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(「全能神」の集会のようです。 写真は【12月19日 Recrd China】http://www.recordchina.co.jp/gallery.php?gid=67607&type=0&p=1&s=no#tより
教団では迫害に備えて、身元が分かる本名で呼び合うのではなくというコードネーム(ニックネーム)を使用しているそうで、革命前の中国共産党にも似ているとか。(写真では参加者の顔は消してあるようにも見えます) 終末論は大ヒットした映画「2012」から取ったものだそうです。今のところは、そんな大きな組織のようにも思えませんが、信者が迫害を神の試練とみなしているため、弾圧を受けるとますます強固に教団を信じるようになるとも。【12月21日 NewSphereより】)
【「世界終末日」騒動】
「12年12月21日に世界が滅びる」というマヤ暦の終末論なるものが流布され、世界各地で騒ぎがありましたが、特に大きな混乱が見られたのがロシアと中国でした。
“終末論が騒ぎになる中ロ両国には、一向に改まらない政府の腐敗や広がる貧富の格差、抑圧的な独裁体制という共通点がある。国民が希望を持てない国家の深刻な「病」と、荒唐無稽な終末論の広がりは決して無縁ではないだろう”【1月2日号 Newsweek日本版】
****マヤ暦「世界終末日」へ、中国で騒ぎ広がる****
古代中米で栄えたマヤ文明の暦に基づき、今月21日が「世界終末日」になるとのうわさが中国でも広がり、買い占め騒ぎなどが起きている。
国営メディアが「ただのデマだ」と市民に平静を求め、天文学者が異常気象の出現を否定する声明を出すなど当局は打ち消しに躍起だ。
今月に入り、インターネットや口コミで「地球に別の星が衝突する」「地球は闇に包まれる」といった話が拡大。浙江省では「中に入っていれば大災害に耐えられる」というふれこみで、直径約5メートルのカーボン繊維製の球体が売り出された。「ノアの方舟」と名付けられ500万元(約6600万円)するが注文が殺到しているという。河北省でも農民男性が180万元(約2400万円)を投じ、直径約4メートルの球体を作った。
ネット上では懐中電灯や非常食などが入った「終末日避難セット」が大人気。「暗闇対策」で住民がろうそくやマッチの買い占めに走る騒ぎも起きた。
こうした事態を受け、北京天文台の館長は10日、ラジオ番組で「21日は、ごくありふれた一日になる」と強調。中央テレビは14日、「デマに惑わされないように」と呼びかけた。【12月14日 読売】
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国連の名称とロゴマーク入りの「ノアの箱舟 乗船券」なるものも出回ったようですが、額面が100億元(約1350億円)で、中国のオークションサイトでは10元(約135円)前後で大量に売られているというでしたので、こちらはお遊び・ジョークの類でしょう。
【“邪教”弾圧 「江沢民時代の再来」】
その中国では、「全能神」と呼ばれるキリスト教系の新興宗教が終末論を煽ったとされています。
習近平政権は共産党支配に刃向う姿勢を見せる「全能神」を“邪教”に指定し、取り締まりを強化しています。
****「全能神」を大量拘束 新興宗教への弾圧強める中国指導部****
11月中旬に発足した中国の習近平(しゅうきんぺい)指導部は、新興宗教への弾圧を強め、27日までに内陸部を中心に活動するキリスト教系組織「全能神」の関係者1300人以上を拘束した。中国国営新華社通信などが伝えた。
拘束理由は「世界終末論を流布し、社会秩序を乱した」としているが、貧困層を中心に組織の影響力が拡大することに対し、共産党政権が危機感を持ち始めたのが原因と指摘する声もある。
「全能神」を大量拘束
12月になってから、国営中央テレビ(CCTV)などの官製メディアは、青海省、福建省、重慶市、内モンゴル自治区など全国各地で全能神の拠点が次々と摘発され、公安当局が布教活動のための横断幕、パンフレット、書籍を大量に押収、教団幹部を拘束したニュースを大きく伝えている。
