孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本のPKO  ゴラン高原からの撤収決定 残るは南スーダン

2012-12-23 22:18:35 | スーダン

(南スーダン 12月4日 泥にはまった車を引っ張り上げるべく、ルワンダ軍兵士を助けるカナダ軍将校 “flickr”より By CF Operations / operations FC http://www.flickr.com/photos/cfoperations/8272390790/

【「活動を続けることは困難との判断に至った」】
イスラエル占領下のシリア・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき参加していた日本の自衛隊が、シリア国内の内戦状態の影響を受けて周辺の治安が悪化したことから撤収することが決定されました。

****自衛隊、ゴランPKO撤収=治安悪化、17年で幕****
政府は21日午前の閣議で、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき、シリア南西部のゴラン高原に派遣している自衛隊を撤収させる方針を決めた。現地の治安情勢が急速に悪化、隊員の安全が確保できないと判断した。1996年2月から続く自衛隊の活動は約17年で幕を閉じる。

森本敏防衛相は同日の防衛会議で、「活動を続けることは困難との判断に至った」と述べ、ゴラン高原に派遣した自衛隊の業務終結を命令。自衛隊は直ちに撤収作業に入り、来年1月下旬までに帰国する見通し。

PKOに参加する自衛隊が、安全確保の困難を理由に撤収するのは初めて。日本のPKO参加5原則では、(1)停戦合意が存在(2)要件を満たさなくなれば中断・終了―などを定めているが、政府は今回の撤収について「5原則は崩れておらず、政策的な判断」としている。【12月21日 時事】
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周辺の治安状況については、“シリア側の宿営地で司令部要員3人と輸送部隊12人、イスラエル側の宿営地で輸送部隊32人の計47人が活動中だが、シリア軍と反体制派の戦闘が国境地帯にも拡大、宿営地近くの村でも砲撃が続いている。そのため「要員の安全を確保しつつ意義のある活動を行うことは困難」(藤村修官房長官)と判断した。”【12月22日 産経】とのことです。

日本は1996年から、17年間に延べ1500人が停戦監視活動に従事しました。シリア情勢の悪化を受けてUNDOFで部隊を撤収したのは、日本が初めてです。
ゴラン高原におけるUNDOF参加については、国際経験を持つ隊員が増えることでの他国の軍隊との連携・協力関係に役だった等の評価もあるようです。

****ゴラン高原撤収 意義深かった17年間のPKO****
最近は、あまり注目されていなかったが、自衛隊最長の17年間にも及ぶ国連平和維持活動(PKO)が果たした役割は大きかったと言える。

森本防衛相が、中東・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に派遣中の陸上自衛隊の輸送部隊に撤収を命令した。シリア内戦の激化で、隊員の安全確保と意義のある活動が両立しなくなったことが理由だ。
治安情勢の悪化で、今年3月に在シリア日本大使館が閉鎖され、6月からは輸送業務の一部を民間業者に委託するなど、陸自の活動が制限されていた。最近は、UNDOF要員への襲撃もあった。
撤収はやむを得ない判断だ。

シリア・イスラエル国境付近への陸自の派遣が決まったのは、1995年12月である。
シリアの首都ダマスカスと兵力引き離し地帯の間の生活物資輸送や、道路の補修、除雪などを担当した。半年ごとに部隊を入れ替えており、今は輸送部隊44人と司令部要員3人を派遣している。

ゴラン高原での陸自の活動は、中東和平の停戦監視の一翼を担うとともに、国際平和協力活動に参加する陸自の人材を養成する「PKOの学校」の役割があった。
PKOの知見を深め、他国の要員と交流することなどを通じて、より厳しい環境の国際協力活動にも対応できるようになる。17年間でゴラン高原に派遣された隊員は延べ約1500人に上る。
今年は日本のPKO初参加から20年になる。この間、延べ約9200人がPKOに参加している。国際経験を持つ隊員が増えることは、他国の軍隊との連携・協力関係が強まるうえ、自衛隊の対処能力の向上にもつながろう。(後略)【12月22日 読売】
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【「東ティモールはもうPKOを必要としていない」】
一方、東ティモールにおける国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)については、現地の情勢の改善によりPKOが必要なくなり、今年末で活動が終了します。
国連のこの方針を受けて、東ティモールでのPKOに参加していた陸上自衛隊の隊員2人が9月24日に帰国し、これをもって日本の活動も終了しました。

