孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ タクシン元首相の「密談テープ」発覚で揺れるインラック政権  バラマキ・大衆迎合批判も

2013-07-15 22:11:36 | 東南アジア

(6月30日の白仮面デモ “flickr”より By theglobalmovement http://www.flickr.com/photos/89734618@N02/9189748643/in/photolist-f14S78-eU3p2p)

【「操り人形の政権はいらない」】
タイでは、街頭での衝突などは最近ないものの、タクシン元首相を巡る「赤シャツ」「黄色シャツ」の対立構造(親タクシンの低所得層の農民や労働者と、反タクシンの軍・枢密院・既得権益層・都市中産階級との対立)は依然として解消されていません。

そんなタイで、今度はタクシン元首相の院政に抗議する「白仮面」デモが行われているそうです。
「白仮面」は、近年「抵抗と匿名の国際的シンボル」として大流行のガイ・フォークスの仮面のことでしょう。

****タイで白仮面デモ「操り人形の政権いらない*****
タイ各地で14日、インラック首相と、首相の兄で「影の実力者」とされるタクシン元首相に反対するデモがあり、「操り人形の政権はいらない」と気勢を上げた。

デモは、参加者が白仮面を着用するのが特徴で、5月から毎週末のように行われている。タイでは2006年ごろからタクシン支持派が赤色、反タクシン派が黄色のシャツを着用し、街頭行動を展開してきた。

白仮面デモの参加者には、「黄色シャツ組」も含まれており、インラック政権は警戒を強めている。【7月15日 読売】
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なお、ウィキペディアによると、ガイ・フォークスは1605年にイングランドで発覚した火薬陰謀事件の実行責任者で、「男、奴」を意味する英語「ガイ(guy)」は、彼の名に由来するとのことです。初めて知りました。

【「気持よく死にたいだけだ。政治にはこだわっていない」】
タクシン元首相は未だ帰国できずにいますが、妹のインラック首相周辺では元首相の帰国が画策されています。
最近も、タクシン元首相自身が登場する「密談テープ」が世間に流布されています。

****タクシン氏「密談テープ」流出=側近と会話?波紋広がる―タイ*****
タイのタクシン元首相と側近が元首相の帰国問題などについて密談しているとされる音声テープが動画投稿サイトに掲載され、波紋が広がっている。

問題のテープはタクシン氏とユタサック国防副大臣が6月に行った会話を録音したものとされる。
テープでは、タクシン氏とされる人物が、同氏の帰国を実現させるのは「あなたの義務だ」と語ると、もう1人が「私はライオンを助けるネズミのようなもの」と応じ、軍幹部らの支持を得てタクシン氏の帰国に道を開く方策を話し合っている。

また、ユタサック氏とされる人物は、タクシン氏が帰国しても、反タクシンの代表格で王党派のプレーム枢密院議長に報復しないとの保証をプラユット陸軍司令官が求めていると発言。タクシン氏とされる人物は「報復しない」と繰り返している。

このテープについてユタサック氏は「自分の声ではない」と否定。しかし、タクシン氏の長男は10日、フェイスブックで「確かに父の声だ」と認めた。長男によると、タクシン氏本人もテープの内容を一部確認したといい、テープは「本物」で間違いなさそうだ。【7月12日 時事】 
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これだけでは、密談の意味合いはよくわかりませんが、下記のタイ関連サイトが詳しく内容・背景・影響などを解説しています。

****タクシン元首相と閣僚が密談? 音声ファイル流出でタイ政権に激震****
タクシン元首相とユタサク副国防相(元国防次官)とみられる人物がタクシン元首相への恩赦やタイ軍人事などについて話し合う音声ファイルがインターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿され、タイ軍が態度を硬化させている。
元首相の帰国がさらに困難になった上、6月末に就任したばかりのユタサク副国防相が強い辞任圧力にさらされ、インラク政権は大きく揺らいでいる。

音声ファイルは2人が6月にシンガポールで会った際に隠しマイクで録音されたとみられ、今月6日に投稿された。ユタサク副国防相はタクシン元首相と会ったことを否定し、音声はねつ造だと主張。タイ政府はこの音声ファイルへのタイ国内からのアクセスを遮断したが、反タクシン派のメディアがファイルを入手し、自社サイトで公開を続けている。

タクシン元首相は2006年の軍事クーデターで追放され、2008年、首相在任中に当時の妻が公有地を競売で取得したことで、懲役2年の実刑判決を受けた。以来、投獄を避けるため、国外生活を余儀なくされている。
2011年の総選挙でタクシン派政党が勝利し、妹のインラク氏が首相に就任したことから、帰国を目指し、恩赦法案の国会提出、憲法改正などに動いたが、いずれも野党、反タクシン派市民団体の反対で潰された。