同時に、政府系インターネットのニュースサイトなども特集を組み、「全能神の教祖は精神疾患の患者」「教団内部の男女関係は大変乱れている」「多くの詐欺事件に関与した」などと喧伝し、全能神のネガティブキャンペーンを展開している。
江沢民(こうたくみん)時代の1999年に全国で展開する気功団体の「法輪功」が邪教と指定され、関係者が大量逮捕されたことがあったが、今回の全能神への弾圧は法輪功の時と非常に似ていると指摘する宗教関係者が多い。
今回の1300人を超える大量拘束者の中には、末端の信者も多く含まれるとみられる。「全員の犯罪証拠を固めたとは思えない。公安当局のやり方は中国の国内法に違反している可能性がある」と指摘する人権活動家もいる。
宗教を求める貧困層
全能神は80年代末に中国北東部の黒竜江省で生まれた新興宗教で、イエス・キリストを信仰するほか、共産党を「大紅竜(大きな赤い竜)」という隠語で表現し、「大紅竜を殺して全能神が統治する国家をつくろう」などと主張している。90年代に「邪教」に指定されたが、全能神の主要幹部らは2001年に米国へ亡命し、ニューヨークに本部を置いて中国国内向けの布教活動を続けている。
今秋以降、全能神は古代マヤ文明の暦から「12月21日に世界の終末日が訪れる」との噂が中国国内で広がっていることを利用し、「信教すれば助かる」などと布教活動を活発化させ、信者数を急速に増やしたという。
中国国内では、貧富の差の拡大や将来への不安などから貧困層を中心に宗教を信仰する人が急速に増えているが、政府の厳しい管理下にある仏教、キリスト教など伝統宗教への入信は制限が多いため、多くの新興宗教が生まれた。
江沢民時代の再来
無神論を唱道する共産党は宗教に対し非常に厳しい政策をとってきたため、中国における新興宗教はほとんど邪教と認定された。1989年から2002年まで13年間続いた江沢民政権は宗教弾圧に最も熱心で、10以上の宗教団体を邪教と指定し厳しく取り締まった。
その後に登場した胡錦濤(こきんとう)政権は、弾圧の手を若干緩めた。共産党関係者によれば、チベット自治区書記の経験を持つ胡錦濤氏(70)は「宗教は弾圧すればするほど、その影響力は逆に大きくなる恐れがある」との考えを持っているという。党総書記在任期間の10年間、胡氏はチベット仏教やイスラム教に対して厳しい政策をとり続けたが、新しい「邪教」の指定を見送り、大量逮捕もしなかった。
今回の全能神の全国一斉取り締まりは、習近平総書記(59)の指示によるものとみられる。共産党の求心力低下への危機感から、国民に対し思想教育を再び強化したいとされる習氏は、まず、共産党の教えと矛盾する「邪教」の一掃から着手したようだ。宗教関係者の間では「江沢民時代の再来」と危惧する声が出始めている。【12月30日 産経】
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【貧困層の多くが好景気から取り残されている】
終末論を煽る新興宗教が広がる背景に、改善されないどころか拡大する貧富の格差が存在することは、多くの識者が指摘しているところです。
****中国の貧富の差、世界最大水準に拡大****
中国国内の貧富の差は世界で最も大きい水準にまで拡大しており、貧困層の多くが好景気から取り残されているとの調査結果が、中国家庭金融調査研究センターにより発表された。
同センターによれば、所得格差を測るのに広く使われる「ジニ係数」は2010年の中国では0.61で、危険な水準との境界線とされる0.40を大きく上回った。ジニ係数は0から1のスケールで表され、0は完全な平等を、1は完全な不平等を示す。
国民の不満をかわすことに躍起な中国共産党にとって、貧富の格差拡大は大きな懸念事項だ。国民の不満が募れば13億人の人口を抱える同国での社会不安につながりかねない。中国政府は2000年にジニ係数を0.412と公表して以降、10年以上のあいだ同国全体の係数を発表していないことからも、格差拡大が政府にとって繊細な問題であることがうかがえる。
