孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  膠着状態で大統領“病気休暇” EUは“および腰” “第三の勢力”台頭

2014-02-05 23:08:25 | 欧州情勢

(衝突を阻止しようとするウクライナ正教会の司祭・・・でしょうか。 “flickr”より By Sandor Csudai http://www.flickr.com/photos/59326124@N08/12295223486/in/photolist-jJuezQ-jJs6kK-jJrhCD-jJs5aZ-jJsaSv-jJueH5-jJs3RM-jJrhpn-jJufz5-jJtrBq-jJtt9y-jJu8QU-jJrjmP-jJudSN-jJrkGK-jJre6D-jJs7qa-jJtqGQ-jJriVt-jJrk52-jJtwQG-jJtxgG-jJuf7b-jJu8Jb-jJs34V-jJtv8d-jJrcGr-jKSLXD-jL33DR-jKf8TZ-jKemYv-jKgUrA-jKhDcN-jKhvTY-jKg94g-jKhxRW-jKifnC-jKfkyz-jKgoSz-jKhudq-jKgNzW-jKgypm-jKLDuV-jKgEc3-jKfbt8-jKhUnN-jKfPEc-jKi45s-jKf2jr-jKgK1w-jKiays)

大統領:政治危機を打開できないまま一時休養
いま、世界で大規模な反政府行動が起きて、事態が膠着しているのがタイとウクライナです。
もちろん、反政府行動の背景は全く別物ですが、政治的背景以外にも全く異なるのが気象条件です。

タイ・バンコクの今日の最高気温は33℃、最低気温は24℃に対し、ウクライナの首都キエフの今日の最高気温は-1℃、最低気温は-11℃だそうです。【msn天気予報より】数日前は-20℃ぐらいとも。

もちろん33℃という暑さのなかの抗議行動も大変ですが、-11℃や-20℃に比べたら・・・。
気象条件の違いで“やる気”“本気度”を云々すれば、バンコクから石が飛んできますが、そうは言っても極寒のキエフでバリケードを築き、治安当局と対峙して長期にわたり行動するのは並大抵のことではありません。

****ウクライナでまた6万人デモ=欧米に支援・仲介求める****
ウクライナの首都キエフで2日、欧州連合(EU)加盟推進派による反ヤヌコビッチ政権デモが行われ、AFP通信によると6万人以上が中心部「独立広場」に集結した。

2013年11月に始まったデモは、1月に警官隊と衝突して死者が出るなど、事態打開の糸口が見つかっていない。野党指導者は欧米など国際社会に対し、デモの財政支援と与野党協議の仲介を初めて呼び掛けた。【2月3日 時事】 
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もともとウクライナはロシアの影響が強い東部と欧州との関係が深い西部に二分されていること、政治的には親欧米派のティモシェンコ前首相が親ロシア派のヤヌコビッチ大統領のもとで拘束されていること・・・そうした欧州とロシアの勢力がぶつかる地政学的な条件下にあるウクライナで、EUとの連合協定に調印するかに見えたヤヌコビッチ大統がロシア政府の圧力を受けて最終的に協定を拒否。代わりにロシアから資金援助を受けたことへの親欧米派国民の反発から反政権デモは起きています。

ヤヌコビッチ大統領は1月27日、ティモシェンコ前首相に近い野党第1党「連合野党・祖国」幹部ヤツェニュク氏を首相、第2野党「ウダル」党首である元ボクシング世界王者のビタリ・クリチコ氏を副首相として入閣させるという譲歩案を提示しましたが、野党側はこれを拒否しました。(ヤツェニュク氏は一時回答を保留し、検討したようですが)

安易な政権側との妥協は、反政権デモを極寒の中で行っている人々の理解を得られないとの判断でしょう。
実際、野党指導者二人が入閣しただけでは、ヤヌコビッチ大統領の親ロシアで、デモ規制法で反政権デモを封じ込めようとする強硬な姿勢は変わらないでしょう。

28日にはアザロフ首相が、反政権デモで混乱する同国の政治危機を打開し、国の結束を保つためとして辞任することを発表。
また野党を激怒させたデモ規制法をウクライナ議会は同日廃止しました。

