孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米トランプ大統領の「内向き」姿勢で迷走する自由貿易協定交渉 強まる中国主導の枠組みへの注目

2016-11-15 21:56:33 | 国際情勢

(グローバル化による格差拡大を示すとされる「象グラフ」 詳細は本文参照 【11月6日  朝日グローブ】)

欧州はアメリカとの交渉を凍結
アメリカ・トランプ政権誕生で、世界の政治・経済秩序が大きく変わる可能性が多くの事柄・地域で指摘されていますが、そのひとつが「内向き」保護貿易主義的なトランプ政権の世界経済の枠組みとなる自由貿易協定に及ぼす影響です。

まだ就任もしていませんし、トランプ新大統領の意向もはっきりしませんが、少なくともTPPなどの自由貿易協定に消極的なこれまでの発言から、欧州でも日本などの環太平洋でも、枠組み作りの動きは中断・迷走、あるいは変更を余儀なくされています。
(自由貿易協定には民主党より共和党が積極的であることから、実際にトランプ政権が始動した際に、議会・共和党との関係でどういう動きとなるかは不透明です)

欧州はカナダとのとの包括的経済・貿易協定(CETA)でもベルギーの南部ワロン地域の反対で揺れ動きましたが、本丸であるアメリカとの「環大西洋貿易投資協定(TTIP)」については、もともと独仏の国内の反発が強く、来年1月までのオバマ政権下での合意を断念していましたが、トランプ政権誕生を受けて、交渉凍結に至っています。

****EU 米との自由貿易交渉を凍結で一致****
EU=ヨーロッパ連合の各国は、アメリカのトランプ次期大統領が自由貿易協定からの離脱を表明していることを受けて、EUとアメリカが世界最大の自由貿易圏の構築をめざして進めてきた協定の交渉を凍結せざるをえないとの意見で一致しました。

EU各国は11日、ベルギーのブリュッセルで貿易相会議を開き、EUが各国と進めている貿易交渉の進捗(しんちょく)について話し合いました。

この中で、各国はアメリカのトランプ次期大統領がTPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱を表明するなど、保護主義的な通商政策を掲げていることを受け、EUがアメリカと進めてきた自由貿易交渉についても、交渉を当面、凍結せざるをえないとの意見で一致しました。

会議後の記者会見で、EUの通商政策を担当するマルムストローム委員は「次期政権の出方を待つしかない。EUとアメリカの自由貿易交渉はかなり長い期間、凍結せざるを得ず、再開できたとしても、その先の展開を見極める必要がある」と述べて、交渉の見通しがつかないことへの懸念をにじませました。

一方、日本とEUが年内の大筋合意を目指しているEPA=経済連携協定についてマルムストローム委員は、交渉は進展しているとしながらも、農産物の関税や政府調達などの分野で隔たりが残っているとして、年内合意の目標については「期限ありきではない」と述べ、粘り強く交渉する姿勢を示しました。【11月12日 NHK】
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グローバル化のもたらした格差・失業などへの批判
カナダとのCETAにせよ、アメリカとのTTIPにせよ、トランプ政権の消極姿勢も含めて各国で強まる自由貿易協定への抵抗は、グローバル化がもたらしたとされる格差拡大への批判があります。

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背景にあるのは、世界的な反グローバル化の流れだ。英国民がEU離脱を選んだのは、経済のグローバル化による貧富の格差拡大も一因とみられている。

自由貿易市場が広がれば、安価な商品や安い労働力が貿易圏内を移動し、その動きをさらに加速させるとの懸念が強い。ワロン地域も60年代には炭鉱業で栄えたが、現在はグローバル化の恩恵を被ることなく、高失業率に苦しんでいる。
 
各国で自国の利益を守る保護主義の風潮が強まっていることを受けて、EUは首脳会議の総括文書で自由市場の利点を強調する一方で、「市民の懸念には配慮する」との文言を加えた。【10月23日 朝日】
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グローバル化による格差拡大を示したものとされるのが冒頭の“象グラフ”です。

