(2013年3月ゲレロ州 町を制圧した自警団が警察官を逮捕。ハイウェイに検問所を設け、従わない観光客の車に発砲、負傷者が出たそうです。【NYDailyNews.com】 http://www.nydailynews.com/news/world/armed-vigilantes-sieze-coastal-mexico-town-arrest-police-article-1.1301605)
【州内では月間平均108人が殺害】
メキシコでは、カルデロン前大統領のもとで麻薬組織との間で「麻薬戦争」が強行され多大な犠牲者を出しました。
ペニャニエト政権に代わって、そのあたりはどうなったのでしょうか?
本題に入る前に、昨年後半に目にした記事をいくつかピックアップします。
最初は、まるでハリウッドのマフィア映画の暗殺シーンを彷彿とさせるものがあります。
****ピエロに扮した暗殺者がメキシコ麻薬密売組織「ティファナ・カルテル」のボスを殺害****
10月18日金曜日、メキシコで最も悪名高い麻薬密売組織のひとつである「ティファナ・カルテル」のキングピンが、メキシコの高級リゾート地ロス・カボスにて、家族でパーティを楽しんでいたところ、ピエロに扮していた暗殺者に、子供たちの目の前で、いきなり銃で頭と胸を撃ちぬかれて殺害された。
暗殺者は現場から逃走。警察関係者によると、殺害者はピエロのカツラと赤い鼻をつけていたという。(後略)【2013年10月20日 JAPA+LA MAGAZINE】
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次は、アメリカへの密売ルートをめぐる縄張り争いで麻薬カルテル「セタス」と抗争している麻薬カルテル「ガルフ」の構成員逮捕のニュース。
****79人殺害容疑で20歳男逮捕、麻薬組織の構成員 メキシコ****
キシコ北東部ヌエボレオン州モンテレイの警察は26日までに、計79人の殺害に関与したとみられる麻薬密輸組織構成員の20歳男を逮捕したと発表した。
捕まったのはフアン・パブロ・バスケス容疑者で、取り調べで45人の殺害を自供。2011年から今年の間に起きた別の34人の殺害にも絡んでいるとみている。
同容疑者に殺されたのは、対立組織のメンバー、警官、ストリッパーや犯行現場に居合わせた無関係の住民らとなっている。(後略)【2013年10月26日 CNN】
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さすがに、同容疑者自身が79人全員を自ら射殺したわけではなく、見届け役などとしても加わっていたとのことです。
バスケス容疑者云々より、“ヌエボレオン州では麻薬カルテル間の衝突がやまず、州内では月間平均108人が殺されている。州都モンテレイでは今年これまで223人が殺害された。”【同上】ということの方が問題です
次は、密輸に使用する「スーパートンネル」の話題。
密輸トンネルと言えば、パレスチナ・ガザ地区を連想しますが、さすがにアメリカになるとトンネルもりっぱになるようです。
****米メキシコ国境で麻薬密輸用「スーパートンネル」発見、全長500メートル****
米カリフォルニア州サンディエゴとメキシコ北部の都市ティファナを結ぶ、麻薬密輸を目的とした全長およそ500メートルの精巧な「スーパートンネル」が見つかった。両国当局が10月31日に発表した。
米入国・税関管理局(ICE)の国土安全保障調査部(HSI)によると、トンネルは平均で地下10メートルの深さにジグザグに掘られ、内部は高さ約1.2メートル、幅約1メートル。出入り口には油圧式の鉄製ドアが設置されていたという。
掘られてまだ間もないとみられるが、麻薬の運搬を目的とした電動トロッコや空調設備も整っていた。当局は3人を逮捕し、コカイン約150キロとマリフアナ8トン超を押収したという。
米国とメキシコの国境地帯で「スーパートンネル」と呼ばれる精巧な越境トンネルが発見されるのは、2011年以降これが3例目。当局では、取り締まり強化で麻薬密輸組織の焦りが増していることの表れだとの見方を示している。【2013年11月1日 AFP】
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本当に“取り締まり強化で麻薬密輸組織の焦りが増していることの表れ”かどうかは知りません。
最後に、メキシコの刑務所の大半を受刑者が仕切っている話題。
TVドラマ「プリズン ブレイク」のような世界です。これではいくら逮捕してもきりがないようにも思えます。
****刑務所の大半は受刑者の「支配下」メキシコ****
メキシコの国家人権委員会は19日に発表した年次報告で、同国の刑務所全般で暴力が多発しており、また刑務所の大半を受刑者が仕切っていると警告した。
同委員会によると、2012年、同国にある受刑者数の多い101の刑務所のうち65か所が受刑者の支配下にあり、そうした刑務所の割合は前年から4.3%増加した。
また刑務所内で起きた暴動、乱闘、脱獄、殺人などの件数も昨年増え、発生した暴力沙汰は73件、154人が死亡、103人が負傷した。また261人が脱獄した。
49の刑務所には、受刑者たちの「特権区域」があり、禁止薬物や禁止物質の持ち込みや使用、売春などが野放しになっているという。
また少なくとも52の刑務所が過密状態だった。委員会が昨年訪問した刑務所には、全受刑者23万9089人の8割が収容されているが、同国の刑務所の本来の収容定員は19万4000人とされている。
メキシコでは前週も、北東部タマウリパス(Tamaulipas)州の刑務所で受刑者6人が殺害され、その数日後には同じ刑務所から7人が脱獄している。
また過去最大規模の脱獄としては、北部コアウイラ(Coahuila)州の米国境に近い町ピエドラス・ネグラス(Piedras Negras)で受刑者132人が脱獄した例がある。【2013年11月20日 AFP】
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【麻薬カルテル、自警団、軍 三つ巴の混乱】
