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(シリア・アレッポ 政権側の集会でも、反体制派の集会でもなく、パン屋の前に群がる市民です。長引く混乱のなかで市民生活の困窮は深まっています。“flickr”より By Michal Przedlacki http://www.flickr.com/photos/dziadek/8270879356/)
【プーチン大統領「(シリアに)変化は必要だ」】
内戦状態が続くシリアの戦況については、“反体制派の武装組織、自由シリア軍は、湾岸諸国などから軍事支援を受け、地対空ミサイルで政権軍のヘリや航空機を撃墜するなどして攻勢。ダマスカス空港と首都を結ぶルートも押さえ、政権を孤立させた。これまで比較的安定していた首都でも政府施設や治安機関などへの爆弾攻撃が相次いでいる。アルカイダ系のイスラム過激派組織「ヌスラ戦線」が爆弾テロなどを仕掛け、自由シリア軍と連携する形で政権打倒に加担している。”【12月15日 朝日】と、反体制派有利に傾いているように報じられています。
シリア・アサド政権の最大の後ろ盾であるロシアにも、こうした状況を受けて変化が見られます。
****アサド政権を擁護せず=ロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は20日、モスクワでの内外記者会見で、内戦が続くシリア問題に言及し、「われわれはアサド大統領の行く末は気に掛けていない」と突き放した上で、「アサド一族は40年も権力の座にある。(シリアに)変化は必要だ」との認識を示した。【12月21日 時事】
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このプーチン大統領の発言に先立ち、ロシア外務次官がアサド政権敗北の可能性に言及し、国際的に注目されていました。
****アサド政権、統制失っている…露外務次官が認識****
タス通信によると、ロシアのボグダノフ外務次官は13日、内戦状態にあるシリア情勢について「アサド政権は国土に対する統制をますます失っている」と述べ、アサド大統領派が反体制派に敗れる可能性があるとの認識を示した。
アサド政権を擁護してきたロシア政府が、支配地域を拡大する反体制派の攻勢を前に危機感を強めていることが明らかになった。
同次官は「(シリアにいる)ロシア国民の退避が必要となる事態に備え対応を検討している」とも述べた。【12月13日 読売】
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アメリカ国務省の報道官は、「われわれはロシア政府がようやく現実に目覚め、シリアの現政権に残された日々は多くないということを認識したことをたたえたい」と述べ、ロシア政府の方針転換の可能性を評価しています。
ロシアがアサド政権を見限れば、アサド政権の終末は著しく加速されます。
アサド政権崩壊に関する発言は、ロシア以外からも多く聞かれるようになっています。
****「アサド政権終焉近い」 仏外相、崩壊へ言及****
フランス通信(AFP)によると、フランスのファビウス外相は16日、内戦が続くシリア情勢について、「アサド大統領の終焉(しゅうえん)が近づいている」との認識を示した。アサド政権寄りのロシアも反体制派勝利の可能性を指摘するなど、関係国でアサド政権崩壊への言及が目立ち始めている。
ファビウス外相は仏メディアで、アサド政権崩壊の可能性について「ロシアですら考えている」と強調した。一方、政権が16日に首都ダマスカスのパレスチナ難民キャンプを空爆したことを「状況をあおるもの」と強く非難した。
アサド政権崩壊については、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も13日に「時間の問題でしかない」と強調した。
ロイター通信によると、14日に訪露した別のNATO幹部は、「政権崩壊の場合、化学兵器は誰が管理するのか」と述べ、アサド政権による化学兵器使用への懸念の一方、政権崩壊後にはその取り扱いが課題となるとの認識を示した。【12月18日 産経】
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【シリア副大統領「反体制派との妥協が望ましい」】
