(米コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件の犠牲者を悼む人々 “flickr”より By Law Center to Prevent Gun Violence http://www.flickr.com/photos/smartgunlaws/8288767190/)
【「常識的な法案だ」】
児童ら26人が犠牲となった米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受け、さすがの“銃社会”アメリカにおいても、オバマ米大統領が新たな銃規制を目指す動きが出ています。
ただし、“武器保持の権利を保障した合衆国憲法修正第2条の撤廃を訴える声は少ない。米国に「銃なき世界」が訪れるなど、あり得ないというのが実感だ。むしろ今回の議論では、軍用に近い自動小銃を一般国民が所持する必要があるかが論じられている”【2月21日 産経】という、限定された枠組みでの話ですが。
それでも、銃規制を取り上げることの政治的リスクから、殆んど何も対策がとられてこなかった最近のアメリカ政治においてはこれまでにない動きです。
****米国:大統領が目指す新銃規制 過去の「妥協」許されず****
児童ら26人が犠牲となった米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受けオバマ米大統領が新たな銃規制を目指す中、最大の抵抗勢力の全米ライフル協会(NRA)は21日の記者会見で銃規制には一切触れず、対決姿勢を鮮明にした。オバマ大統領は銃犯罪対策を2期目の「中心課題」とする構えだが、思惑通りに進むかは予断を許さない。
「大統領としての権限をすべて使う」。ホワイトハウスが21日から流し始めたビデオメッセージで、オバマ大統領は改めて銃犯罪対策の推進を強調した。
今回の事件では、殺傷能力の高い半自動式ライフルが使用され、弾倉は多数の弾薬が装填(そうてん)できるものだった。民主党のファインスタイン上院議員は来年1月の新議会で、こうした高性能の銃器や弾倉の販売・所持・譲渡を禁止する法案を提出する予定だ。大統領は「常識的な法案だ」として、早期審議を議会に求めている。
大統領はこれまで、銃乱射事件が起きても具体策を講じることはなく、銃規制推進団体から批判された。だが今回は児童20人の命が奪われるという深刻な事態となり、NRAの支持を受ける民主党の上院議員らも銃規制を求める立場に転じた。再選を決めたオバマ大統領はもはや「選挙の心配」をする必要もなく、規制強化に取り組む環境は整っている。
新たな規制法が導入されれば、クリントン政権時の94年以来となる。10年間の時限立法で04年に失効したが、19種類の半自動式銃器の製造・販売・保有を禁じた。米紙ニューヨーク・タイムズによると、当時も小学校での銃乱射事件が規制のきっかけになったという。
カリフォルニア州で89年、20代の男が半自動式ライフルを小学校で乱射し6〜9歳の児童5人が死亡、教師1人を含む30人が負傷した。NRAの支持を受ける民主党の上院議員が規制派に転じた状況も今と似ている。
だが、NRAとその意向を受けた他の多くの議員らの抵抗は激しく、法導入まで5年を要した。また、当時は上下両院とも民主党が多数派だったが、現在は上院が民主党、下院は共和党が多数派を占めるねじれ状態。議会での合意形成はさらに難しい情勢だ。【12月22日 毎日】
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【「銃規制強化で子供は守れない」】
銃規制反対派を代表する存在で、アメリカ政治に大きな影響力を有する全米ライフル協会(NRA)は、こうした銃規制論議の高まりに反撃を始めています。
その考えは、“凶悪事件を起こすのは銃そのものではなく、銃を使う悪人である。悪人に対抗するためには銃で武装した善人が必要である・・・”というもので、具体的には、学校の安全確保のため警察官や武装警備員を配置すべきだと主張しています。
****「銃規制で子供守れない」=全米ライフル協会、沈黙破り反撃****
銃愛好家による有力圧力団体「全米ライフル協会(NRA)」が、コネティカット州の小学校で起きた乱射事件を受けた銃規制の強化を阻止するため、猛然と反撃を始めた。
NRAのキーン会長とラピエール副会長は23日、それぞれ米テレビに出演し、「銃規制強化で子供は守れない」と主張。学校の安全確保には警察官や武装警備員を配置すべきだとの持論を展開した。
