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(次期大統領に最も近いシュエマン下院議長(右) “flickr”より By Pacific Council on... http://www.flickr.com/photos/45648707@N07/9095059450/in/photolist-eRGyiQ-eP5v73-eNT5Lx-eP5yGC-eP5vwC-eP5vnL-eP5uAw-eP5u5J-eP5wkb-eP5yvA-eP5xaW-eP5zEE-eNT9Be-eP5wyf-eP5uH5-eP5xdb-eNT6wH-eNT5fx-eNT9i4-eP5tsU-eNT7c2-eNT9gi-eP5xvC-eNT7FV-eP5zAY-eNT9rn-eP5tpm-eNT6hM-eNT86v-eP5vyy-eNT5i2-eP5zJ5-eP5wdm-eP5vX3-eP5vLL-eP5zzw-eP5tyw-eP5wwu-eP5vTd-eP5tmJ-eP5ypQ-eP5xPG-eNT6C4-eNT5JD-eNT5CH-eNTaqx-eP5uod-eP5tdj-eNTafV-eNT6uZ-eP5uD1)
【なぜ今タンシュエ氏?】
誰も予想できなかったほどのスピードで進展したミャンマー民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領ですが、健康上の問題もあって、1期限りで退任する意向と伝えられています。
****テイン・セイン大統領、再選求めず=ミャンマー与党幹部****
ミャンマーの与党・連邦団結発展党(USDP)のトゥラ・シュエ・マン議長(下院議長)は24日、首都ネピドーで記者会見し、テイン・セイン大統領は再選を求めない意向だと語った。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)などが25日伝えた。
同議長は「テイン・セイン大統領は私に、大統領選に出ないと語った」と述べ、テイン・セイン氏が2015年の次期総選挙後に1期限りで退任するとの見通しを示した。心臓に持病を抱えるテイン・セイン氏はこれまで、再選を目指すかどうか明言していない。【10月25日 時事】
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ミャンマー民主化はテイン・セイン大統領のリーダーシップによるところが大きく、次期大統領次第ではその道筋が大きく変わることも懸念されます。
2015年の次期大統領選挙への意欲を示しているのは、与党・連邦団結発展党(USDP)党首で、国民代表院(下院)議長のシュエマン氏と、民主化運動指導者で野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー氏です。
なお、シュエマン下院議長はUSPD党首のポストを禅譲するとの情報が7月末にありましたが、実際どうなっているのかは知りません。
スー・チー氏については、後述のように、大統領選挙に出馬できるためには現憲法の改正が必要になりますので、その可能性は今のところ不明です。
そういう意味では、次期大統領に最も近い位置にいるのがシュエマン下院議長です。
そのシュエマン下院議長に関する気になる報道がありました。
****「タンシュエ元軍政トップ、国の行方憂慮」 ミャンマー下院議長明かす****
ミャンマーで20年近く軍事政権を率い、一昨年の引退後、その動向がベールに包まれているタンシュエ元上級大将(80)が、民主化が急速に進む同国の将来を憂慮している様子を元側近が24日、明らかにした。
元腹心で、軍政で序列3位だったシュエマン下院議長が数日前、タンシュエ氏の自宅を家族で訪問。24日の記者会見で「(タンシュエ氏が)国の変化を関心を持って観察し、国政が間違った方向に行かないか心配しているようだった」と語った。
タンシュエ氏は民政移管時に国軍司令官の地位を退いた。その後、首都ネピドーに暮らしているとされるが詳細は不明だ。旧軍政幹部が首脳を占める現政権に影響力を保持したままとの観測もあるが、シュエマン氏は「政治には関わっていない」とも語った。
シュエマン氏は次の大統領への意欲を示しており、会見ではテインセイン大統領が次の総選挙後に2期目を目指す考えがないと自分に伝えたとも述べた。【10月26日 朝日】