事態解決の糸口が見いだせないなかで、首相辞任に追い込まれたヤヌコビッチ大統領は“病気休暇”をとっています。

****ウクライナ大統領が病気休暇 危機打開策見えぬまま****
反政権デモが続いているウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領は30日、急きょ病気休暇を取得した。
議会では、逮捕された反政権デモの参加者に恩赦を与える法案が野党棄権の中、可決されたばかりだが、同大統領は政治危機を打開できないまま一時休養することになる。

大統領府が出した声明によると、ヤヌコビッチ大統領は急性の呼吸器感染症で体調を崩しているという。反政権デモ隊が抗議活動を継続する姿勢を新たにし、同大統領はデモの鎮静化のため首相の辞任承認を余儀なくされるなど、1991年にソ連から独立して以来同国最大の政治危機を迎える中での突然の病気休暇の発表となった。

首都キエフの独立広場や主要な通り、さらに中心部の地方行政府庁舎は現在も数千人のデモ隊に占拠されており、危機的状況の先行きは不透明なままとなっている。
ここ数日キエフの気温は零下20度まで下がり、多くの市民が体調不良を訴えている。【1月30日 AFP】
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支援具体策が定まらないEU
場外では、綱引きの当事者でもあるロシアと欧米が非難合戦をやっています。

****欧米と露が非難合戦 ウクライナ情勢、安保会議で議論****
ドイツ南部ミュンヘンで開催中の「ミュンヘン安全保障会議」で1日、政治的混乱が続くウクライナをめぐり、欧米とロシアが非難の応酬を繰り広げた。一方、ウクライナの野党勢力代表は現地に入り、欧米への働きかけを強めている。

1日午前に行われた欧州情勢をテーマとするパネルディスカッションには、独仏の外相や北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長、ラブロフ露外相が出席した。

ラスムセン氏は、各国は安全保障や同盟関係に関する「選択の権利」があるとし、ウクライナにも「外部の圧力なしに進む道を選ぶ自由がある」と強調した。ケリー米国務長官も演説で、「大多数のウクライナ国民は自由で安全で繁栄した国で生きたいのだ。米国と欧州はそれを支持する」と語った。

これに対し、ラブロフ氏は、反政権デモ隊による暴力行為や政府庁舎占拠を踏まえ、「暴力的な抗議が民主主義と何の関係があるのか」と反論。「なぜこのような行動を欧州の政治家は促すのか」と指摘した。

ウクライナの野党第1党「連合野党・祖国」幹部のヤツェニュク氏は1月31日、ミュンヘンでシュタインマイヤー独外相、欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表と会談。1日には第2野党「ウダル」のクリチコ党首らがケリー氏とも会談する。【2月2日 産経】
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ただ、EU側も非難はするものの、具体的な「介入策」は示しておらず、反政権デモ参加者からは失望も起きているとのことです。

****ウクライナ、見えぬ収束 ロシアとEU、介入ためらう****
首都のど真ん中で70日以上も大規模な反政府集会が続くウクライナの「出口」が見えない。ヤヌコビッチ政権は複数の懐柔策を実行したが、集会側に妥協の気配はない。

「ウクライナには今、『マーシャルプラン』が必要だ」。1月31日、ドイツ・ミュンヘンで開かれた安全保障会議で、ウクライナの野党連合「祖国」幹部のヤツェニュク氏が欧米の出席者らに訴えた。マーシャルプランは第2次大戦後、欧州を復興させるために米国が実行した大規模援助計画だ。「言葉でなく、本物の支援が求められている。政権はもはや国を導く状態にない」
(中略) 
ウクライナをめぐって激しく「綱引き」を繰り広げてきたEU、ロシアとも「火中の栗」を拾うことには足踏みしている。

1月末にキエフに入り、双方との対話を続けたEUのアシュトン外交安全保障上級代表は「大事なのは暴力や威嚇をやめること」と繰り返すが、具体的な「介入策」は示していない。

EU加盟国では「金融支援を積みまし、EU側に取り込むべきだ」といった意見が飛び交う。ロシアとの支援競争に入っても、事態を解決できる保証はなく、方針は定まらないままだ。

