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(“内戦状態にあるシリアの首都ダマスカス近郊のジャラマナ地区で28日、爆弾が爆発し、在英の人権団体「シリア人権監視団」によると、約50人が死亡した。シリアのメディアは反体制派の犯行と伝えた”【11月28日 時事】 写真は“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/8227788520/)
【「ダマスカス進攻前にいくつかの戦略拠点を奪取している段階だ」】
状況がどうなっているのかよくわからないシリア情勢ですが、再び首都ダマスカスをめぐる攻防が激しくなっていることが報じられています。
もし反体制派が首都を攻略することになれば情勢は大きく動きますが、戦況などの詳細はわかりません。
****シリア:首都ダマスカスの攻防戦が激化*****
内戦下にあるシリアで11月末から、政府軍と反体制派武装勢力による首都ダマスカスの攻防戦が激化している。首都に向けて攻勢をかける反体制派に対し、政府軍が空爆と砲撃で抗戦しているが、反体制派が勢いを増している。政府軍は市内への進攻を許せば形勢が逆転しかねず、対抗措置として化学兵器の爆弾搭載を終えたとの報道もある。戦火は隣国レバノンにも飛び火し、中東情勢は混とんとしてきた。
AP通信などによると、反体制派はダマスカス郊外のイスラム教スンニ派系住民が多い町村や一部の軍施設を支配下に置いた。反体制派「自由シリア軍」の部隊報道官は5日、「ダマスカス進攻前にいくつかの戦略拠点を奪取している段階だ」と語った。市内では6日、車爆弾により1人が死亡するなど爆発事件も相次いだ。AFP通信によると、5日には全土で少なくとも53人が死亡。うち21人はダマスカス市内か近郊での犠牲者だった。
政府軍は11月末から、反体制派が奪取したシリア中部のドゥーマやヤブルードを空爆。ダラヤなどでも地上戦が起きている。ダマスカス郊外の国際空港は政権側の支配下にあるが、戦闘は約3キロの地区まで迫った。エジプト航空などは先月29日から「危険」を理由に発着便を全てキャンセル。市内では軍病院を巡る戦いが起きた。
ただ、現地からの報道では反体制派が「優勢」とされる。これに対し政府軍は猛毒のサリンの原料の化学物質を爆弾に搭載したと米NBCテレビが報道。空爆用とみられるが、まだ爆撃機には搭載されていないという。オバマ米政権はシリアのアサド政権が化学兵器を使用した場合、軍事行動も辞さない構えを見せており、緊迫している。
今年7月、反体制派は首都進攻を目指したが政府軍に撃退され、主戦場は経済の中心地の北部アレッポなどに移っていた。研究機関ガルフ・リサーチ・センターのムスタファ・アラニ博士はAP通信に「反体制派は、ダマスカスで戦わない限り政権が崩壊しないことを理解し、進攻を目指す戦略をとるようになった」と解説した。【12月6日 毎日】
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【「ますます絶望的になっているアサド政権が、化学兵器使用に転じることを懸念している」】
アサド政権側の化学兵器サリン使用準備云々、それに対するアメリカの警告などの情報が、政権側が追い詰められ“絶望的になっている”ような感を抱かせますが、これも正確なところはよくわかりません。
****シリア、爆弾にサリン装てんか 米テレビ報道****
米NBCテレビは5日、複数の米当局者の話として、シリア政府軍が、猛毒の神経ガス・サリンの生成に必要な物質を爆弾につめこんだと報じた。軍はサリンを使って反体制派を攻撃する準備を進め、アサド大統領の最終命令を待っている状態だとしている。
米政府当局者は、シリア政府軍がこれらの爆弾を数十の爆撃機で投下するおそれがあると、NBCに語った。ただ、サリンは爆撃機に未搭載で、アサド氏も使用を命じていないという。
複数の米メディアは3日、アサド政権がサリンの使用を準備していると報道。クリントン国務長官は5日、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で記者会見し、「ますます絶望的になっているアサド政権が、化学兵器使用に転じることを懸念している」と語っていた。【12月6日 朝日】
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パネッタ米国防長官は6日、ワシントンでの記者会見で、アサド政権が化学兵器を使用する可能性について「深刻に懸念している」との見方を示し、アサド政権が反体制派をサリンで攻撃した場合、対抗措置を取る考えも強調しています。【12月7日 朝日より】
【「中南米やその他の地域の国が申し出ていることは承知している」】
また、アサド大統領の亡命に関する情報も流れています。
****シリアのアサド大統領に中南米諸国が亡命を打診か****
米政府は5日、シリアのバッシャール・アサド大統領に対し、中南米諸国が亡命を打診しているという未確認情報を得ていると発表した。