****東ティモールPKO、今年末で終了へ****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は15日、訪問先の東ティモールで、同国で展開する国連平和維持活動(PKO)をめぐり、「東ティモールはもうPKOを必要としていない」と述べ、撤退を望む考えを明らかにした。安全保障理事会も延長を決議しない方針で、同PKOは今年末で終了する。

潘氏は同日、首都ディリで記者会見し、今年実施された同国の大統領選挙と議会選挙について、「平和的で秩序があり、成功だった」と称賛。PKOは撤退し、国連は民生支援など新たな形での貢献を検討すべきだとした。
国連は1999年、独立派とインドネシア併合派の対立で騒乱状態となった東ティモールにPKOを派遣。2002年の独立を経て05年にいったん終了させたが、元兵士らの暴動が続いたため、治安維持のため06年夏から再び派遣していた。

国連PKO局によると、現在同国で展開するPKO、国連東ティモール統合支援団(UNMIT)は約30人の軍事要員らで構成。日本も陸上自衛隊から連絡要員2人が参加している。(ニューヨーク=春日芳晃) 【8月17日 朝日】
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【「われわれは“便利屋”じゃない」】
中米ハイチにおける大震災後の復旧を目指す国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)についても、日本としては来年1月中に撤収を終える方針です。

****ハイチPKO:防衛相が終結命令…12月から帰国****
森本敏防衛相は15日、防衛省で幹部との「防衛会議」を開き、中米・ハイチで国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊施設部隊などの業務終結命令を出した。現地に派遣されている要員約300人は12月下旬から順次帰国し、来年1月中に撤収を終える。政府は10年1月のハイチ大地震を受け、同年2月から復旧作業のため陸上自衛隊施設部隊など延べ約2200人を派遣。施設部隊のPKOへの派遣期間としては東ティモールの約2年4カ月を超え、過去最長となった。【10月15日 毎日】
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20万人以上が死亡した大震災からの復旧自体は一向に進展しておらず、未だ多くの被災者がテント暮らしをしています。
復興の遅れについては、復興事業をめぐる国内政治の対立・混乱が根底にありますが、MINUSTAHについても、震災後蔓延しているコレラが国連派遣団のネパール部隊からの感染が原因の可能性が高いとされ、国民の国連PKOへの不信感が高まったといった問題もありました。
復興が進まないハイチでは、今年11月にはアメリカ東部を襲ったハリケーン「サンディ」による追い打ち被害も出ています。

こうした混乱の状況のなかで、日本の自衛隊によるPKOについては、その任務内容について自衛隊内部・国内野党からの批判が出ていました。

****ハイチPKO 年度内撤収 出口戦略なき民主 防衛省内「遅きに失した****
ハイチの国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊部隊の撤収方針決定には「遅きに失した」(防衛省幹部)との批判が渦巻く。
「どぶさらいをやらされている」「ゴミの移動ぐらいしか仕事がない」
陸自幹部によると、これが派遣開始から2年3カ月がたったハイチPKOの実情だという。

今年1月、野田佳彦首相が1年間の派遣延長を決めた際にも、防衛省内には撤収を求める声が出ていたが、黙殺された。揚げ句、施設部隊は民間ボランティアでもできるような仕事ばかり任され、現地に留め置かれている。
これは民主党政権がPKOの「出口戦略」を描けていない証しだ。「どの任務をどれだけ達成するかという『入り口戦略』を示して派遣するのが本来あるべき姿だ。それに照らせば出口はおのずと決まる」。外務省幹部はそう断じる。
民主党政権が入り口戦略を示した形跡はなく、出口戦略も持ち得ないのは自明だ。

戦略なきPKOはハイチに限ったことではない。昨年11月から開始した南スーダンPKOも同じだ。
野田内閣は南スーダンの国造りに向け5年間の派遣期間を想定するが、国際協力機構(JICA)とも連動させ、オールジャパンで国造りをどう主導していくのか道筋を示していない。このため早くも、「陸自部隊に5年間も道路補修だけをやらせるのか」(自民党国防関係議員)との批判があがっている。

藤村修官房長官と玄葉光一郎外相、田中直紀防衛相は10日、隣国スーダンとの軍事衝突が激化している南スーダンの現状について「軍事的緊張は限定的」との認識で一致し、6月までに2次隊(約330人)を派遣する方針を決めた。

「国際貢献」の名の下、国防を担う自衛隊員を海外に送り続ける民主党政権。「われわれは“便利屋”じゃない」。自衛隊幹部にはこんな不満がくすぶっている。【5月11日 産経】
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国防軍を目指す自衛隊としては、道路補修工事や、ましてや、どぶさらいやゴミ処理などやっていられない・・・といったところのようです。
国内的にかつては評価が分かれることもあった自衛隊が国民の信頼を獲得するうえで、迅速・効率的な災害復旧活動が最大の役割を果たしてきましたが、“国防を担う”ということで自衛隊内外の意識の変化も窺える感があります。

