(独立派による「Yes Scotland campaigning」 2月1日 エジンバラ “flickr”より By Scottish Political Archive 自分たちの国の枠組みを自分たちで決めるということはワクワクすることではあるでしょう。 http://www.flickr.com/photos/48304957@N05/12285626604/in/photolist-jHD3Lm-jHBE86-jHJzah-jHGnrc-jcTEYd-jzg1Sf-jKLkLi-jHGnz8-jaRoAt-jb3Vkf-jb3Vsj-jaYub4-jaZUi8-jb1Rn7-jb1RBq-jHKewQ-jHH9XF-iQjzpR-iGiFMb-jsRZpL-jbGMVZ-ja6biT-juySwb-iQuyLe-iidBNB-jsRw42)
【「前提が実は不確かなことを考えると、驚くべき主張だ」】
スコットランドのイギリスからの独立を求める動きについては、2年前の2012年1月11日ブログ「イギリス スコットランド独立を問う住民投票を巡る議論」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120111)でとりあげたことがあります。
****スコットランド****
イングランド、ウェールズ、北アイルランドと共に連合王国である英国を構成する。面積は北海道とほぼ同程度。人口約530万人で英人口のほぼ1割に相当する。
中世には独立した王国として南隣のイングランドと攻防を繰り返したが、17世紀に同じ王を持つ同君連合が結ばれ、1707年に統一された。
1997年の住民投票の結果、99年にスコットランド議会と自治政府が設立され、高度な自治が認められるようになった。【1月28日 朝日】
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独立派を率いるのはスコットランド自治政府の与党スコットランド民族党(SNP)で、2011年5月のスコットランド議会選挙で単独過半数を獲得しました。
前回ブログ当時の2年前、独立を悲願とするSNP党首でもあるスコットランド自治政府サモンド首相は、住民投票を「2014年秋に行うべきだ」と表明していましたが、その住民投票が今年9月18日に実施されます。
イングランドとスコットランドをめぐる文化的・歴史的な問題、住民感情の問題などはあるにしても、さすがに独立となると多くのリスクが伴いますので、スコットランドにおいても住民の独立支持率は過去の世論調査で25~40%程度にとどまっているとされています。
キャメロン政権としては、こうした数字を背景に敢えて住民投票は阻止せず、むしろ住民投票で白黒をはっきりさせよう・・・という姿勢のようです。
独立派が描くスコットランドの独立後の国家像は、判断を迷っている住民を安心させるためもあって、自分たちに都合のいいような形になっています。
****元首・通貨・往来…今と同じ****
670ページにわたる独立白書は、どんな国家像を描いているのか――。
元首はエリザベス女王。通貨は英国銀行が発行する英ポンド。イングランドとの陸の国境に検問は設けず、人の往来は自由。外交面では、欧州連合(EU)に残ることが可能だと独自に解釈し、北大西洋条約機構(NATO)にも加盟申請する。
英国内での自治拡大だけでは口を差し挟めない外交安保やマクロ経済政策だが、実は、独立で一変するのは核政策ぐらい。英国との国家連合的な枠組み志向が浮かびあがってくる。
背景にあるのが、世論の動向だ。最近の各種世論調査で、独立支持層は3~4割程度。独立後も大きな変化はないと安心させ、決めかねている層の背中を押す意図がある。
だが、どの政策も、英政府やEU、NATOの側からの同意が必要。独立白書の記述は、その点についてはあいまいなままだ。
英政府は1月17日、白書を受けた反論文書の最初となる国際関係についての報告書を公表した。グラスゴーに乗り込んだヘイグ外相は、こう切って捨てた。
「独立支持派は、分離独立の選択は何も損失はないかのように描くが、前提が実は不確かなことを考えると、驚くべき主張だ」【同上】
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分離後もイギリスが温かくスコットランドを遇してくれるという前提で、大枠は今までと大きく変わらないという随分と都合のいい青写真です。
“独立で一変するのは核政策”というのは、原潜母港となっているグラスゴーに近いクライド英海軍基地からの核兵器撤去・非核化を求めていることをさします。
もし独立派が勝利すればイギリスは唯一の原潜母港を失いますが、他に適当な代替地もなく、安全保障体制に大きな問題が生じます。
ただ、それによってスコットランドは「スコットランド最大の雇用」を失うことにもなります。
【経済の自立・・・・?】
独立派が前面の押し出しているのは、経済的メリットのようですが、これもかなり怪しいものです。
****旗色悪い独立派=9月にスコットランド住民投票―理念より「実利優先」の戦い・英****
・・・・こうした中、独立を推進する自治政府は、住民が「経済的な実利がある」と確信すれば、世論は大きく独立に向かう可能性があるとみて、独立の経済的メリットを宣伝する作戦に出ている。
独立の青写真を描いた白書「スコットランドの未来」の中で、自治政府は光熱費の5%引き下げや税負担軽減などをちりばめた。