乱射事件後、沈黙を保っていたNRAは事件から1週間となる21日、ラピエール副会長が質問を一切受け付けない「記者会見」を行い、議会に対して全米の学校に警察官や警備員を配置するのに必要な予算を付けるよう要請した。
NBCテレビに出演したラピエール副会長は、自らの発言に対して銃規制推進派を中心に強い反発が出ていることに関し「狂っていると言いたければ言うがいい。何もしないことこそ狂っている」と挑発。半自動小銃など「攻撃用銃器」禁止法(2004年失効)による銃規制下にあった1999年にコロラド州のコロンバイン高校乱射事件が起きたことを例に挙げ、銃規制の強化は「何の変化ももたらさない」との見解を示した。
キーン会長もCBSテレビで「例えば中国でおのや刃物が学校での大量殺害に使われたからといって、それらが禁止されることはない。銃の『誤用』は禁止の論拠とならない」と述べ、銃規制反対の姿勢を鮮明にした。【12月24日 時事】
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なお、1999年のコロラド州コロンバイン高校乱射事件では、高校に武装した保安官代理がいましたが、それでも事件は起きています。
それはともかく、身近に銃が存在すれば衝動的にその銃を使用した愚行に走るというのが人間であり、それを防止するためには広範な銃規制が必要と考えます。
“銃による殺人の大半は、こうした衝動的な犯行だ。オーストラリアでは、銃規制の強化で銃犯罪が大幅に減ったことが分かっている。コロンビアの首都ボゴタでは、一般人の銃所有を禁じた結果、銃による死亡者が58%も減ったという。手元に銃がなければ死者は減る。明白な事実だ。”【2013年1月2日号 Newsweek日本版】
すでに大量に銃器が社会に存在するアメリカでは、護身のための銃が必要だという話は一定にわかりますが、そこを乗り越えないと状況は全く変わりません。
学校を含めたあらゆる場所に武装警備員が配置され、市民の行動を監視する・・・そんな社会がまともな社会とは到底思われません。アメリカが信奉する自由とは全く異なる警察管理社会です。
【「今までと違うことをする必要がある」】
事件が起きたコネティカット州やロスアンゼルスでは、市民の保有する銃の買取イベントが行われています。
****自治体が銃買い取り、米コネティカット州****
米コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受けて、同州のブリッジポート(Bridgeport)では銃の買い取りイベントが行われている。
出回っている銃を回収する取り組みの一環で、同種のプログラムとしては同市で過去最大規模。拳銃は最高200ドル(約1万7000円)、ライフルは75ドル(約6000円)で買い取られる。「アサルト」型のライフルと認定されるものについてはより高額の買い取り価格が設定されている。【12月26日 AFP】
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****米銃乱射事件:ロス市警、銃と商品券交換****
米西部カリフォルニア州のロサンゼルス市警は26日、市民から不要になった銃やライフルを買い取るイベントを実施した。09年から毎年5月の母の日に行っていたが、東部コネティカット州の小学校での銃乱射事件を受け追加開催した。
拳銃は最高100ドル(約8600円)相当、ライフルは最高200ドル相当のスーパー商品券と交換した。回収を優先するため、銃の入手経路など詳細は聞かない。市中心部に近い会場では午前中だけで約500丁の銃が寄せられ、午後2時には商品券が品切れに。ロイター通信によると1300丁以上が回収された。会場に姿を見せたアントニオ・ビヤライゴーサ市長は「今までと違うことをする必要がある」と述べた。【12月28日 毎日】
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【「買い手はもはや(攻撃用ライフル)が手に入らなくなると心配している」】
一方で、規制が強化される前に購入しようという“駆け込み需要”も見られるとか。
****米の銃展示即売会、大盛況-規制強化前に駆け込み需要****
当地で開催された「ガン・アンド・ナイフ・ショー(銃やナイフなど武器の展示即売会)」は22日午前9時に始まった。午前10時半にはジョン・ウェード氏の大きなブースは約30丁あった軍事用自動小銃のストックが売り切れになった。
