孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  EU離脱へ向けた混乱の始まり 「ノルウェーモデル」とは? 「国民投票」の位置づけ

2016-07-05 23:21:22 | 欧州情勢

(EEAという抜け道からEUに入り込むノルウェー。しかし決定権はない。イギリスはこの道を選ぶか? GK社による発表  Photo:Asaki Abumi 【7月5日 鐙麻樹氏 Newsweek】

【“茨の道”を前にして先頭には立たない旗振り役の二人
イギリスのEUに対するこれまでの姿勢は、6月25日ブログ“イギリスEU離脱 「共同体」としての意識がなければ離脱・弱体化もやむなし”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160625でも触れたように、経済的利益のみを求めて及び腰とも言えるものでしたから、移民・難民問題など厄介な問題が表面化し、EUのエリート主義が鼻につくということになると、離脱へと流れるのも仕方ないようにも思えます。

とにかく離脱を選択した以上、できるだけ有利な条件を残しての“円満離婚”に漕ぎつけるべく、これからのEUとの交渉が正念場となります。

****EU風呂に「足湯」で参加していた英国****
●気分はお気楽準会員

欧州に13年住んだ私が知る英国は、EUの記事が新聞の国際面に載る国であり、大市場の恵みをつまみ食いする「お気楽な準会員」。欧州統合の湯船にどっぷりつかることなく、いわば足湯の状態で参加していたというのが正直な印象なのだ。(中略)

英国では、離脱派の言説のいい加減さが知れ渡り、400万人超が国民投票のやり直しを求める署名を寄せた。有り体に言えば「やっちまった」のだ。

2014年に独立を問う住民投票(反対55%、賛成45%で否決)をしたスコットランドのほか、北アイルランドやウェールズにも独立を探る動きがあるという。脱出ボートから浮輪ひとつで母船に戻る図である。

●英新首相を待つ茨の道
英国は離脱通告から2年以内に、その後の交易条件などを交渉で決める。

大市場へのアクセスを保ちつつ移民流入を抑えるのが理想だが、EUのトゥスク大統領(ポーランド)は「単一市場にアラカルトはない」とクギを刺す。

ユンケル欧州委員長(ルクセンブルク)に至っては「英国とEUの離婚は円満ではない。もともと愛もなかった」とにべもない。

キャメロン首相の後任を選ぶ保守党党首選挙は9月。誰になっても、周縁の独立機運を鎮めながら、EUとの条件闘争を乗り切る手腕が求められる。(後略)【7月5日 冨永格氏 dot】
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キャメロン首相の後釜としては、当初、離脱運動の旗振り役だったボリス・ジョンソン前ロンドン市長の名があがっていましたが、盟友ゴープ氏との“裏切り”だか何だかわからないゴタゴタがあり、保守党の党首選には出馬しないことに。

“ただし「反EU」というほどではなかったから、首相への早道として逆張りしたのだろう。彼(ボリス・ジョンソン氏)はその賭けに勝った。勝ったのに、党首選には出ないという。党内基盤の弱さゆえか、茨の道におじけづいたのか。”【同上】

一方、もう一人の旗振り役、英国独立党(UKIP)のファラージ党首も、「自分の役割は果たした」として、党首の座を辞するとのことです。

****英EU離脱派の急先鋒、ファラージ氏がUKIP党首辞任****
英国の欧州連合(EU)離脱問題「ブレグジット(Brexit)」をめぐる国民投票で、離脱派をけん引した英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ欧州議会議員(52)が4日、UKIP党首辞任を発表した。
 
ロンドンで記者会見したファラージ氏は「UKIP党首を退く決意をした。国民投票での離脱派陣営の勝利は、私の政治的野心が達成されたことを意味する」と語った。(中略)
 
さらに「わが国はEUを去ることにはなったが、脱退の条件は明確ではない。多くの有権者とかけ離れた政府や労働党による後退があれば、その時こそUKIPの出番だ」とも語った。
 
