孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  抗議デモに強権色を強めるマドゥロ大統領 一貫性を欠く施策

2014-02-26 22:30:38 | ラテンアメリカ

(こちらは政権支持派の武装ギャング「コレクティボス」ではなく、正規の治安部隊のようです。 “flickr”より By FuTurXTV http://www.flickr.com/photos/28646916@N06/12754849095/in/photolist-kr6Wgi-kr6rwV-kr8K6C-kr8DSb-kr6oUa-kr7hLV-kr6FEK-khFpni-kpDcW4-kpEXcG-kpCLw8-kpDvB4-kiCwvh-keFZpf-kgJYuc-keEg5M-kmPydq-keDDVF-keDF6g-keEieg-kiAFUF-keFX1C-keDJja-keFXAL-kiA2Vr-kgMsAN-keEeqe-kiAGEi-kgKDaM-kgs8mH-keEeVx-keEiRi-kp8EtK-kpamoH-kjcm1o-kqRjGk-kqTvtf-kteV3Y-kpCTwF-kpD7yx-kpCQGn-kpF42C-kpCPg6-kpDt8B-kr2pmP-kmCBUV-kiQxhJ-krS2Nw-kpCrRc-kpEYWU-kpEV5W)

激しさを増す抗議デモ
南米ベネズエラでは、極端な反米・左派路線で良くも悪くもカリスマ性のあったチャベス前大統領亡き後、側近だったマドゥロ氏が大統領選挙を制して後を継ぎ、“チャベスなきチャベス路線”を実行しています。

しかし、市場原理を無視した経済対策によって経済状況は悪化の一途で、食料品・日用品・医薬品など生活必需品の物不足、年率60%近いインフレーションが進行しています。

こうした経済状況に加え、世界で最も殺人発生率の高い国の一つとされる治安の悪さ、更に強権的な政治手法もあって、困窮する国民の不満は高まり、マドゥロ大統領の退陣を求める抗議デモが激しくなっています。

(2月1日ブログ「ベネズエラ 地方選挙を乗り切り、反対勢力への圧力を強めるマドゥロ政権」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140201 参照)

****ベネズエラ、デモ激化 強権政治、大統領の退陣要求****
南米ベネズエラでマドゥロ大統領の退陣を求める抗議デモが激しさを増している。
マドゥロ氏の強権的な政治手法に加え、高インフレや物不足、改善の兆しの見えない治安への不満が高まっているためだ。

マドゥロ氏は16日、デモを扇動しているとして、米外交官3人の追放処分を発表し、隣国コロンビアのウリベ前大統領にも批判の矛先を向けており、国民の不満をそらす「マドゥロ氏流のガス抜き」(外交筋)との見方も出ている。

ベネズエラの主要都市で続く反政府デモは12日、首都カラカスで警官隊と過激派が衝突、3人が死亡し、約60人が負傷した。約1万人が集結した18日のデモでは、有力野党指導者のレオポルド・ロペス氏が武装警察に連行されるなど、ここ数週間でジャーナリスト11人を含む100人超が拘束されている。

デモ激化の背景には、野党側が首長を務める地方自治体から、政権与党側が次々と権力を奪う強権の発動がある。経済面でも昨年末に収束するかに見えたインフレが年率約56%で推移し、下降の兆しが見えないことも大きい。

また、ベネズエラの人権団体は独自集計をもとに、10万人あたり73人だった殺人件数が24%上昇したと指摘しており、「国民が治安改善を実感できず、政権への怒りを増幅させている」(外交筋)という。

マドゥロ大統領は反政府デモの背後でコロンビアのウリベ前大統領が資金を提供し、米外交官も学生らを扇動していると批判した。

米国務省のサキ報道官は17日の声明で、対米批判には「根拠がなく、誤りだ」と反発。ベネズエラの政治の将来は自国民が決めることだとし、マドゥロ大統領側に反政府勢力との対話促進を求めた。【2月20日 産経】
*******************

反政府抗議デモの中心にいるのが、野党「民衆の意志」のレオプルド・ロペス党首。
抗議デモに業を煮やしたマドゥロ大統領は、「私が“投獄しろ”と命じた。ファシストは皆そうなる」と、暴力を扇動したとしてロペスの逮捕命令を出しました。

