孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シェールガス革命へのロシア・プーチン大統領の苛立ち

2012-12-19 23:40:16 | ロシア

(埋蔵シェールガスの分布 【12月5日 The Wall Street Journal】より)

サウス・ストリーム着工
ロシア経済を支え、国際的影響力の基盤となっているのが資源輸出、特に天然ガスの欧州向け輸出です。
ロシアから欧州へ向けた天然ガスのパイプラインは、ベラルーシからポーランドを経由するものと、ウクライナを経由するものがあります。

ベラルーシとロシアの関係は必ずしも良好な時期だけではありませんが、今は一応おちついています。
問題はウクライナとロシアの関係で、ガス価格交渉の紛糾から、頻繁に、代金未払い、ガス抜き取り、ガス供給停止といった問題が発生しています。2006年、08年、09年に問題化していますが、09年1月のときは、問題がこじれてロシア側が供給を停止したため、下流の中東欧諸国は大きな被害を受けています。

ロシア・ウクライナ関係がうまくいかない大きな要因であったウクライナの親欧米政権が親ロシア政権に代わったことで、改善の可能性は大きくなっていますが、それでもやはりまだ、すっきりはいっていないようです。

****ロシア訪問、急きょ中止=ウクライナ大統領****
ウクライナのヤヌコビッチ大統領は、18日に予定していたロシア訪問を急きょ中止した。プーチン大統領との首脳会談に向けた事前調整が不調で、大きな成果が望めないためとみられる。

ヤヌコビッチ大統領はロシア、ベラルーシ、カザフスタンでつくる関税同盟へのウクライナの参加など経済問題を中心に協議する予定だった。ウクライナ大統領府は「合意にはさらなる協議が必要」と、訪問中止の理由を説明した。

10月に行われたウクライナ最高会議(議会)選挙の結果、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領の与党・地域党は第1党を維持したものの、欧州連合(EU)との関係を重視する親欧米派の新党などが台頭。対ロ関係で国論が二分している。【12月8日 時事】
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ロシアとしては厄介なウクライナを経由せずにガスを送りたいということで、バルト海の海底を経由してロシアとドイツを結ぶノルド・ストリーム、黒海周辺からオーストリア、イタリアなどに至るサウス・ストリームが計画されました。

ノルド・ストリームは2010年4月に着工し、11年11月には稼働を開始しています。
総工費は海底部だけで74億ユーロ(約8000億円)、陸部の建設費用も約60億ユーロ。ロシアのブイボルクとドイツのグライフスワルトを結ぶ、海底1224キロ メートルもにわたる長大なパイプラインとなっています。

一方、サウス・ストリームの方も、今月7日、着工式が行われています。
****ロシア、サウスストリームパイプライン計画着工****
ロシアのGazpromとパートナーは12月7日、南ロシアの黒海東岸の Anapa市でSouth Stream pipeline の着工式を行った。
South Streamはロシアと中央アジアの天然ガスを欧州に送るもので、黒海の湖底を通って対岸のブルガリアに渡り (900km)、その後、2手に分かれる。
北西ルートはブルガリア、セルビア、ハンガリーを通ってスロベニア、オーストリーに通じる。
南西ルートはギリシャからイタリアに通じる。(中略)

欧州への天然ガス供給は2016年第1四半期にスタートする予定。
プーチン大統領は第1段階の供給先としてブルガリア、セルビア、スロベニア、ハンガリー、イタリア、クロアチアの6カ国をあげた。
既に完成しているバルト海を通るNord Streamに並び、ウクライナを迂回して欧州にガスを輸出するルートを確保する。(後略)【12月13日 化学業界の話題】http://blog.knak.jp/2012/12/post-1178.html************************

サウス・ストリームは、ロシアへのエネルギー依存を懸念する欧米が主導して進めているナブッコと競合しています。
ナブッコは、カスピ海地域の天然ガスをトルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー経由でオーストリアまで輸送する延長3300kmのガスパイプラインプロジェクト で、2013年のパイプライン建設着工、2017年の完成が計画されています。
しかし、問題が多く、特に肝心のガス供給元が確保できておらず、今後については不透明と言われています。

