に反発を強めていることは周知のところです。
各国の主な反応は以下のとおりです。

台湾:“中政策を所管する台湾の大陸委員会は23日、中国の最新版の旅券に、台湾を自国領とする地図などが記載されているとして、「事実に反するもので、到底受け入れられない」とする声明を発表した”【11月23日 時事】

インド:“中国が新たに発行した旅券にインドとの国境係争地を中国領とする地図が記載されているとして、インド政府が反発し、対抗策として係争地をインド領とする地図を押印したビザの発給を始めた”【11月26日 時事】

ベトナム:“ベトナム政府は26日、中国の南シナ海などの領有を図示した新規旅券(パスポート)を、無効とする対抗措置を発表した。ただ、査証(ビザ)は別の用紙に記載する形で発給し、中国人の入国を拒否するには至っていない。中国人観光客らが減少し、自国経済に影響が及ぶことを憂慮してのことだとみられる”【11月27日 産経】

フィリピン:“フィリピン政府は29日、中国の南シナ海などの領有を図示した新規旅券(パスポート)を、無効とする方針を表明した。ベトナムがとっている対抗措置と同様で、旅券を無効としながらも入国は拒否せず、査証(ビザ)は別の書類に記載し発給する”【12月30日 産経】

インドネシア:“インドネシアのマルティ外相は「こうしたやり方は逆効果で、紛争の解決にはまったく役立たないだろう。中国政府が関係国の反応を見るための行為であり、誠意に欠ける」と批判”【12月1日 Record China】

アメリカ:“米国務省のヌーランド報道官は26日の記者会見で、南シナ海の大部分を中国領とする地図が記載された中国の新パスポート(旅券)に米国の入国スタンプが押されても、中国が主張する南シナ海の領有権の「承認ではない」との見解を示した”【11月27日 時事】

こうした各国の反発に、中国外交部は“深読みしすぎないように”とのコメントをしています。
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こうした動きに対し、中国外交部の洪磊(ホン・レイ)報道官は28日の定例記者会見で、関連各国に対し、新版パスポートの地図について深読みしすぎないよう求め、中国は引き続き関連各国と意思の疎通を図り、健全な外交の発展を促進していくと主張した。

また、中国外交部はこれより先に、「新版パスポートのデザインはいかなる国にも照準を合わせたものではないため、関係国は理性的に対応してほしい。中国も関連国との対話を維持し、各国人員の正常な往来を確保することに同意する」と強調していた。【12月1日 Record China】
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“深読み”かどうかは別にして中国側の主張は明らかですが、各国が神経をとがらせている問題に関して、あまりに無神経で傲慢な扱いであることは言うまでもないところです。

なお、中国を旅行しているとこの手の地図はよく目にします。
例えば、全国の高速鉄道網の路線図の片隅に、高速鉄道とは全く関係ない南シナ海の領有図が描かれているとか、遥か大昔の西夏王国の領土を紹介した博物館の地図の片隅にも南シナ海の領有図が描かれている・・・といった具合です。
およそ地図を表示する場合は、中国の主張する領有図を付け加えるというのが国家としても統一方針のようにも思われます。

中国国内にも、今回のパスポートについて批判もあると報じられてはいます。

****領土主張の新パスポート、国民からも不満―中国****
2012年11月27日、英BBCによると、中国政府が新たに発行を始めたICチップ付きパスポートが国際的な紛糾の火種となっており、中国国民の間からも不満の声が出ている。パスポートに印刷された地図で、周辺国との間で領有権で争われている地域が中国の領土として描かれている。

中国政府は問題となっている地域・海域は中国のものであり、たとえ領有権が争われているとしても地図に中国の領土として描くのは当然だとしている。

新パスポート発行を受け、中国との間で領有権を争っているフィリピン、ベトナム、インドなどが抗議して対抗策を打ち出しており、新パスポートを所持している中国人に対して「ビザのスタンプをパスポートに押さない」などの特別な規制措置が取られている。

こうした状況に中国国民の間でも議論が活発となっている。あるネットユーザーは「正規の手続きを踏まないで、わざわざ紛争を悪化させるなど愚の骨頂、物笑いの種だ」と指摘。また、「領土問題は政府が解決すること。一般市民を領土紛争の最前線に立たせるようなことをするな」という意見や、「パスポートに印刷する必要はない」「中国のパスポートはもともと使い勝手が悪いのに、余計なことをしないでくれ」といった意見も。

中国政府は印刷された地図について、特定の国・地域を対象にしたものではないとし、関係国に理性的な態度で冷静な対応を求めている。【11月29日 Record china】
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“一般市民を領土紛争の最前線に立たせるようなことをするな”というのは、もっともな意見です。
ただ、こうした批判は恐らくごく一部で、“問題となっている地域・海域は中国のものであり、たとえ領有権が争われているとしても地図に中国の領土として描くのは当然だ”というのが大方の意見ではないでしょうか。

