(アレッポ 子供を抱えて逃げまどう女性 【10月1日 NHK】)
【「戦争犯罪」に当たるアサド政権側による反体制派への攻撃】
内戦が続くシリア・アレッポでは米ロ合意に基づく停戦が12日に発効しましたが、米軍主導の有志連合によるシリア政府軍への“誤爆”(事前通告に対しロシアは反対しなかったとされており、真相はよくわかりません)などもあって、アサド政権は19日に終了を宣言、政府軍・ロシア軍はアレッポ東部での空爆を強化してます。
空爆には「バンカー・バスター」やクラスター爆弾、更には白リン弾も使用されていると、民間防衛隊は批判しています。包囲下にある住民は逃げることもできず、虐殺の危機に直面しています。
****アレッポ市民、虐殺に直面する恐れ 民間防衛隊が訴え*****
シリア政府軍とロシア軍による空爆が激化する中、シリア北部アレッポで生存を続けるのは、今後数週間で不可能となるかもしれない──民間防衛隊「ホワイト・ヘルメット」の隊長が27日、AFPへのインタビューで語った。
ホワイト・ヘルメットのライド・サレー氏は、反体制派が掌握の同市東部地区について、包囲されているために同地区から逃げたり同市が陥落したりした場合、市民25万人には虐殺の恐れがあると述べる。
米首都ワシントンで取材に応じたサレー氏は、「そこにとどまっている民間人は、機会さえあればどこへでも逃げるだろう。だが彼らに提供できる安全や保護は何もない。彼らの多くが虐待や誘拐、拘束に直面するのではないかと恐れている」と彼らがおかれた現状を説明した。
同氏によると、米露仲介の9月9日の停戦に対して、バッシャール・アサド政権が終了を表明してからの8日間で、アレッポ市には1700回の空爆があったという。
ロシア軍とシリア政府軍の戦闘機は、包囲地区への波状攻撃を行い、同地区への攻撃では初めてとなる武器を使用しており、密集し崩れ落ちる民間住宅の中では、多くの犠牲者が出ている。
一連の空爆では、「バンカー・バスター」と呼ばれる爆弾が19回、クラスター爆弾および白リン弾も約200回使われた。バンカー・バスターを使用すると、犠牲者の遺体はがれきの中に埋もれてしまうという。
サレー氏は「死者と負傷者を合わせると1000人に上る」と訴えた。
同氏が主張する犠牲者の数を確認することは不可能だが、各国際団体は空爆を非難しており、国連の潘基文事務総長も戦争犯罪にあたる恐れがあると述べている。
すでに6年目に入っているシリアの内戦では、これまでに30万人以上が死亡、数百万人が家を追われているが、包囲下のアレッポでは逃げるという選択肢すらないのが現状だ。
サレー氏は、現地からの情報を基に「民間施設によるサービスは今後1か月と持たないだろう」と述べ、「水も電気も燃料もなくなり、病院は立ち行かなくなる。このような状況が続くなら、大虐殺となるだろう」と警告した。【9月28日 AFP】
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民間防衛隊はノーベル平和賞の有力候補に挙がっているようですが、彼らにはそのようなことは今はどうでもいいことでしょう。
“28日未明、反体制派が掌握する地域にある最大規模の病院2軒に空爆があり、両病院の運用が一時停止した。・・・・(これにより)現在、運用されている病院は6軒のみになった”【9月28日 AFP】
住民生活を困難にするために、意図的に病院が標的とされているように思われます。
1日にも、容器に爆発物を詰め込んだ「たる爆弾」2発が病院に投下され、建物に大きな被害が出ています。
混乱の中にありますので数字の正確性はともかく、激しい空爆による住民犠牲が増え続けています。
****シリア アレッポ東部 2週間で死者300人超****
シリアでは、先月12日、アメリカとロシアの仲介により、アサド政権と反政府勢力の停戦が発効しましたが、1週間余りで戦闘が再燃しました。シリアの人権団体によりますと、先月30日も反政府勢力が拠点とするアレッポ東部とその周辺では、政権側による空爆や双方の衝突に巻き込まれ、住民らおよそ30人が死亡したということです。
また、WHO=世界保健機関は、先月30日、アレッポ東部でこの2週間に空爆や戦闘で死亡した人は338人に達し、このうち、およそ3分の1にあたる106人は子どもだったことを明らかにしました。さらに、けがをした人も800人以上に上るとしています。停戦が崩壊し、増え続ける犠牲に歯止めがかけられない状況です。
WHOのブレナン緊急危機管理局長はスイスのジュネーブで会見を開き、「多くの人が命に関わるけがを負い、手当てを必要としている」と述べ、一刻も早く設備の整った医療施設でこうしたけが人に治療を受けさせる必要性を訴えました。そのうえで、アレッポ東部の包囲を続けるアサド政権を支援しているロシアの当局者と会い、攻撃を停止し、けが人の搬送を可能にするよう求めたことを明らかにしました。【10月1日 NHK】