一変する世界のエネルギー需給
数年前であれば、問題国ウクライナを迂回したルートを南北に確保する形で、ロシアの天然ガス支配は安泰・・・ということになったでしょうが、現在は別の問題が起きて、必ずしも安泰とは言い難い状況になっています。

別の問題というのは、世界のエネルギー需給構造を大きく変えると言われている「シェール革命」です。

****米が最大産油国、世界の需給変化(1*****
国際エネルギー機関(IEA)は、水圧破砕(フラッキング)が世界のエネルギー情勢を一変させ、2017年までにアメリカがサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となるとの見通しを明らかにした。さらにアメリカは、ガス生産でも3年以内にロシアを上回り、世界最大の生産国の座に着くとも予測されている。

どちらも数年前までは誰もが想定できなかった展開かもしれない。
パリに事務局を置き、エネルギーの安全保障を担うIEAによれば、アメリカの「エネルギー復興(Energy Renaissance)」は将来の供給マップを大きく変化させているという。
シェールガスを採掘する水圧破砕や深海油田の採掘といった技術は議論を呼んでいるが、アメリカの再躍進を後押ししていることは間違いない。さらにエネルギー業界が、豊富で未開拓の天然ガスや石油の産地に手を伸ばす道筋を示した。今やペンシルバニア州やノースダコタ州は、新エネルギーフロンティアの地として注目を集めている。

アメリカにとっての最初の目標は、約40年間、7人の大統領が苦戦を強いられてきたエネルギー自給の確立だ。現在、総エネルギー需要の約20%を輸入に依存している同国は、業界のバイブル、IEAの年次報告書『世界エネルギー展望(World Energy Outlook)』によると、2035年までに自給態勢をほぼ確立する。2030年までには、スチーム補助重力排油法という新技術の開発に沸くカナダ、アルバータ州のオイルサンドも加わり、北米全体で石油の純輸出地域が形成されるという。

「北米は、石油・ガス生産の抜本的な変革の最前線に位置しており、世界の全地域に影響を与えるだろう」と、マリア・ファン・デル・フーフェン(Maria van der Hoeven)IEA事務局長は語る。

だがあまりにも急な展開に、各国政府の対応は不十分だとの声も上がっている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のエネルギー持続可能性チャレンジ・プログラム(Energy Sustainability Challenge Program)の最高責任者、フランシス・オサリバン氏は、自国の政策立案者に疑問の目を向ける。「彼らは、未開拓の産油地における最近の開発ブームがどういう事態を引き起こすか、わかっているのだろうか。さらに、国内の石油資源の増大という観点からの意味合い、高まるエネルギー安全保障の潜在性を十分に考慮しているとは思えない」。

◆サウジアラビアを追い抜く
IEAのチーフ・エコノミストで報告書の主著者のファティ・ビロル氏は、ロンドンで開かれた記者会見の場で、「アメリカの石油輸入量は、1日あたり1000万バレルから400万バレルへと減少傾向にある」と説明。一方、バイオ燃料などを含む国内生産の増加は、大幅な減少分のわずか55%を賄うにすぎないと同氏は続ける。残りの45%は、乗用車やトラックに対して連邦政府が定める燃費基準の厳格化の結果だという。

IEAは、2011年のアメリカの石油生産量1日あたり810万バレルから、2020年には1110万バレルにまで達する一方、サウジアラビアの生産量は1110万バレルから1060万バレルへ減少すると予測している。また、2025年にはアメリカは1日あたり1090万バレルに減少するが、サウジアラビアは同1080万バレルの増加に留まるという。

