(14日 「5歳から10歳の美しい子どもたちが犠牲になった」と、涙をぬぐいながら声明を読むオバマ大統領 2人の娘を持つ父親として「政治は度外視し、再発防止に有意義な行動を起こす」とも “flickr”より By God's World, USA http://www.flickr.com/photos/loveforallhatredfornone/8274894496/)
【「我々は十分なことをしていない。我々は変わらねばならない」】
アメリカ・コネティカット州の小学校で14日に起きた銃乱射事件(児童ら26人が殺害)、同種の事件が繰り返されるにもかかわらず銃規制が進まない銃社会アメリカの現状については、一昨日のブログ「アメリカ 繰り返す銃乱射事件 それでも進まない銃規制の議論」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121216)で取り上げたところです。
オバマ政権の対応についても、「(銃規制に関する議論は)いずれあるだろうが、今日はその日ではない」(カーニー大統領報道官)といった消極姿勢が見られることを指摘しました。
ただ、何度も繰り返される銃乱射事件や銃を使った凶行、そして今回は被害者の多くが幼い小学生児童(亡くなった20名の児童は6、7歳の小学1年)だったこと、容疑者の使用した銃器が殺傷能力の高い半自動式ライフルだったこと・・・などから、さすがに銃社会アメリカにおいても動きが見られるようです。
オバマ大統領は追悼集会で演説し「再び同じような悲劇を起こさないため、できることはすべてやる」と述べ、再発防止に取り組む姿勢を示したそうです。
ただし、銃規制強化への直接の言及はありません。
****米大統領、追悼集会で「もはや耐えられない」*****
オバマ米大統領は16日、小学校で26人が射殺されたコネティカット州ニュータウンを訪問し、遺族らと面会した後、地元の高校で開かれた追悼集会に出席した。
大統領は演説で、銃による悲劇について「我々は十分なことをしていない。我々は変わらねばならない」と述べ、再発防止に向けた対策を講じる姿勢を示した。
大統領は、銃規制強化には直接、言及しなかったが、険しい表情で「もはや耐えることはできない」と語り、国家や大人が子供を守る義務を強調。「今後、数週間で、あらゆる権限を使い、このような悲劇を食い止める努力をする」と約束した。
米メディアによると、銃乱射があった小学校からは数百発の弾丸とともに、30発を装填できる弾倉が複数発見された。警察官が乱射現場に到着すると、アダム・ランザ容疑者(20)は乱射をやめ、自身の頭部を撃って自殺したという。【12月17日 読売】
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【世論にも変化の兆し】
オバマ大統領が銃規制強化をストレートに発言しないのは、銃保有を市民の権利とし、規制に反対する世論の存在があるためで、少なくともこれまでのアメリカ政治においては、銃規制へ踏み込むことは大きな政治的リスクを負うことを意味していました。
その世論にも若干の変化が窺えるようです。
また、民主党のファインスタイン上院議員は16日のテレビ番組で、大量殺人を可能にする軍用ライフルなどの銃器を全面的に禁止する法案を、米上院に1月に提出する考えを示しているように、議会においても動きが見られます。
****米小学校乱射:銃規制、慎重派も「必要」 新法で対策強化****
児童ら26人が殺害された米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受け17日、銃規制慎重派だった連邦議員から、規制強化を求める声が上がり始めた。事件後の世論調査では、規制強化への支持がわずかだが上昇。オバマ大統領も対策の必要性を強調しており、規制強化への機運が芽生えつつある。
17日に規制強化を訴えたのはワーナー、マンチンの両民主党上院議員。2人とも、銃規制に反対する最強のロビー団体「全米ライフル協会(NRA)」から最高の「Aランク」の支持を受けている。
NRA会員でもあるマンチン議員は、事件で殺傷能力の高い攻撃用ライフルが使用されたことを踏まえ「スポーツ射撃や狩猟に攻撃用ライフルが必要とは思えない」として、攻撃用銃器を規制する新法の必要性を訴えた。