世界銀行がウェブサイトに掲載している各国のジニ係数を基にすると、中国は2010年の時点で貧富の差が大きい上位16か国に入ることになる。
中国家庭金融調査研究センターは、西南財経大学と中国人民銀行(中央銀行)運営の金融研究機関によって創設された学術研究機関。【12月11日 AFP】
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“ジニ係数は所得の定義や世帯人員数への依存度が大きいので注意が必要である”【ウィキペディア】ということで、単純な国際比較には注意を要しますが、厚生労働省は日本のジニ計数については、税や社会保障による再分配を考慮した後の数字として、0.32程度の値を公表しています
“社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4である”【ウィキペディア】ということからすれば、今回発表された中国の“0.61”という数値かかなりの危険域にあると思われます。
むしろ、10年以上公表していなかった数字を、しかもかなり問題を呼びそうな数字をどうして今公表したのか・・・ということが訝しく思われます。単純に情報公開が進んだということでしょうか?しかし、中国ですから・・・・。
また、上海都市部と甘粛省農村部では、所得格差が9.3倍になっているとの数字も公表されています。
****所得格差、最大9.3倍=上海市都市部と甘粛省農村部―中国****
中国社会科学院は24日までに公表した「2013年社会情勢分析予測(社会青書)」で、全国31省・市・自治区の所得格差が11年時点で、最大9.3倍近くに達していたことを明らかにした。
青書によると、最高だったのは上海市の都市部で、11年の1人当たり平均可処分所得は3万6230元(約49万円)。一方、最低だったのは甘粛省の農村部で、1人当たり純収入は3909元にとどまった。【12月24日 時事】
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【「公務員は皆汚職にかかわっている」】
貧富の格差と並んで国民の不満を高めているのが、汚職・腐敗の蔓延です。
こちらについては、習近平指導部は是正の姿勢を示してはいます。
ただ、“国営新華社通信などの中国メディアは今月に入ってから連日、汚職官僚摘発のニュースを大きく伝え、習近平・新指導部を「腐敗と真剣に戦っている」と持ち上げている。しかし、摘発された幹部の大半は胡錦濤国家主席が率いる共産主義青年団(共青団)派につながっている人物で、反腐敗の名を借りた新たな党内の主導権争いではないかとの見方も浮上している”【12月9日 産経】といった見方もあるようです。
それはともかく、汚職・腐敗の温床となる「無駄な慣例」廃止は、それなりに社会的影響を与えているとの報道もあります。
****中国:無駄廃止で「官」接待産業に打撃****
11月に発足した中国の習近平(しゅう・きんぺい)共産党指導部が、党や人民解放軍に「無駄な慣例」を廃止するよう通知したことを受け、これまで「官」相手に潤ってきた産業が打撃を受けている。党や政府の会議で議場に飾られる生花の売り上げが激減。贈答や宴会で使われる白酒メーカーの株価も下落した。中国メディアは「綱紀粛正で官界消費を断つべきだ」と促している。
中国では、党や政府の会議などで会場に花を飾ることが多い。特に年末は会議が多く、生花店には書き入れ時だ。だが、習指導部が今月4日に公表した無駄な慣例を減らすよう求めた通知の影響で、党や政府の注文が激減。中国メディアによると、広東省広州市では売り上げが例年の半分以下になった生花店も出ているという。
また、宴会や贈答で人気の白酒メーカーも影響を受けている。今月22日、軍の最高指導機関である党中央軍事委員会が無駄な宴会や接待を減らすよう通知。それを受け、証券市場ではトップブランドの「貴州芽台(マオタイ)」など5大メーカーの株価が軒並み3〜5%下落した。投資家の間で「軍などの公費を使った高級酒のまとめ買いがなくなれば業績への影響は避けられない」との見方が広まったためとみられる。