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「国政が間違った方向に行かないか心配している」というのは、直接には軍事政権トップであったタンシュエ氏の考えとはされていますが、最近はほとんど表舞台に名前があがることがなかったタンシュエ氏の意向をなぜ今取り上げるのか?“間違った方向”というのはどういうことか?シュエマン下院議長自身はどう考えているのか?・・・非常に気になります。
民主化という物差しで言えば、民主化運動指導者でノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チー氏への国内外の期待はもちろん大きなものがありますが、現実政治において、軍部・既得権益層の意向もある程度コントロールしながら具体的施策を実施していくという意味では、軍部に大きな影響力を持つシュエマン下院議長が本当に民主化に理解を示すのであれば、それはそれで・・・という発想・選択肢もありえます。
シュエマン下院議長の本音がどこにあるのかは、情報が少なくよくわかりません。
だいぶ以前の情報になりますが、昨年6月に、憲法改正や民主化の促進について理解を示す柔軟姿勢を見せたことが報じられています。
民主化については、「速さや効果に物足りなさを感じる」とも発言しています。
****ミャンマーのシュエマン下院議長、憲法改正に柔軟姿勢****
ミャンマーのシュエマン下院議長が7日、首都ネピドーの国会内で朝日新聞記者と単独会見した。先月下院議員に就任した最大野党党首のアウンサンスーチー氏が、国会に軍人議席枠を定めた憲法の改正を求めていることについて、「憲法が国民の利益にかなっていなければ検討すればよい」と述べ、柔軟に対応する考えを示した。
個人として軍人枠の必要性を感じるかとの問いには「憲法改正の是非を決めるのは、個人ではなく、政党や国会議員である」と述べて、直接の評価は避けた。
来月招集される見通しの通常国会の審議からスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員が加わることについて、シュエマン氏は「野党と考えていない。国や国民のために協力していきたい。政党間の違いについて議論するのは、その後だ」と述べ、まずは与野党の協調が重要だとの認識を示した。 (中略)
テインセイン政権が進める改革について、「速さや効果に物足りなさを感じるものの、満足している」と評価。一部の閣僚や議員が改革に消極的ではないかとの問いには、「複数政党制や市場経済制度は憲法で定めている。これに反対する議員はいない」と述べ、改革への反対勢力はいないとの見方を示した。
さらに「前の政権が複数政党制による民主主義と市場経済システムの導入の基礎を造った」と指摘し、当時の最高実力者タンシュエ氏率いる軍政が現在の改革の道筋をつけた点を強調した。 (中略)
■陸軍出身、次期大統領に最有力
シュエマン氏は国軍士官学校を卒業。陸軍に入り、少数民族武装勢力との戦闘で武功をあげたとして、トゥラ(ビルマ語で「勇猛な」の意味)の敬称を与えられた。
昇進を続け、統合参謀長に就任。軍事政権の国家平和発展評議会(SPDC)では、最高実力者タンシュエ議長、マウンエイ副議長に次ぐ序列3位を占めた。
2010年11月の20年ぶりの総選挙直前に軍籍を離脱し当選。民政移管後の初代大統領の最有力候補だったが、序列4位のテインセイン氏が就任し、下院議長に。タンシュエ氏が国軍内部に強い権力基盤を持つシュエマン氏の台頭を恐れたためとも言われる。
健康に不安を持つテインセイン氏は16年初めの任期切れでの引退が確実視されている。シュエマン氏は現在64歳で後任の最有力候補とみられている。 【6月8日 朝日】
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上記記事に示された意向が本音であれば結構なことですが・・・・。
ただ、後述記事にあるように、シュエマン氏はスー・チー氏との「連立政権構想」に言及しているが、それは憲法改正やスー・チー氏の出馬を認めないかわりに、スー・チー氏を首相として処遇するという主旨である・・・といった話もあるようです。
軍政時代に自分より序列が下だったテイン・セイン大統領が民主化の立役者として国際的にも脚光を浴びていることについては、シュエマン下院議長が強いライバル意識、自分だったら・・・という自負心を持っていることは想像に難くないところです。
