孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ウィキリークス」事件のマニング被告の裁判開始 英雄か、売国奴か?

2013-06-04 22:17:35 | アメリカ

(マニング被告を支持する人々 横断幕やプラカードには、「Exposing War Crimes is not a Crime!」「Speaking Truth is a Duty」「 Truth is Patriotic」といったアピールが見られます。 “flickr”より By Bradley Manning Support... )

知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題
2010年、内部告発サイト「ウィキリークス」によって膨大な量の米軍機密情報やアメリカ外交機密文書が公開され、世界中にその影響が及びました。

公開された情報には、以下のような情報が含まれています。
2010年4月に公開された、2007年7月12日のイラク駐留アメリカ軍ヘリコプターがイラク市民やロイターの記者を銃撃し殺傷した事件の動画
2010年7月に公開された、アフガニスタン紛争に関するアメリカ軍や情報機関の機密資料約75000点以上
2010年10月に公開された、イラク戦争に関する米軍の機密文書約40万点
2010年11月に公開が開始された、アメリカ外交機密文書約25万点
【ウィキペディアより】

「ウィキリークス」による秘密情報の公開については賛否両論ありますが、明らかにされた情報によって隠されていた戦争の真実を知ることができたのも事実です。

****ウィキリークス:強姦、殺害…イラク戦争の秘密文書公開****
内部告発文書をインターネット上で公開する民間ウェブサイト「ウィキリークス」は22日、イラク戦争に関する秘密文書約40万件を公開した。事前に文書の提供を受けた英ガーディアン紙によると、これまで明らかになっていない民間人犠牲者が1万5000人以上いることなどが文書から判明した。

同紙の分析によると、イラク軍や警察当局により組織的に行われていた拷問や強姦(ごうかん)など数百件の事案について、米政府は情報を得ながらも放置していた。むち打ちや電気ショックなどによる拷問で、容疑者が死亡したことを報告する電報も6件見つかった。

また、中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」も22日、米軍の検問所で民間人数百人が殺害されていたことなどを報じ、「驚くべき新事実」とした。

一方、米ニューヨーク・タイムズ紙は、イラクの武装勢力指導者がイラン革命防衛隊とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによって訓練されたことを示す公電があったと報じた。

米国防総省のモレル報道官は記者団に、「許可なく秘密情報を公開したことを強く非難する」と語ったうえで、「流出したのは観察に基づく生情報にすぎず、全体の状況を説明するものではない」と強調した。

ウィキリークスは今年7月、アフガニスタン戦争に関する秘密文書約7万5000件を公開。米捜査当局は、別の情報流出事件で拘束されている情報担当の陸軍上等兵がすべてに関与したとみて調べている。【2010年10月23日 毎日】
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こうした情報リークが「政治の透明化」に資するという評価の一方で、リーク情報の信ぴょう性に関する疑問もあります。

****リーク製造工場」ウィキリークス、謎めいた組織とその成果****
・・・・アイスランドのアクレイリ大学のビルギル・グドムンドソン教授(メディア論、政治学)は「機密文書の流出は良いことだ。世界中の政府や当局者に圧力をかけ透明化が進む可能性がある」と評価した上で、「しかし、そういった行為には大変な責任が伴う。(漏えいされた文書は)どういった選別の過程を経たものなのか、またこの組織が最善の選別をしたと信用して良いのか、といった疑問を投げかけることもできる」と語った。(後略)【10月25日 AFP】
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また、「世界的なのぞき行為」とも評されるような、外交や政治決定の舞台裏の暴露は、外交の機能麻痺、情報の今まで以上の不透明化をもたらす懸念もあります。

****ウィキリークス爆弾で外交は焼け野原に*****
・・・・アサンジは7月にアフガニスタン関連の機密文書を暴露した後、「透明性の高い政府こそが正当な政府だ」と主張していた。だが透明性の高い外交とは、建前しか存在しない「報道発表」レベルであるのが現実だ。

今後、米国務省は同盟国との率直な会話や、敵との秘密裏の交渉が行いづらくなるだろう(アメリカは口が軽いと分かっていたら敵が交渉に応じるわけがない)。

さらに厄介なのは、米政府内での率直なやりとりさえ難しくなること。リーク防止策として文書の機密性が高められ、出回る文書が少なくなり、重要性の高い情報については文書という形で記録されること自体がなくなるだろう。
 