ウェード氏は「もう売り物がない」と残念がった。同氏はケンタッキー州ボーリンググリーンでシャーウッズ・ガンズという店を経営しているが、そこでもほぼ売り切れだという。同氏はこの店では「客が押し合いへし合いしている」と述べ、「買い手はもはや(攻撃用ライフル)が手に入らなくなると心配している」と語った。
連邦政府統計では、今月14日のコネティカット州のサンディフック小学校乱射事件前でさえ、火器販売は増加していた。連邦捜査局(FBI)のシステムを通じた銃購入のための身辺調査件数は11月に200万件を超え、過去最高に達した。銃規制をめぐる論議が全米で高まっている中で、銃砲店や「ガン・ショー」で買い手は、アダム・ランザ容疑者が小学校襲撃で使った攻撃用ライフルと同じ型にとりわけ関心を示している。
「ガン・ショー」の開催予定を掲載する主要ウェブサイト「gunshows-usa.com」によると、先週末、フロリダ州オカラからコロラド州キャッスルロックに至るまで、全米24カ所以上でガン・ショー開催が予定さていた。今週末は36カ所以上で予定されている。(後略)【12月26日 The Wall Street Journal】
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【規制反対派の強い抵抗も】
また、銃規制に賛成・反対する立場双方の感情的な対立も起きているようです。
****米国:英キャスター退去求め請願 銃規制反対派を罵倒****
米コネティカット州の小学校で子供ら26人が死亡した銃乱射事件を受け、米CNNテレビの番組で、銃規制反対派の男性を罵倒した英国人キャスター、ピアース・モーガン氏の国外退去を求める請願がホワイトハウスのウェブサイトに掲載され、26日深夜(日本時間27日午後)までに賛同者が8万人を超えた。
同サイトには、自動小銃などを禁じる法制定の阻止を求める請願も提起され、2万9000人超が賛同。合衆国憲法修正2条が保障する「武装の権利」を米市民が重視していることがうかがえる。【12月27日 毎日】
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“モーガン氏は番組で、自動小銃などの禁止を強く主張。銃所持推進派団体「ガンオーナーズ・オブ・アメリカ」のメンバーとの討論で、「信じられないほど間抜け」などと大声で怒鳴った。請願は「モーガン氏は憲法修正2条を激しく攻撃した」としている”【12月27日 共同】とのことです。
****銃所有者の実名・住所を地図にして公開、米紙に非難殺到****
小学校での銃乱射事件を受けて米国内で銃規制をめぐる議論が熱を帯びる中、ニューヨーク州の地方紙が26日、銃を所持する許可を得ている同州の住民3万人超の実名と住所を記載した地図を公開した。銃所有者らからは、プライバシーの侵害だなどと非難の声が上がっている。
米新聞大手ガネットがニューヨーク州ウェストチェスター郡で発行する地方紙「ジャーナル・ニューズ」は、州内2郡の当局から銃器所持許可を持つ3万3000人以上の実名と住所の情報を取得。双方向型の地図を作成し、「The Gun Owner Next Door(あなたの隣に住む銃所有者)」との見出しを掲げた記事と共に掲載した。
(中略)
掲載された情報は全て、申請すれば誰でも取得できる内容。ジャーナル・ニューズ紙は「情報自由法」に基づき合法に取得したものであり、読者は近隣に銃所有者が住んでいるかどうかを知る権利があるとして、掲載の正当性を主張している。
シンディー・ロイル同紙編集長兼副社長は、「このデータベースの公表が論争を招くことは分かっていたが、ニュータウンの銃乱射事件を受け、地元の銃所有状況について可能な限りの情報を共有することが重要だと考えた」「近所の誰が銃を持っていて、身近に何人の銃所有者がいるのか、人々は気に掛けている」などと説明した。所有する銃器の種類や数に関する情報も申請したが、こちらは拒否されたという。
この地図をめぐっては、銃所有者を危険にさらすとの批判が相次いでいる。同紙には、身の安全を心配する人やプライバシーを侵害されたと感じた人から電話が数百件あったという。交流サイト「フェイスブック」の同紙のページにも賛否両論が集まっており、中には同紙や編集者の個人情報をさらす書き込みもある。【12月27日 AFP】
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銃規制に向けた一歩として、殺傷能力の高い半自動式ライフルなどの規制強化が実現することを期待しますが、銃への信奉が篤いアメリカ社会で、また、民主・共和両党の対立がことあるごとに表面化するアメリカ議会において、どうでしょうか・・・。