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(3月20日 カブール 新年を祝う人々で賑わう街並みを見下ろす丘の上のカップル これは“平和のしるし”でしょう。 “flickr”より By mardomak 2012 http://www.flickr.com/photos/77615748@N08/7748060488/)
【数字上は治安状況に大幅な改善は見られなかった】
アフガニスタンでのタリバンの戦闘・活動状況に関する記事を最近あまり目にしませんので、現在アフガニスタンでの力関係がどのようになっているのかよく知りません。
目にする機会が比較的多かったのは、米軍・ISAFとタリバンの戦闘というよりは、アフガニスタン治安関係者が外国軍人に発砲するなどの「身内攻撃」に関するニュースでした。
****反政府勢力の襲撃微増=アフガン情勢で報告書―米****
米国防総省は10日、今年4~9月のアフガニスタンの治安情勢に関する定期報告書を発表した。それによれば、同国内で起きた反政府武装勢力による襲撃件数は前年同期比約1%増で、数字上は治安状況に大幅な改善は見られなかった。
報告書はさらに、アフガン兵が味方であるはずの外国駐留部隊などを襲う「身内攻撃」の発生件数について、2011年は43件だったのに対し、今年は9月末までで66件に達したと明記。こうした攻撃は駐留部隊の任務遂行を「著しく阻害する恐れがある」と警告し、攻撃の一因として、アフガン兵に外国軍を襲うようけしかける武装勢力側の「プロパガンダ」の影響を挙げた。【12月11日 時事】
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アフガニスタンは厳しい冬季に入っていますので、少なくとも来年春までは大規模な戦闘は起こりにくい状況ではないでしょうか。
【14年末撤退の後は・・・・】
国際社会の関心も、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)がアフガニスタンから14年末に撤退した後のことに移っているようです。
****NATO外相会議:アフガン撤退後の軍支援協議入り****
北大西洋条約機構(NATO)の外相会議は5日、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)がアフガニスタンから14年末に撤退後、アフガン治安部隊に資金提供するメカニズムについて協議を開始した。
日本も協力国として会議に招かれた。
年約42億ドル(約3400億円)と見込まれる資金提供で汚職や横領を避け、いかに透明化を図るかが焦点だ。
年42億ドルのうち約半分を米国が、約10億ドルを各国が拠出する想定で、目標達成のため分担協議を継続する。アフガン支援関連の基金を通しての提供や外部監査を強化するなど透明化を図る見通し。
ISAFが撤退した後、15年から新たに国際訓練助言支援部隊(ITAM、仮称)をNATO主導で設置する予定。NATO加盟28カ国以外のITAMへの協力国は、6カ国からウクライナなど8カ国に増えた。2月の国防相会議に向け、規模や任務など具体案を詰める。
日本は今年5月のNATOサミットで15年からも治安部隊への「適切な支援」を表明した。5日は坂場三男ベルギー大使が出席して協力を確認する。【12月5日 毎日】
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なお、アメリカは15年以降についても、アルカイダなどのテロ組織対策として1万人規模の米兵駐留を求めているようです。
****15年以降も1万人維持=アフガン駐留軍、テロ戦継続―米紙****
26日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどは、米政府が2014年末を期限とするアフガニスタンへの治安権限の移譲後も、アフガンに米兵約1万人を駐留させる方向で検討に入ったと報じた。米政府は、駐留継続を定めた協定締結のため、アフガン政府と協議を始めたという。
米軍は現在約6万6000人のアフガン駐留兵力を段階的に縮小し、14年末までに大規模な戦闘任務を終結させる方針を固めている。同紙などによれば、これ以降も駐留を続ける約1万人は、国際テロ組織アルカイダや、アフガン北東部で活動するパキスタンのイスラム過激組織「ラシュカレトイバ」などの掃討に当たる。【11月27日 時事】
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【タリバン:和平交渉再開に向けた動きも】
タリバン側の動きとしては、10月末に、中断している和平交渉に向けた協議に応じる用意があることを示唆したオマル師の声明がありました。オマル師が生存しているのかも定かではありませんが。
****タリバーン、対米協議の再開を示唆 オマール師が声明****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンの最高指導者オマール師は24日に声明を出し、今年3月から中断している米国との和平交渉に向けた協議について「武力闘争とともに政治的な取り組みも続ける」と述べ、協議に応じる用意があることを示唆した。
声明は、アフガン駐留の国際部隊が撤退した後について「われわれが権力を独占することはなく、国内で戦争を始めることもしない」と述べた。また、米国やアフガンなどに収容されているタリバーンの捕虜の解放も要求した。
タリバーンは今年1月、中東カタールで米国との協議を再開したが、米国が捕虜交換などに応じなかったことを理由に協議打ち切りを宣言していた。 【10月26日 朝日】
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対米テロなどを繰り返している強硬派ハッカニ・ネットワークも11月13日、ロイター通信の電話取材に対し、「タリバンの最高指導者、オマル師が率いる中央評議会(シューラ)が米国との間で和平に向けた協議を行うと決めた場合は、われわれはそれを歓迎する」と述べています。【11月14日 産経より】
近くパリで開催されるアフガン関連会議にタリバンも代表者を送ることが発表されています。
****タリバンが仏会議に出席へ=和平交渉は予定なし****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンのムジャヒド報道官は10日、タリバン関係者2人を近くパリで開催されるアフガン関連会議に派遣する考えを明らかにした。AFP通信が報じた。
この会議にはアフガン政府も代表者を派遣する。しかし、和平交渉が行われる予定はなく「タリバンの主張が世界に発信される場」になると報道官は主張している。米メディアによれば、この会議は仏シンクタンク主催の非公開会議で、具体的な時期や場所は明らかにされていない。【12月11日 時事】
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【兄が次期大統領候補?】
アフガニスタン政府・カルザイ政権については、14年4月にはカルザイ大統領の後任を決める大統領選挙が行われます。
****アフガン:14年4月に大統領選 カルザイ氏は退任****
アフガニスタンの独立選挙委員会(中央選管)は31日、カルザイ大統領の任期満了に伴う大統領選挙を14年4月5日に実施すると発表した。現在2期目のカルザイ大統領は、3選を禁じた憲法の規定により退任する。
14年は駐留外国軍からの治安権限移譲完了と重なるため、カルザイ大統領は一時、大統領選の時期を1年程度前後にずらす可能性を示唆していた。予定通り14年の選挙実施が決まったのは、アフガン安定化を目指す米国などの強い要請があったためとみられる。
また、次期大統領選の日程が決まったことで、中断している米国と旧支配勢力タリバンとの和平に向けた接触も再開へと向かう可能性がある。カルザイ大統領は武装解除などを条件にタリバンの政治復帰を歓迎する考えを示しており、米国も同様の考えとみられる。
アフガニスタンでは01年10月に米軍などが攻撃を開始し、04年10月の初の大統領選でカルザイ氏が当選。09年8月の大統領選ではカルザイ氏側の不正疑惑が問題となり、カルザイ氏と米政府との関係が悪化した。【10月31日 毎日】
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和平の先行きが不透明なまま退任次期が迫るカルザイ大統領の心中は穏やかではないようです。
“国際部隊の撤退期限は約2年後に迫る。しかし、治安は改善しない。タリバーンとの和平協議も見通しが立たない。カルザイは感情をあらわにすることが多くなった。大統領府で怒鳴る姿がしばしば目撃されている。数カ月前に辞職した側近は「大統領と一緒に仕事をするのはとても難しい」とこぼした”【11月23日 朝日】
カルザイ大統領本人は、兄弟を後継者にしたい思いがあるとも報じられています。
****後継に兄の名****
孤立を深めるカルザイが信頼を寄せた人物がいた。異母弟アフマド・ワリ。カンダハル州議会議長を務め、対タリバーン作戦を通じて米中央情報局(CIA)との関係を深め、「南部の王」と呼ばれた。麻薬密輸や汚職への関与が指摘されても、カルザイはかばい続けた。しかし、昨年7月、護衛に紛れていたタリバーンの刺客に射殺された。追悼式でカルザイは、公衆の目をはばからずに大泣きした。
カルザイの任期切れまで2年を切った今年6月、政界を揺るがすニュースが流れた。米紙ニューヨーク・タイムズが「(兄の)カユムが大統領選への立候補を検討中」と報じた。直後、今度は兄マフムードが地元通信社に「カユムが後継の準備をしている」と発言。カユムはカルザイ後の最有力候補と目されるようになった。
カユムには政治経験がないわけではない。04年、下院議員に当選した。しかし、生活基盤は米国に置いたままで、議会で欠席をとがめられて辞職した。それが最近は、ひと月の3分の2を母国で過ごし、1日おきに大統領府へ足を運ぶ。
