(2002年、イスラム教徒を中心に1000人以上(2000人との見解も)の死者を出したグジャラート暴動 右は次期首相候補として注目を集めているグジャラート州政府のモディ首相
“本人は強く否定しているものの、2002年の暴動の際、モディ首相はイスラム教徒虐殺を止めようとせず、むしろ密かに暴動を煽っていたと非難されている。当時、モディ政権の閣僚だったMaya Kodnani氏は、ヒンズー教徒に凶器を渡し、イスラム教徒攻撃をそそのかしたとして、禁固28年の刑を受けている”【10月30日 ロイター】
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【カースト下位層など社会的に弱い立場の女性の被害は反響を呼ぶこともなく泣き寝入り】
インドでは、16日夜にニューデリーのバス車内で起きた女子大生レイプ事件をきっかけにして、性犯罪に対する抗議行動が広がり大きな国内問題となっています。
****インド レイプ多発 「女性守れ」各地で抗議****
■不十分な捜査/処罰わずか26%
インドで、頻発するレイプ犯罪に対する抗議運動が各地で起きている。22、23日には、首都ニューデリーのインド門広場でデモ隊と警官隊が衝突し、印メディアによると双方の100人以上が負傷した。高まる市民の怒りに、政府はレイプ犯に対する最高刑を終身刑から死刑に引き上げる法改正の検討を始めた。
◆年間2万件以上
「レイプ犯をつるせ」「デリーに治安を」
プラカードなどを手に学生主体の約1万人のデモ隊は22日、インド門広場で警察が設置したバリケードを突破し、大統領府に向かおうとして警官隊と衝突した。警察は催涙ガスや放水でデモ隊を排除した。23日も、双方は再び衝突した。
抗議運動のきっかけは、16日夜にニューデリーで起きたレイプ事件だ。女子学生(23)が友人男性と私営乗り合いバスに乗ったところ、別の男に「こんな時間に何をしている」といいがかりをつけられた。その後、酒に酔った6人にレイプされ、鉄パイプで暴行を受けたうえ車外にほうり出された。女性は重体で腸を摘出する手術を受けた。犯人は全員逮捕された。
インドでレイプ犯罪は多発しており、幼児が被害者となるケースもある。インド紙ヒンドゥスタン・タイムズによると、2010年は報告分だけでも2万2千件あり20年間で倍増した。
インドでは伝統的に、女性は家にとどまることを求められてきたが、最近は女性の社会進出に伴い、夜間に繁華街を出歩く姿も増えた。こうした行動への根強い偏見や反発に加え、もともとある女性の人権を軽視する風潮もあり、女性が性犯罪に遭うリスクは高まっているようだ。
レイプ事件の捜査が不十分なことも犯罪を助長しているとされる。同紙によれば、犯人が処罰されたケースは20年間で44%から26%に減った。背景には、被害者側が裁判に持ち込むまで警官に賄賂を要求されたり、取り調べで嫌がらせを受けたりするため、手続きを断念せざるを得ないことがある。
◆法改正の動きも
今回の抗議デモでは、レイプ犯の量刑が軽いことが犯罪を誘発していると政府の対応を批判している。シンデ内相は22日、「極めてまれなケースになるが、効果的な処罰をするため、法改正に向けた迅速な対応を取る」と述べ、レイプ犯に極刑を科す法改正を行うことを示唆した。
今回の抗議行動がここまで拡大したのは、被害者が中間層の女子学生で現場がデリー中心部だったため、社会問題に敏感で活動的な学生らの怒りに火がついたからだ。ただし、カースト下位層など社会的に弱い立場の女性の被害はこうした反響を呼ぶこともほとんどなく、相当数が泣き寝入りしているとみられる。【12月24日 産経】
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女性の社会的地位が低いインド社会で性犯罪が多いことは想像に難くありませんが、“今回の抗議行動がここまで拡大したのは、被害者が中間層の女子学生で現場がデリー中心部だったため、社会問題に敏感で活動的な学生らの怒りに火がついたからだ。ただし、カースト下位層など社会的に弱い立場の女性の被害はこうした反響を呼ぶこともほとんどなく、相当数が泣き寝入りしているとみられる”との指摘が、インド社会の抱える女性問題とは別の問題の存在を示しています。
【不人気なシン政権】
この性犯罪に対する罰則強化を求める抗議行動に対しては、シン首相の「失言」のおまけがついています。
****性犯罪抗議演説でインド首相「失言」…批判殺到****
性犯罪の罰則強化を求める抗議活動が暴徒化したインドで、シン首相が24日の国民向けテレビ演説の収録後、録画担当者に「これでいいか」と確認した部分が編集されずに全国放送された。
国民に確認を求めたと一部で受け取られ、簡易投稿サイト「ツイッター」などで「『演説してやった』ということ?」「不誠実」と批判が殺到している。
シン首相は演説で、抗議のきっかけとなったニューデリーの女性(23)暴行事件について、「国民の怒りは当然。娘3人の父として同じ気持ちだ」と述べ、「すべての女性の安全のため努力する」と誓っていた。ツイッターでは「最後の一言で、演説に心がこもっていないとわかった」などの意見が相次いだ。【12月25日 読売】
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まあ、他愛もない話ではありますが、最近のシン首相の不人気ぶりを象徴しているとも言えます。