****グローバル化の象」と私たち****
グローバル化が世界に何をもたらしたのか、これほど雄弁に語るグラフを私はほかに知らない。

世界で最も収入の多い人から少ない人までをずらりと横軸に並べ、リーマン・ショックが起きた2008年までの20年間でどれだけ所得が増えたかを示したものだ。鼻を高く上げた象のような形に見えることから、「グローバル化の象グラフ」と呼ばれている。

最も豊かな1%、つまり先進国の富裕層と、所得が上から30~60%の人々、すなわち中国など新興国の多くの人々は6割以上も所得が増えた。一方、象の鼻の曲がったあたりにいる上位10~20%の人たち、先進国の中間層や低所得層は、ほぼ収入が増えなかった。

「象グラフ」をつくった元世界銀行エコノミストのブランコ・ミラノビッチは「新興国の雇用が増えたことで世界は以前より豊かに、そして平等になった。ただ、先進国の普通の働き手の利益にはつながらなかったかもしれない」と話す。いまグローバル化への反発を強めているのは、まさにこの層だ。

もっとも、先進国であっても、グローバル化のおかげで消費者は多様な商品を安く買えるようになった。力のある人や企業が活躍できるチャンスも広がった。経済全体では利益の方が大きいというのが、経済学の常識的な見方だろう。

ただ、消費者としての利益は薄く広く行き渡って実感しにくいのに対し、仮に一部であっても雇用が損なわれれば、人々の生活基盤そのものが揺らぐ。「働き手の痛み」がなにより注目されるのはそのためだ。

この特集では、グローバル化に異議を申し立て始めた中間層や低所得層の人たちをめぐる動きに焦点を当てる。

市場に従属する国家
そもそも戦後、欧米や日本で中間層が膨らんだのは、経済が成長したからだけではない。労働組合や労働者保護といった仕組みが整い、福祉国家が所得や教育機会の再分配を進めたためだ。中間層の拡大に伴い、民主主義も成熟していく。

しかし、石油危機を機に先進国は低成長に陥る。1980年代、英サッチャー・米レーガン政権による自由化路線が世界に広まり、ヒト・モノ・カネが自由に行き来するグローバル化が本格的に始まった。冷戦後には旧共産圏がその中に組み入れられ、01年の中国のWTO加盟で流れが極まった。

1990~2000年代には米クリントン、英ブレア、独シュレーダーといった中道左派の流れをくむ政権が各国で生まれた。ここでも、志向されたのはグローバル化を前提にした福祉国家の改革だった。労組は力を失い、中間層が縮み続けた。日本でも、「構造改革」を掲げた小泉政権期に限らず、非正規雇用が増え、格差は広がり続けた。

独マックス・プランク研究所の社会学者、ヴォルフガング・シュトレークは「根源的な問題は先進国の低成長で、それをやり過ごす中で自由化とグローバル化が進められた。国家が市場に従属するようになり、格差を和らげるような政策はとりづらくなった」と語る。

大きくなりすぎた格差は、消費する力の低下などの形で経済をむしばみ、社会の安定を損ない、そして民主主義を揺るがしている。【11月6日  朝日グローブ】
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【「ほどほどのグローバル化」】
経済全体では利益の方が大きいとしても、「働き手の痛み」や“格差拡大”などで「トランプ現象」のように民主主義を揺るがしかねない弊害も目に付くグローバル化にどう対応していくのか・・・いろいろ意見のあるところですが、今日は「賢いグローバル化」「ほどほどのグローバル化」を主張するハーバード大のダニ・ロドリック教授の指摘だけ紹介しておきます。

****ほどほどのグローバル化」模索を ダニ・ロドリック 米ハーバード大学教授****
グローバル化をめぐって噴き出す困難にどう向き合うべきか、大きく二つの立場がありえます。一つは、グローバル化が不十分なので問題が起きているという考え方です。この場合、人々の不満は、無知や誤解に基づいているとし、これまで以上に国境を低くしてグローバル化を加速させることが解決策となります。