アサド政権内部のシャラ副大統領も、軍事的勝利を諦め、反体制派との交渉に託す旨の発言を行っています。
このシャラ副大統領発言については、どこまでアサド大統領の了解を得たものかはわかりません。
スンニ派という立場もあって、これまで公の場に姿を見せる機会が少なかった同副大統領が、この時期こうした発言をすることは、反体制派と宗教的基盤が同じ同副大統領を通じて、今後に関する政権側の意向を示した(あるいは、交渉の可能性を探った)・・・と、とれなくもありません。
****「軍事決着よりも対話が望ましい」、シリア副大統領****
シリアのファルーク・シャラ副大統領(74)はレバノン紙アルアハバルとのインタビューで、シリア問題の解決はバッシャール・アサド大統領が進める反体制派との武力対決よりも話し合いによる方が望ましいと語った。
シリア政権寄りのアルアハバルは17日の紙面に、シリアの首都ダマスカスの副大統領執務室で前週行ったシャラ副大統領のインタビューを掲載した。
シャラ副大統領は事態の打開をめぐる意見の相違は政権上層部にまで達していると指摘し、「彼(アサド大統領)は最終的な勝利まで戦闘を続行する強い意欲を見せており、その後でも政治的対話は可能だと(アサド大統領は信じている)」と語った。
シリア全体では少数派のイスラム教アラウィ派が多数を占めるアサド政権にあって、同国多数派のスンニ派としては最高位の高官であるシャラ副大統領は、戦闘を続けても政権側、反体制派側のいずれも決定的な軍事的勝利を手にすることは不可能だという見方を示すとともに、自身は反体制派との妥協が望ましいと考えていると述べた。
またシャラ副大統領は、アラブの主要国や国連安全保障理事会理事国などの支援の下で、反体制派勢力各派が「歴史的な和解」をするよう呼びかけた。
■政権側の思惑は?
シリア政権の高官が大統領と異なる見解を公に述べたのは今回が初めて。シリアのような独裁的な国で高官が率直に意見を述べるには政権からのお墨付きが必要だ。
シャラ副大統領に関しては、トルコのアフメト・ダウトオール外相が10月、シリアの内戦を止められる「理性ある男」と評し、シリアの暫定政府トップにふさわしい人物に挙げている。
シャラ副大統領はアサド大統領の父親、故ハフェズ・アサド前大統領の時代から数十年にわたって政権の要職を歴任してきたが、反体制派の蜂起が始まった前年3月以降は、数回しか公の場に姿を見せていなかった。【12月18日 AFP】
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【「我々(反体制派)は対話による解決を望んでいる」】
国際的に「国民を代表する唯一の組織」と認定されている反体制派の代表組織「シリア国民連合」のハティブ議長は、米ロと国連がアサド大統領の国外脱出を保証すれば、アサド政権との対話に応じる旨を明らかにしています。
****「近くカイロに暫定政府」 シリア国民連合議長****
シリア反体制派の代表組織「シリア国民連合」のアフマドモアズ・ハティブ議長(52)が13日、朝日新聞の単独会見に応じ、エジプト・カイロで近く暫定政府を発足させると表明した。アサド大統領の出国が国際的に保証されれば、現政権側との対話に応じると語った。
12日にモロッコで開かれた「シリアの友人会合」閣僚級会議で同連合が「国民を代表する唯一の組織」と認定されたばかり。暫定政府の樹立は、アサド後を視野に政権枠組みづくりが本格化することを意味する。
モロッコからカイロへの機中でインタビューに応じたハティブ氏は「暫定政府の拠点はカイロになる。シリア国内に支配地域を持つことも必要だ。容易な作業ではないが、早く実現したい」と語った。予算のめどが立ち次第、数週間以内の樹立を目指すという。
暫定政府の大統領について「自分がなる必要は必ずしもない」と述べ、実務専門家(テクノクラート)を中心に構成する意向を示した。政権崩壊の時期については「政権は事実上すでに崩壊し、統治できなくなった」との認識を示した。「アサド氏が国内に残ることを認めるものはいない。まず出国の意思を明言し、国際的にそれが保証されれば、交渉の席につく」と述べた。
ハティブ氏はダマスカス出身の穏健イスラム法学者。政権批判で投獄された後、今年7月に出国。11月に設立された国民連合の初代議長に選ばれた。 (中略)