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攻勢を強めるアサド政権は空爆だけでなく地上作戦も開始し、一気にアレッポ東部を制圧することを狙っています。
****<シリア>政権軍がアレッポで地上攻撃 市民23人死亡****
シリアのアサド政権軍は27日、北部の主要都市アレッポの反体制派支配地域に対し、複数の地点で地上攻撃を開始し、AFP通信によると少なくとも市民23人が死亡した。
また28日早朝(日本時間同日午後)には病院などを空爆した模様で、少なくとも8人が死亡した。政権軍はアレッポ全域を掌握する構えで攻撃の規模を拡大している。(中略)
ロイター通信によると、今回の作戦には周辺国のイランやイラク、レバノンから参入したアサド政権側を支援する武装勢力も加わっている模様で、相当の規模と見られる。(後略)【9月28日 毎日】
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【出口の見えない中東政策に苦悩するオバマ政権】
こうした状況にあってアメリカはロシアに対し、住民を犠牲とする戦闘を停止するように強く求めていますが、ロシア側はアメリカがイスラム過激派につながる勢力を支援しているとして非難の応酬に終始し、停戦実現の可能性は見えていません。
****シリア内戦、米がロシアに最後通告 停戦合意の復活要求****
事実上停戦が崩壊したシリア内戦を巡り、ケリー米国務長官は28日、ロシアのラブロフ外相と電話会談し、ロシア側が戦闘をやめなければ、シリアにおける米ロの二国間の関係を停止すると最後通告をした。米ロ間の対話が閉じられれば、停戦崩壊は決定的となり、内戦終結の糸口はさらに遠のくことになる。
米国務省によると、ケリー氏は、シリアの状況悪化に重大な懸念を表明。ロシアとシリアのアサド政権軍が北部アレッポで医療機関や水道網などを攻撃していると非難した。ロシアが攻撃をやめ、人道支援を受け入れる責任があると訴えた。
その上で、ロシアが即座にアレッポでの攻撃を停止し、停戦合意を復活させなければ、計画されていた軍事的な情報共有を含め、米ロ間のシリアでの関係を中止する用意があることを伝えたという。(後略)【9月29日 朝日】
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アメリカとしては大規模な軍事介入は選択外として、政治解決を目指してきましたが、事実上の停戦崩壊で正直なところ打つ手がない状況にあります。
****米、中東政策で苦悩=シリア内戦で出口見えず―次期政権の最重要課題に****
オバマ米政権が4カ月弱の任期を残し、出口の見えない中東政策に苦悩している。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討戦の成否に関わるシリア内戦で、政治解決を目指す米ロの合意は事実上崩壊。一方で、地域の同盟国サウジアラビアなどとの関係もさまざまな利害関係から悪化している。
ケリー米国務長官は28日、ラブロフ・ロシア外相に電話をかけ、シリア北部アレッポの戦闘停止に直ちに取り組まなければ、シリア情勢に関するロシアとの協力を「中断する」と警告した。
ケリー、ラブロフ両氏はこれに先立ち、米ロの保証に基づくシリア停戦が1週間維持されることを条件に、対テロ戦で情報共有を開始する方針で合意。アサド政権と反体制派は12日から停戦に入ったが、1週間が過ぎると、アレッポで再び戦闘が激化した。
カービー国務省報道官は28日の記者会見で「事態の悪化は、シリアに介入しているロシアの犠牲を増やす」と指摘。米ロ協力がロシアへの「カード」になると強調した。
これに対し、強硬派のマケイン上院軍事委員長らは声明で「アサド政権を救うためにシリアの人々を殺害することがロシアの目的だ」と一蹴した。
オバマ大統領はシリア内戦について、当初から「軍事解決はない」との立場を堅持してきた。しかし、外交を駆使した政治解決に不可欠な周辺国との協力関係は必ずしも順調とは言えない。【9月29日 時事】
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【絶えない“弱腰”批判 では「ほかに選択肢はあるのか?」】
オバマ政権のシリア対応には、化学兵器に関する“レッドライン”問題など、常に“弱腰”批判があります。
そうした“弱腰”が現在の混乱を招いているとも批判されています。
*****裏目に出るオバマのシリア戦略****
停戦があっけなく崩壊し、支援車両が空爆されてもロシアとの協力と合意の道を探る米政権
テロ組織を利する一方の現状を脱するための方策とは
こうした失敗は、シリア内戦の初期から既に始まっていた。アサド政権が正統性を失ったとオバマ政権が最初に認めたのはい11年夏だったが、反政府勢力への実質的な支援策を示すのにそれから1年以上かかった。その支援すら、食料や非軍事的物資にとどまっていた。
その後、反政府派武装勢力「自由シリア軍(FSA)」への支援はわずかな成果を挙げた。
しかし、シリア問題でアメリカが果たしてきた責任は、トルコやサウジアラビア、カタールなど地域の同盟国が協調性を欠きながらも果たしてきた役割に比べれば、取るに足りない。
米当局はアサド大統領を失脚させたかったが、自分たちではやりたくなかったようだ。もっとも、代わりにやらせようとした相手を、アメリカは信頼していないのだが。
アルカイダという脅威
その結果、50万人近い命が奪われ、100万人以上が包囲下にあり、1100万人が故郷を追われた。破壊的な難民流出はヨーロッパで反移民感情をあおり、極右政党を台頭させている。(中略)
ISISの脅威は抜きにしても、シリアは今や、アルカイダ系過激派組織「シリア征服戦線(旧アルヌスラ戦線)」の一大拠点となっている。(中略)要するに、シリアにおけるアメリカの失点はアルカイダの成功につながるのだ。(中略)
反政府勢力の支配地域に暮らす市民は、アメリカよりアルカイダのほうが信頼でき、自分たちの生活を守ってくれると思うようになった。残念ながら、これは紛れもない事実である。
このような状況に直面して、アメリカは対シリア政策の欠陥と向き合わなければならない。
その際、次の5つの視点が重要になる。
第1に、アサドはこれまでもこれからも、シリア問題の解決策にはなり得ない。反政府勢力の多数がアサドに屈し政権の安定に寄与するという筋書きは、存在しないのだ。アサドが権力を握り続ければ、それだけ過激派が喜ぶ。
第2に、純粋な軍事的解決は望めない。シリアの安定に通じる唯一の実現可能な道は、交渉による解決だ。ただし、アサドは意味のある圧力を受けない限り、政治的プロセスに真剣に取り組まないだろう。アメリカは今のところ、圧力をかけることから逃げ回っている。
爆弾だけでは戦えない
第3に、領土の分割は解決にならない。分割を前提とする交渉は、既存の勢力争いを悪化させるだけでなく、新たな争いも生む。(中略)
第4に、弾丸と爆弾だけでは、シリアのアルカイダ勢力とは戦えない。彼らを倒すなら、彼らのジハード(聖戦)の論理より魅力的で持続可能なよりどころを提供する必要がある。
彼らがシリアの反政府勢力に軍事的な盟友として広く受け入れられていることを考えると、これまでと同じ対テロ戦争は通用しない。空爆など従来の手段で倒すのではなく、シリア国内での支持を獲得するという競争に勝たなければならないのだ。
第5に、ISISとの戦いをシリア危機と切り離すことはできるとしても、彼らはシリア情勢に乗じてテロを続けるだろう。アサドがいつまでも政権にとどまり、紛争が長引いて悪化すれば、ISISも生き延びて新たな戦いを仕掛けてくることは間違いない。
対シリア政策の失敗を問われると、米政府高官もオバマ自身も、「ほかに選択肢はあるのか?」と繰り返す。ほかに選択肢は々いと言わんばかりだ。
しかし、選択技はある。米政府はアメリカのハードパワーとソフトパワーを、断岡たる覚悟で使うべきだ。
いかなる広範な戦略も、市民の保護が最も重要だ。そのためには、市民の命を脅かす行為に対し、目に見える現実的な制裁が必要となる。
しかしアサド政権は、アメリカが軍事力の行使をためらっていることは作目も承知だ。実効性のある対シリア政策を展開したければ、アメリカはそのような態度を早急に変える必要がある。(後略)【10月4日号 Newsweek日本版】
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ただ、上記の主張も「具体的にどうしろと言うのか?」という感も。
「アレッポって何?」(米大統領選の「リバタリアン党」ゲーリー・ジョンソン候補)といったアメリカ国民の対外的無関心にあって、大規模軍事介入はあり得ず、純粋な軍事的解決は望めません。
反政府勢力への武器支援でしょうか?それは戦闘を激化させるだけでなく、支援武器はアメリカを敵視するイスラム過激派にすぐに流れます。また、アメリカが支援した武器でロシア軍機が撃墜されれば、深刻な米ロ対立を惹起します。
“ジハード(聖戦)の論理より魅力的で持続可能なよりどころを提供する必要がある”・・・・何のことでしょうか?