【改憲の方向性 年内にも固まる】
一方、スー・チー氏も大統領職への強い意欲を見せています。
****スーチー氏、ミャンマー大統領選への出馬表明 現政権を批判****
ミャンマーの最大野党党首でノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー氏は6日、2015年に予定される大統領選への出馬を表明した。
同国で開かれた世界経済フォーラム東アジア会議の公開討論会で言明した。率直でありたいとした上で、「大統領になりたくないと装ったら不正直。他の誰より国民に誠実でありたい」と語った。
その上で、政権を過去2年率いるテインセイン大統領の政治について、国民の大多数は改革の恩恵を実感していないと批判。都市の路上にいる市民や村落住民に尋ねたら、大多数は2010年以降、生活の水準は変わっていないと答えるだろうと語った。
国民は変革の過程に参加したいと感じているとも指摘。「この気持ちは最大都市ラングーン(現ヤンゴン)での車や雑誌の数とは無関係。大多数の住民は車購入などとは無縁だからだ」とも説いた。
また、自らが大統領選に挑むためには憲法改正が必要とも指摘。改正が実現する可能性については楽観主義に陥りたくないとしながらも、「希望は努力によって支えられる」との持論に言及。「改正が実現するよう努力するつもりだ」と強調した。
現行憲法では、外国籍の配偶者などがいる人物の大統領就任は禁じられている。スーチー氏の夫は英国人だった。(後略)【6月6日 CNN】
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スー・チー氏の大統領選挙出馬には憲法改正が必要になりますが、スー・チー氏は大統領選挙だけでなく15年に行われる総選挙も踏まえて、憲法改正への働きかけを強めています。
****スーチー氏「改憲にこだわる」 欧州歴訪で国際社会に協力求める****
ミャンマーの野党党首アウンサンスーチー氏が訪問中の欧州で、軍事政権が制定した憲法の改正の必要性を声高に訴えている。国会の憲法調査委員会が年末までに改憲をめぐる報告書をまとめる予定で、その方向性が年内に固まる可能性があるからだ。民主化の次の段階に向け、国際社会の協力を取り付けたい考えだ。
スーチー氏は22日、仏ストラスブールの欧州議会の演壇に立った。「思想の自由はまだ保障されていない。そのために、私たちは現憲法の改正にこだわらないといけない」
スーチー氏は自宅軟禁解除後3度目となる欧州歴訪を19日のベルギー訪問で始めて以降、「国民の大多数は改憲を求めている」「改憲がなければ、2015年の総選挙は公正にならない」など、憲法改正に関する発言を繰り返している。
スーチー氏は08年に軍政が制定した現憲法が非民主的だと批判してきた。現憲法は正副大統領の資格要件について「配偶者や子が外国人でないこと」とし、夫や息子が英国籍のスーチー氏を排除。さらにこの要件には「軍事に精通」との項目もあり、国会議員の25%の軍人枠などとともに、旧軍政幹部や国軍の権力維持に有利になっている。
憲法改正をめぐっては、7月に国会が憲法調査委員会を設置。8月の初会合で年末までに報告書を提出することを決めた。報告書では改正すべき条項やその改正案が示される見通しだ。与党・連邦団結発展党(USDP)党首のシュエマン下院議長は米メディアに、「委員会の報告に基づいて改正がなされる」と語っており、委員会の決定が改正の行方を左右するとみられている。
議員109人から成る委員会のメンバーは国会の議席配分に応じてUSDPが52人、軍人議員が25人と政府系が多数を占める。スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)は7人に過ぎず、議論に体制側の意向が強く反映するのは確実だ。
そのため、スーチー氏は今回の訪欧で「欧州連合ははっきりと改憲の必要性について意思表示すべきだ」と政権側への働きかけを強めるよう求めている。
スーチー氏は昨年4月に下院議員に当選して以降、旧軍政幹部らとの協調路線で憲法改正を目指してきた。だが、改憲が認められない場合には政権側との対決姿勢に転換する可能性もある。【10月23日 朝日】