一方、ロペス氏は敢えてこの逮捕に応じることで、「私は今日、不公平な正義の前に身をささげる」と支持者にアピール、自らの逮捕を抗議のパフォーマンスとしています。

****カリスマ政治家 あえて獄中へ****
先週、ベネズエラの有力野党「民衆の意志」を率いるレオポルド・ロペス党首が、大勢の支持者に囲まれながら拘束された。

ベネズエラの国旗を手にしたまま、待機していた武装警察の車両に押し込まれて連行された。
デモを扇動した容疑で逮捕状が出たための出頭だったが、マドウロ大統領はロペスが殺人やテロを行ったと非難している。

3週間ほど前から続いていた反政府デモ。
2月12日には、食料不足や経済停滞、治安悪化などへの不満を背景に、ロベスの呼び掛けでマドゥロの退陣を求
める大規模デモに発展した。警官隊との衝突で少なくとも6人が死亡している。

ロペスは反政府デモの象徴的存在だ。カラカス首都区チャカオ市の元市長で、米ハーバード大学卒の42歳。雑誌でコヘネズエラで最もハンサムな男性」に選ばれるなど、カリスマ性のある政治家として知られる。

マドゥロ政権はロペスを逮捕することでデモ隊の弱体化をもくろんでいた。だがロペスは事前収録したビデオや刑務所からのメモでデモ隊に戦いを続けるよう訴えており、デモが沈静化する兆しはない。

ロペスは逮捕前、支持者を前に語った。「私は今日、不公平な正義の前に身をささげる」【3月4日号 Newsweek日本版】
****************

ロペス氏拘束後の19日も抗議行動は続き、これを抑え込もうとする政府側との間で衝突が起こり、死者を出す事態となっています。

****ベネズエラ、デモ緊迫 死者計6人 物不足・物価高に不満****
南米ベネズエラ各地で、物不足などに抗議するデモが頻発し、この1週間で6人が死亡する事態になっている。政府は強硬姿勢で臨んでおり、抗議活動が収束する気配はない。

19日、中部バレンシアの大学生ヘネシス・カルモナさん(22)が死亡した。前日に同市内のデモに参加し何者かに銃で撃たれたらしい。

発端は12日、首都カラカスでデモ隊と政府支持者が衝突し、双方で計3人が銃撃されて死亡、約70人が負傷したことだった。

マドゥロ大統領は、デモを呼びかけた野党指導者レオポルド・ロペス氏や、デモ参加者を「クーデターを企てるファシストだ」と批判し、デモの様子を中継していたケーブルテレビの放送を中止させた。18日にはロペス氏を殺人とテロ容疑で逮捕した。

現地NGOはこれまでに全国で40人が撃たれて重軽傷を負い、125人が拘束されたとしている。

デモが広がる背景には日常生活への不満の高まりがあるとみられる。
国内では誘拐や強盗が頻発し、昨年のカラカスの殺人発生率は人口10万人あたり134人と世界で2番目に多いとされる。

物不足も悪化し、現地の日本人によると、トイレットペーパーや牛乳や小麦、薬などがなかなか手に入らないという。1年前と比べ、日用品の不足度合いを示す指数は6ポイント悪化、物価の上昇ペースは2倍になった。

ベネズエラは世界有数の産油国だが、債務返済などで外貨準備高は1年前より28%減少。輸入が滞り、トヨタを含む現地の自動車メーカーは部品不足で2月までに生産がほぼ止まっている。【2月21日 朝日】
*******************

チャベス流強権支配の巧妙さ 粗雑さが目立つマドゥロ流
強権支配は師のチャベスゆずりですが、チャベス流強権支配はむき出しの暴力ではなく、それなりに民意に訴える巧妙さをもっていました。

****社会対立をあおる巧妙さ****
・・・・ベネズエラのチャベスは人気者だったが、トルコやシンガポールほどの豊かさをもたらすことはできなかった。かつてのベネズエラは中米の豊かな産油国だったが、今やインフレ率は60%に近づき、犯非率も急上昇。首都カラカスは殺人事件の発生率が世界最悪になった。
国民は基本的な食料や日用品、医薬品の不足に悩まされている。

国際的な評判も悪く、先頃3つの航空会社がベネズエラヘの乗り入れを中止すると言い出した。
国内での航空券売り上げを外貨に換える手続きを、政府が阻んでいるからだ。

しかしチャベスは国民の窮状を逆手に取り、これを金持ちと貧者の階級闘争と呼ぶことで巧みに権限の集中を図ってきた。
後継者のマドゥロも政府だけでなく軍隊や中央銀行、国営石油会社やほとんどの放送局を支配しており、どんな民間事業も接収できる権限を持つ。