今日の本題は「自警団」
“メキシコのカルデロン前政権は2006年末、米国の援助を受けて、巨大化した麻薬犯罪組織に対する掃討作戦を開始したが、組織抗争が激化し、現在までに推計7万〜11万人が殺害される「麻薬戦争」状況に陥った。
昨年12月に発足したペニャニエト政権は、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移し、メキシコ警察・軍と米国捜査機関との情報交換の窓口も中央政府に一本化した。
このため米国側で懸念が高まっていた。”【2013年05月04日 毎日】
メキシコでは、麻薬ギャングは一部の人々の間では“現代のヒーロー”とみなされる風潮もあるようです。また、ギャング大物は地域の学校・病院・教会などに多額の寄付を行って、そうした風潮を作り出しています。
しかし当然ながら、7万〜11万人が殺害されるような状況に憤る人々も多数存在します。
当然、殺人以外にも、誘拐やゆすりなど、その犯罪は多岐にわたります。
彼らの批判は、事態を改善できない政府・治安当局・軍部へも向けられ、結局自分たちで守るしかない・・・との考えを生んでいます。
そうしたことで、現在メキシコでは麻薬組織に対抗する「自警団」が各地で組織されています。
“犯罪に対し人々が立ち上がった”と言えば聞こえがいいですが、法的な手続きを無視し、曖昧な根拠で“私刑”的な報復にも至るという点では、新たな混乱を呼び起こすものとも言えます。
政府・治安当局は自警団の暴走を認めておらず、麻薬カルテル、自警団、治安当局の3者による三つ巴状態の混乱が広がりつつあるようです。
****自警団が麻薬カルテルから町を奪還、メキシコ****
メキシコ西部ミチョアカン州のヌエバ・イタリアで12日、激しい銃撃戦の末、自警団が麻薬カルテルから町を奪還した。
100台以上のピックアップトラックに乗り込んだ自警団のメンバー数百人は、ヌエバ・イタリアの町役場に到着した際、ここに拠点を構える麻薬カルテル「テンプル騎士団」と見られるグループから銃撃されたという。
ラ・ルアナの農業従事者で自警団リーダーのハイメ・オルティズさん(47)は「2か所から銃撃を受けた。銃撃戦は約1時間半続いた」と述べ、自警団員2人が負傷したことをAFPの取材で明らかにした。人けがないヌエバ・イタリアの一部歩道には流血の跡が生々しく残っていた。
同州では、武装自警団結成の動きが約1年ほど前から活発化しており、過去数週間に麻薬カルテルから州内複数の町を奪還している。
過去7年間に約7万7000人が死亡している同州での麻薬戦争は、約1年前に発足したエンリケ・ぺニャニエト大統領政権にとって大きな治安上の課題となっている。
ぺニャニエト大統領は、昨年5月に数千人の軍部隊や連邦警察を同州に派遣していたが、暴力事件を根絶することはできていない。
一方の自警団は、同州内のライムとアボガドの生産が盛んなティエラ・カリエンテと呼ばれる地域のテンプル騎士団が拠点としている人口約12万3000の町アパトシンガンを包囲したという。【1月14日 AFP】
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“100台以上のピックアップトラックに乗り込んだ自警団”・・・自警団という言葉より“民兵”という言葉の方がふさわしいかもしれません。
その自警団が包囲した麻薬カルテルの根拠地アパトシンガンでの市街戦の懸念に対し、軍が投入され、自警団を排除しつつ、町に突入・制圧したとのことです。
****メキシコ軍、自警団と衝突で死者 西部で治安作戦****
メキシコ軍は14日、暴力事件が多発する同国西部ミチョアカン州で治安回復作戦を実施し、麻薬カルテルの拠点となっていた都市を制圧するとともに、武装解除を拒否した各地の自警団と衝突した。
麻薬カルテル「テンプル騎士団」の拠点となっていたアパトシンガンには、メキシコ軍兵士と連邦警察官200人が突入。同市の警察官らを武装解除させた。
その数時間前には、同騎士団とここ1年にわたり戦ってきた自警団の掌握する各地の町に軍部隊が到着し、武装解除を拒否する自警団員らと衝突。
クアトロカミノスの自警団員によれば、自警団への武器の返却を求めて軍部隊の進路を阻止していた住民に向け、軍兵士1人が発砲。11歳の少女を含む少なくとも4人が死亡したという。(中略)
自警団はこのほどさらに多くの町を掌握し、人口12万3000人のアパトシンガンを包囲。市街戦が発生する懸念が高まったことを受け、13日に軍の投入が命じられていた。【1月15日 AFP】
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“同市の警察官らを武装解除させた”・・・麻薬組織の拠点都市における警察官がどのような立場だったのかよくわかりません。組織の一員として活動していたということでしょうか? 十分ありえる話ですが。
軍・連邦警察も、やれるんだったら早くからそうすればいいのに・・・という感もありますが、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移したぺニャニエト大統領政権の姿勢でしょうか。
前政権は武力中心の麻薬戦争を強行したことで多大な犠牲者を出しました。そのことが大統領選挙敗北にもつながりました。
しかし、ぺニャニエト政権が麻薬組織にどのように対処しようというのか、よくわからないところがあります。
自警団拡大の問題点については、“Vigilantes(自警団) in Mexico: A Warning Sign of Chaos”(英文)http://newmediajournal.us/indx.php/item/11188で指摘されています。
上記が指摘しているのはコロンビアの先例です。
コロンビアでも、1980年代後期から2000年代初期にかけて、麻薬組織と左翼ゲリラの暴力に対し、農村地帯で民兵が組織されました。
“しかし、それらのグループのいくつかはすぐに暗殺団 にすぎなくなりました。やがてコロンビア は破綻国家への道を転げ落ちることになりました。”