シーク教徒で経済学者出身のシン首相は、“2004年のインド総選挙で国民会議派がインド人民党を破って第一党となると、国民会議総裁であるソニア・ガンディーがそのまま首相に就任するかと思われたが、ソニアは自身が首相となるのを固辞し、代わりにシンを首相に指名した。この裁定により、シンはインド独立以来ヒンドゥー教徒以外では初めてとなる首相に就任する”【ウィキペディア】というように、イタリア出身のソニア・ガンジーの代役、あるいは、ソニアの息子であるラフル・ガンジーへの“つなぎ”とも見られていましたが、インド政界にあっては珍しい清廉な人柄もあって、1期目は非常に評価も高いものがありました。
2009年の総選挙で国民会議派中心の政党連合である統一進歩同盟が勝利したため、シン首相は2期目を継続することになりますが、政府の腐敗・汚職疑惑問題や、物価高、最近の経済自由化政策への批判などで、評判がよくありません。
【次期首相候補のガンジー家御曹司】
今年10月の内閣改造では、ネール・ガンジー王朝の本命ラフル・ガンジー氏が入閣するのでは・・・とも思われていましたが、ラフル氏は入閣を固辞したと報じられています。
****インド内閣改造 ガンジー家“御曹司”入閣固辞 党勢固め、影響力強化優先****
インドで数々の政治指導者を生んできた「ネール・ガンジー家」の御曹司で最大与党、国民会議派幹事長のラフル・ガンジー氏(42)が、28日にシン首相(80)が行った内閣改造で新閣僚に加わることを固辞した。国民会議派の次期首相候補と目されるラフル氏は、2014年の総選挙を閣僚経験のないまま迎える可能性が高まっている。
ラフル氏の曽祖父は、インド独立後、初代首相を務めたジャワハルラル・ネール氏。祖母インディラ・ガンジー氏と父ラジブ・ガンジー氏も首相を歴任し、いずれも暗殺されている。母ソニア・ガンジー氏(65)は国民会議派の総裁と、ラフル氏の政治家としての毛並みは抜群だ。
今回の内閣改造では、クリシュナ外相(80)の後任にクルシード法相(59)を横滑りさせるなど、「若手とベテランの組み合わせ」(シン首相)を重視した布陣となった。
新顔の登用で、相次ぐ汚職疑惑で傷ついた内閣のイメージの刷新を図ったとみられる。
ラフル氏の入閣について、シン首相は「何度も要請しているが、ラフル氏の意向は、党勢強化にある」と述べ、ラフル氏が受諾しなかったことを明らかにした。
理由の一つは、今年初めに行われた地方選挙での国民会議派の惨敗だ。総選挙の前哨戦とされた北部ウッタルプラデシュ州の州議会選挙で、ラフル氏は陣頭指揮を執ったが敗北、「ラフル氏は当時のショックから、立ち直れていない」(観測筋)とされる。入閣により、ラフル氏が政府の“汚職にまみれた印象”に引きずられるのを嫌ったとの見方もある。
いずれにしても、母親のソニア・ガンジー総裁はラフル氏以外の人物を自身の後継者に据える考えはないとされる。インド・メディアは、ラフル氏が近く、党内でより重要なポストに格上げされるとの見方を伝えている。
内閣改造では、閣外相にラフル氏に近い若手も抜擢(ばってき)され、「ラフル氏が、内閣についてシン首相と議論することに無関心だった状態から脱却したのは初めて」(タイムズ・オブ・インディア紙)という。
ラフル氏は党勢の立て直しを優先するとともに、党内での自身の影響力を強めることにも腐心しているようだ。【10月30日 産経】
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【政権交代の可能性も】
最近のシン政権の不人気ぶりから、2014年の総選挙での国民会議派の敗北・政権交代の見方も出てきています。
****「国民会議派が大敗する」****
現地テレビ局NDTVが8月に行った視聴者3万人を対象にした世論調査では、国民が与党へ向ける視線は想像以上に厳しいことが判明したのだ。その内容は、「(2014年予定の)次回総選挙で改選議席543議席中、インド人民党(BJP)が143議席(現在は116議席)、国民会議派は127議席(206議席)と与党が激減し、BJPが第一党になる」というものだった。「潮目」は明らかに変化している。(後略)【12月号 選択】
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【注目されるインド人民党のモディ氏】
そうした中で次期首相の可能性もあるとされているのが、中道右派の最大野党インド人民党(BJP)幹部で、インド西部グジャラート州首相のナレンドラ・モディ氏です。
モディ氏は、2001年にグジャラート州の州首相となり、中道路線でひたすら経済成長に邁進し、同州経済を成功させてきた実績があります。
しかし、かつての同氏には「極右」のイメージが強くあります。
“グジャラート暴動-2002年、ヒンドゥー至上主義者たちが乗った列車をイスラム教徒が放火し、59人が焼死するテロ事件が発生、さらにこの復讐としてヒンドゥー教徒がイスラム教徒を襲撃、双方の死者が一千人以上に上った、あの忌まわしき惨事だ。この事件に際し、州首相として適切な措置を講じなかったという「道義的責任」がそれだ。事件への「関与」も取り沙汰され、最高裁が指名する特別調査委員会によれば、ようやく今年2月に「刑事訴追不可」との見解を発表したが、異議を唱える参考人もおり、グレーの印象はいまだ拭いきれていない。謝罪を一切しないモディは同事件を負い目とは感じていないようだが、「国際社会の除け者」であるという事実がこれまで同氏の台頭を抑えてきた面はある”【同上】
インド人民党は、政教分離やカースト解消などには基本的に賛成しているとのことですが、本質的にはヒンドゥー至上主義政党です。
問題の多い国民会議派ですが、ヒンドゥー至上主義の保守政党であるインド人民党が政権に復帰した場合、伝統的インド社会に根差した女性の社会的地位の問題、カースト制などの人権問題、イスラム教徒との融和、更には政界の腐敗・汚職の問題が、現在より好転するとはなかなか思えません。