もう一つは、私たちがグローバル化による弊害を見過ごしてきたという立場で、私はこちらに立ちます。単に経済的な恩恵が自分にまで及んでいない、と人々が感じているだけではありません。自分の声がまったく反映されない、自治も主権もない世界に私たちはいる、という感覚が広がっているのです。

それが既存の中道左右政党の信頼低下と「反エリート」運動に結びつき、極端な保護主義を唱えるポピュリストや急進勢力につけ込む隙を与えました。国境の壁を極限まで低くする「超グローバル化」はむしろ、開かれた経済を維持するには逆効果なのです。

私は超グローバル化と民主主義、国家主権の三つすべてを同時には達成できないと考え、「グローバル経済のトリレンマ」と名付けました。この数十年間は超グローバル化が推し進められ、国家の機能を軽視する風潮が強まりました。

しかし、所有権や貨幣制度を守る仕組みなど、国家権力による制度の裏付けがなければ市場はうまく機能しません。
所得を再分配し、安全網を整える機能も大事です。世界規模の政府がない以上、市場の超グローバル化で様々な問題が生じるのは避けられません。

欧州の経験が教訓になります。単一市場を目指すEUは、ある意味「超グローバル化」を具現化した存在です。しかし、民主主義も同じように国の枠を超えられなければ、市場は長持ちしません。その結果がブレグジットです。一定の歴史や文化を共有する欧州の域内ですら、超グローバル化は難しいのです。

自分の声が反映される仕組みを取り戻すには、「超グローバル化」を、より緩やかな形に抑えこむ必要があります。これを私は「賢いグローバル化」「ほどほどのグローバル化」と呼んでいます。

これは自国の殻に閉じこもる保護主義や、一部の人を排除するような愛国主義とは異なります。資本の無制限な移動や自由貿易協定で政策の手足を最初から縛ってしまうのではなく、各国が自分の国に合った形で、たとえば格差拡大などの問題に対して財政や規制で対処する余地を残しておくことが必要です。「窓は開けるが、蚊帳は張っておく」ということです。世界は、単一の市場と見なすには多様で大きすぎるのです。【11月6日  朝日グローブ】
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日米主導のTPP迷走で、中国主導のRCEPへの注目が高まる
日米など12カ国で合意した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については、中核となるアメリカ・トランプ政権の離脱発言で、こちらも迷走状態です。

メディアによると、オバマ政権はトランプ次期大統領などの反対を踏まえ、来年1月までの残りの任期中に議会の承認を得るのを断念したとのことで、TPPの発効は難しい情勢となっています。

****TPPは「米国のため」=悔しさにじませる―オバマ大統領****
オバマ米大統領は14日、環太平洋連携協定(TPP)について「今のところうまくいっていないが、米国の労働者、企業のためになると議論してきた」と語り、来年1月までの任期中の議会承認が絶望的な状況になったことに悔しさをにじませた。次期大統領に就く共和党のトランプ氏はTPP離脱を訴え、早期の発効は極めて困難になっている。
 
オバマ氏は記者会見で、世論調査では「多くの米国民は(自由)貿易を支持している」と強調。ただ、大統領選での複雑な論争が「人々に工場の閉鎖や雇用の海外流出を思い起こさせてしまった」と述べ、自由貿易批判がトランプ氏の勝利を招いたとの見方を示した。【11月15日 時事】 
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こうした情勢で、“アメリカ抜き”の暫定発効、アメリカに代えて中国・ロシアを含めた枠組みの提唱(ペルーのクチンスキ大統領)など、いろいろな対応が検討されています。

****TPP、米抜き発効目指す動き トランプ次期大統領に対応、リマAPECで協議も****
米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利し、見通しが厳しくなった環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、米国抜きの発効を目指す動きが出てきた。中国を加えるべきとの声も出ており、日米による通商・安全保障面などでの“中国包囲網”が崩れる可能性もある。

参加国首脳は、19日からペルーの首都リマで始まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、対応を協議する。
 