「すでに政権は崩壊した」というハティブ氏だけでなく、米政府も「崩壊は時間の問題」(フォード米駐シリア大使)と認識している。「アサド後」の枠組みが固まらないまま、政権が崩壊すれば、軍閥が群雄割拠したアフガニスタンのような無政府状態になりかねない。
■過激派の扱い焦点
一方で、寄り合い所帯の国民連合が暫定政府を樹立するには課題も多い。政府機能を維持する予算の確保、シリア国内の支配地域の確立に加え、焦点は「ヌスラ戦線」の扱いだ。
友人会合の直前、同戦線を「テロ組織」に認定した米国は「イラクのアルカイダの前線組織で、革命をハイジャックしようとする過激派」(バーンズ次官)とみる。
これに対し、国民連合は自由シリア軍との共闘関係を容認。「彼らの思想ではなく、行動で判断すべきだ。シリアのためになるなら、問題ではない」(ハティブ氏)との立場を取る。
反体制派がヌスラ戦線と距離を置くためには、関係国からの軍事支援を必要とするが、米国、フランスは軍事支援には踏み切らない立場を維持したままだ。
一方、ハティブ氏が、条件付きながら、アサド政権側との対話に応じる姿勢を見せたことは興味深い。
友人会合に先立って、クリントン米国務長官、ラブロフ・ロシア外相、ブラヒミ氏(国連とアラブ連盟の合同特別代表)が6日、ダブリンで会合したが内容は一切、報じられていない。ハティブ氏はクリントン氏に代わって友人会合に出席したバーンズ氏に「我々(反体制派)は対話による解決を望んでいる」と伝えたと語った。アサド氏に国外脱出を説得できるのはロシアだけ。米ロと国連がアサド氏の国外脱出を保証すれば、対話に応じるとのシグナルといえる。
ハティブ氏は「最小限の流血で政権が滅ぶなら、我々は歓迎する。政権維持の時間稼ぎのための対話には応じない」と語った。 【12月15日 朝日】
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【政権崩壊の混乱で、サリン使用・流出の懸念】
アサド政権崩壊の現実味が増してきた今、懸念されている大きな問題にシリアが大量に保有する化学兵器・サリンの扱いがあります。
アサド政権が崩壊前に苦し紛れに使用する可能性だけでなく、政権崩壊の混乱のなかでイスラム過激派の手に渡ることも危惧されています。
アメリカなどは、そうしたことから、大きな混乱なく反体制派への政権移行が行われることを望んでいます。
化学兵器の使用・流出を懸念する点ではロシアもアメリカと同じ立場です。
****泥沼化シリア内戦で高まるサリン使用の現実味****
アサド政権が自国民に化学兵器を使用する その悪夢を防ぐために国際社会が取れる対策はあるのか
化学兵器の使用は「レッドライン(越えてはならない一線)」を踏み越す行為だ-オバマ米大統領は、シリア政府に警告を発し続けてきた。
もっとも、犠牲者の数が約4万人に達している内戦で、シリアのバシャル・アサド大統領は既に通常兵器で多くの自国民の命を奪うなど、凶悪な行為を重ねている。オバマや世界の国々の指導者たちはなぜ、今頃化学兵器にことさら神経質になるのか。そして、もしシリアがその「ライン」を踏み越えた場合、どう対応するのか。
見落とせないのは、いくつかの点で化学兵器が旧来型の兵器と性格が異なるという点だ。
米NBCテレビは先週、シリア軍が化学兵器の一種であるサリンの原料物質を爆弾に搭載したと報じた。その爆弾を戦闘爆撃機に載せれば、標的の上空から投下できる。
サリンは、ごく微量で人を死に至らせる場合もある極めて致死性の高い神経ガスだ。アサド政権はこの原料となる物質をおよそ500トン蓄えているとされる。アサドがその気になれば、いくつもの都市を滅ばせることになる。(中略)
もっとも、オバマが厳しい姿勢を取る理由はほかにもある。そこには、アメリカの安全保障上の打算も働いている。
軍事強国の指導者はみな、化学兵器に警戒心、もっと言えば恐怖心を抱く。化学兵器は、軍事的強者と弱者の力の差を狭める効果が大きいからだ。極めて小さな国でも化学兵器を保有していれば、大国が脅して屈服ざせたり、政権を倒したりすることが難しくなる。
さらに小国にとっては、化学兵器は核兵器より優れた点がある。核兵器を保有するには、ウラン濃縮施設やミサイル、ロケット発射センターなど、高度な施設や装備が必要だ。核兵器や関連施設は基本的に所在場所が固定されているので、発見・破壊される恐れもある。化学兵器は、そういうデメリットが核兵器よりずっと少ない。
カギを握るのはロシア?
