(【10月11日 AFP シリア・アサド政権をめぐっては利害が対立する両者ですが・・・】
【「政権軍に包囲されて逃げられない」】
シリア政府軍に包囲され政府軍・ロシア軍の激しい空爆にさらされているアレッポでは人道危機状態が続いています。
****やまぬ空爆、「破滅の瀬戸際」 逃げられず苦しむ市民 シリア・アレッポ****
シリア北部のアレッポで人道危機が続くなか、国連安全保障理事会は8日、空爆停止などを求める決議を採択できなかった。国際社会は解決策を示せず、アサド政権軍とロシア軍による激しい空爆は続く。「政権軍に包囲されて逃げられない」と訴える子供たち、命がけで負傷者の治療にあたる医療関係者に、現地のいまを聞いた。(中略)
ホゼファさん(中学生男子14歳)は空爆がひどい時、自宅の地下室に避難するが、時々地震のように揺れる。地中に潜り込んで爆発する「地中貫通爆弾」だと思う。「アレッポ東部に安心できる場所はないのに、政権軍の包囲で逃げられない」と憤る。
■足りない医療器具、手足切断
アレッポ東部では、病院などの医療施設が空爆の標的になっており、医師と看護師は病院を出て、アパートの地下室などで住民の治療にあたる。同地区にはそうした「地下病院」が複数あり、理学療法士のフセイン・ホーガンさん(28)は地下病院を巡回して働く。
ホーガンさんによると、アレッポ東部にとどまる医師は約25人。血管や麻酔、神経などの専門医はいない。停戦崩壊以降、1日700人ほどの負傷者が地下病院に運ばれてくるが、政権軍の包囲で治療や手術に必要な蒸留水や医薬品、医療器具は届かず、従来なら治療できる手足のけがでも切断せざるを得ない。
燃料の確保も大問題だ。電気は自家発電機に頼るが、燃料は今月中に尽きる見込みだ。政権軍の包囲が続く限り、新たに燃料を調達できる見通しはない。
「アレッポ東部は破滅の瀬戸際だ。今さら『国際法順守』や『人道主義』といった言葉は、何の役にも立たない。世界のリーダーたちに良心があれば、実力を行使して空爆を止めさせ、治療や手術に必要な物資を私たちに届けてほしい」【10月10日 朝日】
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しかし、国連安保理はロシアの拒否権行使で機能マヒに陥っていることは報道のとおり。
****空爆アレッポ孤立27万人、届かぬ救援 国連は批判合戦****
シリア北部アレッポでアサド政権側と反体制派の戦闘が激化している内戦をめぐり、国連安全保障理事会は8日、空爆の即時停止などを求める決議案を採決し、否決された。ロシアが拒否権を行使し、廃案となった。
アサド政権軍とロシア軍の空爆停止すら見通しが立たず、壊滅寸前とされるアレッポ東部の人道危機は深刻さが際立っている。
ロシアが欧米主導の対シリア決議案に拒否権を行使したのは5回目。ただ、過去4回と異なるのが、アサド政権側の激しい空爆で病院や学校などが破壊され、水などの人道的支援すら行き届かず、27万人以上が取り残されているとされるアレッポ東部の状況だ。
国連によると、先月23日以降、少なくとも376人が死亡。「安保理が残虐行為を防げなかったルワンダと同じような状況に直面している」(デミストゥラ・シリア担当特使)。米ロ主導の停戦合意が崩壊後、両国の停戦協議は打ち切られており、安保理が迅速に人道支援や停戦を促す決議を打ち出せるかに注目が集まっていた。
だが、8日の会合では欧米とロシアは批判合戦に終始した。決議案の廃案後、エロー仏外相は「アレッポ救済のため方策を講じなくてはならないが、1国だけで、そのプロセスを止められてしまう」と安保理の機能不全に懸念を表明した。
英国のライクロフト国連大使は「拒否権行使で、アレッポの人々は、さらに恐怖の夜に耐えねばならなくなった。ロシアがいかに不誠実な行動をとっているかが露呈した」と語った。
米国代表も「ロシアは、アレッポ東部に取り残されている27万5千人を犠牲にして、アサド政権を強化するために拒否権を使った」と痛烈に批判した。
これに対し、ロシアのチュルキン国連大使は、アサド政権側が攻撃の理由とする過激派組織について「穏健派の反体制派から切り離すことが優先事項だ。しかし、仏主導の案はこれを無視している」と非難した。
シリアでは先月12日、米ロ主導で政権と反体制派の停戦合意が発効したが、反体制派が掌握するアレッポ東部で、政権軍とロシア軍による大規模な空爆が始まり、同月下旬に崩壊した。反体制派NGOによると、同地区では先月19日以降、空爆により民間人400人以上が犠牲になっているという。【10月10日 朝日】
