孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  改革の停滞 それでも与党ANC・・・

2014-02-27 22:26:50 | アフリカ

(与党ANCへの投票を呼び掛ける広告塔 バーナーの人物はズマ大統領 “flic”より By Dinilohlanga Mekuto http://www.flickr.com/photos/74012891@N00/12428543553/in/photolist-jWgwZF-jVffNR

マンデラ氏葬儀でズマ大統領へのブーイング
南アフリカ経済は近年停滞気味で、2013年の成長率は1.9%程度、2014年も2.7%予測と、国民生活の底上げをしていかねばならない“新興国”としては厳しい数字となっています。

****南ア、14年経済成長率予想を2.7%に下方修正****
南アフリカ財務省は26日に提示した2014/15年度予算の中で、2014年暦年の経済成長率予想を2.7%と、従来の3%から下方修正した。
成長率は2016年までに3.5%に加速すると予想している。【2月27日 ロイター】
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それでもアパルトヘイト後の南アフリカ社会・経済が大きな改善をとげたことは間違いないでしょう。

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マンデラ氏によって権力の座に押し上げられたアフリカ民族会議(ANC)は、アパルトヘイト終了後、重要な前進を遂げた。

経済は鈍化しているとはいえ、世界的な金融危機の発生した直後の2009年を除き、20年間近く成長した。
識字率と電力利用率は急上昇。大規模な低価格住宅プログラムと、貧困な母親など弱者に対する社会保障手当を受け、ほぼ全ての南ア国民は悲惨な貧困状態から脱出できた。【2013年12月11日 WSJ】
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アフリカ全体と見比べたとき、南アフリカは“悲惨な貧困状態”からは脱したといえるかもしれませんが、未だ大きな貧困が残っていることも事実であり、一番の問題は、改革の道半ばにして、そのペースが鈍っているように思えることです。
そのあたりの現状は、昨年末のマンデラ氏葬儀の際に、多くのメディアで指摘されています。

****貧困から抜け出せぬ南アの黒人や若者―マンデラ後は改革が停滞****
ネルソン・マンデラ元大統領が刑務所から釈放され、南アフリカが政治的な自由化に向かい始めて20年以上経つが、多くの若者たちは依然として貧困にあえいでる。

セロ・ヌシンヤさん(21)は、乗用車の警備と庭の手入れの仕事で1日数ドル(数百円)を稼ぐ。
ダニエル・シマンゴさん(22)は大学に通う金銭的余裕がなかったため、趣味であるCDコレクションをパーティーで演奏することを仕事にしている。
フランク・マソテさん(22)は近くのバーへの仕入れで月に200ドル(約2万円)稼いでいる。

マンデサ・ムンゴメズルさん(20)は「われわれはマンデラ氏について心配していない」と述べ、「むしろ南アの将来を心配している」と語った。既に母親になっている彼女は助産婦になりたいと思っているが、学校の勉強を修了できず、他の仕事も見つけられずにいる。

ソウェトの多くの若者は定職にありつけていない。25歳未満の若者のうち3分の2も同様だ。

ヨハネスブルク南西に広がるソウェトはマンデラ氏が刑務所に入れられるまで彼の居住地で、アパルトヘイト(人種隔離政策)抵抗運動の中心地だった。

しかし、今の若者たちはマンデラ氏が主導した解放運動を全く知らず、1994年に同氏が南ア初の黒人大統領になった当時すら知らない。

彼らにとって、マンデラ氏が5日に95年の生涯を閉じたことは、人種的な平等を経済的な原動力に変えるというマンデラ氏の誓約を、後継者たちが実行しなかったことを意味する。

南アの多くの人々にとって、生活は厳しさを増している。黒人の失業者は4分の1(約25%)に達している。
通貨ランドは週末6日、米ドルに対して4年半ぶりの安値に落ち込んだ。

経済成長率は今年、わずか1.9%にとどまると予想され、失業率を低下させるために不可欠と当局者がみる5%を大幅に下回っている。

有力調査会社キャピタル・エコノミクス社のアフリカ担当エコノミスト、シラン・シャー氏は「アパルトヘイト後にとられた当初の措置の後、改革プロセスは停滞した」と述べ、「政策決定者は、マンデラ氏の指導の下で実現した経済的な発展を損なうリスクを抱えている」と語った。(後略)【同上】
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マンデラ後の与党・アフリカ民族会議(ANC)に対する国民の不満は、マンデラ氏の葬儀の際にズマ大統領に浴びせられた激しいブーイングに象徴されています。