ファラージ氏は「EUの他の地域で生まれている他の独立運動」にも尽力したいとし、「EUを去りたがる国は、これが最後ではないことを確信している」と述べた。
 
ファラージ氏はこれまで過去に2回、UKIPの党首を辞任したことがある。1度目は2009年で党内の内紛によるもの、2度目は2015年に下院議員選挙で落選した時だが、どちらの場合も党首に復帰している。しかし、今回は「また考えを変えることはないと約束する」と強調している。【7月4日 AFP】
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イギリス国内の反応がわかりませんが、ここまで離脱に向けてイギリスを引っ張て来た二人が、これからの“茨の道”を前にして先頭には立たないと言うのは、いささか無責任のような気がするのですが。

混乱が予想される今後の離脱手続き】
離脱は、EUへの離脱通告を行ってから2年以内とされていますが、その離脱通告を行う時期について混乱・かけひきも起こっています。

なるべく条件闘争を行ってから・・・と先延ばししたい声がイギリス国内にある一方で、他国への波及を警戒するEU側、特にフランス・オランド大統領などは「無駄にしている時間はない」と、“出て行くなら早くしてくれ”といった冷たい対応です

ドイツ・メルケル首相はオランド大統領とは違い、イギリスへ一定の猶予を与えることに理解を示してはいますが、それでも“いいとこ取り”は許さないとの厳しい姿勢も見せています。

****英の「いいとこ取り」許さず=EU離脱交渉で厳格姿勢―メルケル独首相****
ドイツのメルケル首相は28日、連邦議会(下院)で演説し、英国が欧州連合(EU)からの離脱交渉で、EU加盟国が享受しているメリットを温存する「いいとこ取り」は許さない考えを示した。
 
メルケル首相は、英国とはEU離脱後も協調を続ける重要性を訴えてきたが、「特別待遇」までは認めない立場を明確にした形だ。【6月28日 時事】 
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イギリス国内も、今後の対応を決めかねているところがあります。

****<英国>「EU離脱」議会で非承認?・・・・奇策巡り議論高まる****
EU離脱を決めた国民投票を巡り、「再度民意を問うべきだ」との声が議会で出始めている。国民投票の結果は議会の承認がなければ法的拘束力はなく、残留派が多い下院が承認を阻むこともできるからだ。

ただその場合、離脱派が猛反発することは必至だ。

一方で投票のやり直しを求める署名は増え続けており、国民投票を扱う難しさが浮き彫りになっている。(後略)【6月28日 毎日】
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****議会承認のない離脱は違法」、英政府が50条発動めぐり訴訟に直面****
7月3日、ロンドンを拠点とする法律事務所ミシュコン・デ・レヤは、加盟国の離脱手続きを定めた欧州連合(EU)基本条約(リスボン条約)50条を発動する前に議会の承認を得ることを英国政府に求める訴訟手続きを開始したことを明らかにした。(後略)【7月4日 ロイター】
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ここまで来た以上は引き返すのは政治的に非常に難しいようにも思えますが、前に進むのも難しく、なんだかんだでズルズルと(?)このままEU内に留まるのでは・・・・との観測もあるようです。

****英国、将来的にEU残留の公算━オーストリア財務相=報道****
オーストリアのシェリング財務相は独紙ハンデルスブラットのインタビューに対し、英国は将来的に欧州連合(EU)に残留するとの考えを示した。

同財務相は5日付のハンデルスブラット紙に掲載予定のインタビューで、英国民投票でEU離脱が決定されたことを受け多くの企業がEU域内への移転を検討していることを踏まえると、国民投票の結果は英国はEUから離脱してはならないとの「警鐘」だったと言えると指摘。「英国は将来的にEUに残留する。5年後もEU加盟国数は28カ国から変わらない」と述べた。

また、EUは改革を進めると同時に、単一市場、気候変動、安全保障などの主要な案件に集中し、他の案件は加盟国に対応を委ねることで、英国の今回の決定に対応する必要があるとの考えを示した。【7月5日 ロイター】
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ノルウェーはイギリスのモデルとなりうるか?】
とにかく、今はまだ混乱のさなかで、先がよく見えない状況です。
離脱派も明確な青写真なしでここまで来てしまったという感があります。