中国では(1)公費による外遊(2)公用車の使用(3)公費接待−−の「三公」消費が、中央政府だけで11年は93億6400万元(約1270億円)。地方政府などを含めるとさらに膨らむという。市民の間では公務員の浪費に対する不満が根強いうえ、生花店や白酒メーカーに対しても「このような消費に頼っていて良いのか?」(経済紙・第一財経日報)と批判の声も上がっている。【12月29日 毎日】
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しかし、「公務員は皆汚職にかかわっている」と言われる“汚職文化”の中国で、どの程度実効が上がるのか・・・疑問視もされているところです。
****汚職は文化!?:中国で地方幹部の不祥事が次々発覚****
中国で習近平(しゅう・きんぺい)新指導部の発足後、地方の共産党幹部による不祥事が次々に明らかになっているが、新たに深セン(しんせん)市や内モンゴル自治区などでも不祥事が発覚した。中国メディアは「公務員は皆汚職にかかわっている」と語る広東省の地方都市の元幹部の声を伝えており、中国社会に根ざす「汚職文化」の深刻さが改めて注目を集めている。
香港紙「星島日報」は23日、深セン市人民代表大会(市議会に相当)代表の陳醒光(ちん・せいこう)氏が1年間にマカオに63回通い、ギャンブルで7000万元(約9億5000万円)を使い込んだと伝えた。当局の調査で明らかになり、公職を解かれた。陳氏は主に買い物や休暇としてマカオに出かけ、毎回数万元(約数十万円)の現金を持参していたという。
また地方紙「鄭州晩報」は20日、内モンゴル自治区の温泉で有名な県の副県長が、年末に各地から現地視察に来る幹部の接待のため1日8回入浴を繰り返し、関係者が疲労していると伝えた。同紙は地元関係者の「党関係者の間ではどこでも存在することだ」との証言を紹介し、接待は文化だとする見方を伝えた。
中国共産党機関紙「人民日報」のニュースサイト「人民網」は24日、汚職が明らかになった広東省茂名市の元党委書記が「服やたばこ、時計で皆10万元(約135万円)はかける。私と同じレベルの官僚の中でわいろを受け取る人物は8割はいるだろう。村長から国のリーダーまで、一体誰が誰より潔白だというのか」と発言したと伝えた。【12月24日 毎日】
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共産党指導部の中では一番庶民的で清廉とされている温家宝首相一族の不正蓄財をニューヨク・タイムズが大きく報じて問題となったこともあります。そもそも、共産党幹部の給与がどうなっているのかは知りませんが、党幹部の子弟の多くが多額の支出を要する海外留学などしているところを見ると、汚職・不正は党指導部から地方末端に至るまで・・・という感はあります。
【“中華民族の偉大な復興”】
習近平総書記は就任にあたって、「私は、中華民族の偉大な復興こそ、中華民族が近代以来抱いてきた最も偉大な夢だと思う」「新中国成立から100年後(2049年)には、調和のとれた社会主義近代化の国家目標は必ず実現され、偉大な復興の夢は必ず実現されると信じる」と語っています。
中国が深刻な国内問題を抱えていることは皆が指摘するところですが、それで内部崩壊に至るのか、あるいは問題を抱えながらもアメリカに次ぐ大国として国際的影響力を更に高めるのか・・・そのあたりについては、いろんな意見があるところです。
個人的には、なんだかんだ言いつつも、現体制が当分続くのだろう・・・とは思っています。
しかし、絶望的な貧富の格差、蔓延する汚職・腐敗、広まる新興宗教、終末論に走る人々・・・と並べると、現代政治の話ではなく、後漢末期の太平道「黄巾の乱」、元末期の白蓮教徒「紅巾の乱」、清の「太平天国の乱」といった、千年前、数百年前の中国の話をしているような感じにもなってしまいます。
“中華民族の偉大な復興”とは、南シナ海や尖閣諸島に覇を唱えることなどではなく、中国社会の抱える問題を解消していくことであるはずです。