****南ア、揺らぐ闘争の拠点 マンデラ氏系与党、支持者も離反****
ネルソン・マンデラ氏がかつて率い、反アパルトヘイト(人種隔離)闘争の中心だった南アフリカ共和国の与党、アフリカ民族会議(ANC)への支持が揺らいでいる。

腐敗体質に失望し、闘争拠点だった黒人居住区でも白人主導の政党に期待する声が相次ぐ。マンデラ氏の死去はANC離れを後押ししそうで、「黒人対白人」で語られてきた社会は変わりつつある。

ヨハネスブルク郊外の旧黒人居住区ソウェト。極貧層が住むクリップタウンと呼ばれる地区では、トタン屋根で作られた劣悪な家々がひしめく。

ここは、反アパルトヘイト闘争の拠点で、ANC支持の牙城(がじょう)だった。
「政府が腐っているから治安は悪化し、安全に外も歩けなくなった」
肉屋のサミュエル・マブソさん(35)は、ANCへの不満を訴える。
父親はANCに属し、闘争の途中で死亡した。自身もアパルトヘイト政策の撤廃後、ANCで地区の青年会長を務めた。

だが、1999年にマンデラ氏が引退後、ANCは変わっていったと感じる。「マンデラ氏はすべての人のことを考えていた。今のANC幹部は自分たちの利益しか考えていない」

2010年12月に地域で洪水が起きた時、白人主導の民主同盟(DA)の党首はすぐに被災地を訪れ、避難所も用意した。ほとぼりが冷めたころにANCの政治家が来たが、両脇に自動小銃を持った治安部隊と一緒だったのに失望した。

マブソさんはANCを離れ、地区で初めてDA党員になった。DAの支持者は周辺でゼロから8千人以上に増えたという。

かつての反アパルトヘイトの活動家、マンペラ・ランペレさん(65)は2月、ANCに対抗する新党「アハン」をつくった。「ANCには、もはや国を変革する政治的な意志がない。アハンは特定の人種に属すのではなく、すべての人種のために努力する。かつて獲得するために闘ってきた自由を取り戻す」と語る。

 ■広がる格差と腐敗
ANCの前身は1912年に結成された南アフリカ原住民民族会議(SANNC)。23年にANCと改称した。オランダ系白人を中心とする政権が発足して黒人差別が強まった40年代後半、白人政権への抵抗闘争の中心的組織になった。60年に非合法化された。

マンデラ氏は62年に逮捕され、27年間を獄中で過ごす間に闘争の象徴的存在になった。ANCは90年に合法化され、初めて全人種が参加した94年の選挙で圧勝しマンデラ氏は大統領に就任。以来、与党の座にある。

だが、政権に近い一部の黒人が特権を得て裕福になる一方、貧困は解消されず、格差は拡大した。
ANCには、幹部の金銭に絡む問題が度々起き、ズマ大統領には過去の武器取引にかかわる汚職疑惑がある。拝金主義がはびこり、かつての闘争のイメージを失いつつある。

ANCはマンデラ氏が死去した際、声明で「彼はANCを愛していた。ANCの天国の支部に入る」と述べた。マンデラ氏追悼のために人が集まる場所に党旗を持った党員を大量に動員するなど、マンデラ氏とのつながりを強調している。ただ、10日の追悼式でズマ大統領が会場のモニターに映る度に大きなブーイングが浴びせられた。【2013年12月11日 朝日】
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****南ア:「巨人」の故郷、貧困拡大 マンデラ氏埋葬予定の町****
ネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領が15日に埋葬される故郷・東ケープ州クヌの周辺一帯は、白人政権のアパルトヘイト(人種隔離)体制下、黒人を強制的に押し込めた「ホームランド」が広がった貧しい地域だった。

民主化後の発展が期待されたが、好転したとは言い難い。クヌに近い中核都市ウムタタには、農村部住民らによる「スクオッター・キャンプ(不法居住区)」ができ、貧困層地区が増えている。
その一つ「マンデラ」という名の町を訪ねた。(中略)

「現状では、政府とコネがある人が物を手に入れ、本当に必要な人が支援を手にしていない。政府・与党はマンデラが成し遂げようとしたことを今一度考えるべきだ」。マンデラに住む40代の女性はこう訴えた。

ウムタタ博物館のムグウィリ学芸員は「十分な支援が農民になく、元手も能力も不足しており、農業開発が進まない」と民主化後の現状を説明する。

そのため、都市での職を求めて多くの農民が村を離れてスクオッター・キャンプが増えた。民主化以前と同様にムボクワナさんのような出稼ぎ鉱山労働者の供給源となっている。ムグウィリ学芸員は「経済的格差が広がっている」と指摘する。【2013年12月14日 毎日】
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****格差のブドウ:南ア民主化20年/1 農場労働者、続く貧困****
抜けるような青空に垂直に切り立つ「テーブルマウンテン」の山容が映える。大西洋とインド洋がそばで交わる南アフリカ・ケープタウン。ウオーターフロント地区のレストランでは、海風に吹かれながら白人らが美食を楽しむ。南半球の夏の明るい陽光を受け、テーブルの上できらめくのは南ア産ワインだ。