【「尊大だ」】
中国側は、深読みすることなく“関係国は理性的に対応してほしい”と言いつつも、たじろぐ様子はなく、南シナ海における対応をエスカレートさせています。

****中国、南シナ海実効支配強化…外国船規制進める****
中国の習近平新政権が、周辺諸国と領有権を争う南シナ海を巡り、外国船舶への規制を強化する法令の整備や新機構の開設を進め、実効支配の強化に乗り出した。
習政権が打ち出した「海洋強国」に向けた具体的な動きだ。
南シナ海(約350万平方キロ)の約200万平方キロを管轄範囲とみなす海南省三沙市を抱える同省の人民代表大会(省議会に相当)常務委員会は11月27日、「海南省沿海国境警備治安管理条例」の改正案を可決した。外国船舶による〈1〉領海通過時の不法な停船〈2〉島嶼への不法上陸〈3〉国家主権や安全を損なう宣伝活動の実施――などを違法行為と規定し、違法行為があった場合、地元当局などが臨検や差し押さえをできるように修正した。【11月30日 読売】
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****中国、公船派遣を恒久化=南シナ海問題で比に通告****
30日付の香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、中国政府はフィリピンに対し、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)について、周辺海域に公船を恒久的に展開すると通告した。フィリピンのデルロサリオ外相が29日、同紙とのインタビューで語った。

この方針を通告したのは10月にマニラを訪れた傅瑩外務次官。同次官はフィリピン側に対し、南シナ海の領有権をめぐる争いを国際問題化しないよう要求し、日米両国などと話し合ったり、国連に持ち出したりすべきではないと主張したという。

デルロサリオ外相は中国の態度を「尊大だ」と非難。中国公船の恒久的展開は関係悪化を防ぐ外交努力を「不可能」にすると警告した。【11月30日 時事】 
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国力的に劣る相手を力でねじ伏せることを躊躇しない「尊大さ」が鼻につく中国の姿勢です。
このあたりの話は、中国を毛嫌いする多くのブログが批判しているところでしょうから、このくらいにしておきます。

その中国はアメリカに対しても「ハワイ(の領有権)を主張することもできる」と発言したそうです。
どういう根拠かは知りませんが、事あるごとに「覇権は求めない」と繰り返す中国の拡張路線はとどまるところを知らないといった感があります。
まあ、喧嘩を売るなら、ベトナム・フィリピンではなく、アメリカ相手の方がまっとうではありますが。

****クリントン国務長官明かす 中国「ハワイ領有権主張も****
米「仲裁機関で対応する」
クリントン米国務長官は11月29日、ワシントン市内で講演した際の質疑応答で、過去に南シナ海の領有権問題を中国と協議した際、中国側が「ハワイ(の領有権)を主張することもできる」と発言したことを明らかにした。長官は「やってみてください。われわれは仲裁機関で領有権を証明する。これこそあなた方に求める対応だ」と応じたという。
協議の時期や詳細には言及しなかったが、20日の東アジアサミット前後のやりとりの可能性もある。仲裁機関は国際司法裁判所(ICJ)を指すとみられる。

ハワイをめぐっては、太平洋軍のキーティング司令官(当時)が2007年5月に訪中した際、中国海軍幹部からハワイより東を米軍、西を中国海軍が管理しようと持ちかけられたと証言したこともあった。

クリントン長官は、中国と周辺国の領有権問題について、領有権の主張が地域の緊張を招くような事態は「21世紀の世の中では容認できない」と述べ、東南アジア諸国連合(ASEAN)が目指す「行動規範」の策定を改めて支持した。
また、領有権問題は「合法な手段」で解決されねばならないと強調した。

さらに、領有権問題は北極や地中海でも起こりかねず、米国は「グローバルパワー」として放置できないと明言。中国が「できる限り広範囲」の領有権を主張する中、法に基づく秩序維持のために「直言していかねばならない」と語った。【12月1日 産経】
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【「安保条約5条に基づく日本政府への責任を再確認する」】
日本の尖閣諸島に対しても中国は主張を繰り返していますが、アメリカ上院は、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であるとの判断を明確にしています。

****米、尖閣防衛を初明記 上院 国防権限法に安保条項****
米上院は11月29日の本会議で、沖縄県・尖閣諸島について、米国による日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを明記した条項を、2013会計年度(12年10月~13年9月)国防権限法案に追加する修正案を全会一致で可決した。

国防権限法は国防予算の大枠を定めるもので、他国同士の領有権問題への言及は異例。尖閣が安保条約の適用対象と同法案に明記されたのは初めて。

追加条項は「東シナ海はアジアにおける海洋の公益に不可欠な要素」とし、米国も航行の自由という国益があることを明記。その上で「米国は尖閣諸島の最終的な主権について特定の立場をとらないが、日本の施政下にあることを認識している。第三者の一方的な行動が米国のこの認識に影響を及ぼすことはない」とした。