メキシコのグアハルド経済相は10日、トランプ氏が掲げる北米自由貿易協定(NAFTA)見直しに懸念を表明。さらに、TPPが頓挫するならば、発効に米国の批准が事実上必要となる現在の条項について、「各国と変更を協議する必要がある」と語った。
 
また、TPP参加12カ国中、日本も含めメキシコやニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、ベトナム、マレーシアの7カ国が年内に協定を批准するとの見通しも示した。
 
一方、ペルーのクチンスキ大統領も11日、「米国抜きの(TPPに)似通った協定に置き換えることもできる」とし、中露2カ国も含まれるべきだと語った。
 
オーストラリアのビショップ外相は、各国は米新政権にTPP批准を働きかけるべきだと説く一方、TPPが発効しなければ、「生じた空白は(日中韓印など16カ国が交渉中の)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)で埋められることになる」と述べ、地域の通商体制再編で、米国外しの流れが強まると牽制した。
 
TPPは関税削減だけでなく、知的財産保護や政府調達などの公正なルールも定めた次元の高い協定。専門家は「経済関係強化と自国の効率性や生産性向上に向け、11カ国はまず米国抜きで再交渉し、TPPを暫定発効してもいいかもしれない」と指摘している。【11月14日 産経】
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日米主導のTPP迷走で、中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への注目が高まっています。

****米国、中国主導の自由貿易協定への支持を検討すべき=中国国営紙****
中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは15日付の社説で、米国のトランプ次期政権は中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への支持を検討すべきとの見解を示した。

同紙は「中国政府は当然ながら、排他的で経済的に非効率かつ政治的対立をあおる環太平洋連携協定(TPP)が実現する可能性が日増しに低下していることに安心している」とした上で、「米次期政権は、より開かれた、包括的なRCEPが米国の利益の追求する上ではるかに効率的な枠組みになることを認識すべき」と指摘した。

米国はRCEPに参加していない。
一方、米国のオバマ現大統領が推進してきたTPPに中国は参加していない。米国は中国よりも先にアジアの貿易協定を定め、アジアで経済的主導権を握ることを目指していた。

しかし、先週の大統領選で勝利したトランプ氏はTPPから脱退すると表明しているほか、来年1月までのオバマ大統領の任期中に議会で承認される可能性はほとんどなくなった。

RCEP参加国には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に加え、中国、日本、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドが含まれるが、現段階ではTPPほど高度な貿易自由化は可能となっていない。【11月15日 ロイター】
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マレーシアのムスタパ貿易産業相は「現在の不透明な国際経済情勢を受け、RCEP参加国はこの貿易協定の妥結に向けて引き続き緊密に連携していくとの決意を強固にした」と述べ、今後RCEPの交渉妥結に注力する方針を明らかにしています。【11月15日 ロイターより】

中国主導の枠組みへの流れが強まる情勢で、安倍首相はこうした現状を認めつつも、警戒感を示しています。

****首相「東アジア経済連携、知的財産保護などに懸念****
環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案を審議する参院特別委員会は15日午前、安倍晋三首相が出席して集中審議を開いた。

首相はTPPの発効手続きが進まない場合は「(日中韓印などの)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足が移っていくことは間違いない」と指摘。同時に「RCEPは米国が入っていない。最大の国内総生産(GDP)は中国になる」と警戒感を表明した。
 
首相は「TPPでは知的財産がルールにのっとってしっかり守られるが、果たしてRCEPではどうなるのか」と語った。その上で「TPPが一つのモデルにならなければならない」と訴え、RCEPよりTPPの発効を重視する姿勢を示した。
 
首相は「TPPの目的や意義について世界に発信する。米国にも発信していく。今の保護主義の流れを変えていく」と強調。米国を含むTPP加盟国に承認を働き掛けていくと説明した。【11月15日 日経】
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“米国を含むTPP加盟国に承認を働き掛けていく”とは言っても、(今後どうするのかは不透明ながらも)肝心のアメリカ次期政権が後ろを向いている状況ではいかんともしがたいものがあります。
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