(2010年1月 ズマ大統領(左)が故郷の村で行った5度目の結婚式 右女性は大統領より30歳若い新婦 こうした絵にちょっと引いてしまうのは人種的偏見でしょう。 日本の首相が浴衣で盆踊りを踊るのと大差ないことで、文化の問題です。
ただ、人種的対立が根深い南アで、ことさらに伝統文化をアピールし、非黒人的なものを攻撃するという話になると、別の問題が起きます。“flickr”より By MEIPN EC 2010-2011 http://www.flickr.com/photos/51617613@N04/5674294230/)
【マンデラ元大統領が退院】
南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)闘争をリードしたネルソン・マンデラ元大統領(94歳)は体調を崩し入院していましたが、退院できるまでに回復しました。
27年の獄中生活を経験し、94歳という高齢ですが、その体力も並はずれたものがあるようようです。
****南アのマンデラ元大統領が退院、自宅療養へ****
南アフリカの反アパルトヘイト(人種隔離政策)運動の英雄で、肺の感染症のため約3週間にわたり入院していたネルソン・マンデラ氏(94)が26日、退院した。今後は自宅で療養するという。南ア大統領府が発表した。
南ア初の黒人大統領として多くの人に愛されているマンデラ氏は、肺の感染症が再発したため今月8日に同国南部クヌにある自宅から首都プレトリアの病院に入院した。また検査の結果、胆石が見つかったため、摘出手術が行われた。
今回の入院はマンデラ氏にとって、27年間の獄中生活から解放された1990年以降で最も長期のものとなった。【12月27日 AFP】
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マンデラ元大統領はノーベル平和賞も受賞し、その国際的評価は高いものがありますが、その卓越した指導力・人間性から、反アパルトヘイト闘争の相手側となった国内白人層からも一定の支持を得ています。
【「黒人が白人になろうとする憂慮すべき傾向の1つだ」】
一方、現在の南アフリカ大統領はジェイコブ・ズマ氏ですが、こちらは何かと物議を醸す言動が見られます。
****犬を飼うのは白人文化、南ア大統領の発言が物議****
南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領による「犬を飼うことは白人の文化でありアフリカ的ではない」との発言が、ペットの飼い主たちから批判を浴びている。
地元メディアの報道によると、ズマ大統領は犬を飼い、散歩に連れて行ったり獣医に通ったりするのは「白人文化に属すること」と発言。南アでペットを飼う人が増えていることについて「黒人が白人になろうとする憂慮すべき傾向の1つだ」と述べたという。
このコメントに対し、国内のペットオーナーたちからは批判が噴出した。マイクロブログのツイッターには、「犬を飼うのはアフリカ的ではないそうだ。確かに、ドイツ製の車やイタリア製スーツ、アイリッシュウイスキーを自慢する古臭いアフリカの伝統とは違うな」など、皮肉たっぷりの投稿が相次いだ。
大統領府は、ズマ氏のコメントについて「アフリカにおける精神の独立を目指したもの」と火消しに追われている。
マック・マハラジ大統領報道官は、大雨や非常に寒い日に外で働く使用人たちを尻目にペット犬と一緒にくつろいでいる人や、ペットの具合が悪くなると獣医に駆け込むのに使用人や同居する親族が病気になっても無視する人もいるとしながら、大統領の発言は「動物への愛情を人に対する愛情より優先する必要はないと強調しただけだ」と釈明した。【12月28日 AFP】
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大統領報道官が釈明したような“大雨や非常に寒い日に外で働く使用人たちを尻目にペット犬と一緒にくつろいでいる人や、ペットの具合が悪くなると獣医に駆け込むのに使用人や同居する親族が病気になっても無視する人もいる・・・”云々には一定に理解できるものはありますが、ことさらに“黒人対白人”の対立構造を持ちだすあたりに違和感と危ないものを感じます。
ズマ大統領は“奔放”な性格なようで、かつて汚職疑惑を原因に副大統領を罷免され、下院議員も失職した他、レイプ容疑で起訴されるが無罪判決を受けた経験もあります。
南アフリカ共和国では最大の民族集団であるズールー人の文化を尊重するズマ大統領は、今年4月には4人目の妻と結婚しています。
こうした“奔放さ”“庶民性”“親しみやすさ”が、これまで一般国民の高い支持を獲得してきた要因でもあるとされています。
なお“南アフリカで一夫多妻制は合法だが近代化が進み、また欧米風のライフスタイルが根付く中で、実際には少なくなりつつある。また2010年の統計によれば、南ア国民の4分の3近くが、一夫多妻に反対だと回答しており、女性では反対の割合は83%となっている” 【4月22日 AFP】とのことです。
12月に行われた与党アフリカ民族会議(ANC)の議長選に先だっては、12頭の牛をいけにえにした伝統儀式を行って話題となったこともあります。