【重要なのはアサド存続の是非ではなく、いかに戦争を停止させるか】
ケリー国務長官のフラストレーションもつのっているようです。
****シリア情勢(安保理協議等)*****
・・・・他方NYtimes は、ケリー長官が22日NYのオランダ代表部でのシリアの活動家(反政府地域で医療活動、救急活動等をしている人たち)及び外交官(オランダ以外はどこの国ものかは不明)との非公開会合で、シリア問題に関しアサド政権お柔軟性のなさにフラストレーションを表明したが、米国は国際法を順守する(ロシアは気にしないと付言の由)国で、アサドを攻撃する正当な理由がないとした由。
また議会がシリアでの戦争介入は認めないので、戦闘に参加することはできず、また武器援助も問題だとして、シリアの活動家に対してアサドの参加する選挙に参加することを示唆した由。
参加したシリアの活動家たちは一様に失望を感じ、オバマ政権からは何の援助も得られないと感じた由
(これはal jazeera net とal arbiya net が報じているところだが、仮にこの報道が事実であれば、米国はシリアでこれまでの立場を大幅に変えざるを得ないところに追い込まれたように思われ、最近のケリー等のロシアに対する激しい非難の言葉も、所詮は負け犬の遠吠え、ということに聞こえてもおかしくない。
矢張り、シリアではプーチンの強硬姿勢がオバマの優柔不断を破ったということになるのか?もうしばらく様子を見る必要があるもとりあえず)【10月1日 「中東の窓」】
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“プーチンの強硬姿勢”とは住民犠牲を厭わない空爆であり、国際的・国内的批判に正しく対応する民主国家としては取れない類です。
在英民間組織「シリア人権観測所」は9月30日、ロシア軍がアサド政権を支援するためにシリアで空爆を始めてから1年間で、「民間人3804人を含む9364人が死亡した」と発表しており、民間人犠牲には子供906人、女性561人を含むとか。(数字の正確性は疑問ですが)
アメリカにとって一番の問題は、支援すべき相手が曖昧なことでしょう。“穏健で民主的な反政府勢力”などと言えるものがシリアに存在するのか?イスラム過激派との境界がどこにあるのか?まさにロシアが常に問題としているところです。
アサド政権が非人道的行為を繰り返していることは事実ですが、その多くは「戦争」に伴うものであり、「戦争」が停止できれば、そして国際的監視・圧力があれば、表立った非人道的行為も抑制されます。
アサド政権を崩壊させても、イラクやリビアの混乱を再現するだけのようにも思えます。
犠牲者をこれ以上増やさないためには、出口のない戦争継続より“アサドの参加する選挙”の方がましです。
“シリアの活動家たちは一様に失望を感じ、オバマ政権からは何の援助も得られないと感じた”とのことですが、もはやそうした道しかないこと、それに反するようなことにはアメリカとしては協力できないことを、より明確に示すべきでしょう。
重要なことは、勝った負けたとか、プーチンに翻弄されたとかいう話ではなく、いかにして戦争を停止し、これ以上の犠牲者を増やさずに済むかということです。