孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  まだまだ遠い民主化・国民和解のゴール

2015-04-11 22:03:11 | ミャンマー

(軍事政権によるカレン族弾圧を舞台にした映画「ランボー/最後の戦場」より)

【「もし憲法が改正されない場合、彼女は自分で自分の道を選ぶ必要がある」】
最近ミャンマーについて取り上げると、憲法改正など民主化プロセスや少数民族問題の停滞感、その一方で高まる保守的なナショナリズム・・・といった傾向のものになってしまいます。

3月21日ブログ「ミャンマー 強硬派の仏教グループの扇動で高まる仏教ナショナリズム」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150321
2月15日ブログ「ミャンマー ロヒンギャ問題でも、少数民族との停戦でも“黄信号”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150215
1月17日ブログ「ミャンマー 民主化プロセスに停滞感も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150117

これまで急速なミャンマー民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領ですが、ここにきて“失速”というか“停滞”の感があります。
健康面でも、あまり無理がきかない状態にあることはかねてより言われているところです。

****<ミャンマー大統領>民主化推進、正念場 改革停滞に失望も****
・・・・そうした中で国民から「改革は失速している」との批判が増し、スーチー氏は先日、「憲法改正に前向きでない」と、大統領を一転「不誠実」と酷評した。

自らの大統領選「出馬」にも絡む憲法改正論議が進まないことへのいら立ちや、総選挙に向けた政治的思惑も反映しているのだろう。ただ期待値が高かった分、停滞感への失望は大きい。(後略)【4月9日 毎日】
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テイン・セイン大統領はインタビューで次のようにも語っています。

****<ミャンマー大統領>会見の一問一答****
--「民主化」改革の成果と課題は。
◆最大の成果は無血で民主化システムへと移行したことだ。一方、西部ラカイン州で民族・宗教紛争が継続しており、解決に向けて努力している。少数民族武装勢力と「全土停戦」協定の草案に合意する段階までこぎつけた。経済では1人当たりの国内総生産(GDP)を3000~5000ドル(約36万~60万円)に引き上げようとしているが、1000ドル程度にとどまっている。

 --少数民族との和平実現に向けて、相互不信のほかにどんな要素が絡んでいますか。
◆英国の植民地支配下での分割統治政策が民族間の不信をもたらした。そして1948年の独立以来、相互不信は増幅した。彼らは要求を実現するために武力を用い、紛争が始まった。約60年間にわたって、自らの民族や宗教、イデオロギーのための要求ばかりしてきた。これでは、信頼を築くのは難しい。

民政移管後の4年間に多くの障害が解決されようとしている。われわれは停戦協定の草案に署名した。間もなく合意が実現し、政治協議に入る。恒久和平を実現する必要がある。

--憲法が改正されないと、アウンサンスーチー氏は大統領就任の資格がありません。その場合、彼女はどのような政治的役割を果たせばいいでしょうか。
◆憲法改正の有無は、国民が選んだ国会議員が決めることだ。改正は国会次第であり、住民投票での国民の意思による。「もし憲法が改正されなければ」という質問は、一つの意見に過ぎない。もし憲法が改正されない場合、彼女は自分で自分の道を選ぶ必要がある。(後略)【4月9日 毎日】
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“自分で自分の道を選ぶ必要がある”と突き放されたようなスー・チー氏ですが、今秋予定される総選挙について「ボイコット」の可能性にも言及しています。

****総選挙ボイコット排除せず=スー・チー氏会見―ミャンマー****
ミャンマーの最大野党・国民民主連盟(NLD)の党首アウン・サン・スー・チー氏は9日、首都ネピドーで記者会見し、今秋予定される総選挙について「ボイコットも選択肢の一つだ」と述べ、NLDが要求する総選挙前の憲法改正が実現しない場合はボイコットもあり得るとの考えを改めて示した。

スー・チー氏は「政治でいかなる手段も排除しない。政界では何でも起こり得る」と指摘。「ボイコットが必要となる状況が生じないとは言い切れない」と述べた。【4月9日 時事】 
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政権側はスー・チー氏の強い要請を受けて、改憲問題について協議の場を設けてはいますが、“継続協議”とは言いつつも、次第に時間切れに近づいています。