****南ア大統領、再選願って先祖に祈とう 牛いけにえに****
南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領とその家族が、大統領の続投を祈願するために地元の村で行った伝統儀式で12頭の牛をいけにえにしたと、同国のメディアが26日に報じた。
現地紙タイムズによると、地元クワズール・ナタール州ヌカンドラ村の儀式では一族の長老が、12月に行われるアフリカ民族会議(ANC)の議長選においてライバル候補からズマ大統領を守り導くよう、先祖に祈とうしたという。また同国の日刊紙スターは、出席者には牛の丸焼きと伝統的な醸造酒が振る舞われたと伝えている。
タイムズ、スター両紙は1面に、ズマ大統領がヒョウ革でできたズールー戦士の装束を身にまとい、槍と盾を振り回している姿を掲載した。ANCの関係者はこの儀式には参加しなかった。
ANCの次期議長選が迫る中、ズマ大統領支持者の一部はこの数か月間、鞍替えしてカレマ・モトランテ副議長の支持にまわり、公然とズマ大統領の退陣を求めている。経済の停滞や高い失業率、汚職問題など喫緊の課題が目白押しの中、ズマ大統領はリーダーシップを問われて非難され、再選に向けて苦戦している。
また今回儀式が行われたズマ大統領の地元のンカンドラ村には、警備システムに2千800万ドル(約23億円)を投じたとされる大統領の自宅があり、議論を呼んでいる。
支持率の低迷にもかかわらず、政治評論家らはズマ大統領のANC議長再選を予想しており、また南アでは与党ANCが圧倒的優勢にあることから、2014年の大統領選でも必然的に再選されるだろうとみている。【11月27日 AFP】
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【ネルソン・マンデラの独特の輝きが消えつつある】
牛のいけにえが功を奏したのか、ANC議長選挙では圧勝しました。
****南アフリカ:ズマ大統領続投へ 与党議長選で勝利****
南アフリカの与党・アフリカ民族会議(ANC)は18日、ブルームフォンテーンで開催中の党大会で議長選を行い、現職のズマ大統領(70)がモトランテ副大統領(63)を破り再選した。任期は5年。議長再選でズマ氏は任期が切れる14年以降も大統領職を続投する可能性が高まった。
ズマ氏は再選後の演説で団結を呼び掛けた。ANCは今年で結成100年。反アパルトヘイト(人種隔離)闘争を率い、94年の全人種参加の初の国政選挙で圧勝、ネルソン・マンデラ議長が黒人初の大統領に就任した。民主化後の4回の下院選でいずれも6割以上の議席数を占め、安定与党として国政を主導してきた。
しかし、近年は度重なる党関係者の汚職に非難が集中。宗教指導者らがモラル低下歯止めを要請する異例の書簡を大統領に送った。経済格差は民主化以前より拡大したとの指摘もあり、今年夏から秋に主要産業の一つのプラチナや金の鉱山で賃上げ要求ストが続発した。党風や政策の刷新に本腰を入れられるかが喫緊の課題だ。【12月19日 毎日】
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マンデラ議長のもとで反アパルトヘイト(人種隔離政策)闘争を展開したアフリカ民族会議(ANC)は南アフリカにあっては今も他を寄せ付けない大きな力を有しています。
ただ、権力を長く維持している現在は、利権獲得のための装置となっている・・・といった批判も聞かれます。
南アフリカにおける経済格差、腐敗・汚職などの問題、プラチナ鉱山で賃上げ要求スト弾圧などについては、9月1日ブログ「南アフリカ 労働争議で警官隊発砲 検察は労働者側を起訴」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120901)でも取り上げました。
****マンデラ時代の輝きを失う南アフリカ****
ネルソン・マンデラの独特の輝きが消えつつある――。先週末、94歳の元南アフリカ大統領が肺感染症を再発し、妻のグラサ・マシェルさんはインタビューで悲嘆の表情を見せた。同様に、アパルトヘイト(人種隔離政策)後の南アフリカの輝きが色あせつつあることを多くの国民が嘆いている。
■最大の危機に直面する政権与党
政権与党のアフリカ民族会議(ANC)は今週末、党首選出のための会議を開く。ただ、党員にとって心を痛める出来事が2つ重なった。一つは国に勇気をもたらした偉大な指導者が死の床にあり、人種融和という遺産も危機にさらされていること。もう一つは、国内の不満が高まり、設立意義も崩壊しつつあるANCを率いるズマ大統領が、党首続投を狙っていることだ。
ANCは今や、支持層が新興実業家やリベラル層、大衆迎合的な過激派、労働組合などに分裂し、1994年に黒人政権に移行して以降、最大の危機に直面している。この結果、ズマに対抗してモトランテ副大統領も党首選への立候補を表明する事態になった。
ズマ大統領は強権的で、地方票を固めたことでほぼ勝利を確実にしている。にもかかわらず、党首選を実施すれば党内の亀裂を深める可能性が高く、国全体への悪影響も懸念される。
