孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ボツワナ:中国支援へ大統領が注文 モザンビーク:農業開発に現地農民から批判

2013-06-02 22:00:33 | アフリカ

(日本支援で大規模農業開発計画が進むモザンビーク・ナンプラ郊外の風景 “flickr”より By Thomas Stellmach )

【「互恵的な関係を維持するため大切なのは、投資の量ではなく質だ」】
横浜で開催されているアフリカ開発会議(TICAD5)のため、アフリカ関連の記事が多いので、ブログの方もアフリカ関連の話題。

アフリカへの支援・投資で先行する中国を意識した論調が多いことは先日も取り上げたところですが、経済面でも、政治面でも、アフリカの「優等生」とも言われているボツワナ大統領が中国式の支援に対する注文を行っています。

****ボツワナ大統領:中国支援に注文「労働者はいらない****
第5回アフリカ開発会議(TICAD5)のため来日しているボツワナのイアン・カーマ大統領(60)が1日、毎日新聞との単独会見に応じた。

アフリカで存在感を増す中国の支援への期待を表明する一方、「中国が雇用先を確保したいのは分かるが、労働者を連れて来るならそれは『ノー』だ。まず地元の労働力を最大限に活用すべきだ」と訴えた。

最近アフリカでは、中国の支援に対し、雇用も生まず技術移転もなく「これではアフリカが育たない」といった声も上がっている。

カーマ大統領は「互恵的な関係を維持するため大切なのは、投資の量ではなく質だ」と指摘。また「過去の歴史を踏まえれば、アフリカが不当に安い資源や産品の供給源に陥ってはならない」と強調した。

一方、ボツワナは今年2月、地上デジタルテレビ放送の導入で、アフリカでは初めて日本方式の採用を決定。カーマ大統領は「他方式にはない利点がある。導入を検討している他国にも経験をアドバイスしたい」と述べ、日本の技術力に期待。

さらに「東日本大震災という悲劇から、粘り強く復興を遂げつつあることにも敬意を表したい」と述べた。また、核実験など北朝鮮の挑発についても日本の立場を支持し、北朝鮮との外交関係を一時中断したことを明らかにした。

ボツワナはアフリカ南部にあり、人口約200万人。豊富なダイヤモンド資源をてこに経済発展が進み、中高所得国に分類されている。【6月2日 毎日】
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南アフリカ共和国の北隣に位置するのボツワナは、面積は日本の約1.5倍ですが人口は約200万人。
“1966年に英国から独立した後に見つかったダイヤモンドのおかげで経済発展が続き、統治も安定している。1人当たりの国民総所得は2011年現在、7470米ドルで、工業国の南アフリカを上回る。”【6月2日 朝日】ということです。

2002年には、アメリカの格付け会社ムーディーズが、日本国債の格付けを2段階引き下げてA2とすると発表、この措置によって日本国債の格付けはボツワナと同列になったことが話題になったことがあります。

日本国債の問題はさておき、それだけボツワナの国際的信用力が高いことの表れでもあります。
それは、単に、ダイアモンド資源を活用した経済成長というだけでなく、“独立以来、アフリカでは数少ない複数政党制に基づく民主主義が機能している国として知られ、政局はきわめて安定している。実際に独立以来クーデターや内乱は一度も起きたことがない。”【ウィキペディア】という政治的安定性も評価されてのことで、そこから「アフリカの優等生」という評価にもなる訳です。

そのボツワナにも中国は進出しているようで、人口200万人に対し、在留中国人は3万人とのことですが、現地での中国人への風当たりがきついようです。

****ボツワナで中国人のイメージが悪化、出入国検査を強化―中国紙****
ボツワナは面積約60万平方キロメートルという広大な国土に対し、人口はわずか200万人余りだが、在留中国人は3万人にも上る。そのボツワナの首都・ハボローネにあるセレツェカーマ国際空港で、中国人に対する入国時の検査が強化されている。人民日報海外版が伝えた。

現在、中国人が通関する際には空港職員が荷物をひとつひとつ開けて念入りに検査しており、通関に30分近くかかる状態となっている。到着する友人を出迎えに来た人は「白人や黒人には1人としてこうした検査が行われておらず、中国人らしき人が訪れると決まって厳しく検査されている」と話した。

検査が厳しくされている背景には、中国のイメージが悪化していることにある。ボツワナ国内の高層建築物の多くは中国企業が建設を独占している状態で、空港の拡張工事を請け負っているのも中国企業だが、品質問題で完成が遅れている。また、中国人が象牙を違法に持ち出そうとして出国時に押収される事件も起きている。

現地に住む中国人はイメージの回復やボツワナ社会への理解を広めようと尽力しているが、現地主要紙であるデイリーニュースにはほぼ毎日中国人の悪い面を伝える記事が掲載されており、そうした記事が一面に掲載されることもしばしばあるという。【5月29日 Record China】
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前出のカーマ大統領の発言も、こうした中国批判を背景にしたもののようです。
アフリカ要人の中国批判については、習近平国家主席のアフリカ訪問の時期に合わせて、3月12日付英フィナンシャル・タイムズ紙に掲載されたナイジェリアのサヌシ中央銀行総裁による「中国への愛から目を覚ませ」という寄稿文が話題になりました。

“その中で、サヌシ総裁は、「中国はアフリカから一次産品を奪い、工業製品を我々に売りつけている。これはまさに植民地主義の本質の一つである」、「中国はパートナーであるとともにライバルで、植民地主義の宗主国と同様の搾取を行う能力をもつ国とみるべきである」、「中国はもはや同じ“途上国”ではない」など痛烈な批判を行っています。”【4月30日 WEDGE】

アフリカ支援において、日本は単に先行する中国を量的に追いかけるだけでなく、「互恵的な関係を維持するため大切なのは、投資の量ではなく質だ」というカーマ大統領の発言や、サヌシ総裁の新植民地主義批判などを踏まえて、「特にアフリカにおいて中国の存在感が盛んに最近、指摘されている。しかし日本は、パートナーシップとオーナーシップ、アフリカの自主性、そして対等の立場という基本的な独自の理念を掲げて、アフリカ開発会議(TICAD)をしている。間違いなく他の国とは違う、しっかりとウィンウィンの関係を築ける支援、投資だったと思っている。ぜひアピールしたい。」【岸田文雄外相】という方向性を堅持したいものです。

【「政府は当初の約束を果たさないことが多いので信用できない」】
その意味でも注目されるのが、モザンビークで行われている日本・ブラジルによる農業開発計画「プロサバンナ」です。

モザンビークはマダガスカルの対岸に位置する南アフリカの旧ポルトガル領の国ですが、かつては内戦に苦しみ、日本も国連PKO「国際連合モザンビーク活動(ONUMOZ)」に参加しています。
最近では、世界規模の天然ガス資源が注目されており、特に原発停止で天然ガス依存が高まっている日本は、アメリカからのシェールガス輸入、ロシアからの売り込みと合わせて、モザンビークからのガス輸入を視野に入れています。

****眠れる大地、「緑の実験」 モザンビーク穀倉化計画****
広大なサバンナが広がるアフリカ南東部のモザンビーク。手つかずで眠る肥沃(ひよく)な大地を、日本の支援が大穀倉地帯に変えようとしている。かつて援助したブラジルの成功例をモデルにするが、課題も少なくない。

 ■日本、ブラジル例に支援
首都マプトから飛行機と車を乗り継いで約5時間。北部ナンプラ州の農村に入るとイモ類、カシューナッツなどが生い茂る熱帯サバンナ地帯が続いていた。
ナンプラ州周辺には、日本の耕作面積の3倍にも相当する1400万ヘクタールの豊かな土地が広がる。この眠れる大地を「穀物生産基地」にするプロジェクトが、日本とブラジル、モザンビークの三角協力で進行中だ。

計画名は「プロサバンナ」。国際協力機構(JICA)によると、大規模農業で市場販売や輸出に適した作物を大量生産し、農民の生活を向上させる。伝統的な作物に加え、綿花や大豆などを栽培する、と日本側は意気込む。日本の国土の約半分にあたる熱帯サバンナ地域を対象にする。

自信の源は、ブラジルでの成功体験だ。1970年代末、作物栽培に適さないとされた同国中部の「セラード」と呼ばれる熱帯サバンナ地帯で、日本とブラジルが大豆など穀物生産を拡大させる農業開発事業を進めた。79年から22年間に途上国援助(ODA)で約280億円を拠出し、東京都の面積の1・5倍以上にあたる計34万5千ヘクタールを開発。それまで穀物の輸入大国だったブラジルを、世界有数の輸出大国に成長させた。

これを「緑の革命」と自賛する日本が、次の支援先に選んだのがモザンビークだった。JICAなどによると、対象地域の広大な熱帯サバンナ地帯は、セラードと緯度が近く、「お手本」として以前の経験を活用できるという。ブラジルと同じポルトガル語を公用語とし、企業進出や官民の交流などにも都合が良い。

モザンビーク政府の期待も高い。「農家は発展から取り残されてきた。プロサバンナは新しい技術と機会をもたらす。自分たちを養うのがやっとだった土地で、10倍以上の収穫も期待できる」と、農業省の担当者は力を込める。

 ■貧しい農民、強制移転懸念
だが、計画が順風満帆に進んでいるわけではない。
プロサバンナでは、農地として最低でも10ヘクタール以上の耕作面積が必要とされるが、モザンビークでは5ヘクタール以下の畑を持つ小農がほとんど。
同国最大の農民組織「UNAC」は、計画が進めば農民が強制的に移転させられるなどの恐れがあると指摘。さらに「農民が計画に全く関与できていない」と批判している。

対象地域になっているナンプラ州の農村地帯ナミーナの農家を訪ねた。国道から外れて脇道を車で約20分。ジョゼ・ジュマさん(48)一家がくわやすきで畑を耕していた。
「暮らしは決して楽じゃない」。妻と5人の子どもを養うために、計5ヘクタールの畑で米や豆類を栽培するジュマさん。ほとんど自給自足の暮らしで、余った作物を売っても、稼ぎは年間約1万2千メティカル(約4万500円)に過ぎない。