またワーナー議員は「(銃規制の)現状は受け入れがたい」と述べ、やはり攻撃用銃器の規制を訴えた。事件当日の14日、自分の3人の娘から「(銃問題に)どう取り組むの」と問いただされたことが、今回の発言のきっかけという。
前日にはファインスタイン上院議員(民主)が、攻撃用銃器の販売・所持・譲渡を禁止する連邦法案を1月の新議会に提出すると表明し、下院でも同様の法案が提出されることも明らかにしている。
一方、米紙ワシントン・ポストなどが14〜16日に実施した調査(大人602人が回答)で、今回の事件は「米国が抱える問題を反映」との回答が52%、「問題のある個人の特異な行動」の43%を上回った。今年7月にコロラド州の映画館で12人が殺害された銃乱射事件後の調査は、前者が24%、後者が67%で大きく変化した。
また「より厳しい銃規制」を支持するのは54%で、前回8月の51%からわずかに上昇。このうち「強く支持」に限れば39%から44%と上昇幅は拡大する。
下院は共和党が多数派で法案成立の行方は予断を許さない。だが、主要テレビ局が連日、現場から特別番組の放送を続けていることもあり、今回の事件を契機に銃規制議論への関心が高まっていることは間違いない。【12月18日 毎日】
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【「いつでも抜け道を探し、見つけ出すものだ」】
アメリカ政界においては、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の影響力が非常に強いことは周知のところです。
その政治影響力によって、近年は大きな事件が起きても銃規制は進んでいません。
****ブレイディ法以降は停滞****
昔はこうではなかった。世間を大きく騒がせる銃関連事件が起きると、規制強化を求める声が強まったものだ。アメリカ初の本格的銃規制である連邦銃器法(NFA)も、1929年の「血のバレンタインデー事件(ギャングのアル・カポネの一味が、敵対組織の6人と通行人1人を機関銃で虐殺)」がきっかけだった。
93年にはロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけにブレイディ法が生まれた。同法により銃販売店は、購入希望者の犯罪歴を警察に照会することが義務付けられた。
だがブレイディ法以降は、大規模な銃犯罪が起きても規制強化が図られることはなくなった。なぜか。最大の原因は、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力が高まったことと、銃規制運動が下火になったことだろう。
NRAは南北戦争後の1870年代から存在するが、その活動が先鋭化したのは1970年代半ばに強硬な銃規制反対派が幹部になってからのことだ。新生NRAが銃規制撤廃を活動目標に掲げる一方で、伝統的に銃規制に前向きだった民主党は94年に連邦下院で過半数割れを喫して以来、銃規制問題を避けるようになった(ビル・クリントン大統領ら民主党は、ブレイディ法案を採択したことが過半数割れの原因だと考えていた)。
新たな銃規制法が実現する可能性が乏しくなると、銃規制運動自体が下火になった。現在、主だった銃規制推進団体は資金不足で存亡の危機に立たされている。(後略)【8月1日号 Newsweek日本版】
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ギャング6名と通行人1名を機関銃で殺害したアル・カポネの「血のバレンタインデー事件」は有名ですが、小学1年生20名を含む26名を殺害した今回事件に比べれば残虐性で足元にも及びません。
全米ライフル協会(NRA)の強い影響力の背景には、やはり銃規制に反対する世論がありましたが、その世論に若干の変化も窺えることは先述のとおりです。
現在の銃規制は大きな抜け穴があり、また、州ごとに規制が異なることが銃規制の実効を大きく阻害しています。
*****米国の銃規制、州ごとの違いで効力発揮できず****
米コネティカット州の小学校で14日に起きた銃乱射事件では児童20人と教職員6人の命が奪われ、米国でおなじみの銃規制法をめぐる論争に再び火がついた。しかし、米銃規制は州によって大きく異なる。