音声ファイルの会話では、元首相への恩赦を国会を経ずに実現するため、タイ軍の協力を得て、緊急勅令の形で恩赦を成立させる方法が話し合われた。
ユタサク副国防相とみられる人物は、軍幹部がこの方法に概ね同意しつつあるという感触を伝えた。タクシン元首相とみられる人物は、帰国後はタイ王室財産管理局の顧問につき、国王の諮問機関である枢密院の顧問官にはならないと述べた。王室財産管理局顧問というポストは政争の終了を印象づける狙いがあるようだ。

ユタサク副国防相とみられる人物は元首相が帰国後、政治に関与することに強い懸念を示したが、タクシン元首相とみられる人物は「気持よく死にたいだけだ。政治にはこだわっていない」などと話した。

ユタサク副国防相とみられる人物はまた、「上司のタクシン首相を帰国させたいと、占い師に聞いてきた」、「成功するが、大変だぞ、我慢出来るか、と言われた」などと話した。

軍については、ユタサク副国防相とみられる人物が「チャリット枢密顧問官(元空軍司令官)の手先だったプラジン空軍司令官が、こちら側についた」と述べた。タナサク国軍最高司令官とも良好な関係を築き、ミャンマー南東部ダウェイの開発でタナサク司令官とミャンマー軍最高司令官の個人的な関係が利用できると話した。

次の海軍司令官人事については、タクシン元首相とみられる人物がアモンテープ海軍大将を推した。アモンテープ海軍大将の妻はバンコクの大規模マッサージパーラー「ポセイドン」のオーナー一族で、タクシン元首相の元義父が付き合いがあるという。

タクシン元首相とみられる人物はまた、インラク首相について、「私と性格が同じ。女性だからソフトだけど、思ったことを口にする」などと話した。

インラク政権は6月末に内閣改造を行い、首相が国防相を兼任し、インラク政権でいったん国防相を務めたユタサク氏が副国防相として再度入閣した。
首相はこの異例の人事を、マレー系イスラム武装勢力によるタイ深南部のテロ問題に対処するためと説明したが、今回の音声ファイルが本物だとすると、タクシン元首相への恩赦、軍人事への介入が狙いだったことになる。

また、軍幹部は反タクシン派から政権側に寝返ったことを暴露されたかたちで、政権との関係は険悪化しそうだ。軍幹部は近く、この問題について協議するとしている。

ユタサク副国防相は1937年生まれ。陸軍士官学校卒。国防次官を定年退官した後、2001年のタクシン政権で副国防相、2011年のインラク政権で国防相、副首相を務めた。
【7月10日 newsclip 】http://www.newsclip.be/article/2013/07/10/18256.html
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密室政治の内情を暴露した随分と生々しい内容です。
「白仮面」デモは5月から行われているということですが、こうした「密談テープ」が暴露されれば、今後ますます盛り上がることでしょう。

タクシン元首相にとっては、彼を追放した軍との関係が悪化するのが問題です。帰国は更に難しくなったように思えます。

批判を受けるコメ担保融資制度に絡む損失拡大
タクシン元首相の代役として、いきなり首相の座についた妹のインラック首相は、就任当初は大洪水対策などで不慣れな面も露呈しましたが、その後は無難にこなしています。懸命に頑張っている様子などが一般国民には好印象を与え、支持率などは悪くない・・・というのが、昨年までの評価でした。

“タクシン一族内では、決して表面化することのないそれぞれの役割分担があるらしく、それは、タクシン氏が国内外の政治、妹のヤオワパー氏が党内外の調整役、そしてインラック首相は、タクシン、ヤオワパー両氏が書いた台本に従い、リーダーを演じることだという”【6月28日 thai plusone】http://thai-plusone.asia/column/ma20130628/

しかし、コメ担保融資制度に絡む損失拡大や不正疑惑などで政権批判が高まる中、さすがに最近はインラック首政権の支持率も低下してきているとも指摘されています。
タクシン支持派にとっては、いつまでたっても実現しない帰国問題への苛立ちもあるでしょう。

そうした支持率低下を挽回するための6月30日の内閣改造でしたが、「密談テープ」発覚で揺れています。
政策的に問題となっているのは、コメ担保融資制度に絡む損失拡大です。