「政府は雇用も増えて生活も良くなると言うが、違う土地に移転させられてまでは望んでいない。この年では農業以外できない。故郷を奪われるのだけはごめんだ」とジュマさん。

大規模農業による環境汚染を懸念する農家も少なくない。別の農家、ジョアナ・アルベルトさん(32)は「環境に配慮するとは言うし、政府の説明は魅力的だ。でも政府は当初の約束を果たさないことが多いので信用できない」と話す。

 ■収入激減の例も
疑心暗鬼になるのは、悪い前例があるからだ。
北西部テテ州のカテメ。豊富な石炭が周辺に埋蔵されていると分かり、2010年、700世帯以上の農家が約40キロ離れた土地に移転を強いられた。

最初は拒んでいたが移転を受け入れた農家のピアソンヌ・パイバさん(34)によると、政府やブラジルの資源会社は「農産物も増え、収入もよくなる」と説明したという。だが、「実際に住むと、説明とはまったく違っていた。農業に必要な水を引く川も近くにない。畑まで4時間も歩かなくてはならない」。

確かに、以前より良い家屋や学校、舗装された道路を手に入れた。だが、肝心の農地は岩だらけだったり、水源が遠かったりして収入が激減する農家が続出。昨年1月、500人以上が資源会社が使用する鉄道や道路を封鎖するなどして、逮捕者が出る騒ぎとなった。政府と住民の緊張関係はいまだにくすぶる。
テテ州のサミュエル・ブルナール事務次官(54)は「この経験をプロサバンナでも役立てて欲しい」と話す。
【5月29日 朝日】 
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「農地を奪われる」と開発計画を批判する農民団体は、TICAD5が開催されている日本へも代表を派遣しています。

****小規模農家は不安=日本の支援に注文―モザンビーク****
日本がブラジルと手を組み農業開発を進めているアフリカ南部モザンビークから農民団体の代表が来日し、第5回アフリカ開発会議(TICAD5)開催中の横浜市で2日、「小さな農家の不安は強い」と日本の支援に注文を付けた。大規模農業開発で土地が取り上げられるのを恐れている。

シンポジウム「食料をめぐる世界の動きとアフリカの食料安全保障」(オックスファム・ジャパン、日本国際ボランティアセンターなど共催)で語った。
自らも家族で畑を耕す小規模農家というモザンビーク全国農民連盟(UNAC)のマフィゴ代表は「アグリビジネス(農業の事業化)も資源開発も一緒だ。農民が大々的に土地を取り上げられることを過去の経験から知っている」と述べ、小規模農家の意見を聞くよう訴えた。【6月2日 時事】
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「開発」における現地住民との対立という問題は、日本国内を含めてきわめて一般的な問題であり、モザンビークの「プロサバンナ」に限った話ではありません。
なかなかすべての関係者が納得する道というのは現実においては困難なことが多い訳ですが、だからといって「開発」を否定して従来と同じ貧困に甘んじることも賢明ではありません。

地元農民の声をよく聞いて・・・と言うしかないですが、つい先ほど放送されていたTV番組で指摘されていたように、一番の問題は、こうした計画批判を日本に来てやるのが効果的だということ、つまり国内にこうした声を吸い上げる民主的な政治システムが存在していないということでしょう。

一昔前であれば、有無を言わさない政府主導の開発で成長するという開発独裁が広く存在し、マクロ的に見れば結果を出していますが、権利意識が高まり、その発信手段も豊富な現在においては、そうした強引な開発はうまく機能しません。
国内に民主的政治ステムが十分に存在していないだけに、支援する日本側も現地対策は慎重に行う必要があります。「政府は当初の約束を果たさないことが多いので信用できない」という不安を払しょくするための、現地政府への強い働きかけも必要でしょう。

アフリカの人々だけで維持できる仕組みの構築が重要
途上国支援においては、資金を出して建設するだけでなく、その後の維持管理をどうするかという点も重要なポイントになります。

****せっかくの支援が無駄に=アフリカ撤退後が肝心―日本のNGO****
第5回アフリカ開発会議(TICAD5)開催中の横浜市で2日、アフリカ支援を行ってきた日本のNGOによるシンポジウムが開かれ、NGOの連合体「ジャパン・プラットフォーム」の柴田裕子海外事業部長は「援助を終え(撤退後)しばらくして現地に行ってみると、せっかく造ったトイレは管理できず使われていなかったり、井戸は壊れて放置されていたりすることがある」と述べ、アフリカの人々だけで維持できる仕組みの構築が重要と訴えた。

エチオピアに逃れていたスーダン難民の帰還事業を行ってきたNPO法人「ADRA Japan(アドラ・ジャパン)」の橋本笙子理事も「援助漬け」で無気力になった人々を立ち直らせるのは難しいと実感した。
しかし、20数年ぶりに故郷へ戻った難民が大地にひざまずいて喜ぶ姿も見た。やがてADRAの現地事務所に「自分が作った農作物を売りに来た元難民も現れ(自立した姿が)素直にうれしかったこともある」と語った。【6月2日 時事】 
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