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【先鋭化する米ロ対立】
米ロ両国はシリア問題を基軸に、その他問題も絡めて対立が先鋭化しています。
****<サイバー攻撃「露関与」>米議会、制裁求める声 露は反発****
米民主党の全国委員会(DNC)がサイバー攻撃を受け、大統領選関連の情報が流出した問題で、米国土安全保障省と米国家情報長官室は7日、連名で声明を発表し、ロシア政府が関与したと断定した。
シリア停戦合意の破綻で米露関係が悪化する中、米議会では「新たな対露制裁」を求める声も出始めた。両国の対立がさらに先鋭化する可能性がある。(後略)【10月8日 毎日】
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****ロシア NATO加盟国間の飛び地にミサイル移動を示唆****
ロシア国防省は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国の間に位置するロシアの飛び地に、核弾頭を搭載できる弾道ミサイルを持ち込んだことを示唆し、ウクライナに続いて、シリアをめぐっても対立を深める欧米をけん制したものと受け止められています。(後略)【10月9日 NHK】
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【プーチン・エルドアン会談 シリアに関しての調整?】
こうした状況で、ロシア・プーチン大統領はトルコを訪問し、エルドアン大統領との間でガスパイプラインの建設で合意しています。
シリア問題に関しては、アサド政権を支援するロシアと、反政府勢力を支援するトルコは対立する関係にあり、表向きは“アレッポへの支援を提供することが重要との認識で一致した”という話にとどまっています。
****ロシア・トルコ首脳会談、ガスパイプライン建設で合意****
ロシアのプーチン大統領は10日、訪問先のトルコでエルドアン大統領と会談した。ガスパイプラインの建設で合意したほか、シリア北部アレッポへの支援が重要との認識で一致した。
今回の会談は、最大都市イスタンブールで開催されている会議にエルドアン大統領がプーチン大統領を招いたことで実現。エルドアン大統領は共同記者会見で「トルコ・ロシアの関係正常化が、速いペースで進むことに強い自信を持っている」と述べた。
ガスパイプライン「トルコストリーム」の合意成立で、ロシアは欧州のガス市場で立場を強化できる。現在はウクライナ経由でロシア産ガスを欧州に運搬するのが主なルートだが、その依存を低減できる。
また、トルコ初となるアックユ原子力発電所の建設計画を加速することでも一致。この原発建設はロシア企業が受注したが、トルコ軍機によるロシア軍機撃墜を受けて中断しており、エルドアン大統領は遅れを取り戻すと述べた。
両首脳は停戦が崩壊したシリア情勢をめぐって意見を交わし、アレッポへの支援を提供することが重要との認識で一致した。プーチン大統領は「アレッポへの人道支援提供に手を尽くすことが必要との認識で一致した。唯一の課題は、支援提供における安全の確保だ」と述べた。
シリア内戦では、ロシアがアサド政権の後ろ盾となって反政府軍への空爆を実施しているのに対し、トルコは反政府軍を支援し、アサド氏外しを狙っている。
エルドアン大統領はシリア情勢について、協議を深めるとしたが、立場の違いを埋める具体的な進展はほとんど見受けられない。【10月11日 ロイター】
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ガスパイプライン「トルコストリーム」やアックユ原子力発電所の件は重要案件ではありますが(パイプラインはEUのエネルギー戦略に大きく影響します)、これまで技術面や採算面などで事務的につめられてきた案件でもあり、両大統領が顔を合わせてどうこうする類の問題でもないでしょう。(ゴーサインを出すかどうかは、極めて高度な政治判断を伴う問題ですが)
両者が会談して意味があるのは、利害が一致していないシリア問題について、両者の立場をどう調整するか・・・という、表向きは多くが語られていない問題でしょう。
トルコは北部シリアにおいて、アメリカ等の要請に応えて「イスラム国(IS)」の拠点を攻撃すると言うよりは、国内反政府勢力PKKに繋がるクルド人勢力がトルコ国境沿いのこの地域に拡大することを防ぐことが主眼とも思われる「ユーフラテスの盾」作戦を展開しています。