米国務省のマーク・トナー副報道官は記者会見で、詳しい情報には触れなかったが、アサド大統領が中南米への亡命を検討しているとの噂があるとの記者からの質問に答える形で、「アサド氏と家族がシリアを出国するならば滞在先を提供すると、中南米やその他の地域の国が申し出ていることは承知している」と答え、「現時点では、アサド氏に正式な亡命の打診があったとの確実な情報は得ていない」と付け加えた。
アサド大統領亡命の噂は、キューバの通信社プレンサ・ラティーナが、シリアのファイサル・メクダード外務副大臣がアサド大統領のメッセージを携えてキューバを訪問し、ラウル・カストロ国家評議会議長と会談したと報じたことをきっかけに持ち上がった。
メクダード外務副大臣は、いずれも左派政権でキューバとの関係も近いベネズエラ、ニカラグア、エクアドルも訪れたという。
さかのぼれば、今年3月にはチュニジアの大統領が、アサド大統領が亡命するならば受け入れると申し出たほか、今から1年前には米高官が議員らに対し、アラブ諸国から内密情報としてアサド大統領の退任を条件に亡命を受け入れる意向だと聞いたと明かしている。
アサド大統領亡命の噂が広まる一方で、シリアでは首都ダマスカス近郊で戦闘が激化しており、米国はシリア政府に、化学兵器を自国民に対して使用しないよう求めている。【12月6日 AFP】
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亡命受け入れ先云々の話は、記事にもあるように、以前から言われているところです。
首都攻防戦激化、化学兵器準備、亡命先打診・・・と並ぶと、「アサド大統領もいよいよか・・・」というイメージですが、何度も繰り返すように正確なところはわかりません。
戦況が不利になった場合、アサド大統領としては、支持基盤であるアラウィー派の居住地域の山岳地帯にこもって徹底抗戦・内戦状態を続けるという選択肢もあります。
ただ、そこまで戦況が動けば情勢が回復する見通しはなく、自分だけのためなら亡命を考えた方が賢明でしょう。
もっとも、亡命・政権崩壊となると、これまで政権を支えてきた勢力・支持者は厳しい報復にさらされることが想像されます。
【ロシアがアサド政権支持の姿勢を弱めようとしている?】
これまでアサド政権を支持してきたロシアですが、政権側に不利な状況が伝えられるなかで、これまでの姿勢を変える動きが報じられています。
****シリア情勢:「移行政府」で再び合意 国連特別代表と米露****
シリア情勢を調停するブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は6日、アイルランドの首都ダブリンで、米国のクリントン国務長官と、シリア寄りのロシアのラブロフ外相との3者で会談した。国際社会が6月に合意しながら失敗した、シリア各派による「移行政府」樹立などを柱とする行程表の履行を、再び目指すことに大筋で合意した。
ロイター通信によると、会談後にブラヒミ氏が会見。「協力を継続することに合意した。『ジュネーブ合意』を土台に、和平プロセスを編み出したい」と話した。
ロシアを含む国連安保理理事国や関係アラブ国、トルコなどが6月に合意した「ジュネーブ合意」は、停戦と挙国一致の移行政府の樹立を柱とする行程表。具体的な内容を巡り、アサド政権の退陣を求める欧米や関係アラブ国と、ロシアが対立した。
米英仏は7月、行程表を後押しする対シリアの経済制裁決議を安保理で採択しようとしたが、「内政干渉だ」と主張したロシアと中国が拒否権を発動。結局、停戦すら実現せず、非武装の停戦監視団も8月に撤収し、調停は失敗した。
その後もロシアは、武器輸出の主要顧客であるアサド政権を支持し続け、足並みのそろわない安保理は機能不全に陥った。しかし11月末ごろから、首都ダマスカスの攻防戦などで反体制派の優勢が伝えられ、また政権が化学兵器を使用する可能性が指摘されるなど、状況が変化。ロイター通信は、ロシアがアサド政権支持の姿勢を弱めようとしていると報じている。
ブラヒミ氏は11月末に国連で、国連平和維持軍による停戦監視▽法的拘束力のある国連決議による政治プロセスの開始−−を要請した。行程表の実現に向けては、この案に沿ってロシアや中国と協議することになりそうだが、なお難航も予想される。
ロシア通信などによると、ラブロフ外相は7日未明、米露とブラヒミ氏側が「ジュネーブ合意」の履行を巡り、近日中に専門家協議を行う方向で一致したと明らかにした。【12月7日 毎日】
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ロシアのアサド政権擁護姿勢軟化もこれまでも何度か報じられましたが、具体的変化には結びついていません。
私が暮らす鹿児島県薩摩川内市は、日本一(各地にいろんな日本一があるようですが)の大綱引きが伝統行事として行われます。
ジワジワと引きずられ始めた大綱は、ある一定限度を超えると組織的に有効な抵抗が困難となり、またあきらめて手を放す者も出て、一気に走り出します。
今のシリア・アサド政権も、そんな状況が近づいているのでしょうか。最後にもう一度、よくわかりません。