同じ頃、東に約150キロ離れたデドーランズ。広大な生食用ブドウ畑で収穫作業を終えた黒人の男たちが、トラックの荷台から降り、黙々と家路を急いだ。先にあるのは、継ぎはぎだらけのトタン板で作られた何百もの掘っ立て小屋。「インフォーマル・セツルメント(非正規居住区)」では、風が吹けば砂が舞い上がり、目を開けていられない。

豊かさと貧困。ブドウを巡って対極の世界がここにはある。(後略)【2月27日 毎日】
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“豊かさと貧困”という対極の世界は南アフリカだけでなく、多くの途上国・新興国(日本など先進国においても)で見られる現象ではありますが、アパルトヘイト後、黒人の窮状を改善してくれるとのANCへの期待が強かっただけに、現状への不満も大きくなります。

隣国ジンバブエのムガベ大統領は、白人資産の農園などを性急・強引に黒人化する政策で記録的なハイパーインフレーションを伴う経済崩壊を引き起こしたことや、その強権支配体制、野党弾圧などで、国際的には極めて評判の悪い政治家ですが、国内的には一定に国民からの支持を受けており、南アフリカを訪問した際などは黒人住民から大きな歓迎を受けるとのことです。

たとえ強引・暴力的だろうが、強権支配だろうが、多くの貧困者の生活を改善のために戦っている・・・という評価であり、そういう評価が生まれる背景には一向に改善しない現状があります。

****ムガベ大統領、1億円かけ誕生会=90歳、独裁権力誇示―ジンバブエ****
アフリカ南部ジンバブエのムガベ大統領が21日、90歳の誕生日を迎えた。1980年の英国からの独立以来、30年以上にわたり実権を握り、「独裁者」として強い批判を受けるムガベ氏は100万ドル(約1億200万円)の予算をつぎ込んだぜいたくな誕生パーティーを開催し、自身の権力を誇示する。【2月21日 時事】 
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5月総選挙 与党勝利が有力視
南アフリカでは5月7日に議会選挙が行われ、新たな下院で新大統領が選出されます。

****南ア、5月7日に総選挙****
南アフリカ大統領府は7日、任期満了に伴う総選挙が5月7日に行われると発表した。南アは今年、民主化から20周年。有権者は18歳以上で、民主化後に生まれた世代が投票できる初の選挙となる。

旧白人政権時代にアパルトヘイト(人種隔離)と闘った現与党、アフリカ民族会議(ANC)の勝利が有力視されているが、ANC幹部の汚職問題などで支持率は下落しているといわれる。

総選挙では国民議会(下院)400議席を選び、その後に下院で大統領が選出される。ANCが勝利すればズマ大統領が続投することになる。【2月7日 日経】
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上述のように、改善しない貧国・格差に対する強い不満はありますが、与党・アフリカ民族会議(ANC)の反アパルトヘイト闘争の“金看板”は未だ有効で、与党勝利が予測されています。

一時、白人政党・民主同盟(DA)が、ANCに対抗する新党「アハン」の黒人女性代表マンフェラ・ランフェレ氏(66)を大統領候補に担ぐ決定を行ったということで、選挙への影響が注目されました。

しかし、数日後にはこのDAと「アハン」代表との合意はご破算になっています。

****黒人女性擁立の合意撤回=次期大統領候補で野党-南ア****
南アフリカの野党・民主同盟(DA)は2日、次回総選挙で元世界銀行幹部の黒人女性マンフェラ・ランフェレ氏を次期大統領の公認候補とするとしていた合意を撤回すると発表した。
DAは白人が主な支持基盤。ランフェレ氏が出馬すれば、同党にとって初の黒人候補擁立となる見込みだった。
DAのジル党首は、ランフェレ氏がメディアや党内向けに言うことがその都度変わると非難し、「ランフェレ氏は信頼に足りないことが明確に示された」と批判した。【2月3日 時事】
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上記記事ではDA側がランフェレ氏へ不信感を募らせ、合意を撤回したとなっていますが、別情報(在南ア日本大使館)では、「アハン」内部にDAとの“合併”へ批判が多く、代表のランフェレ氏がDAに対し大統領候補を辞退した・・・とも伝えられています。

いずれにしても、ANC・ズマ大統領に対抗しうる勢力が消えたことで、やはり5月7日の選挙は与党ANC勝利、それを受けてズマ大統領再選・・・ということになりそうです。

ということは、「スクオッター・キャンプ(不法居住区)」や「インフォーマル・セツルメント(非正規居住区)」といった現状の改革も今後もあまり期待できない・・・という話にもなります。
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