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ミャンマーからの現地情報では、スー・チー氏は7月、シュエマン下院議長と同席の記者会見で「議長殿、次回の選挙で私と互角に戦う勇気をお持ちなら、私が大統領になれるよう現行憲法を改正するよう力をお貸しいただけませんか?」と、随分と大胆な発言を行っているそうです。
【「ミャンマーで今、何が?」http://www.fis-net.co.jp/myanmar/backnumber/vol54.htmlより】
【“連立政権構想”?】
憲法改正がどのように進むのか・・・、それ次第で今後の流れは大きく変わります。
気の早い話にはなりますが、スー・チー氏の出馬は認めないが「下院議長が大統領に就く代わりに、首相ポストを新設しスー・チー氏を処遇する」といった“大連立案”もあるそうです。
****民主化が進展した証し 複雑なミャンマー政治の帰結****
ミャンマーには「道でヘビとラカイン族に出くわしたら、まずラカイン族をたたけ」ということわざがあるそうだ。ラカイン族はそれだけ気性が荒く、けんかっ早いのだという。
そのラカイン族(仏教徒)が、対立するイスラム教徒のロヒンギャ族を「攻撃的だ」と恐れていた。初めて訪れた西部ラカイン州には民族主義が高揚し、民族政党に強い追い風が吹いていた。
ビルマ族が68%を占めるミャンマーには、ラカイン族のほかにシャン、カレン、カチン族など135民族ともいわれる少数民族が暮らしている。主要な少数民族は基本的に、民族名と同一名の州(ラカイン、シャン州など)に住み、民族衣装も異なるなど、もともと民族意識が強い。こうした多様な民族を束ねることが、ミャンマーの為政者にとり最大の難問となっている。
主要な少数民族は武装勢力を形成し、国軍との戦闘を繰り返してきた歴史がある。それぞれ民族政党もある。民族主義の高揚は、なにもラカイン州に限らない。変革と開発に伴う住民の立ち退きや、利益の不配分などに対する中央政府への不満が、総じて他の少数民族地域でも、民族主義の高揚という現象となって表れている。
こうした趨勢(すうせい)にあって、最大野党・国民民主連盟(NLD)の幹部の言葉を借りれば「国民の意識はすでに、2015年の総選挙に向いている」。最大都市ヤンゴンにあるNLD本部を訪れると、総選挙もにらみ少年部が新たに発足し、研修が行われていた。寄付金受付のコーナーもあり、実質的な選挙活動がスタートしていた。
気が早い政府関係者もいる。総選挙の得票率を「NLD40%、USDP(与党・連邦団結発展党)28%、少数民族政党32%」と、はじいていた。
この数字は当てにならないが、NLDの党首、アウン・サン・スー・チー氏は連邦議員になって以降、それまでの少数民族擁護の姿勢から、「中立」へとカジを切り、少数民族には失望と不満が高まっている。
このため「昨年4月の連邦議会補欠選挙のように、NLDの圧勝というわけにはいかない」(消息筋)という見方は強い。そうした現状認識をNLD幹部も共有しており、「少数民族政党との協力を推進しなければならない」と、危機感を抱いている。
さらに気が早いのは、「連立政権構想」である。次期大統領選挙に名乗りを上げたトゥラ・シュエ・マン下院議長が、言及しているのだ。その狙いについて、政府・与党関係者は「下院議長が大統領に就く代わりに、首相ポストを新設しスー・チー氏を処遇するという案がある。スー・チー氏が要求する憲法規定(外国籍をもつ親族がいる者の大統領就任禁止)の改正には、応じない上での話だ」と打ち明ける。
連立について、NLD関係者は「スー・チー氏は自身の大統領就任を前提に、少数民族政党など全政党と連立を組む可能性も視野に入れている」と話す。
議会では今後、USDPやNLD、少数民族政党、軍の代表計100人以上で構成される委員会で、現行憲法の改正が検討される。
議会筋によると、全部で457の条項・箇所が検討対象となり、このうち90の条項・箇所については、改正が難しいものと位置づけられているという。スー・チー氏の障害である大統領就任に関する規定が、どちらに入っているのか不明だ。
総選挙までの間、政治情勢はさらに変化するだろうが、とどのつまり、「この国と政治の将来を決めるのは国民だ」(NLD幹部)という帰結に行き着く。軍事政権時代を思えば、そう言えること自体、民主化が進展した証しだろう。【8月5日 産経】
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ミャンマーの問題点としては、上記記事にもある少数民族問題やイスラム教徒問題がありますが、それはまた別の機会に。