(米ホワイトハウスで開いた閣議で笑みを浮かべるドナルド・トランプ大統領(2017年6月12日撮影)。【6月13日 AFP】 )
【スターリン主義を風刺した喜劇か、北朝鮮の指導者賛美か・・・】
トランプ大統領については、これまでも批判的な視点からになりますが、何度もこのブログでも触れてきましたし、他に取り上げるべき重要な事柄が世界中で刻々と進行している状況にあって、トランプ大統領についてあまりくどくどと批判めいたことを言うのもいかがなものか・・・という感もあります。
ただ、今日TVニュースで観たトランプ政権の初閣議の様子はあまりに異様であり、これに触れずに他の話題でお茶を濁すのも・・・ということで、今日も“トランプ”です。すみません。
トランプ大統領がコミーFBI前長官に忠誠心を求めたとか、いや嘘だとかが問題にもなっていますが、大統領の長男であるドン・ジュニア氏はFOXニュースに登場し「父は、誰にでも忠誠を求めるんですよ」とも発言しています。
ジュニア氏の発言の意図は“企業経営者としても政治家としても「部下には忠誠心を求める」のがトランプ式だというわけで、「誰にでも求めるのだから、司法妨害のような深刻なものではない」と言いたかったのかもしれません。”【6月13日 冷泉彰彦氏 Newsweek】というものでしょう。
司法妨害かどうかはともかく、トランプ大統領が忠誠心を表立って表明することを部下に強要する人物であることは、初閣議の異様な光景を見れば一目瞭然です。
ニュース等で初閣議の様子を少しでもご覧になった方には説明の必要もありませんが、まだ観ておられない方のために、その様子を再現した記事を。
****まるで踏み絵!閣僚全員がトランプを礼賛 米史上最も醜悪な閣議****
<人に称賛されることを必要としているアメリカ大統領は、「思ってもない褒め言葉」でもご満悦。驚くのは、テレビカメラも回る前で、閣僚全員が真顔で褒めきったことだ>
昨日、ホワイトハウスで開かれたトランプ政権の初閣議では、テーブルを囲んだ閣僚たちが一人ずつ、アメリカを再び偉大にすると豪語する暴君ドナルド・トランプ大統領を、まるで踏み絵のように、居並ぶ記者やカメラの前で、べた褒めさせられる異様なものだった。
まるで旧ソ連のスターリン時代だ。なにより驚きだったのは、全員が真顔でやり切ったこと。その光景がどれほど異常か、当人たちが気づかなかったはずはないのだが。
終始ご満悦だったのはトランプ一人。トランプは、閣議の冒頭を自分が大好きなこと──自画自賛──から始めた。「大恐慌への対処に追われたフランクリン・ルーズベルト大統領など少数の例外を除き、かつてこれほど多くの法案を通過させ、多くのことを成し遂げた大統領はいなかった」と、トランプは切り出した。
その後一人ずつ指名された閣僚は、トランプを褒めるしかなくなった。
忠誠心が好きなトランプ
政治部の記者や専門家がすぐさま指摘した通り、トランプの発言は事実ではない。それにも関らず閣僚が次々とトランプを称賛した。政権発足から半年も経たないのに、まるで任期終了直前に成果をねぎらい合う最後の閣議のようだった。
いくらメディア向けの見世物だといっても、現代アメリカ史で、今回ほど大統領へのおべっかで埋めつくされた閣議は例がない。
米CNNのコメンテーター、クリス・シリザは「史上最も醜悪な閣議」と酷評し、そのコメントはすぐさまソーシャルメディアに拡散した。
知っての通り、トランプは忠誠心が大好きだ。だが、閣僚が一人残らずメディアの前で忠誠を誓う様子には、心底あきれかえった。スターリン主義を風刺した喜劇でも見ているようだ。
ただしこれは喜劇でなく、現在のアメリカ政治のリーダーシップそのものだ。
トランプ礼賛の口火を切ったのは、マイク・ペンス米副大統領だ。トランプと一緒に仕事ができることは「人生最大の名誉」だと言った。他の多くの閣僚もトランプに奉仕することの「名誉」や「誇り」を連発した。
ロシアとの接触をめぐりますます疑惑が募るジェフ・セッションズ米司法長官は、トランプ政権が犯罪者や法執行当局に対して「正しいメッセージ」を送っている、と持ち上げた。