****ミャンマー改憲協議、継続で合意 スーチー氏と大統領側****
ミャンマーの野党党首アウンサンスーチー氏らが求める憲法改正をめぐり、スーチー氏やテインセイン大統領ら政治指導者6人による協議が10日、首都ネピドーであった。

スーチー氏は今年後半の総選挙不参加もちらつかせて改憲を目指すが、選挙前の改憲は時間的に難しくなりつつある。

6者協議には2人に加え、ミンアウンフライン国軍最高司令官とシュエマン下院議長、上院議長、少数民族政党代表が出席。

イェートゥ大統領報道官によると、憲法改正や自由で公正な総選挙の実施などの議題について引き続き協議を重ねていくことで合意した。

スーチー氏は昨年末の記者会見で総選挙不参加の可能性を示唆。今月に入って再び言及し、9日の会見でも「総選挙が自由で公正なものになるには改憲が必要だ」とし、総選挙への参加について「確定的なことは言えない」と語った。

今回、テインセイン氏が協議に応じた背景にはスーチー氏が批判を強めるなか、改革に前向きな姿勢を示す狙いがあるとみられる。

ただ、憲法改正案は国会には未提出。スーチー氏の大統領就任を阻む資格条項や軍人議員の割合などの改正には国民投票も必要で、今後、スーチー氏が速やかに大統領らから妥協を引き出せるかが鍵になりそうだ。【4月11日 朝日】
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【「全国停戦協定」の草案の交渉で合意 「さらなる和平交渉の扉を開くものだ」】
憲法改正問題が停滞するなかで少数民族問題については、テイン・セイン大統領も言及したように、“「全国停戦協定」の草案の交渉で合意”という、ひとつの成果が出てはいます。

****ミャンマー停戦へ協定 政府と少数民族 全土対象に草案****
ミャンマーで1948年の独立直後から内戦状態にあった少数民族武装勢力と政府が31日、「全国停戦協定」の草案の交渉で合意した。双方の交渉団が、政治対話の開始などの内容をまとめた。

少数民族側各組織のリーダーが同意して署名すれば、協定として発効する。国内和平の実現へ大きな前進だ。ただ、一部では戦闘が続く見通しだ。

政府側交渉団長のアウンミン大統領府相と16武装組織の交渉担当者を束ねるナイホンサ団長らが、ヤンゴンで交渉していた。

双方が草案に合意したことを確認する署名には、テインセイン大統領も立ち会い、「1カ月以内には正式署名したい。さらなる和平交渉の扉を開くものだ」と喜んだ。

少数民族側の交渉担当者によると、協定草案には、少数民族が求めてきた自治権拡大や民族間の平等といった問題を話し合う「政治対話」を署名後90日以内に始めると明記。

和平プロセスは停戦交渉の段階から、分権的な連邦制導入といった具体的な政治課題の協議へと移ることになりそうだ。

多民族国家のミャンマーでは、独立直後のカレン民族同盟の蜂起以降、各少数民族が武装闘争を続けてきた。
2011年の民政移管で大統領に就任したテインセイン氏は、和平の実現を最重要課題の一つとし、13年までに14の武装組織と個別に停戦を結んだ。

だが、北部のカチン独立機構(KIO)などとの間ではテインセイン政権になってから戦闘が再燃。すでに停戦を結んだ武装組織とも断続的に衝突が続いた。

政府、少数民族側双方がより実効性のある全土での停戦協定の実現を目指し、13年11月から交渉してきた。

少数民族側は、自分たちの部隊を将来的に正規軍に編入するといった要求を突きつけた。政府軍は反発し、昨年11月にはKIOの訓練施設を砲撃、23人が死亡するなどの攻撃もあった。

今回の交渉は3月17日から始まったが、協定草案の合意に至った背景には政府側が今年後半に行われる総選挙の前に成果を上げたい思惑がある一方、少数民族側にも協定署名によって政府軍の動きを制止したい狙いがあるとみられる。

ただ、交渉で政府側は、激しい戦闘になっているコーカン族の武装組織「ミャンマー民族民主同盟軍」などを交渉相手と認めず、協定への署名もさせない構えで、コーカン地区は戦闘が続く可能性が高い。
北部カチン州も昨年後半から政府軍の攻勢が続いており、いかに停戦を守らせるかが課題だ。【4月1日 朝日】
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北東部の中国系コーカン族との戦闘は、8日にも国軍兵士10人が死亡、62人が負傷する激しい戦闘が起きており、未だ終息していません。
2月9日に戦闘が始まった今武力紛争では、これまでに国軍と武装勢力の双方合わせて200人以上が死亡しています。

ただ、ミャンマー政府は2日、ミャンマー軍機の爆弾が中国領内に着弾して中国人5人が死亡した事件について中国政府に対し正式に謝罪し、その上で犠牲者の家族らに賠償する意向を表明しています。