一方、昨年12月に150億ドルの融資とガスの輸出価格を3割値下げすることでウクライナと合意したロシアも、30億ドルを融資したところで一時停止した。

プーチン大統領は、ウクライナの新内閣の顔ぶれや方針を見極めてから残りの融資を実行するか決めたいとしている。ヤヌコビッチ氏は一時、首相、副首相への就任話を集会を主導する野党リーダーらに打診した経緯があるだけに、ロシアに警戒心が出始めている。【2月3日 朝日】
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ロシア側は“介入をためらう”と言うより、融資の一時停止で圧力を強めています。
貿易規制・ガス供給というウクライナを締め付ける切り札はまだ使っていませんが。
“介入をためらっている”のは、ロシアとの摩擦を警戒するEU側です。

EU側が圧力を強めようとすれば、政権側指導者が欧州に有する資産を凍結する・・・といった方策もあります。
そこまで事を荒立てない方策として、金融支援を検討していると報じられています。

****ウクライナに金融支援検討か=米欧****
欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、反政権デモに揺れるウクライナに対し、EUと米国が金融支援を行うことを検討していると述べた。3日付の同紙が報じた。【2月3日 時事】 
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ロシアが融資を停止して圧力をかけるなかで、ウクライナ経済は急速に追い込まれつつあります。

****ウクライナ:第2のアルゼンチンとなるリスク高まる****
ウクライナの通貨グリブナが今年に入って急速に下げ足を早め、対米ドルでは約4年ぶりに安値水準に沈んでいる。

また、同国では外貨準備高が減少の一途を辿っており、今月10日に発表される1月の準備高は前回12月の204億1600万米ドルから187億6500万米ドルに縮小すると予想されている。

国際通貨基金(IMF)の統計では、昨年12月末時点の外貨準備高は前年同期比で17.2%減少。昨年11月のモノの輸入総額は64億4810万米ドルで、外貨準備で輸入代金を支払える能力は3.2カ月。

1月の外貨準備が予想通り減少した場合にはこれが2.9カ月となり、危険水域とされる3カ月を下回ることになる(12月の輸入額は今月14日に発表される予定)。(後略)
http://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201402050071
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今後、反政権デモが成功し、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が崩壊した場合、ロシアは融資の停止だけでなく、ウクライナに対し貿易を規制して締め上げ、更にはカス供給停止という強硬手段を行使することが予想されます。

EU側は、そうした事態でウクライナを支えることが必要になります。
EU側が“介入をためらう”のは、そうした事態に臨む覚悟がまだできていない・・・ということも考えられます。

民族主義的な国家像を目指す第三勢力
野党指導者も成果を出せない、EUからの具体策も出ない・・・という失望のなかで、反政権側で過激な極右勢力が台頭しているとのことです。

****ウクライナ:極右連合「右派セクター」が第三勢力に****
反政府デモが激化したウクライナで、極右連合「右派セクター」が第三の勢力として台頭してきた。今月19日、首都キエフでの治安部隊との衝突で、デモ隊側の反撃の中心となり、過激な「武闘派」として注目を集めると同時に、ヤヌコビッチ政権と交渉を重ねる野党指導者も批判し、独自の要求を掲げて、情勢を複雑にしている。

ロシア通信によると、右派セクターは複数の極右団体の連合体として昨年末に登場した。ソ連崩壊後の1990年代に誕生した「ウクライナの愛国者」「ウクライナ国民会議」といった古参組織と、この数年に結成された「白いハンマー」など若者組織で構成。

違法カジノの襲撃や取材記者への暴行で知られる組織も含まれ、反ユダヤ主義者や熱狂的なサッカーファンも加わっている。特定のリーダーはなく、集団指導体制をとる。

政権と野党の政治交渉が続く中、右派セクターは28日、自分たちの要求を発表した。逮捕されたデモ隊メンバーの釈放など野党側の要求と重なるものも多いが、(1)特殊部隊を含む治安機関の抜本改革(2)スポーツ関係の愛国組織の法制化−−など独自の要求も含む。