また、東シナ海での領有権をめぐる問題は、外交を通じた解決を支持し、武力による威嚇や武力行使に反対と表明。「安保条約5条に基づく日本政府への責任を再確認する」とした。
修正案は、民主党のウェッブ議員や共和党のマケイン議員ら超党派の上院議員が中心にまとめた。

【用語解説】日米安保条約5条
米国の対日防衛義務を定めた安保条約の中核的な条項。「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に日米両国が共同で対処することを定めている。尖閣諸島は日本が実効支配しているため、条約対象に含まれると解されている。一方、島根県・竹島は韓国が、北方四島はロシアが占拠しているため、これらは対象に含まないとされる。【12月1日 産経】
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今回修正案にも含まれている“主権について特定の立場をとらない”というのがアメリカの基本スタンスです。
****尖閣めぐる対立、どちらの肩も持たず…米大統領****
オバマ米大統領と中国の温家宝首相は20日、プノンペンで会談した。
中国外務省によると、会談でオバマ大統領は「地域で紛争のある問題については平和的な方法で解決することを希望する」と述べた。尖閣諸島をめぐる日中対立や、南シナ海をめぐる中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の対立を念頭に緊張緩和を促したものだ。大統領は「主権や領土に関わる問題で、米国はどちらの肩も持たない」とも述べた。温首相は「中国は責任ある大国として平和を愛し、安定を維持する」と発言した。

また、オバマ大統領は「米中は世界の2大経済大国だ。米中両国の指導者が世界と地域の問題について意思疎通を続けることは非常に重要だ」と述べ、中国の習近平新指導部との協力に期待を示した。【11月20日 読売】
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今回の修正決議は、中国の挑発活動が激しさを増し、一方で、アメリカ国防予算が削減され、アジアにおける米軍のプレゼンス低下が懸念されるなかで、中国を牽制することで事態の鎮静化を狙うものと見られています。

****米、尖閣防衛を初明記 強い危機感、中国牽制****
米上院が尖閣防衛義務を再確認する追加条項を盛り込んだ修正案を全会一致で可決したのは、中国の挑発活動が激しさを増し、日本との間で武力衝突が起きる蓋然性の高まりに強い危機感を持っているからだ。
オバマ政権とともに米議会が中国を牽制(けんせい)することで、超大国として事態の沈静化に貢献する意図を明確に示す狙いもある。

修正案を中心になってまとめたウェッブ議員は声明で、「尖閣諸島への日本の施政権を脅かすいかなる試みにも、米国が毅然(きぜん)として対抗する姿勢を示したものだ」と説明した。これは、日中間で武力衝突が起き、米国が日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条に基づいて米軍の投入を決めた場合、議会としてもこれを後押しすることを明確にしたものだ。
ウェッブ氏は元海軍長官の知日派として知られる上院の重鎮。軍事委員会や外交委の所属で、オバマ大統領に近く、米国の外交方針に大きな影響力を持つ。

中国における最高指導部の交代も修正案可決の底流にある。米議会内には、習近平総書記が強硬路線を打ち出し、尖閣問題や南シナ海の領有権問題で「胡錦濤政権より強い態度に出てくる可能性が高い」との分析がある。

一方、米軍のプレゼンスを担保する財政上の問題はクリアできるのか。米国は連邦債務上限引き上げ法に基づき、今後10年間で4870億ドル(約38兆4700億円)の削減に加え、議会の動向次第では、来年からさらに6千億ドルの国防費が削減される恐れが捨てきれない。
日本はじめアジア各国がアジア太平洋地域における米軍のプレゼンス低下に懸念を示しているが、米政府は「この地域における米軍戦略に影響は与えない」(ドニロン国家安全保障問題担当大統領補佐官)との立場。国防費削減は欧州からの陸軍撤退などで実現する方針だ。

国防費の削減圧力を加える議会側だが、アジア太平洋地域で「米軍の圧倒的なプレゼンスの維持」(パネッタ国防長官)を目指す米政府方針を援護する姿勢は変わらない。【12月1日 産経】
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尖閣諸島に関しては、日本にとってアメリカにおける最大の後ろ盾であったアーミテージ元米国務副長官のこんな発言も報じられています。
****尖閣問題、米は中立にあらず=中国に誤解―アーミテージ氏****
アーミテージ元米国務副長官は30日までにウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューに応じ、沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中の対立に関し、米国は日米安保条約に基づき同諸島の防衛義務を負っていると明言、「同盟国が侵略や威嚇を受けた場合、米国は中立ではない」と語った。
アーミテージ氏は、10月に訪中した際、中国側高官から「尖閣問題に対する米国の中立的な立場に感謝する」と言われたと紹介。これに対して「米国は中立ではない。特定の立場を言明していないだけだ」と答え、中国側の誤解を解くよう努めたと明かした。【12月1日 時事】
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