(中略)ベトナム戦争に関する国防総省の機密書類「ペンタゴン・ペーパー」や、ウィキリークスが今年になって暴露したアフガニスタンやイラク関係の文書は、非難の的となっている戦争の内情を暴露したり、既知の事実を再認識させるのに役立った。
だが今回の暴露は、極秘の外交交渉という考え方自体に喧嘩を売っているようなもの。こうしたやり方は間違っているだけでなく、馬鹿げている。(後略)【2010年11月30日 Newsweek】
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“知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題”という、非常に判断の難しい問題です。

****ウィキリークスへの圧力懸念=表現の自由阻害の恐れ―人権高等弁務官****
ピレイ国連人権高等弁務官は9日、当地での記者会見で、内部告発サイト「ウィキリークス」への寄付が、金融機関による口座閉鎖などで妨害されている問題について、「情報公開への検閲ともいえ、表現の自由を認めた権利に抵触している可能性がある」と述べ、ウィキリークスへの圧力に懸念を示した。

弁務官は、同サイトによる機密情報の暴露が「知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題を提起した」と指摘。創設者のアサンジ容疑者が情報暴露に関する罪を犯した場合は、「公正な手続きに基づく裁判がそのバランスを判断する」と語った。【2010年12月10日 時事】 
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英雄か、売国奴か?】
こうした大きな問題を投げかけた内部告発サイト「ウィキリークス」に機密情報を漏えいし、機密情報不正入手の罪などに問われている米陸軍情報分析官のブラッドリー・マニング上等兵(25)の軍法会議が3日、アメリカ・メリーランド州のフォートミード陸軍基地で始まりました。

****ウィキリークス事件、マニング被告の公判始まる****
内部告発サイトのウィキリークスに、膨大な量の米軍機密情報を漏えいした罪で訴追されたブラッドリー・マニング陸軍上等兵(25)の裁判が、逮捕から3年以上を経た3日、ついに始まった。

米国史上最大規模の機密漏えいとなったこの事件の公判は、首都ワシントンD.C.近郊のメリーランド州フォートミード陸軍基地で初日を迎えた。
公判に出廷した、顔つきに幼さの残るマニング被告は冒頭陳述で、自身に対する罪状のうち10件については有罪を認めた。これらの罪で有罪になれば禁錮20年の刑を受ける可能性がある。

しかし、罪状のうち最も刑が重く、有罪になれば残りの生涯を全て刑務所で過ごすことになる可能性もある「敵対勢力ほう助」罪については無罪を主張した。

初日の公判には国内外から報道陣が詰めかけ、保安検査場を通過し法廷に入るまで列に並んで2時間待たされるという極めて厳重な警備が敷かれた。法廷内では携帯電話などの電子機器の使用が禁止された。

マニング被告は2009年11月から、2010年5月にイラクで逮捕されるまでの間に、イラクとアフガニスタンからの機密軍事記録に加え、世界各国からの外交公電合わせて約70万件をウィキリークスに提供したとされている。
マニング被告の支援者は同被告を内部告発者と捉えている。フォートミード基地の外では降り続く雨の中、約30人のデモ隊が「ブラッドリー・マニング、英雄」と書いた看板を掲げ、「ブラッドリーを釈放せよ」と叫んだ。

公判は12週間にわたって行われる予定。証拠の一部は、国家安全保障上の理由により非公開で提示されることになっている。【6月4日 AFP】
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「敵対勢力ほう助」罪とは、国際テロ組織アルカイダやウサマ・ビンラディン容疑者らに意図的に情報を漏らしたとするもののようですが、それはいささか強引な罪状にも思えます。

「ウィキリークス」の評価同様に、マニング被告についても、“英雄か、国家の敵か”・・・ふたつの評価があります。

****英雄か、売国奴か?ウィキリークスに軍事機密を流した米兵の実像とは****
■ハッカーから米軍分析官に・
・・・マニング被告はオクラホマ州クレセントで、米国人の父親と英国人の母親の間に生まれた。両親は後に離婚。被告は幼いころからパソコンに興味を示し、初めてウェブサイトを作ったのは10歳のときだったという。

17歳までに同性愛者であることを公表。オクラホマ市(Oklahoma City)内のソフトウェア企業に就職したものの4か月で解雇され、ハッカーの世界に足を踏み入れた。その高度な機密情報アクセス技術が認められ、米軍入隊後は米軍情報部で戦場での情報分析官となる。

