孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  「休戦」合意後も衝突が続く 欧州はヤヌコビッチ政権への制裁発動の動き

2014-02-20 21:32:12 | 欧州情勢

(2月20日 荒れるキエフ “flickr”より By rokonbd77  http://www.flickr.com/photos/88945895@N08/12650433295/in/photolist-kgSM5T-kgUxZu-kh1nEu-kfqjGk-kfZsgb-kgt6YR-kfhhor-kfS9iR-kgqh2U-kg2uUz-kg1FLK-kfHCRT-kfyFrP-kgYg4Y-kgNqL2-kg9gCP-kgpRDg-kgd5F2-kgJ1vM-kgXQt6-kfdqF6-kfd5bQ-kgfBTY-kgfdf4-kf3D8T-kh4QGa-kgSGnK-kfbXGF-kfAiGT-kgmWNZ-kgRGZZ-kfoNjN-kfr2Rc-kheff3-kfsLm1-kgUvgy-keXKaT-kh9rkj-kgCNsj-kfwcdk-kh6zAc-kgh5Eb-kgcQkh-kf8YMv-kfC6Az-kfDJNi-kfJKvS-kgPtJe-kh1ATz-kfZ6Yr-khbJte)

流血 休戦 再衝突
ロシア寄りのヤヌコビッチ大統領と、これに反発する親欧米派勢力の対立が続くウクライナの緊迫した状況については多くの報道がなされています。その状況も目まぐるしく変化しています。

昨日の段階では、“キエフ中心部の独立広場は野党デモ隊の拠点となってきたが、18日に治安部隊がデモ隊を強制排除し、インターファクス通信によると26人が死亡、約800人が負傷した。”【2月20日 読売】という流血の事態が報じられていました。

こうした事態を受けて、今日午前中(現地19日夜)には「休戦」が合意されたと報じられました。

****ウクライナ:「休戦」合意…大統領と野党****
反政府デモ隊と治安当局の衝突で多数の死傷者が出たウクライナのキエフで19日夜、ヤヌコビッチ大統領と野党指導者3人が会談し、「休戦」と情勢安定化に向けた対話プロセスの開始で合意した。大統領府が明らかにした。

18日の大規模衝突後、双方が会談するのは初めて。流血の惨事と国家の危機的状況を受けて一定の歩み寄りを示したものだが、大統領辞任や憲法改正を求める野党側と、退陣を拒む大統領の対立は根強く、事態が沈静化に向かうかどうか不透明だ。

一方、ウクライナ保安庁は19日、国内で「反テロ作戦」の実施を決めたと発表した。大規模衝突時にデモ隊の一部が銃など武器を使用したことを重視し、デモの過激化を押さえ込む狙い。

テロ対策法に基づく「反テロ作戦」は、国防省、内務省、国境警備庁などが参加し、軍隊が武器を使用したり、容疑者を拘束したりすることが可能となる。作戦の開始時期は明らかにしていない。

キエフ中心部の独立広場では19日夜もデモ隊が抗議集会を続け、治安部隊の突入に備えて周囲のバリケードを強化した。一方、治安当局は中心部につながる道路を封鎖し、車の進入を阻止した。キエフの地下鉄は19日も運行が停止された。

ヤヌコビッチ大統領は20日を「服喪の日」と定め、今回の衝突で犠牲となった26人を追悼する行事が全土で行われる。【2月20日 毎日】
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「休戦」合意にもかかわらず、“デモ隊の中には武装闘争を主張する過激な勢力もあり、野党指導部の統制がきかなくなりつつあるとの見方もある。政権側も過激なデモは強制的に排除する姿勢を崩しておらず、緊迫した状況が続いている。”【2月20日 読売】と、先行きが不安視されていましたが、今日午後になると、その不安が現実のものとなり、実弾が飛び交う衝突が再燃したことが報じられています。

****ウクライナ:デモ隊と治安部隊衝突 19人死亡 続く流血****
政治危機が続くウクライナの首都キエフで20日、反政府デモ隊と治安部隊が衝突し、内務省によると警官1人が死亡、29人が負傷した。
また、AP通信によると、中心部の独立広場の近くでデモ隊とみられる18人の遺体が確認された。遺体は銃撃を受けたものだったという。保健省は死者7人と発表している。

ウクライナでは19日夜にヤヌコビッチ大統領と野党指導者3人が「休戦」で合意したばかりだった。28人が死亡した18日夜の大規模衝突に続く流血の事態となったことで情勢はさらに混迷を深めている。

ウクライナ大統領府は20日、「野党側は休戦合意をデモ隊が武装するための時間稼ぎに使った」と非難する声明を発表した。内務省は、デモ隊側のスナイパーが中心部のビルから治安部隊に向けて発砲したと発表した。

