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(“flickr”より By 757Live )
【全世界への脅威の一つ】
H7N9型鳥インフルエンザは3月末から4月にかけて中国で感染が拡大し、世界的なパンデミックも懸念されました。
今も完治していない患者がおり、5月31日には上海で38人目の死者が出ていますが、5月中旬以降は新規感染もなく、封じ込めにほぼ成功したようです。
ただ、夏以降に再び感染拡大する危険もあるとのことで、脅威が“終わった”訳ではありません。
****「ピーク越え」は時期尚早=H7N9感染源、鳥が濃厚―WHO****
中国のH7N9型鳥インフルエンザ感染に関し、世界保健機関(WHO)のケイジ・フクダ事務局長補は21日、ジュネーブで記者会見し、新たな感染報告が2週間近くないものの、夏以降に感染例が再び増える可能性もあると警告した。ピークを越えたと考えるのは時期尚早であるとし、各国に警戒を続けるよう呼び掛けた。
フクダ氏は、WHOや中国保健当局などの合同チームが4月に実施した現地調査結果から、現時点でウイルス感染源は鳥の可能性が高いと指摘。「感染源が他にあるかどうかが今後の調査の焦点になる」と述べた。
一方、会見に先立ち中国国家衛生計画出産委員会は感染状況を報告した。確認された計130件のうち、鳥と接触した感染者は69%と説明。「家禽(かきん)が最大のリスク要因」として、生きた家禽を扱う市場の閉鎖が感染拡大防止につながったとの見解を示した。【5月22日 時事】
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このH7N9型鳥インフルエンザの陰に隠れてあまり目立ちませんでしたが、中東・サウジアラビアを中心に、2002年のSARSにも似た新型コロナウイルスによる感染が広がっています。
“コロナウィルスとは、代表的な風邪(呼吸器感染)を引き起こす原因とされているウイルスのことで、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)もこれに含まれる。新型のコロナウイルスは2012年サウジアラビアで発生が報告されて以来、じわじわと報告が増え続けている”【6月5日 医療人材。NET】
この新型コロナウイルス感染は発生地域から「中東呼吸器症候群」と命名され、死者数は31名になっています。
****中東呼吸器症候群、サウジで新たに1人死亡 世界全体の死者51人(“31人”の誤り:筆者注)に****
世界保健機関(WHO)は7日、サウジアラビアで中東呼吸器症候群(MERS)を発症していた男性1人が死亡し、この病気による世界全体の死者は31人になったと発表した。
新たに死亡したのは同国東部アフサーに住む83歳の男性で、先月27日に中東呼吸器症候群を発症し、同月31日に亡くなったという。今年4月には、同じ地域の医療機関で、中東呼吸器症候群の原因となるマーズコロナウイルスの集団感染が発生している。
WHOによると、サウジアラビアでこれまでにマーズコロナウイルスへの感染が確認されたのは41人で、うち26人が死亡している。2012年9月から現在までに検査機関などで確認されWHOに報告された感染者の数は世界全体で55人となっている。
「新型コロナウイルス」と呼ばれていたこのウイルスは先月、感染者が中東地域に集中していることから、「中東呼吸器症候群」ウイルス(マーズコロナウイルス)と命名された。【6月8日 AFP】
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中東ではサウジアラビアのほか、UAE、ドバイで、また中東と人の移動が多い欧州のイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、北アフリカのチュニジアで感染が報告されています。
中東呼吸器症候群は呼吸器だけでなく肝臓や賢蔵や腸などにも感染するおそれがあり、多臓器不全の可能性を持っているためにSARSを上回る脅威になるとして注意が呼びかけられています。
致死率が50%を超え、治療方法、感染防止方法が全く分かっていないことから、WHOのチャン事務局長は5月下旬、「現在私にとって最大の懸念は新型コロナウイルスである。一つの国だけで対処できるものではなく、全世界への脅威の一つである。」と語っています。
ウイルスのヒトからヒトへの感染力が強いと、一気に拡大するおそれがあります。WHOの発表では、いまのところは「人から人に感染する可能性がある」ものの、「ヒト・ヒト感染は限定的」と見られています。
ただ、よく言われるようにウイルスは変異しますので、今後の保証はありません。
****コロナウイルス:人間同士も感染 WHOが可能性示唆****
・・・・WHOは12日の報道声明で、多数の国で感染が同時多発していることから、感染者と長期間、同室で過ごすなど「密接な接触」がある場合、「人から人に感染する可能性がある」と警鐘を鳴らした。その一方、「ヒト・ヒト感染は限定的で、今のところ、ウイルスが大規模な感染を引き起こす能力を持っている証拠は見つかっていない」とも指摘した。
WHOによると、新型ウイルスに感染すると、重い肺炎を発症する場合が多い。感染者の多くは高齢男性。感染経路などの詳しい事情は分かっていない。【5月13日 毎日】
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新型の感染症が起きたとき、世界中への感染拡大のきっかけとなることが懸念されるのが、世界各国から100万人単位の人々が集まり、帰国する、イスラム教徒のメッカ巡礼です。