離脱に伴うEUとの関係については、いくつかのモデルがあります。

****EUとの経済枠組みのモデル****
イギリスが離脱した場合、生き残る術として、現在のEUとの経済枠組みの「代替案」が必要となる。イギリスが検討するのは、EU非加盟の国で実施されている協定だ。有力候補として、3つのモデルが話題となっている。

1)ノルウェーモデル
EEA(欧州経済領域)に加盟することで、農業と漁業を除く単一市場にアクセスできる。事実上、EUに加盟しているのとほぼ同じだと言われているが、政策決定には関与できず、EU予算への拠出を求められる。

「EUの4つの自由」の原則は共有しており、Brexit議論の争点となった移民流入につながる「人の移動の自由」が含まれる。例外を求めるイギリスに、EUは否定的。

ノルウェーではこの騒動に便乗して、EEA協定をもっと自由な形に変えようという動きがある。

2)スイスモデル
EFTA(欧州自由貿易協定)に加盟。EUと120以上の個別協定を結び、市場にアクセス。ノルウェーモデルのように人の移動の自由を含み、最終的な政策決定の場では発言権はない。

ノルウェーモデルよりも、交渉が複雑で、コストがかかると言われている。

3)カナダモデル
EUとの特別な貿易協定を結ばず、WTO協定を元にしたFTA協定(CETA/包括的経済貿易協定)。

ノルウェーモデル(EEA)よりもアクセスできる市場は減り、関税が一部残り、イギリスが得意とする金融サービスには制限がある。しかし、離脱派が主張した「人の移動の自由」を抑えることが可能。【7月5日 鐙麻樹氏 Newsweek】
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このうち、国民投票において脚光を浴びたのが「ノルウェーモデル」です。
ノルウェーはEUに加盟しないままでも豊かに暮らしているじゃないか・・・・という訳です。

****イギリスの「モデル」、ノルウェーはなぜEU非加盟?****
<EU離脱後のイギリスのモデルになるとして脚光を浴びているのがノルウェー。EUに加盟しないままでも豊かに暮らしている。その秘訣は?> 

・・・・・ノルウェーがEUを拒んだ理由には、国の文化や独自性を保つことや、貿易・産業の分野で国の利益を十分に守ることができないこと、EUの官僚体質や非民主的な組織構造への疑義などがあげられる。

ノルウェーでのEU議論について、ここではふたつのことを強調しておきたい。

ノルウェーの独自路線と国の余裕は、石油資源があるから
人口520万人の小国ノルウェー。EUに加入せず、「幸福な国」「福祉国家」など様々な世界ランキングでトップを飾る背景には、豊富な石油・天然ガス資源がある。「北欧」という一言でまとめられやすいが、ノルウェーは「石油資源でお金持ち」という点で、他国とは大きく異なる。(中略)

しかし、石油・ガス資源も永久には続かない。「第二のオイル」を探せと、国を支える新しい産業開発に政府は必死だ。

ロシアとの緊張関係もある。良い国際関係を構築できなかった時、「なにかあった時に、助けにきてくれる友達」はどれほどいるだろうか。

ノルウェーでは、国会が大多数でEU賛成でも(2大政党は賛成派)、国民投票では反対となる可能性が高く、EU加入を問う国民投票がまた本格的な議論となりそうな空気は今はない。代わりに別の動きがある。

深い愛国心と、他国の支配を拒む。EU非加盟は、ノルウェー人のアイデンティティ?
・・・・「他国からコントロールされたくはない」。これは、ノルウェー人の口からEUに関してよく出る言葉だ。

他国からの管理を拒むノルウェー人の考え方には、歴史が関係している。400年に及ぶデンマークの支配を得た後、ノルウェーはスウェーデンとの連合に向かった。連合同盟が解消されたのは1905 年。やっと自由を勝ち取った小国ノルウェーの国民の愛国心が、際立っているのはこのためだ。(後略)【7月4日 鐙麻樹氏 Newsweek】
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石油資源からもたらされる余裕と、「他国からコントロールされたくはない」という強い思いから、ノルウェーの独自路線はあるとのことですが、“コントロール”云々について言えば、話はそれほど簡単ではありません。

ノルウェーモデルではEU決定の多くに従う必要がある一方で、発言権はなく、ある意味ではEUの“植民地”的立場にあるとも言えます。

そんな状態を、“誇り高き”イギリスが受け入れられるのか?