多くの面で、チャベスはプーチンと正反対だった。プーチンは巧妙に社会の秩序と安定を保ってきたが、チャベスは対立をあおり、秩序を乱してきた。

その過激な言動のおかげで社会は二極化し、首都で激しい抗議行動が起きることも珍しくない。
しかしデモに参加するのは、学生などの比較的恵まれた層に限られる。だからチャベスは対決姿勢を示すことで、多数派の貧困層との絆を強めることができた。

ポピュリスムと強権政治を見事に合体させた、実に巧妙なやり方だ。

権力は大統領に集中し、選挙の日に市民が紙切れ1枚を投じれば、民主主義はおしまい。
マドゥロも形式上は民主的に選ばれた大統領だが、手口は師と仰ぐチャベスと似ている。【3月4日号 Newsweek日本版】
*******************

マドゥロ大統領も、政策面でも政治手法でもチャベス路線を忠実になぞろうとしていますが、役者が違うというか、粗雑さが目立つようです。

****チャベスの後継者はチャベスよりずつと強権的****
全土に広がる反政府デモを力ずくで弾圧するのはマドゥロ大統領が前任より自信も戦略性もない証し
ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当エディター)
  
2月12日に反政府派と政府派の衝突で3人の死者が出たことがきっかけで、ベネズエラ全土に広かった抗議デモの波。マドゥロ大統領が19日に突然、強硬姿勢をむき出しにすると、長年くすぶっていた人々の怒りは一気に燃え上がった。

首都カラカスでは治安部隊と警察がデモ隊と衝突。辺りには催涙ガスが立ち込め、銃声が響いた。
「コレクティボス」と呼ばれる大統領支持派の武装ギヤングがバイクを連ねて乗り込み、市民に向けて銃弾を放つ。

暴力的な弾圧は首都に限らず、マラカイボ、マラカイ、バレンシアなど、ほぼすべての主要都市で強行された。
ベネズエラではここ数年、犯罪と殺人事件の発生率が急増し、都市部の治安の悪さはよく知られている。だが、この日のベネズエラはただ物騒なだけではなく、まさしく戦場と化していた。

さらに衝撃的だったのは、政府が事前に警告も説明もしなかったことだ。マドゥロは19日の弾圧に先立ち、国民に向けて演説を行った。治安維持の必要性を説き、コレクティボスの「貢献」をたたえ、有力野党を非難する内容だ。

抗議デモで死者が出たことで、政権側は有力野党「民衆の意志」のレオポルド・ロペス党首に逮捕状を発行。無実を主張するロペスは18日に逮捕覚悟で治安部隊の前に姿を現し、即座に拘束された。

反政府派の旗頭ロペスを拘束しても、マドゥロの政権基盤は安泰ではないらしい。19日の演説は一貫性に欠け、自信のなさをうかがわせた。
マドゥロは政権内部で求心力を失い、軍と治安部隊を掌握し切れていないという噂も広がっている。

食料・物資不足が深刻化
弾圧の最大の標的となっているのは「民衆の意志」だ。18日には治安部隊が党本部に捜査に入った。同党の中堅メンバーの話では、党幹部の大半は逮捕されたか潜伏中という。

今回の弾圧にウゴ・チャペス前大統領とマドゥロの決定的な違いを見て取れる。チャベスは挑発的な発言を繰り返し、憎悪をまき散らしたが、大規模な弾圧には踏み切らなかった。

しかしマドウロにはチャベスのような自信もなければ、政治的な猿狽さもない。しかもチャベスから派閥対立が絶えない政権を引き継いだ。

昨年4月にマドゥロが僅差で大統領選に勝利して以来、専門家たちはチャベス流の虚勢と気まぐれがさらに極端になる可能性があるとして、その政権運営を危ぶんできた。経済の悪化に歯止めがかからない状況ではなおさらだ。

抗議デモが広がった背景には国民の経済的困窮がある。豊かな石油資源を誇るベネズエラは今や60%近いインフレに見舞われている。食料や日用品、医薬品の不足には国民はもはや慣れっこだが、昨年末から物資不足が一段と深刻化した。政府でさえ生活必需品の25%が品薄だと認めている(実際にはもっと深刻だということだ)。

19日の衝突は、89年のカラカス暴動以来の激しい騒乱となった。混乱の最中に市民を震え上がらせたのはコレクティボスだ。暴走族並みにバイクを飛ばして各地に乗り込み、集団で暴れ回る。政府の後ろ盾を得た彼らは、何をしても罪に問われない。