指導者の一人、ヤロシュ氏は要求に関して「もし政府が譲歩しないなら、こちらには『計画』がある」と警告する声明を発表。また、野党指導者に対して「立場が不明確」と批判し、「彼らが革命を恐れるために、我々が革命を遂行する責任を負わざるを得ない」と自負を述べた。

同国の政治学者コルニロフ氏は、露有力紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」に対し、「極右団体は今回のデモに当初から参加し、勢力を伸ばした。メンバーの戦闘訓練を行ってきたため、衝突にたけている」と語る。

野党第3党の極右政党「自由」と一体の関係にあり、欧州的価値観を理想とする他の野党勢力や一般市民とは異なる民族主義的な国家像を目指しているという。【1月31日 毎日】
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膠着状態の中で過激な主張が存在感を強めるというのは、ウクライナに限った話ではないでしょう。
ただ、それは結果的には事態の混迷を深めるだけでもあります。

一方で、かつての軍事的自治集団「コサック」とウクライナ正教会という伝統勢力も存在感を強めているそうです。

****ウクライナ:二つの伝統勢力、反政府デモで存在感増****
反政府デモが続くウクライナの首都キエフで、二つの伝統勢力が存在感を増している。かつての軍事的自治集団「コサック」は自発的に警備を担当、ウクライナ正教会はデモ参加者の支援活動を展開する。

いずれも旧ソ連時代、政権に抑圧された存在だが、1991年の独立以来、徐々に力を回復。今回、ヤヌコビッチ政権によるデモ隊の強制排除を機に、活動が活発化した。

デモ拠点・独立広場の一角に、コサックたちのテント村とバリケードがあった。口ひげを伸ばし、一房だけ毛を残す独特の髪形、衣装の男たちが談笑していた。東部ハリコフ州から来たユーリ・カトリッチさん(50)は「コサックにとって何よりも大事なのは自由。良くないことが起きたとき、我々は誰の指示もなく全国から集まる」と胸を張った。

ソ連時代も家族内でひそかに伝統を守ってきたといい、現在は全国組織もある。今回、常時、約300人の末裔(まつえい)たちが広場の警備を担い、騒動が起きないよう目を光らせる。

一方、正教会の役割も大きい。広場に近い「聖ミハイルの黄金ドーム修道院」は11月30日未明、治安部隊による強制排除から逃げてきた学生らをかくまった。以来、敷地内にデモ参加者約200人が睡眠をとれるテントが張られ、炊事場も設けられた。

同修道院はスターリン時代の1937年、大部分が破壊され、独立後に再建された。同修道院のダビデンコ修道士は「教会は政治的なものではないが、人々を助けるのが役割。市民には平和的にデモをする権利がある」と語る。デモ会場のステージでも聖職者たちが登壇し、参加者を祝福する姿が見られた。【12月24日 毎日】
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ロシアにおける「コサック」の復活は聞いたことがあります。ただ、ロシアの「コサック」はプーチン政権の先兵的な立場で、反政権勢力を押さえつける側だったと思います。
同じコサックでもウクライナの「コサック」が、反政権側にいるというのが興味深いところです。

タイミングが悪いロシア
ロシア・プーチン政権は貿易規制・ガス供給というウクライナを締め付ける切り札を持ってはいますが、具合が悪いのは、これからソチ五輪に入るという時期的な問題です。
この時期に欧米と決定的に対立するようなことはできません。

****プーチン大統領にとっては悲惨なタイミング****
・・・我々がこのドラマの結末を待つなか、プーチン氏にとってタイミングがいかに悪いかということに思いを馳せずにはいられない。

今週金曜日にはソチ冬季オリンピックが開幕する。ロシア政府が510億ドルを投じた派手な祭典はロシアのイメージ向上を狙ったものだ。

しかし、オリンピック以上にロシアのイメージを決める可能性があるのが、ウクライナでの出来事だ。

結局のところ、ヤヌコビッチ氏とプーチン氏は同じようなタイプの指導者であり、同じような統治モデルを採用している。
もしウクライナ国民がキエフの男を権力の座から追い落とせば、ロシア国民はなぜクレムリンの男に同じことをしてはいけないのかと考えるようになるかもしれない。 【2014年2月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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