****ノルウェー首相「離脱はおやめなさい、イギリス人はノルウェーモデルを好きになれない****
国民投票の直前、ノルウェー首相はイギリス人に注意を促した。
「ノルウェーのようなEUとのつながりは、イギリス人には難しいでしょう。決定権をもつのはブリュッセル(EU本部)。イギリス人は蚊帳の外に置かれます」(6月15日POLITICO)

「ノルウェーモデル」とは? 発言権を失うことにイギリスは耐えられるのか
EEA(欧州経済領域)に加盟することになるノルウェーモデル。EUの外にいながら単一市場に参加し、EUとの連携を続けることができる。

実は、EEAばかりが話題に上がりやすいのだが、加えて70以上の協定もノルウェーはEUと結んでいる。イギリスは移民や官僚主義を問題視したが、EEAの原則である「EUの4つの自由」には「人の移動」が含まれている。

政策決定にも関与できなくなる。これが、ノルウェー側がノルウェーモデルを検討するイギリスに抱く疑問だ。
「交渉のテーブルで、決定権を持つブリュッセルを嫌がったイギリス。自分たちがその交渉のイスに座ることさえできなくなることは、受け入れがたいでしょう」(ノルウェー首相、6月28日付Dagen)

ノルウェーモデル=「EUの内にも、外にもいる。同時に、内にも外にもいない」
ノルウェー政府が出すEUとの国際関係における資料にはノルウェーモデルについてこう書かれている。「ノルウェーはEUの内にも、外にもいる。同時に、内にも外にもいない」。

市場に詳しいノルウェーのコンサルタント会社Geelmuyden Kiese(GK)がノルウェーモデルを説明する際に、1枚のスライドを紹介した。EUという正門から入場できなかったノルウェー人が、EEAという抜け道から、こっそりとEUの会場に入り込むイラストだ。
 
ノルウェーモデルは「植民地モデル」だとGKは例える。「植民地の歴史で知られるイギリスが、ブリュッセル下に入ることになる。皮肉な運命だ」
 
ノルウェーとイギリスの今の大きな違いは、ノルウェーはもともとEUとは婚姻関係にはないのに対し、イギリスは離婚届を突き付けた側だということ。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相が述べたように、離脱しながら特権だけを享受し、抜け道から単一市場にアクセスできるほど現実は甘くない。(後略)【7月5日 鐙麻樹氏 Newsweek】
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「ノルウェーモデル」も容易ではなさそうです。

民主主義における「国民投票」の位置づけ
今後イギリスが具体的にどのように対応していくのか・・・という問題もさることながら、今回のイギリスの国民投票は、「国民投票」という民主主義の在り方の持つ問題を明らかにしたと言えます。

ドイツでも反EU色の強い新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が攻勢を強め、国民投票制導入を求めていますが、ドイツでは、第一次大戦後のワイマール共和国時代に国民投票が乱用され、独裁者ヒトラーの台頭を招いたことから、戦後は基本法(憲法)で原則認められていません。

“外交や経済政策の専門家である政治家にも判断が難しい議題を「イエス」か「ノー」かに単純化し、判断を迫る投票に疑問の声も強い”【7月5日 毎日】

今、欧州各国に“「民意」を示す”「国民投票」を求める動きが野火のように広がりつつあります。
民主主義だから当然ともいえますが、なかなか難しいところです。

イギリスにあっては、「国民投票」結果と議会承認の関係が問題になります。
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