チャベスは自分の強権支配を認めなければ、この国は内戦に陥ると、たびたび国民に脅しをかけてきた。「特権階級が再び政権を握ったら……革命政権と民衆を守るために戦車を出勤させる」と宣言したこともある。

チャベスのこうした強硬発言はしたたかな戦略だった。マドゥロの強硬姿勢には弱さが透けて見える。【3月4日号 Newsweek日本版】
*******************

エジプト・ムバラク政権崩壊時にラクダがデモ参加者の中に突っ込んだ場面は一種滑稽な感もありましたが、バイクにまたがった武装ギャング「コレクティボス」が発砲しながらデモ隊を蹴散らす様は恐怖以外の何物でもありません。
(参照:「19F — ベネズエラがついに内部崩壊した日」http://venezuelainjapanese.wordpress.com/2014/02/21/19f/

コレクティボスの「貢献」をたたえるマドゥロ大統領は、一線を越えたようにも見えます。

【「心変わり」の背後にあるものは?】
“19日の演説は一貫性に欠け、自信のなさをうかがわせた”とのことですが、最近の対アメリカ政策も一貫性を欠いています。

****ベネズエラ、米に対話呼び掛け=突然の「心変わり」?―マドゥロ大統領****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領は21日、記者会見で、対立が続く米国に対し、関係改善に向けた「ハイレベルの対話」を呼び掛けた。両国は2010年以降、大使館に大使を置いていないため、オバマ米大統領に交渉担当者の任命を求めた。

マドゥロ大統領は16日、政権退陣を求める反政府デモに加担したとして、在ベネズエラ米国大使館職員3人の国外追放を表明したばかり。突然の「心変わり」は、混乱が続くデモから国民の関心をそらす狙いもあるとみられる。【2月22日 時事】 
******************

なお、マドゥロ大統領の「心変わり」だか何だかにかかわらず、アメリカは報復措置として在米ベネズエラ大使館の外交官3人を追放することを25日発表しています。

CNNに対する報道規制にも「心変わり」が出ています。

****CNNの取材許可はく奪を急きょ撤回、デモ続くベネズエラ****
物価高や物不足に端を発する反政府デモが過去数週間続く南米ベネズエラのマドゥロ大統領は21日、CNN記者団の取材許可証をはく奪した同国政府の20日の決定を一転して撤回、取材活動を引き続き認めると述べた。
国営テレビが放映した記者会見で表明した。同国政府当局者はこの後、許可証を発給すると述べた。

マドゥロ氏は20日、テレビ演説を通じ「CNNはベネズエラで内戦が起きているかのように世界に伝えている」と非難、政府はその後、取材許可証を無効とする措置を取っていた。

同大統領はCNN記者をファシストとも弾劾、反政府デモの報道を修正しなければ追放するとも警告していた。21日の会見ではCNNにバランスある報道を求めた。

許可証を当初、無効とされたのはCNN英語やスペイン語放送の記者ら7人が対象。ベネズエラ国外から到着した記者に対し自国への航空便を予約するよう命じてもいた。

これに対しCNNスペイン語放送は声明で「政府当局者への取材の機会が極めて限定されている中で、CNNは対立状態にある両当事者の立場などを報じてきた」と主張。マドゥロ大統領の会見も望んでいると述べた。

取材許可証ははく奪されたものの、CNN英語とスペイン語の両放送はベネズエラで放映され続けていた。

政府当局者によると、反政府デモの発生では治安部隊との衝突も発生、これまで少なくとも8人の死者が出た。今回の抗議行動はマドゥロ氏が11カ月前にチャベス前大統領の後継者として就任後、最大規模の騒乱となった。

同氏は前大統領の反米左派路線を踏襲。最近では自らの政権崩壊を画策したとして米外交官3人を追放していた。米国務省はマドゥロ氏の主張を再三否定している。【2月22日 CNN】
*****************

最近日本では、「心変わり」は“ブレる”と見なされ評判がよくありませんが、“君子豹変”ということで、間違いを改めること自体は評価されるべきことと思います。

ただ、あまり粗雑な「心変わり」が続くと見識を疑われるだけでなく、“政権内部で求心力を失い、軍と治安部隊を掌握し切れていない”という噂も出てきます。

ベネズエラの制度では、マドゥロ大統領の罷免を求める国民投票実施が可能となるのは任期3年後の2016年ですが、そこまでマドゥロ大統領がもつのだろうか?という疑問と、そこまでもつとしたらベネズエラも大変だな・・・という感があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする