孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ガザ地区の統制を失いつつあるハマス  和平交渉の先行き

2014-02-18 23:25:31 | パレスチナ

(昨年8月、ガザ地区の海岸で、ギリシャ神話の神アポロンの等身大の銅像が引き揚げられました。約2500年ほど前に制作されたとみられ、約350億円相当の価値があるとも。

ガザ地区を実効支配するハマスは、このほどこの銅像の調査協力を世界に呼び掛けています。調査や銅像の貸し出しを糸口として、2007年から国際社会で孤立しているハマスの外交関係を修復したい考えを示したそうです。【2月13日 AFPより】 
写真は“flickr”より By Nikolaos Bogioglou http://www.flickr.com/photos/85049211@N08/12456699833/in/photolist-jYKQSM-jB87PY-jfiGHM-iRoBSx-jgXFN6-jh1kw1-jh1k6G-jgXG5Z-jh1jX5-jgY3Rj-jh1jUQ-jh1kfQ-jgWdhD-jgY3B1-jgXG96-jgXFGe-jgWd9H-jgWde2-jgY3nU-jgXFCX-jgY3LQ-jgXFTM-jgY3yf-jgXFQa-jh1jYN-jgWd5z-jgXGcH-jgWcWP-jgWcSa-jgWcZe-jdSpoU-jdN5VZ-jdQoss-jeBwrp-jeFJTS-jeD1mi-jeBCrF-jeBD6g-jdSfTY-jdN9rg-jeD7ZD-jeCZe8-jdSk4S-jeDHR3-jeD4nt-jeD1Fr-jeDBWN-jdPrzR-jdSqwW-jdN8hx-jeDKnu)

“350億円相当”となると、財政難のハマスとしては“売ってしまいたい”と考えるのでは・・・ということはないようです。)

エジプト情勢変化で「トンネル経済」崩壊、ハマスは深刻な財政難
停戦に向けた国際的な取り組みがなされている内戦が続くシリア情勢、軍部の復権など政情の動向が注目されるエジプト情勢、核開発問題を巡るイランと国際社会の協議・・・・こうした中東情勢に隠れて、パレスチナに関する話題は最近はあまり目にしません。

パレスチナの和平交渉も停滞している一方で、イスラエルとの大きな軍事衝突も起きていないことにもよりますが、上記のような中東情勢はパレスチナ・ガザ地区の状況にも大きく影響しています。

ガザ地区を実効支配するハマスと近い関係にあったエジプト・モルシ政権が事実上のクーデターで崩壊したことで、エジプトのガザ地区境界管理が厳しくなりハマスの財政が悪化、結果的にハマスによる他の過激派への統制が行き届かない状況になっています。

****パレスチナ:ガザからイスラエルへのロケット弾攻撃が急増****
 ◇背景に「ハマスの影響力が財政難で低下」
パレスチナ自治区ガザ地区からイスラエルに向けたロケット弾攻撃が急増している。今年に入り既に33件に達し、昨年の総数(63件)の半分を超えた。

ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの影響力が財政難で低下し、他の武装組織への抑えが利かなくなったためとみられる。業を煮やしたイスラエルの反撃次第では、緊張が高まる可能性がある。

イスラエル軍によると、ロケット弾攻撃は今年に入り増えており、1月は28件だった。イスラエル軍は9日、ガザ地区を拠点とする武装組織「人民抵抗委員会」の軍事部門「サラハディン旅団」幹部を殺害。また、11日には、ハマスの軍事関連組織を空爆するなど反撃している。

イスラエル治安当局者によると、最近の攻撃にハマスが直接関与した形跡はなく、大半は、ガザ地区に拠点がある厳格なイスラム原理主義者「サラフィスト」の武装組織などによるとみられる。

ハマスは昨年夏まで、こうした組織によるイスラエルへの攻撃を制御していた。だが、昨年7月の隣国エジプトの軍事クーデター以降、エジプト軍がガザとの境界にある密輸トンネルの摘発を強化。

さらにイスラエルの封鎖政策もあり、「トンネル経済」に頼ってきたハマスは、急激な財政難に陥り、他の武装組織への影響力も低下したとされる。

ただ、イスラエルは以前から、ガザからの攻撃はすべてハマスの責任とみなす方針で、今後、報復としてイスラエル軍がハマス幹部らを殺害した場合、応酬がエスカレートする可能性がある。

パレスチナのメディアによると、エジプト軍は15日、エジプト・シナイ半島とガザ地区をつなぐトンネル10本を破壊。

ハマスの資金不足は深刻で、職員の給与支給も遅延している。最近は、軍事演習に実弾を使わず安価なレーザー銃を使用するなど、経費節減に努めているという。【2月18日 毎日】
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ガザ地区過激派によるイスラエルに向けたロケット弾攻撃等については、石堂ゆみ氏のサイト「オリーブ山便り」に、下記のように紹介されています。

****緊張続く南部ガザ情勢 ****
昨年末に、イスラエル人がガザ国境で射殺されたが、それ以降もイスラエル南部ガザ周辺にロケット弾が撃ち込まれており、イスラエル軍が反撃して、ガザ地区周辺の緊張が続いている。

(1月)13日にはネゲブ地方で故シャロン首相の埋葬が行われたが、列席したネタニヤフ首相や、ブレア中東特使などが立ち去った直後に、その周辺に2発のロケット弾が撃ち込まれた。彼らが立ち去った後だったため被害はなし。

16日にはアシュケロンに向けて6発のロケット弾が発射された。このうち5発はアイアンドーム(迎撃ミサイル)が撃ち落とした。着弾したものは、空き地に落ちたため、被害はなし。

19日のイスラエル軍による攻撃で、パレスチナ人2名(12才、22才)が重傷を負っている。

ガザ地区からイスラエル領内へのロケット攻撃は、この3週間で17回。これに対して行われたイスラエル空軍による空爆は7回となっている。

こうした情勢を受けて、南部都市では市長の判断で、学校がしばしば休校になっている。【1月20日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】http://mtolive.blog.fc2.com/blog-entry-654.html
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なお、ガザ地区からの攻撃はハマスや、それに次ぐ勢力のイスラム聖戦ではなく、
“イスラエルを攻撃しているのは、ガザ地区とシナイ半島にもはびこっているサラフィストや聖戦主義者といった小さな様々なイスラム過激派組織だと分析されている”

“ハマスは1月19日、すでにエジプトを通じて「イスラエルとの紛争を望んでいない」と表明。それを裏付けるように、ガザ領内に治安部隊を配置して、イスラエルを攻撃する者たちを取り締まっているという”

“聖戦主義組織らが望んでいるのは、エジプトとイスラエルの間に火をつけることだと分析されている。現在、イスラエルは、エジプト軍と緊密に連絡をとりあって対処を検討しているようである。”【1月21日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とのことです。

また、イスラエルの報復攻撃はピンポイントで行われており、このことは“イスラエルが、世界にも類をみない空爆の技術を持っているだけでなく、ガザ内部に非常に優秀な諜報システムを持っていることを示している”【1月23日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とも。

イスラエルは、ハマスがしっかりとガザを統制することを望んでおり、“最近、イスラエルはUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)とともに、ガザへ搬入する物資を増加させ、ハマスの権力維持に協力してきた”【1月20日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とのことです。

緊張が高まっているガザ地区の情勢には、上述のようなエジプト情勢のほか、シリア情勢も絡んでいます。

“最近、シリア難民に対処するため、UNRWAの予算が大きく削減された。今後、UNRWAの支援に依存するパレスチナ人の不満が高まり、何かのきっかけで一気に火をふきかねない土壌ができつつある。”【1月20日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】シリア関連でのUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の予算削減の詳細は知りませんが、UNRWAはシリア領内のパレスチナ難民キャンプの支援も行っています。

政府軍の包囲によって深刻な食糧危機に陥っているダマスカスのヤルムーク難民キャンプへの緊急支援を行っています。(2月8日ブログ「シリア ホムスでようやく避難始まる “人道”をめぐるせめぎあいも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140208参照。)

イスラエルとパレスチナ、強硬論を抱える双方が妥協できるか?】
エジプト情勢、シリア情勢も影響しての現在のパレスチナの状況ですが、パレスチナの問題はイスラエル対アラブ世界という中東情勢の根幹にかかわるものであり、パレスチナの安定なくしては中東の安定はありえません。

そこでアメリカ(特に、ケリー国務長官)が後押しするパレスチナ和平交渉ですが、進んでいるのか、いないのか・・・。
当初から誰も結果を期待していない交渉ではありますが、交渉期限は9ヶ月とされていますので、4月が一応の期限になります。

ただ、昨年12月には、“5月以降”の話も出てはいます。

****中東和平交渉:パレスチナ担当者「枠組み合意目標****
7月に再開した中東和平交渉に関し、パレスチナ側を代表するパレスチナ解放機構のエラカト交渉局長は18日、来年4月末までに主要な課題で「枠組み合意」を目指していると明らかにした。AP通信などが伝えた。

パレスチナ側が「枠組み合意」を目標とする方針を明確にしたのは初めてで、来年5月以降も交渉が継続される可能性が高まった。イスラエル側の意向が注目される。【2013年12月19日 毎日】
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年明け1月には、ケリー米国務長官が中東を歴訪し、ヨルダン・サウジアラビアに交渉の状況を説明し、アメリカ主導のパレスチナ和平交渉の枠組みへの支持が得られたとしています。

ただ、サウジアラビアは最近のシリア・イランに対するオバマ外交には不信感を持っていますし、パレスチナと境界を接するヨルダンにとっては、イスラエル撤退後の混乱への不安や、ヨルダン市民権を持つパレスチナ難民の問題などもありますので、本音のところではどうでしょうか?

そのイスラエル軍駐留に関して、アッバス議長は3年の期限付きでこれを認める発言をしています。

****イスラエル軍の駐留容認=西岸に和平後3年以内―パレスチナ議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は28日にテルアビブで開催された会議で放映されたインタビューで、イスラエルとの和平成立後も、イスラエル軍が占領地ヨルダン川西岸から段階的に撤退するまで3年以内の駐留を容認する考えを示した。【1月29日 時事】 
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こうした柔軟姿勢が、イスラエルへの強硬論を主張する勢力も強いパレスチナ内部で容認されるのかどうかは不透明です。

イスラエル内部も硬軟様々です。
対パレスチナ強硬派のイスラエルのヤアロン国防相は、アメリカ・ケリー国務長官を「救世主気取り」「ノーベル省目当て」と酷評し、国務長官の示した治安対策についても「紙くず同然」と切り捨てています。

****イスラエル:国防相が批判 パレスチナ和平協議、ケリー氏は「ノーベル賞狙い****
イスラエルのヤアロン国防相・AP=が関係者らとの懇談の席上、イスラエルとパレスチナの和平交渉を仲介するケリー米国務長官=について、ノーベル平和賞受賞が目当てで「不可解な執着」と「理想主義」にとらわれているなどと酷評していたことが分かった。イスラエルのイディオト・アハロノト紙が14日、伝えた。

米国務省のサキ報道官は同日、事実なら「無礼で不適切な発言」と不快感を示した。

地元テレビによると、ヤアロン国防相は最近、一部記者団に和平交渉についての見解をオフレコで述べた。その際、長官について「ノーベル賞を受賞していなくなってくれれば、唯一の救いになるのではないか」と指摘。また、ケリー長官は「不可解な執着と理想主義の感覚で(仲介を)やっているが、私にパレスチナ人との紛争について教えることなどできない」と語ったという。

ヤアロン国防相はパレスチナ自治区の治安対策に長年関わってきた。ケリー長官は交渉の中でパレスチナ自治区の治安対策に関する提案をし、ヤアロン国防相はその内容に強く反発したとされる。

米国務省の反応を受け、ヤアロン国防相の事務所は14日夜、「長官を攻撃する意図はなかった」とのコメントを出した。イスラエルのネタニヤフ首相も同日夜、「我々は国務長官と協力して(和平交渉に)臨んでいる」などと述べた。【1月16日 毎日】
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一方、イスラエルの国際的孤立を懸念するペレス大統領は、イスラエルが目指すべき道は和平しかないとの考えを述べ、パレスチナ和平の進展に強い意欲を示しています。

“パレスチナとの交渉以外の選択肢はない。戦争で世界を征服する時代は終わった。今年中に交渉の結果が出ることを望むが、確信は持てない。新たなユダヤ人入植地の建設はやめるべきだ。ヨルダン川西岸在住の入植者が住むことになる三つの地区を設けるといった解決策をパレスチナ側と合意すべきだ。”【2月6日 朝日】

ただ、イスラエルでは政治の実権は国家元首の大統領ではなく、首相(現在は右派のネタニヤフ氏)にあります。

肝心の交渉内容ですが、アメリカの提案内容について一部が明らかにされています。

****和平交渉の内容・一部公開 *****
イスラエルとパレスチナの間で非公開で行われている和平交渉について。仲介に当たっているアメリカのインディク氏が、合意に向かっているとするポイントを一部開示した。

①パレスチナ・ユダヤ難民への補償
それによると、イスラエルの建国によって発生したパレスチナ難民に補償が行われる。また当時、イスラエルの建国によって、アラブ諸国から追放され難民となったユダヤ人がいたが、補償は、そのユダヤ難民も対象となる。

②西岸地区の入植地75-85%は残留
問題の西岸地区の入植地だが、インディク氏によると、75-85%の入植地はそのままの場所に残留となる。
その分の土地は、1967年六日戦争勃発前のいわゆる「グリーンライン」を基準に、他の部分の土地と交換される。

入植地のユダヤ人が、西岸地区に残留して将来パレスチナ国家の元にはいるかどうか物議をかもしたが、これについては最終合意まで保留にされることとなった。

インディク氏によると、パレスチナ側は、パレスチナ国家からユダヤ人をすべて追放するという考えはないという。

③ヨルダン渓谷に無人の監視システム?
西岸地区とヨルダンの間(ヨルダン渓谷)について、イスラエルは、治安維持のため軍の駐留を主張し、パレスチナ側はユダヤ人は1人もいてほしくないと主張する問題の地域。

そのヨルダン渓谷については、緩衝地帯として、監視設備付きのフェンスの設立し、アメリカが協力して無人の監視を行うとしている。

エルサレムについては、明確な方向性は示されていない。(後略)【2月1日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】http://mtolive.blog.fc2.com/blog-entry-670.html
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妥協案は双方の主張の中間にありますので、当然ながら双方の強硬派からは不満・批判がでます。
まとめられるかどうかは、ネタニヤフ首相とアッバス議長が双方内部の不満を抑えられるかどうかにかかっています。
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