1993年に当時のビル・クリントン大統領の署名で成立した通称ブレイディ法は、米国内で銃を購入する者の身元情報を連邦当局に確認するよう義務付けている。犯罪歴や精神衛生に関する履歴などから潜在的な危険を検知しようというものだ。
だがこの規制は、インターネット取引を含む個人間の売買や、銃見本市の展示ブースでの販売など、米国の銃販売の4割には及ばず、こうした売買は連邦政府の規制を受けていないのが現状だ。ブレイディ法の対象はわずかな例外を除き、連邦の認可を受けた販売業者やメーカー、輸入業者などに限られている。さらに北はカナダ、南はメキシコと長く国境を接しているため、銃購入の追跡はいっそう困難だ。
■FBIデータベースから漏れた犯人たち
米連邦捜査局(FBI)が運用している全米犯罪歴即時照会システム(NICS)にも、穴がある。連邦、州、自治体による銃規制強化を求める市長たちの全米組織「不法な銃に反対する市長たち」は、精神的な問題を抱える数百万人に関するファイルがNICSのデータベースに含まれていないことを指摘した。
今回のコネチカット州の事件で銃を乱射したとされるアダム・ランザ容疑者(20)には精神疾患の病歴があったと報じられている。現場で発見された拳銃2丁とセミオートマチック・ライフル1丁は、容疑者の母親が合法的に購入したものとみられているが、銃規制支持派は、もっと徹底したデータベースがあればランザ容疑者のような人物の武器入手を防止できたと主張している。
2011年1月にアリゾナ州で民主党のガブリエル・ギフォーズ下院議員(当時)を殺そうと銃を乱射し6人を殺害したジャレッド・ロフナー被告の場合には、不品行による停学処分歴やドラッグ使用歴があったが、身元照会システムは銃購入を認めていた。
■州ごとに異なる身元照会範囲や銃の規制範囲
これに加え、州によって銃規制が異なることも、規制をかいくぐることをいっそう容易にしている。例えば13州では、売り手側の身元について州外に照会していない。つまり、他州や連邦政府によって記録されている犯罪歴は除外されてしまうのだ。
「銃による暴力防止法律センター」のロビン・トーマス事務局長は、「州境を行き来するのは簡単なので、ある州の規制法が厳重でも、別の州に行って銃を買うことが簡単にできる」と指摘する。
銃販売規制法の大半は、州単位で実施されている。
カリフォルニア州は最も規制が強く、個人売買を含む全ての銃販売に連邦システムへの身元照会を定めている。アサルト武器(assault weapon)や狙撃銃の販売は禁止されており、1人が購入できる銃は1か月に1丁までと制限されている。また、購入には筆記試験を含む州の許可証取得が必要だ。こうした規制措置によってカリフォルニア州では過去20年間に銃を使った暴力事件が大きく減少したとトーマス氏は言う。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、今回事件が起きたコネティカット州でも、容疑者が犯行で使ったとされるブッシュマスター0.223やM4カービンといったアサルト武器の所有や譲渡は禁止されている。また、犯行に使われたとされる拳銃2丁は、いずれも購入前に認可証の取得が必要とされるものだった。
1994~2004年まで連邦法ではアサルト武器の製造と販売を禁止していたが、議会はこの規制を更新することができなかった。また何をもってアサルト武器とするかの定義をめぐり論争となった。
例えばカリフォルニア州ではアサルト武器の特徴としてスタビライザーがあることや、素早い連射を可能にする大型弾倉などを挙げている。しかしトーマス氏は、メーカー側は「いつでも抜け道を探し、見つけ出すものだ」と警告している。【12月17日 AFP】
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通常の拳銃についても日本的感覚からすれば容認し難いものがありますが、少なくとも戦場で使用されるような攻撃用の自動小銃や狙撃銃が市民社会で必要とされるとは思えません。
昔、カンボジアを旅行した際に、比較的口径の大きな拳銃を試射したことがあります。
その質感・重量、発砲時の衝撃は想像以上ものがあります。あんなものが普段の生活の中にころがっていては安心して暮らすことなどできません。
アメリカにおける銃規制論議が進展し、具体的成果が出せることを強く期待します。