中国側もパイプラインや国内利権、更には「一帯一路」の世界戦略におけるミャンマーの重要性などを考慮してミャンマー政府との関係を重視しており、ミャンマー政府の正式謝罪によって、微妙な関係にあった中国との関係は一応クリアされましたので、コーカン族問題が大きくこじれることはなさそうです。

【「軍が駐屯する村では、夜は兵士が怖くて外に出られない」】
少数民族との和解については、「(停戦が実現すれば)法の支配がもたらされ、一部の武装組織指導者が(国境地帯での)密輸ビジネスによる膨大な利権を失う」(イエトゥ大統領報道官)という経済的側面があり、問題を難しくしています。

また、一部で続く戦闘も問題ではありますが、ミャンマー国軍の少数民族への対応に懸念されるものがあります。

****民政4年、訪れぬ平穏 内戦のミャンマー北部、避難する少数民族****
軍事政権から4年前に民政移管した後、民主的な改革が進んできたミャンマーで、いまだに国軍を恐れながら暮らす人々がいる。

内戦が再燃した北部で暮らす少数民族カチン族の国内避難民らだ。全土での停戦を目指す和平交渉で前進はあったが、それでも村には帰れないと訴える。

 ■娘殺され、国軍兵の関与問えず
州都ミッチーナにあるジャンマイカウン・キャンプに3月下旬、避難民のルブさん(41)を訪ねた。

ルブさんの長女(20)は辺境の村で、子どもらに勉強を教えるボランティア教員だった。1月の深夜、赴任していたシャン州北部のカチン族の村で、家が何者かに襲われた。同居していた同僚女性(19)とともに強姦(ごうかん)され、殺された。(中略)

長女が赴任した村には、事件の2日前から国軍の部隊が駐屯していた。兵士の犯行が疑われたが、国軍は関与を否定し国営紙で「国軍のせいにする者は法に基づき告訴する」と警告した。

それでも長女らを村に派遣したキリスト教系のカチン・バプテスト協議会(KBC)などには疑念がくすぶる。「軍が駐屯する村では、夜は兵士が怖くて外に出られない」(KBC関係者)事情があるからだ。

兵士の関与が疑われる人権侵害があっても、声を上げるのは容易でない、と人々は言う。2012年に娘(当時14)を軍の銃撃で殺されたと告発したカチン族男性は、逆に虚偽告訴罪で起訴されて罰金刑になった。

ルブさんは「国民を守るべき兵士が近くにいて、なぜ娘を守れなかったのか」とだけ話した。

 ■キャンプに10万人、見えぬ帰還
カチン独立機構(KIO)も含む少数民族武装勢力と政府は3月末に全国停戦協定の草案で合意した。だが、前線では双方の部隊がにらみ合いを続ける。大小120カ所のキャンプに暮らす約10万人の帰還のめどは立っていない。

ミッチーナ郊外にあるマイナKBCキャンプに住むガムアウンさん(46)は時々、軍が駐留する自分の村のミカン畑まで、燃料のまきを取りにいく。米や豆は国連世界食糧計画(WFP)から支援されるが、まきの支給はないからだ。

だがKIOのメンバーと疑われれば拘束される可能性もある。「途中で兵士に出くわし、慌てて林に隠れた」という。

キャンプで人々は竹造りの高床式の長屋で暮らし、建設現場や畑での日雇いで500円ほどの日銭を得る。職業訓練を受け裁縫の職を得たジャンマイカウン・キャンプのナンルウさん(29)は「村では貧しくても自由だった。早く帰れるように祈るしかない」と話した。【4月8日 朝日】
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シルヴェスター・スタローン主演映画「ランボー/最後の戦場」では、ミャンマーの少数民族カレン族へのミャンマー国軍の残虐行為が描かれています。

“本作品の舞台としてミャンマーが選ばれたのは、「現実に、残忍な暴力や虐殺が起こっている地域を舞台にしたい」というスタローン本人の強い希望による”【ウィキペディア】とのことですが、この種の映画にありがちなように、“悪役”国軍の極悪非道ぶりは徹底しており、アジア人として違和感を感じる部分もありました。

しかし、上記記事など見るとまったく荒唐無稽な話でもなさそうです。

たとえ「全国停戦協定」が合意されたとしても、「軍が駐屯する村では、夜は兵士が怖くて外に出られない」状況が改善しない限り、本当の意味での国民和解はありえません。

おそらく、協定合意よりはるかに困難なことでしょう。
軍出身の大統領の数少ない利点は、軍へのコントロールが効くということだと思うのですが・・・。
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