****タイ、「コメ買い上げ」で赤字 8500億円との推計も 農村優遇裏目、輸出もできず****
コメ輸出大国のタイで、政府が一昨年導入した事実上のコメ買い上げ制度が巨額の財政赤字を生んでいる可能性が高まっている。インラック首相が公約としていた制度だが、政府は赤字額を公表できず、野党などから批判が高まりつつある。

米格付け大手のムーディーズ・インベスターズ・サービスが最近、赤字額は最大2600億バーツ(約8500億円)に達し、タイの信用格付けに影響しかねないとの報告書を出した。
政府は懸念を払拭(ふっしょく)するために今月7日、記者会見を開いたが、赤字額を公表できなかった。逆に「(損失は)もっとひどいのではないか」と臆測を呼んでいる。

この制度は、農家が生産したコメを担保に政府系機関の農業銀行から金を借りるという、融資のかたちの所得補償制度。借金を返さなければ担保のコメは戻らないが、それは政府が売るため、買い上げと変わらない。
コメ1トン当たりの融資単価が市場価格よりも3~5割も高いうえに、量に制限がないという破格のものだった。

昨年末の世界銀行報告書によると、タイのコメ農家の3分の1にあたる130万世帯が制度を利用し、政府は約2千万トン近くの売れないコメを抱え込むことになった。世銀推計では昨年の赤字は1150億バーツ。この額は国内総生産(GDP)の1%、12年度のタイの国家予算の5・8%にあたるとしている。

相場より高いコメのため、市場に出すと損失となり赤字が膨らむ。このため政府は輸出を控え、昨年の輸出量は前年より3割余り減り、世界1位のコメ輸出国の座から転落した。

この政策は、農村票を固めるためにインラック首相が2011年の総選挙の公約としたもので、政府には制度を見直すそぶりはない。ただ「赤字額を隠蔽(いんぺい)している」とのメディアや野党からの批判の高まりを受けて、同首相はワラテープ首相府相にこの問題を調べて説明責任を果たすよう指示を出した。【6月13日 朝日】
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こうしたインラック政権の施策は“大衆迎合”との批判も受けています。
もともと、兄タクシン首相の施策もバラマキ・大衆迎合の批判がありましたが、インラック首相のそれは更に拍車がかかっているとのことです。

****タイ、高まる大衆迎合批判 14年度予算案提出 コメ農家補償継続****
財政赤字削減を目指すタイ政府が2014年度(14年10月~15年9月)予算案を国会に提出したのをきっかけに、インラック政権による大衆迎合政策に拍車がかかっているとの批判が高まっている。現地紙バンコク・ポストなどが報じた。

タイ政府は17年度に年間の財政赤字をゼロにする目標を設定。14年度予算案では歳出を前年度比約5%増の2兆5250億バーツ(約7兆9790億円)とし、財政赤字を2500億バーツと見積もった。今年度の財政赤字は政府試算によると3000億バーツとなる見通しで、500億バーツの削減となる。

しかし、ここへきてインラック政権の主要政策の一つ、コメ農家への所得補償制度による今年度の損失額が、政府試算の最大1000億バーツを大きく上回る約1360億バーツ以上となったことが判明。「バラマキ」との批判が多かった政策だったことに加え、政府が早々に継続の意思を表明したことから議論が巻き起こった。

米格付け大手ムーディーズは、同政策を続行すれば財政赤字が拡大し、タイ政府による削減努力をのみ込む恐れがあると指摘、「17年までに均衡予算を実現するという目標の達成を危うくする」と警告した。

また、民間政策調査機関のタイ開発研究所は、11年に発足して以降のインラック首相の政権運営について、同首相の兄で01~06年に政権の座についたタクシン元首相を引き合いに出して、「大衆迎合に拍車がかかった」と批判している。

同研究所は、タクシン政権は大衆迎合とされながらも健康保険制度の推進や「1タンボン1製品運動」(日本の一村一品運動に相当)など、大多数の国民の利益を実現し、地方の発展に貢献した側面があったと分析。
そのうえで、インラック政権については自動車購入優遇政策や農家の所得補償政策など、「選挙を意識し、一部の人々のための政策実現に躍起になっている」と指摘した。特にコメ政策に関しては「市場を破壊し、経済に損失を与えている」と手厳しい。

高まりつつある各方面からの批判をかわしつつ経済成長を実現し、財政赤字削減を着実に実行できるかどうか。インラック政権は正念場を迎えている。【6月26日 Sankei Biz】
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もっとも、コメをめぐる農政に理念がなく、バラマキになっているというのは日本も同じで、タイ・インラック首相だけの問題でもありません。
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