PKOヘリが誤射で撃墜
東ティモールが終了し、ゴラン高原・ハイチも撤収予定ということで、今後日本が継続する国連PKOは国連南スーダン派遣団(UNMISS)だけになります。
10月には活動の1年間延長が決定されています。

****南スーダンPKOへの陸自派遣、1年間延長****
政府は16日午前の閣議で、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づいて「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」に派遣している陸上自衛隊の活動を2013年10月末まで1年間延長することを決めた。
国連安全保障理事会が7月、UNMISSの任務を13年7月まで1年間延長する決議を採択したことを踏まえた。

政府は昨年12月に南スーダンへのPKO派遣を閣議決定し、陸自部隊がジュバを拠点に道路や橋、空港の補修などのインフラ整備を行ってきた。現在、司令部要員3人、施設部隊など約350人が活動している。【10月16日 読売】
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自衛隊に道路補修ばかり押し付けることへの批判もありますが、そうした作業以外の任務になると、内容によっては安全性の問題も出てきます。
同じ道路工事にしても、現地ニーズとのミスマッチを指摘する声もあるようです。

****南スーダン援助「ミスマッチ」 朝日新聞ツイッタビュー****
南スーダンで援助活動を行っている国際NGO「ADRA Japan」の現地スタッフが29日、朝日新聞霞クラブのツイッター(@asahi_gaikou)取材に応じた。首都ジュバで自衛隊が行っている道路整備について「地方にこそ自衛隊にしかできないことがある」と語り、現地のニーズとのミスマッチを指摘した。

野田政権は今年2月から、自衛隊施設部隊を国連平和維持活動(PKO)でジュバに派遣している。ADRAジュバ事務所の鈴木崇浩さん(31)は「ジュバの道路整備には多くの外国企業が参入しており、労働力の一部を現地で調達するため雇用を生んでいる」と強調。自前で作業を完結する自衛隊の手法だと雇用創出の効果が薄いため、「人材を育てることを視野に入れるべきだ」と語った。

エチオピアとの国境の村パガックで活動する幸村真希さん(27)は「地方は政府による公共事業も行われていないし、民間の参入もない」と語り、自己完結型の自衛隊は地方の道路整備などで役割を果たして欲しいと訴えた。【5月29日 朝日】
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ただ、“地方”となると、その場所にもよりますが、スーダンとの国境に近付くと治安の問題が出てきます。
犠牲者が出て国内的に大きな問題となることは絶対に避けたい・・・とする、これまでの安全第一の政府方針としては難しいところです。
21日にも、UNMISSのヘリコプターが南スーダン軍に誤って撃墜される事件も起きています。

****国連ヘリ撃墜、4人死亡=国軍誤射、自衛隊に被害なし―南スーダン****
南スーダン東部のジョングレイ州で21日、国連南スーダン派遣団(UNMISS)のヘリコプターが南スーダン国軍によって撃墜され、ロシア人の乗組員4人全員が死亡した。ヘリは新たな飛行場設営に適した場所を探すために飛行中だった。
国軍スポークスマンはロイター通信に、隣接するスーダンのヘリが南スーダンの反政府勢力に武器を供給していると誤って判断し、攻撃したとしている。

同州の南方にある首都ジュバには、UNMISSに参加する陸上自衛隊の施設部隊が駐留しているが、防衛省によると、部隊に被害はなかった。【12月22日 時事】
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個々の案件は地域ごとに事情が大きく異なりますが、一般論としては、世界が安定・復興のための人員派遣を必要としているとき、日本も応分の役割を果たすのが国際社会における責務だと考えます。そのような地域の治安などの問題から自衛隊派遣となることが多いでしょう。
日本国内の事情でひきこもることや、お金だけで済ますことは、なかなか国際的には理解してもらえないことかと思います。

治安の上で問題が多い地域であれば、それに対応した装備もやはり必要でしょう。
紛争地域であれば、紛争に巻き込まれる危険、犠牲者が出る危険も覚悟する必要があります。
また、状況によっては現地の紛争にどのように対応するのかという方針も必要とされることもあるでしょう。何もしない、介入しないという決定も、場合によっては人道上の惨劇を見捨てるという重大な決定となることもあります。
いずれにしても、腹をくくった覚悟が必要です。

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