しかし、それでも独立への支持は拡大していない。
反対派は、独立によるデメリットを意図的に強調する「恐怖作戦」を展開。「税負担が増加する」「大手スーパーはスコットランドの店舗で値上げの意向だ」といった見方が連日のように流され、独立に対する住民の懐疑は根強いようだ。【2013年12月31日 時事】
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イギリス政府側も経済に焦点をあてて、独立派の淡い期待に反論しています
****経済の自立、不安訴え 社会福祉、自ら決める****
グラスゴーの街角で若者たちに聞くと、「人口が少なく、移民頼みの経済になってしまうから、独立は無理」といった声が多い。
英政府の反論も、経済に焦点を当てる。例えば、英政府によるスコッチウイスキーの海外での販売促進活動は当然なくなる、との方針が示されている。
17日の英政府報告書は、EU内で英国が独自の特権として得ているEU予算からの払戻金について、独立したスコットランドには受けとる権利がなく、EUへの分担金は増える、とも指摘した。
しかし、その一方で、独立支持派が説くのも、文化の差や歴史的な独自性だけでなく、経済の自立だ。
例えば、英国が外貨を稼ぐドル箱の北海油田について「場所はスコットランド沖の海域。あれは本来は自分たちのもの」というのが長年、独立運動のうたい文句となってきた。
ここ数年はさらに、キャメロン英政権が進める緊縮策への不満を取り込もうという動きも強めている。(後略)【1月28日 朝日】
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独立派が重視する北海油田については、“2020年代に入ると資源の枯渇が進み、多くの油井で生産が停止する予測がなされている。陸上と異なり、海上ではプラットフォームの解体に巨額の費用を要するため、将来性が懸念されている”【ウィキペディア】ということで、これに多くを頼るような計画はいかがなものでしょうか?
【キャメロン首相「英国に残ることがスコットランドの利益になる」】
イギリス政府としては、独立は支持されないと見てはいますが、万一ということもありますので、キャメロン首相も独立阻止へ本腰を入れて取り組み始めています。
****スコットランド独立 英首相、阻止に全力 9月住民投票 自治政府は反発****
連合王国である英国の一部をなす北部のスコットランドが独立の動きを見せている問題で、英国のキャメロン首相は7日、今年9月18日に独立の是非を問う住民投票が行われるのを前に演説し、独立反対の意思を伝えようと国民に呼びかけた。
独立阻止に向けた本格的なキャンペーンが始まった形だ。スコットランド自治政府のサモンド首相は早くも反発。論戦は今後過熱するとみられている。
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キャメロン氏は、2012年のロンドン五輪でスコットランド出身のホイ選手が2つの金メダルを獲得した自転車競技場で演説。ロンドン五輪での英国チームの成功や自らがスコットランド出身の祖先を持つことなどを例に、「団結してこそ強い国であることができる」と述べ、スコットランドは独立すべきではないと訴えた。
さらに、「英国に残ることがスコットランドの利益になる」と指摘。「スコットランドを失えば、英国の名声と影響力は地に落ち、別の国となってしまう」と警告。独立を思いとどまるよう電話やツイッターで呼びかけ合うよう求めた。
これに対し、サモンド氏は、キャメロン氏を「臆病者」と呼び、「(投票が行われる)スコットランドで論戦を挑むべきだ」と挑戦状をたたき付けた。また、独立派の活動家も英BBCテレビに対し、「(スコットランドの独立を)恐れ、ほかの説得材料がないから五輪を政治的に利用している」と批判した。
英財界などからは、スコットランド独立は経済に大打撃を与え、ユーロ危機のような問題も起こりうるなど懸念を表明。世論調査では独立反対が優勢だが、賛成派も増加傾向にある。
しかし、独立が実現すれば、英国は“離婚”に伴う経済的、政治的なダメージに加え、現在、スコットランドにある戦略原潜の基地を廃し、イングランドに移設する必要が出てくる可能性もあり、安全保障体制の見直しも避けられない。
それだけに、英政府は今後、さまざまな場で独立阻止に向け本腰を入れてくるものとみられている。【2月9日 産経】
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欧州の場合EU、NATOが存在しますので、外交・安全保障はそうした枠組みに委ねる形をとれば、現在の国家の枠組みを必ずしも必要としない・・・という事情があります。
もちろん、EU、NATOへの参加が認められるのかは問題のあるところですが、それ以前に、独立すればうべてうまくいく・・・といった発想は甘いものに思えます。
南スーダンのように、独立派したものの内戦に陥るような国もあります。
民族・文化的な差異についても、それをことさらに強調するよりは、異なるもの同士がどうしたら一緒にやっていけるかに知恵を絞るほうが、無用の混乱・争いを防ぐことになると考えます。
ただ、国家という枠組みは結局のところ、そこに住む住民の選択・意志によって決まるものであり、それ以上のもの、絶対不可侵のものではない・・・という意識は健全なものにも思えます。
欧州の分離独立運動としては、スペインのカタルーニャ地方の問題もありますが、それはまた別機会に。