天然ガスはさらに劇的な変化となる。アメリカの天然ガス生産量は、2010年の604bcm(10億立方メートル)から2015年までには679bcmにまで増加すると予測されている。ロシアでも同様に増加すると見られるが、同時期までには675bcmが限界とされ、生産量トップの地位を奪取するには十分だ。2020年には、アメリカが747bcm、ロシアは704bcmと、両国の差は一層顕著になると見られる。この時点でアメリカは天然ガスの純輸出国になるだろうと報告書には記されている。 【11月15日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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シェールガスについては、11月15日ブログ「アメリカで拡大するシェールガス革命 日本への影響 国際関係・温暖化対策・原発政策にも影響」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121115)でも取り上げましたが、すでに、アメリカのシェールガス増産・価格下落でアメリカ国内の発電用石炭が天然ガスに変わり、余った石炭が安値で欧州に輸出され、欧州ではロシアからの高い天然ガス輸入を減らし、ロシアは欧州に変わる天然ガスの販路として日本にアプローチする・・・といった変動も起きています。
将来的には、液化天然ガス(LNG)として北米から欧州などへ輸出されることも考えられます。

ロシアの焦り
シェールガス革命に代表される供給源多様化・価格下落よって、せっかくのロシアの大プロジェクト「サウス・ストリーム」も“壮大な無駄”になるかも・・・といった見方もあるようです。

****時代の逆風に揺らぐロシアの天然ガス支配****
新パイプライン「サウスストリーム」は欧州市場を逃したくない一心の壮大な無駄

欧州のライバル諸国との長年にわたるぎりぎりの契約交渉が実って、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは先週、遂に大規模なパイプライン「サウスストリーム」の建設に着工した。欧州のエネルギー市場に対する支配強化の野望へ向け、大きな一歩を踏み出したといえる。

国際エネルギー市場の新たな動きは、供給源の多様化と価格下落。そんななか、南欧および中欧諸国にロシアから直接天然ガスを供給するための高価なパイプラインはロシアの追い風になるかお荷物になるか・・・専門家は様子見の構えだ。

「これは中期的プロジェクトだ」と、オックスフォード・エネルギー研究所のジョナサン・スターンは言う。
サウスストリームはロシア南西部から黒海海底を通り、ギリシャなどを経由してオーストリアやイタリアに至る200億ドルのプロジェクト。ロシアと何度もガス紛争を起こしているウクライナは迂回する。
イタリアのENIなど独仏伊の資源エネルギー3社が半分を出資、2015年後半までに年630億立方㍍を輸送できるようにする予定だ。

既に天然ガスの4分の1をロシアからの輸入に頼っているヨーロッパ人は、ざわざわと不安が広がるのを感じている。

心配性なヨーロッパ人
サウスストリームを壮大な無駄とあざ笑う批判派もいる。ロシア政府は欧州諸国がロシアの天然ガスに依存し続けるよう、セルビア、ブルガリアなどパイプラインが通過する国すべてと個別に交渉をした。
その狙いは、EUも出資して進めているナブコパイプライン計画をつぶすことだともいわれる。トルコなどの中央アジアから、ロシアを迂回して天然ガスを欧州に輸入するパイプラインだからだ。

ロシアの焦りもみえる。欧州の大国は、天然ガスを液化してパイプラインがなくても船で運べるようにした液化天然ガス(LNG)を世界中から輸入し始めている。天然ガスより高価とはいえ、供給源が増えたことでロシア産の天然ガスにも既に値下げ圧力がかかっている。

モスクワの証券会社URALSIBキャピタルのアナリスト、アレクセイ・コキンは、LNGのシェアが急速に拡大するのを見てガスプロムは、小国だけでもつなぎ留めようと思ったのだろうと推察する。「パイプラインの狙いの1つは、欧州の小国がLNGの受け入れ基地を遣るのを阻止することだ」

アメリカで新しいタイプの天然ガスを大増産している「シェールガス革命」も、いずれは欧州におけるロシアの天然ガス支配にとっての脅威になるだろう。
だがスターンによれば、シェールガス革命はヨーロッパ人の目にはまだ遠い。いつか北米のシェールガスLNGが欧州市場に到達する日も来るかもしれないが、それが現実になる2015年頃にはサウスストリームも操業を始めている。