****北部シリア情勢****
アラビア語メディアは、いずれもトルコ軍、空軍の強力な支援を受けた(トルコ軍の大砲、臼砲、戦車砲は92のIS拠点を破壊し、航空機も7拠点を破壊した由)、自由シリア軍がアレッポの北の広範な地域で、多数の集落を占拠し、支配地域を広げ(作戦の開始以来132の集落を占拠し、1100平方㎞を支配している由)、同地域におけるISの最重要な地点のal bab に迫っていると報じています。
また、トルコ軍によれば、彼らはアレッポの北部のmanbij,al bab 等の主要都市の制圧も目指し、その準備ができている由。
manbij にはまだクルド勢力が一部残っていると思いますが、YPGとの衝突になる可能性がありますね。また、このようにトルコ勢力・・・要するにトルコに強力に支援された自由シリア軍・・・がアレッポの北全域を支配することになると、最近ロシア軍機の支援を受けて東アレッポを制圧し、全アレッポを支配下に置こうとしている政府軍、ひいてはロシアとの調整も必要となってくるでしょうね。
プーチンのトルコでのエルドアンとのシリアに関する協議は、このような調整も含めて話し合われた可能性が強そうです。【10月11日 「中東の窓」】
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ロシアがアメリカとの対立が先鋭化しているのは先述のとおりですが、トルコも、クーデター未遂事件後のエルドアン大統領の強権支配強化及び首謀者とするギュレン師の引き渡し要求をめぐって、アメリカとの関係が冷えています。
****G20での「隙間風」****
9月初,中国の杭州で開催された主要国・新興経済国首脳会議(G20)の際に持たれた米=トルコ首脳会談は,双方ともに北大西洋条約機構(NATO)という軍事同盟のメンバーであるという事実を踏まえれば,異様な印象を与えるものとなった。
7月中旬の軍事クーデタ未遂で辛くも虎口を逃れたトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は,クーデタ計画の首謀者として名指しするフェトフッラー・ギュレン師を米国が匿い,言を左右にしてその引き渡しに応じないことを非難,これに対してバラク・オバマ米大統領は「適正手続きに従って」トルコ当局との協力を続けると述べるにとどまった。
憮然とした表情のまま席を立って退出しようとするエルドアンをドア口まで追いかけたオバマが,何とか握手をして見せたという一幕は,同盟両国間に吹く「隙間風」を十分に感じさせるものであった。
こうした応酬の背後には,エルドアン率いるイスラーム政党(公正発展党,AKP)の大ポ ピュリズム衆主義や,改憲による強権的大統領制を指向しつつあるエルドアン自身の野望に懸念を強めてきた欧米と,これを欧米のダブルスタンダード(二重基準)として反発し,クーデタ未遂そのものが米国の陰謀ではないかと猜疑するトルコ一般民衆との間の感情的な軋轢が介在する。【“「ユーフラテスの盾」作戦の舞台裏” 池田 明史氏】
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アメリカと対立するロシアと、アメリカに不満を強めるトルコが、シリアをめぐって協議する「調整」とは・・・。
中身は知る由もありませんが、例えば、シリア北部でのトルコの実効支配・影響力をロシアが容認する一方で、トルコはアサド大統領の存続を一定に容認する・・・・といった類のものでしょうか?
もし、そういうような話であればアメリカ抜き」で進むシリア情勢の一端ではありますが、ロシア・プーチン主導であれ何であれ、アレッポの空爆が止み、シリア内戦の出口が描けるものならそれはそれで構いません。
そのためには、いくらアメリカの影響力がこの地域で低下しているとは言え、ロシア・トルコとアメリカの協調がやはり必要となります。
ロシアもアメリカと全面的に対立する意図もないでしょう。ロシアがどこまでアサド大統領・シリア政府をコントロールできているかについては疑問も指摘されていますが、ロシアとしてもいつまでもシリアに深入りした状態を続けることは望んでおらず、アサド大統領の一定の延命やロシアの基地拡充など、一定の成果が得られれば、アサド大統領を説得・脅迫してでも出口を探すのではないでしょうか。
トルコとアメリカの関係は微妙です。
今後、ISの「首都」ラッカ攻略が主戦場となりますが、アメリカが地上軍として期待するクルド人勢力と、クルド人勢力抑制を狙うトルコが、互いにその成果を競い合うとき、その関係・“縄張り”をどう調整するのか・・・・。
先にはいろんな問題が山積していますが、まずはアレッポの人道危機を何とかしないと。27万人の住民の命がかかっています。