一方、デモ隊の一部は国会を襲撃したほか、政府関連庁舎の占拠をさらに進めている。

ヤヌコビッチ大統領は20日、キエフを訪れたフランス、ドイツ、ポーランドの外相と会談した。【2月20日 毎日】
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親ロシア的な東部・南部と親欧米的な西部の溝
親ロシアと親欧米の路線対立の背景には、“親ロシア的な東部・南部と親欧米的な西部”という国土を二分する文化的・経済的な対立があることは、これまでも取り上げてきたところです。

****ウクライナ衝突、横たわる“東西問題”…単一国家の限界露呈****
大規模衝突により、ウクライナはソ連崩壊後最大の危機を迎えた。

親ロシア的な東部・南部と親欧米的な西部で国土と住民が二分されているこの国で、今回の事態が示したのは両者の溝の深さにほかならない。
単一国家としての存在に限界が近づいているとの見方すら、現実味を増してきた。

ウクライナの政治はこの約10年間、親露派と親欧米派の間で揺れ動いた。
2004年の大統領選では親露派のヤヌコビッチ首相(当時)がいったん当選するも、選挙での不正に抗議するデモが数十万人規模に拡大。続く再選挙で親欧米派のユシチェンコ政権が誕生した。この出来事は「オレンジ革命」と称される。

しかし、ユシチェンコ政権は内紛続きで経済も好転せず、10年の大統領選ではヤヌコビッチ氏が僅差で当選。政敵のティモシェンコ元首相は職権乱用罪で投獄された。そして昨年11月、欧州統合路線の棚上げで、親欧米派や民族主義勢力の怒りに火がついたのが今回の事態だ。

振り子のような政治の根底には、ソ連崩壊期に独立を得たウクライナが国民統合の理念を打ち出せず、ソ連時代より前の「東西分断」の歴史を克服できていないことがある。

長くポーランドやオーストリア領だったウクライナ西部では今も欧州への帰属意識が強く、ロシア領だった東部では親露的な住民が主体だ。

ここに、東方諸国との関係拡大をめざすEUと、旧ソ連諸国の経済統合を課題とするロシアの駆け引きが加わった。国民意識の形成が遅れたまま「東か西か」の対立が深まり、経済も行き詰まったのが現状だ。

露専門家の間では、政権も野党勢力も統治能力を欠いているとの悲観的な見方が強まっている。また、過激な民族主義勢力がデモの暴力化をあおっているとみられており、政権と野党の双方が制御不能な状況に陥っているとの指摘もある。

プーチン露政権は昨年、巨額の支援約束と引き換えに、ウクライナとEUの連合協定締結を阻止した。だが、当のウクライナが「破綻国家」に近づく事態は想定外だったに違いない。【2月20日 産経】
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過激な民族主義勢力も台頭
“過激な民族主義勢力がデモの暴力化をあおっている”という点については、前回2月5日ブログでも取り上げた極右連合「右派セクター」が注目されています。

****ウクライナ:極右連合「右派セクター」が第三勢力に****
反政府デモが激化したウクライナで、極右連合「右派セクター」が第三の勢力として台頭してきた。
今月(1月)19日、首都キエフでの治安部隊との衝突で、デモ隊側の反撃の中心となり、過激な「武闘派」として注目を集めると同時に、ヤヌコビッチ政権と交渉を重ねる野党指導者も批判し、独自の要求を掲げて、情勢を複雑にしている。

ロシア通信によると、右派セクターは複数の極右団体の連合体として昨年末に登場した。ソ連崩壊後の1990年代に誕生した「ウクライナの愛国者」「ウクライナ国民会議」といった古参組織と、この数年に結成された「白いハンマー」など若者組織で構成。

違法カジノの襲撃や取材記者への暴行で知られる組織も含まれ、反ユダヤ主義者や熱狂的なサッカーファンも加わっている。特定のリーダーはなく、集団指導体制をとる。(中略)

同国の政治学者コルニロフ氏は、露有力紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」に対し、「極右団体は今回のデモに当初から参加し、勢力を伸ばした。メンバーの戦闘訓練を行ってきたため、衝突にたけている」と語る。

野党第3党の極右政党「自由」と一体の関係にあり、欧州的価値観を理想とする他の野党勢力や一般市民とは異なる民族主義的な国家像を目指しているという。【1月31日 毎日】
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“デモ隊の過激化を先導する極右連合「右派セクター」のヤロシュ代表は同日、ヤヌコビッチ大統領と有力野党が合意した「休戦」に従うつもりはないとツイッターに書き込み、武力闘争を続ける構えだ。”【2月20日 毎日】

“単一国家としての存在に限界が近づいている”ということになると、最悪の場合は分離独立を求める内戦状態ということにもなりますが、現在はまだそういう段階にはなく、多くの反政府派市民は冷静さを維持しています。