ヨーロッパ人はもっと自信を持つべきだというのは、フィンランド国際問題研究所のアルカジイ・モシェスだ。そもそも欧州はガスプロムの支配下にあるわけではない。取引は相手があって初めて成り立つもの。欧州が天然ガスを買ってくれなければ困るのはロシアも同じだ。
「長いこと、欧州は誤った認識を抱いていた。欧州は一方的にロシアの天然ガスに依存しているわけではない」とモシェスは言う。「常に天然ガス収入を必要としていたのはロシアのほうだ。時はヨーロッパの味方だ」

欧州の不安は本当に杞憂なのか、その答えを知るにはもう少し時間がかかりそうだ。【12月19日 Newsweek日本版】
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各国で異なるシェールガスに関する事情
アメリカの天然ガス産出はシェールガスにより急増しています。
****米国、天然ガス生産見通し上方修正 シェールガス急増で****
米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は5日、国内の石油・天然ガス生産見通しを上方修正した。岩盤に含まれる「シェールガス」の生産が急増するためで、天然ガス生産量は2035年に31兆4400億立方フィート(従来予想は27兆9900億立方フィート)に達するとしている。

EIAによると、天然ガス生産量は40年までに33兆2100億立方フィートにまで拡大し、そのうちシェールガスが約半分を占める見込み。天然ガスの生産増に伴って輸出も拡大し、16年にも米国が純輸出国になるとしている。全発電量に天然ガスが占める割合も11年の25%から、40年には30%まで上昇するとみている。

また、メキシコ湾など国内油田の開発の拡大で、石油生産は19年に日量750万バレルでピークに達すると予想(従来予想は20年に670万バレルでピーク)した。

一方で、太陽光や風力など再生可能エネルギーも着実に広がり、全発電量に占める割合は11年の13%から40年は16%に増える見込み。【12月6日 産経】
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シェールガス産出がアメリカで先行しており、他の地域ではあまり進展していない背景としては、中国ではその大半が乾燥地帯や人口密集地にあり、岩の水圧破砕に必要な量の水を確保できないこと、欧州では使用する化学物質による地下水の汚染という環境問題が重視されていることがあります。フランスでは「水圧破砕法」を禁止し、欧州の多くの国が一時停止措置などをとっています。
また、地震誘発の問題や、温暖化の点でも排出されるメタンの温暖化効果の問題が指摘されています。
シェールガスの大量供給による値崩れを恐れるロシア・プーチン大統領は「欧州各国の人々が、地下水汚染の可能性というその環境リスクを理解すれば、破砕法の使用は禁止されるだろう」と“俄か環境保護論者”になっているようです。

アメリカ以外では通常、地下の鉱物権は政府が保有しており、地元民には大規模な商業採掘を我慢する見返りがほとんどないのに対し、アメリカでは地下ガスの多くが私有であり、掘削によって地主が利益を受ける(環境保護の議論には反対する)ということも、アメリカで開発が進む要因となっています。

アメリカ以外でシェールガス開発が進まないなかで、イギリスが開発に本腰を入れ始めたことが注目されています。

****英政府、シェールガス開発禁止措置を解除****
英政府は13日、シェールガス開発禁止措置を解除する方針を示した。即日付で実施する。エドワード・デービー・エネルギー・気候変動相は「私の決定は証拠に基づくものだ。科学的な調査や、この分野の専門家による見解を受けた決定だ」と語った。

ただ、大量の水や化学品を用いるシェールガスの採掘技術に対しては厳しいコントロールを課していく考えを示した。

英国では、イングランド地方北西部のブラッププール近郊のシェールガス掘削現場近くで地震が観測されたことから、2011年夏に「フラッキング」と呼ばれる水圧を用いた破砕活動を暫定的に禁止していた。
今回の禁止措置解除により、欧州最大のガス消費国である英国における天然ガス生産の落ち込みが和らぐとみられる。【12月13日 ロイター】
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日本周辺には大規模なシェールガス埋蔵はないようですが、世界的に天然ガス産出が増大し、安価なLNGが北米などから輸入できるようになれば、日本も大きな影響を受けることになります。
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