南アフリカは危機のさなかにある。教育制度は崩壊し、貧困と失業が増加。国の屋台骨を支えてきた資源産業は非合法的なストライキに苦しんでいる。
ズマ氏が党首選で勝利を収めれば、14年に実施される総選挙に出馬し大統領に再選される可能性が高い。そうなれば閣内の権力闘争や、理念よりも利権を重視する弱体政権がさらに7年続くことになる。
■ズマ氏勝利でANC分裂も
政治アナリストのオーブリー・マツィキ氏は「ANC内部が不安定なのだから、国力を高められる政治組織にはなれない。生活向上という観点では、誰が大統領になっても国民の期待に応えられないだろう」と話す。
同氏によれば、国民は日々、徐々に進行していた危機が急激に悪化するきっかけになる「ブラック・スワン」が起こる可能性を認識しているという。ズマ氏などが国全体のこうした雰囲気を無視しているように思えても、ANC内部には別の考え方をするグループもある。
こうしたグループは社会にまん延する不満の深刻さを認識し、ズマ氏が党首の座を維持すれば14年の(総選挙での)ANCの得票率は60%以下に落ち込むと予想する。これは94年に初めて全人種参加の選挙が実施されて以来、政権を維持してきた同党の優位を脅かす水準だ。
あるANC幹部は「(ズマ氏は)危機を認識していたとしても、解決策を持たない。南ア経済は低迷し、我々は仕事を失う。これを見過ごすわけにはいかない」と述べ、「独自に実施した調査では、党首が交代しなければANCは大きく支持を失うことが示されている」と明かした。
したがって、ズマ氏が勝利すればANCの内部分裂を招く可能性は、前回の選挙前の状況よりも高いかもしれない。白人を主な支持基盤とする野党の民主同盟の大躍進につながる可能性もある。ANCに反対する声が社会全体に広がっていることは、公共サービスに対するデモや今年相次いだストライキで顕在化している。【12月13日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【ANC議長再選で大統領再選も手中に】
上記のような危機感にもかかわらずズマ大統領がANC議長に再選され、次期大統領選での再選もほぼ確実にした訳ですが、これによって南アフリカの混迷はまさます深まったとも言えます。
****ズマ大統領の続投濃厚 南ア、貧困対策が急務****
南アフリカ与党、アフリカ民族会議(ANC)議長(党首)に18日、現職のズマ大統領(70)が再選され、2014年以降の大統領続投の可能性がさらに高くなった。
白人支配体制が終結して18年が過ぎたが、人種間の格差は深刻なまま。黒人貧困層からもANCに批判が高まっており、ズマ氏には、悪化した経済の再建とともに貧困対策が急務となっている。
南アでは8月の警官隊による鉱山労働者34人の射殺事件後、貧困層の不満が噴出し、ストライキが鉱業分野から製造業、農業にまで拡大。スト頻発の影響で今年第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は、第2四半期の3.4%から1.2%へと大幅に減速した。
中部ブルームフォンテーンで開かれたANC全国大会で副議長に選ばれ、14年以降の副大統領最有力候補となったラマポーサ氏は、元ANC書記長の実業家。ズマ氏には、経済通を要職に起用することで経済対策を強化し、「海外の投資家らを安心させたい狙いがある」(地元記者)とみられている。
アフリカ最大の経済大国南アは1994年の民主化後、黒人優遇策がとられ、「ブラック・ダイヤモンド」と呼ばれる黒人中流層も生まれた。ただ貧富の差は極めて大きく、昨年の国勢調査によると、白人世帯の年間所得は平均で黒人世帯の約6倍。人口の約8割を黒人が占める南アの失業率は昨年、29.8%に達した。
頻発したストは元ANC青年同盟指導者のマレマ氏の呼び掛けで拡大した側面もある。ズマ氏と対立しANCを追放されたが、過激な主張で黒人貧困層の絶大な人気を誇る。労働者の多くはANCの支持基盤である南ア最大の労組団体、南ア労働組合会議の指示を無視し、ストを続けた。
貧困家庭出身のズマ氏も貧困層の強い支持を保ってきたが、故郷クワズールー・ナタール州の自宅周辺が多額の公金で改良された疑惑が大会前に発覚。幹部らの汚職問題に加え、激しい党内抗争もANC支持者の反発を招く要因だ。
現在、入院中のマンデラ元大統領(94)の指導でアパルトヘイト(人種隔離)と闘った歴史を持つANCに対抗できる政党は存在せず、14年の総選挙もANCの勝利は確実。ただズマ体制のまま臨めば、議席を減らすとの観測も出ている。【12月20日 日経】
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頻発したストを指導したとされる元ANC青年同盟指導者のマレマ氏というのも、ズマ氏以上に過激な黒人至上主義を煽る人物であり、南アフリカの将来を託すような人物ではありません。
これではマンデラ元大統領も安心して療養してはいわれません。奇跡的な病状回復も、そうした南アフリカの明日への不安感から実現したものかも。