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近くの職場から独立広場へ物資を差し入れたり、逃げ道を案内したりしている人もいる。保険代理店職員セルゲイ・バジューチンさん(34)は「(反政権勢力に)過激派が紛れ込んでいるのは事実だが、ほとんどの人は自分たちの国を何とかしたいという思いでやっている」と話し、ヤヌコビッチ大統領を「『ヤクザ』だ」と切り捨てた。

市内の地下鉄、バスは運行停止となり、郊外の幹線道路は通行止めに。40代の運転手アレクサンドルさんは18日昼、国会の近くで反政権派が治安部隊に向けて発砲するのを見たという。「いまの政権は汚職がひどく、変わらなければいけない。ただ、反政権派が武力で攻撃したことには失望している」と話した。【1月20日 朝日】
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ただ、中央政府から独立して行動する「人民評議会」組織もつくられているようです。

****ウクライナ危機を理解する3つの質問 これは内戦なの****
・・・・両者の対立は先鋭化する一方だが、なかでも懸念されるのが、ウクライナ西部の複数の地域で反政府系の独自組織が結成されていること。「人民評議会」を名乗るこの組織は独立広場に集うデモ隊の信任を得ており、政治機能などの権限を主張している。19日には西部最大の都市リビブの「人民評議会」が、中央政府から独立して行動すると宣言した模様だ。【2月20日 Newsweek】
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記者が前回キエフを訪れた昨年11月末は反政府デモが始まった直後で、独立広場に若者や女性が大勢集まり、欧州連合(EU)への加盟を求めて平和的なデモを繰り広げていた。

あれから3カ月。独立広場の様子は一変し、殺伐とした雰囲気が広がっている。先行きが不透明感を増す中、ウクライナの混乱が拡大すれば、かつてのユーゴスラビアのように内戦・国家分裂につながるというシナリオも現実味を持ってささやかれ始めている。【2月20日 毎日】
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制裁発動に向けEU外相理事会
強引なウクライナ取り込みに動いたロシア・プーチン政権にとって“ウクライナが「破綻国家」に近づく事態は想定外だった”かどうかはともかく、欧米側も手をこまねいているうちに事態が悪化したという戦略ミスが指摘されています。

****ウクライナ危機を理解する3つの質問 問題解決に向けて欧米諸国は何をすべき****
・・・・だがウクライナがこんな状態に陥ったのはそもそも、ウクライナの危機を軽視し、両陣営の口先で暴力行為を非難するだけだったEUとアメリカの戦略ミスの表れともいえる。

ロシア側がヤヌコビッチ政権に対し、巨額の資金援助や天然ガスの値下げといった「ニンジン」をふんだんに提供して取り込みを図ったのとは対照的だ。

昨年秋にウクライナのEU加盟への扉が閉ざされて以降、欧米諸国はヤヌコビッチ政権に有意義な働きかけをしてこなかった。反政府デモ隊は、数ヶ月前までウクライナのEU加盟路線を歓迎してくれていたはずの欧米諸国に見捨てられたように感じている。【同上】
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さすがに、ウクライナ情勢の急展開・悪化を受けて、欧米側も制裁発動に向けた動きを速めています。

“フランスのオランド大統領とドイツのメルケル首相は19日、パリで首脳会談を開き、制裁の必要性で一致。両首脳とも制裁発動をテコとして、政権側と野党側との対話による政治解決を促す狙いを示した。

米国のバイデン副大統領も18日、ヤヌコビッチ大統領に電話で「重大な懸念」を伝え、「最大限の自制」を政権に求めた。オバマ政権は、ヤヌコビッチ政権に対抗して政治改革などを求める反政権側に同調的だ。バイデン氏は反政権勢力の要求を「もっともな憤り」とも表現。政権に野党側との対話を促した。”【2月20日 朝日】

“20日にはフランスのファビウス外相、ドイツのシュタインマイヤー外相、ポーランドのシコルスキ外相がキエフを訪問し、各国の仲介が本格化している。事態打開に向けたヤヌコビッチ大統領の取り組みが不調に終われば、欧米諸国は政権への制裁に乗り出す構えだ。”【2月20日 時事】

****対ウクライナ制裁議論へ=EU外相理事会****
欧州連合(EU)は20日、ウクライナのヤヌコビッチ政権に対する制裁を議論するため、ブリュッセルで臨時の外相理事会を開く。

反政権デモ隊と治安部隊の衝突で多数の死傷者が出た主要な責任は政権側にあるとの見方が大勢で、制裁発動に向け、全会一致での合意を目指す。ヤヌコビッチ政権への圧力を強め、危機解決に向けた野党との対話を促すのが狙い。【2月20日 時事】 
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経済制裁の有効性については、“残されたカードは、ウクライナの政権幹部や、政府と癒着したオルガルヒ(新興財閥)に対する経済制裁しかない。彼らは資産の多くを欧州の銀行に預けているのだから。”【2月20日 Newsweek】とも指摘されています。
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