10月初めにあった記者会見でカルザイは「大統領選は予定通り行われる。投票所へ行き、好きな候補に投票して下さい」と言った。それが本心なのか。やはり兄への権力継承を望んでいるのか。さわやかな弁舌の奥にある本音が明らかになる日は遠くない。【11月23日 朝日】
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国内の部族・政治勢力の対立、国外のアメリカのカルザイ批判など、兄弟間の権限移譲を許すような状況とも思えませんが、複雑な事情があるだけに「神輿は軽いほうがいいい」という考えもありうるのでしょうか。
【平和なときでなければ考えないことに目を向け始めたしるし】
そうしたアメリカ・タリバン・カルザイ政権などの話とは全く異なる次元で、興味深い記事がありました。
“戦乱・内戦”のイメージが強いアフガニスタンで、美容整形を希望する女性が増えているそうです。
“平和なときでなければ考えないことに目を向け始めたしるし”とも評されています。
****ベールの下で増える、アフガニスタン女性の美容整形****
ベールを身にまとって生涯の大半を過ごすアフガニスタンの女性だが、一部には女性の美しさの理想に近づかなければならないと感じ、首都カブールにある一握りの美容外科医院に列を作っている女性たちがいる。
数年前ならば、こうした医院で女性が受ける手術の大半は、戦争や家族の暴力によって受けた傷や、酸を使った襲撃によるやけど、男性優位社会の戦乱の世に絶望した果ての自傷行為による傷の修復などだった。しかし現在、最も人気があるのは鼻の美容整形だ。しわ取りや豊胸、腹部の整形手術なども人気が高い。
「10年前は傷の修復がすべてだった」と、カブールで医院を経営するアミヌラ・ハムカル医師(53)は語る。「ときどき、ここに来る若い女性たちに何故、美容整形をしたいのか聞くのだが、彼女たちはただ単に『見た目を良くしたい、より美しくなりたいから』と答えるだけだ」
このことは良い傾向だとハムカル医師は言う。少なくとも首都カブールでは人々が、旧支配勢力タリバンの暴力を乗り越えて、平和なときでなければ考えないことに目を向け始めたしるしだからだ。(中略)
■中流階級の勃興
(中略)鼻を大きくする手術の料金は一般的に300ドル(約2万5000円)程度。アフガニスタンの多くの人々にとっては月給1か月分に相当する。
だが、11年前のタリバン政権崩壊以降、大量の支援金が流入し、中流階級が出現した。この層はイランやアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、それに欧州諸国の流行に敏感で、美容目的のためだけの整形手術にも出費を惜しまない。
■ドバイから帰国した夫に「美しくない」と非難され
ハムカル医師は、18歳の既婚女性の例を挙げた。この女性は、ドバイに働きに出て帰国した夫に胸がたるんでいると非難され、外国で見てきた「普通」以下だから、もう別れたいと言われたという。
「彼女の夫は、ドバイのような、より開放的でリベラルな都市に行って、そこで美しく整形した女性たちを見たのだろう。帰って来て妻の姿に嫌気がさしたら、整形外科に行くことさえ許可したのだ。アフガニスタンほど保守的ではない所に行って帰ってくると、生き方や性に対する考え方が変わる人が多い」
元軍幹部のモハマド・イブラヒムさんは、娘から鼻を小さくしたいと言われ、その方が気分が良いのならいいだろうと許可したという。「60年代、70年代の政府は多様な文化を学ぶことを奨励し、政府職員が外国に旅行することを支援さえしてくれた」とイブラヒムさんは語る。だが、1979年の旧ソ連の侵攻以来、数十年も続いた戦闘とタリバンの台頭により、そうしたものは奪われたという。
「今は比較的民主的だ。娘には自分が醜いと感じたり、疎外感を持ったりしてほしくない」とイブラヒムさんは語った。【12月11日 AFP】
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女性が美しさを求めることは、確かに平和のしるしでもあり、結構なことです。
ただ、「大量の支援金が流入によって生じた中流階級」という、特定の階層の人々の話ではないでしょうか。
まあ、そうであっても、それぞれの人々が、それぞれの形で平和を享受している全体的流れの一端・・・ということであれば、やはり結構なことでしょう。
また、“アフガニスタンほど保守的ではない所に行って帰ってくると、生き方や性に対する考え方が変わる人が多い”ということも重要です。
96年のタリバン政権時代、オマル師をはじめとするタリバン兵はアフガニスタンの片田舎カンダハル出身で、都市文化や外国文化との接点がありませんでした。
もしオマル師がパキスタン都市部に潜伏しているのであれば、96年当時とは見聞きする世界が全く異なるのではないでしょうか。多くのタリバン幹部も多くの情報に接し、多くの経験をつんでいるのでは。結果、タリバンの姿勢も柔軟なものになっている・・・・ということであればいいのですが。