「私は、物事がどのように動いているかを常にはっきりさせたいタイプの人間だ。分析官としても真実を解き明かしたいと思っていた」と、マニング被告は予審で述べている。

同性愛者だと公言していたため、訓練期間中には同期からいじめを受けた。上官にも軍の生活に適合できないと判断され、除隊を勧告された。
しかし、被告の高度なIT技術はまさに分析官向きで、除隊勧告は取り消された。

■戦場の現実「心の重荷に」
こうして、イラクに派遣されたマニング被告は、そこで情報分析に当たる中で目撃した出来事に激しい衝撃を受ける。それが、やがて不法に機密情報を入手しウィキリークスに漏えいする動機につながっていった。

バグダッドで米軍の攻撃ヘリコプターが路上の通行人を次々と銃撃し、12人を殺害、子ども2人を負傷させた映像が「心の重荷となった」と、マニング被告は法廷で証言している。「彼ら(米兵)は、守るべき人々を非人間的に扱った。人命を尊重しているとは思えなかった。殺害したイラク人をさして『死にやがった』などと言い、大勢を殺すことができたと喜んでいた」

マニング被告のこうした一面は、被告の支援者らが主張する「米外交政策における最悪の逸脱行為を、良心の声に従って明るみに出した」という人物像と一致する。

■英雄視する支援者たち
かつてベトナム戦争に関する米政府の政策決定を分析した国防総省の文書、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」を米ニューヨーク・タイムズに漏えいした米軍事アナリストのダニエル・エルズバーグ氏は、マニング被告を「英雄」と呼び、ノーベル平和賞に値すると評価している。

被告を支援する「ブラッドリー・マニング支援ネットワーク」には、裁判費用としてこれまでに110万ドル(約1億1000万円)の寄付が集まった。

一方、マニング被告の動機には同意できないと考える米国人も少なくない。被告とはハッカー仲間で、インターネット上でのチャット中に当時イラクにいた被告が胸中をつづったメッセージを読んだ後で米当局に通報したエイドリアン・ラモ氏も、その1人だ。「私が目にした書き込みは、とんでもなくひどい行為をしたという告白だった。対応が必要だった」とラモ氏は証言している。【6月3日 AFP】
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イギリスのエクアドル大使館に軟禁状態のアサンジ容疑者 活動は継続
話の当然の流れで、「ウィキリークス」の創始者であるジュリアン・アサンジ容疑者は今どうなっているのか?・・・という話になります。

2010年12月、スウェーデンでの「性犯罪容疑」で国際指名手配されていたアサンジ容疑者はイギリスで拘束されましたが、その後保釈され、イギリスで審議が行われましたが、12年5月、イギリス最高裁は同容疑者のスウェーデンへの移送を認める決定を下しています。

その後、アサンジ容疑者は南米エクアドルへの亡命を求めてイギリスのエクアドル大使館に匿われています。
エクアドルは、同容疑者がスウェーデンから更にアメリカに引き渡されると公電暴露によるスパイ防止法違反罪などで死刑になる恐れもあることから、「第三国に引き渡さないと保証すれば、アサンジュ氏はスウェーデン当局の調べに応じる用意がある。だが、保証できなければ亡命を認めるべきだ」と亡命を認めています。

一方、イギリス当局はエクアドル大使館が入るビルの周囲に大勢の警察官を配置し、一歩でも敷地の外に出たら逮捕する態勢を敷くというにらみ合い状態になっている・・・・というのが、昨年末の報道でしたが、今も状況は変わっていないようです。
“アサンジュ氏をめぐる攻防は「米英VS.中南米諸国」の様相も帯びてきた”【12年8月24日 朝日】とも。
近況等については、下記サイトに詳しく紹介されています。

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アサンジは大使館で無駄に過ごしているわけではないようです。最近「キッシンジャー・ケーブル」と呼ばれる1973年から76年までの米国の外交公電や諜報機関の報告書など170万点をウィキリークスにアップしています。

これはリークではなく国立公文書記録管理局(NARA)に眠っていた機密期限の過ぎた公文書です。本来は10年以上前に公開されているはずなのに、ずっと放置されたままだったものをウィキリークスが入手し、インデックスをつけてデータベース化して、誰でもネットから閲覧検索できるようにしたものです。”【5月29日 Democracy Now!】http://democracynow.jp/dailynews/2013-05-29*********************
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