化学兵器は、戦闘員や軍備だけでなく、敵方の民間人を大量殺戮する兵器だ。テロリストや狂人、権力にしがみつこうとする独裁者のための兵器なのだ。
イラン・イラク戦争末期の88年には、イラクの独裁者サダム・フセインが北部の少数民族であるクルド人に化学兵器を使用した。ハラブジャという町で1日に5000人の命を奪ったことは有名だ。
このような事態を避けるために、オバマは「レッドライン」という言葉を使ってシリア政府を牽制している。しかし、化学兵器を使用すればどういう措置を講じると、オバマはシリアに警告しているのか。
91年の湾岸戦争当時、イラクは化学兵器をスカッドミサイルに載せてイスラエルに撃ち込む可能性があった。当時のジェームズ・ベーカー米国務長官は、イスラエルヘの化学兵器攻撃は米本土への核攻撃と同一視すると宣言した。
フセインは、この警告を受け止めたようだ。イラクはイスラエルに大量のスカッドミサイルを発射したが、化学兵器を搭載したものは1発もなかった。
今回、オバマは当時のベーカーほど強硬な姿勢は打ち出していないが、それは賢明な判断だと言っていい。いま世界の国々は、シリアの主要な同盟国の1つであるイランに対して、核兵器開発計画を停止するよう圧力をかけている最中だからだ。
それに、シリアの化学兵器をたたくという選択肢も合理的でない。そもそも、どこに貯蔵されているのか完全に判明していないし、貯蔵施設を爆破すれば、有毒なガスが近隣一帯に流れ出し、罪のない市民が大勢犠牲になりかねない。
対応策として極めて明快な選択肢の1つは、アサドや政権の高官を抹殺するというものだ(潜伏場所を把握することが前提だが)。そのほかには、例えばロシアがシリアに圧力をかけるという選択肢もありうる。
ロシアはシリアの最大の後ろ盾である半面、アメリカ政府以上に、大量破壊兵器の拡散に神経をとがらせてきた。もし、ロシアが武力攻撃の脅しをかけるなり、援助や物資供給の停止をちらつかせるなりしてシリアに圧力をかければ、アメリカの圧力以上に効果的だろう。
内戦での化学兵器使用に輪を掛けて大きな不安材料もある。それは、アサド政権が崩壊したり、内戦末期に混乱状態に陥った場合に大量のサリンがどうなるのかという点だ。
アメリカの専門家が既に現地入りして、化学兵器施設の安全を確保する方法を反政府勢力に指導しているという話もある。
これは賢明な行動ではあるが、効果は限られている。
米国防総省は、シリアの化学兵器を確保しようと思えば7万5000人の兵力が必要だと試算しているという。いくぶん誇張された数字だとしても、難しい課題であることは確かだ。
シリアの化学兵器問題に関しては、1本のレッドラインがはっきりと引かれているというより、踏んではならないラインがあちこちに潜んでいるというべきなのかもしれない。【12月19日 Newsweek日本版】
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