しかも、今回はメッカのあるサウジアラビアが感染の震源地です。
****メッカ:巡礼イスラム教徒の間に新型ウイルスへの不安****
サウジアラビア西部にあるイスラム教の聖地メッカへ巡礼に向かうイスラム教徒の間で、新型肺炎(SARS)ウイルスに似た新型コロナウイルスへの不安が広がっている。
これまでメッカへの巡礼者2人が新型ウイルスによる感染症で死亡している。6月以降、巡礼者が増えると予想されるため、イスラム教徒が多い国では懸念が強まっている。
「巡礼中は十分に休養を取り、決して無理はしないように」。エジプト保健省は今月中旬、巡礼者に対し、新型ウイルスに注意を呼びかける声明を発表。マスクの着用や手洗いの励行など14項目の予防策を列挙した。21日にはメッカから帰国したチュニジア人男性(66)が新型ウイルスによる感染症で死亡したことが判明した。
新型ウイルスは昨年9月、サウジを訪れたカタール人男性から見つかった。世界保健機関(WHO)によると、感染者は中東や欧州で44人に上り、うち22人が死亡。感染例の半数以上はサウジだ。感染の詳しいメカニズムは不明だが、WHOは人から人に感染する可能性を指摘している。
メッカでは例年、ラマダン前後に巡礼者が多く、今年は6〜8月に巡礼者が増えると予想される。さらに10月には200万人以上が集うハッジ(大巡礼)が控えている。ただ、イスラム教徒の義務でもある巡礼を規制するのは難しく、各国ともサウジへの渡航については制限していない。【5月24日 毎日】
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“イスラム教徒の義務でもある巡礼を規制するのは難しく”とは言うものの、今後の状況次第では対策が必要になります。
【「顧みられない熱帯病」】
感染症関連で、明るい話題を目にしました。
貧困に苦しむ途上国では3大感染症(エイズ、マラリア、結核)による犠牲者も多いのですが、三大感染症以外にも、熱帯地域の途上国では貧困層を中心に多くの寄生虫、細菌感染が蔓延しています。
ただ、こうした感染症の対象となっている熱帯地域貧困層は購買力に乏しいため、医薬品業界としては薬剤開発のインセンティブに欠け、「顧みられない熱帯病」とも呼ばれています。デング熱、狂犬病、メジナ虫症などがこれにあたります。
(デング熱:2010年10月13日ブログ「アジア各国でデング熱の感染拡大」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101013)
*****途上国向け新薬、一丸で 官民で95億円基金 欧米追い「熱帯病」治療薬****
途上国向けの新薬開発を支える基金を、政府と製薬業界が今春つくった。今後5年で官民で計95億円を出資し、途上国に患者がたくさんいるのに、よい治療法がまだない病気の薬を業界横断で研究するためだ。新薬を足がかりに、欧米に比べ出遅れるアジアやアフリカの成長市場に入り込むねらいだ。
「1社だけでは難しい途上国向けの新薬開発の橋渡し役になる」。塩野義製薬の手代木功社長(日本製薬工業協会長)は、横浜で1日あった第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の会場で、基金設立への期待をこう語った。
基金の名称は「グローバルヘルス技術振興基金」。政府と、塩野義、アステラス製薬、エーザイ、第一三共、武田薬品工業の大手製薬5社と、米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ夫妻の「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が設立した。
年間約4万人が亡くなる「アフリカ睡眠病」など、途上国でたくさんの患者が苦しむ病気は、世界保健機関(WHO)から「顧みられない熱帯病」と呼ばれている。基金はこうした病気の治療薬を、個別企業や研究機関の枠を超えて研究する資金を提供する。
開発に成功したら、低所得層が使えるようにほぼ原料費で薬を売る計画だ。アステラス製薬の野木森雅郁会長は「短期的な利益は難しいが、長期的にはビジネスに生きる」と話す。
同様な取り組みは、欧米が先行する。米英政府と世界の製薬大手13社は昨年、途上国の「顧みられない熱帯病」17種のうち10種の病気を20年までになくすように協力すると宣言した。
■将来の市場拡大、視野
官民で新たに基金をつくる背景には、製薬会社の海外展開の遅れへの危機感がある。日本の製薬会社は海外より規模が小さく、途上国に目を向ける余力がなかった。最大手の武田の長谷川閑史社長は「(途上国では)経験や実績に乏しく、先進国でのとりくみとはかけ離れている」と話す。
途上国向けは、細菌やウイルスで発症する感染症の薬の開発が求められる。先進国向けと同様に大きな研究費が必要だが、現時点では実用化しても売値が安く、利益を見込みにくい。
一方、途上国は大きく伸びていく市場だ。調査会社「IMSインスティテュート」によると、アジアやアフリカなどの途上国の医薬品市場は11年に約1900億ドル(19兆円)だが、5年後にほぼ倍の3450億ドル以上に伸びる見通し。
政府が5日公表した成長戦略の素案でも、途上国向けの医薬品開発が盛り込まれた。エーザイの内藤晴夫社長は「成長の鍵は新興国。感染症患者を減らせば、将来的に現地の購買力がつき、市場も拡大する」と話す。【6月8日 朝日】
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当然、私企業の事業ですので、慈善事業ではなく、なんらかの将来的な見返りを期待しての話ですが、「顧みられない熱帯病」に目が向けられ、患者の手の届く金額で薬剤が供給されることは大きな進展です。