続いてトランプと、アメリカのギャング集団MS-13を撲滅するという話で意気投合した。「奴ら全員を、すぐに排除できる見通しだ」と、トランプは言った。
アレクサンダー・アコスタ米労働長官は、トランプが「アメリカの労働者に奉仕」していると称賛したが、具体的にどう奉仕したのかには触れなかった。
リック・ペリー米エネルギー相が、アメリカが脱退を表明した地球温暖化の国際的枠組み「パリ協定」を「出来損ないの行政命令のようなもの」とこきおろすと、トランプは満足げな表情を浮かべた。
「あなたの姿勢に脱帽する」と、ペリーはトランプを称賛した。トランプがパリ協定離脱を表明した演説で、「私はピッツバーグのために選ばれたのであって、パリのためではない」と述べて国内産業の保護を優先する姿勢を鮮明にしたことを指したのだろう(ピッツバーグの市長はトランプの演説に反発し、独自にパリ協定の指針に従うと約束した)
助けを必要とする人々のためになれた
ミック・マルバニー米行政管理予算局長は、「トランプの指示のおかげ」で「本当に助けを必要とする人々のためになること」ができるようになったと謝意を伝えた。
マルバニーが3月に公表した2018会計年度の予算案の概要には、高齢者や身障者に食事を提供することで好評な連邦政府のプログラム「ミールズ・オン・ウィールズ」への歳出カットが含まれていたのだが。
「大統領選中に掲げた公約を着実に実行するあなたを支えるチャンスを得られて、私はわくわくしている」と言ったのは、ウィルバー・ロス米商務長官だ。そうした公約には、大多数の経済学者が疑問視する中国との貿易戦争も含まれている。
「先週のインフラ週間は素晴らしい1週間だった。運輸省まで足を運んでくださり感謝申し上げる」と礼を述べたのは、イレーン・チャオ米運輸長官だ。チャオは大統領就任式で聴衆の規模に執拗にこだわったトランプの性質を察するかのように、こう続けた。「大勢の参加者が興奮した様子で一堂に会し、式典を見守っていた」
インフラ週間は実態が乏しいという理由で散々な評判だった。しかも先週は、トランプに電撃解任されたジェームズ・コミーFBI前長官が米上院情報特別委員会の公聴会で証言することにすっかり話題をさらわれた。
だがトランプに対するおべっかでは、駐ギリシャ米大使としてもうすぐ左遷という噂があるラインス・プリーバス大統領首席補佐官の右に出るものはいなかった。
「大統領、あなたの周りにいる上級スタッフ全員を代表して、あなたの政策とアメリカ国民のために仕える機会と祝福を与えてくれたことに感謝申し上げる」とプリーバスは言った。
ソーシャルメディアで笑い者に
プリーバスと最もいい勝負で、近代アメリカ史上最も不人気な政権を大げさに褒めまくったのは、ソニー・パーデュー米農務長官だ。「私はミシシッピ州から戻ったばかりだが、あそこの人々は大統領が大好きだ」。それを聞いたトランプは、見るからに嬉しそうだった。
トランプに批判的なリベラル派は、当然のことながらソーシャルメディアでこれを嘲笑の的にした。米MSNBCのスティーブ・ベネンは「驚くほど気味が悪い」と切り捨てた。
民主党のチャールズ・シューマー米上院院内総務は、閣議でのトランプ礼賛を揶揄して、事務所の若手スタッフが自分を褒めちぎる芝居の動画を公開した。【6月13日 Newsweek】
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トランプ政権に加わっている面々が、基本的にトランプ大統領と主張が一致することは当然ではありますが、一人一人が臆面もなく歯の浮くような言葉でトランプ大統領の偉業をたたえ、一緒に仕事ができることを光栄に思う云々といった美辞麗句を並べ立て、トランプ大統領がそれを満足げに聞いている・・・・という光景、これが世界の動向に最も大きな影響力を有する人々であるということは、醜悪と言うか、喜劇的というか・・・唖然としました。
各人が内心どう思うにせよ、美辞麗句で褒めたたえないと、コミー氏のようにクビにされるのでしょうか。
上記記事では“スターリン主義を風刺した喜劇でも見ているようだ”と評していますが、個人的には北朝鮮の金氏に対する歯の浮くような賛辞のオンパレードを連想しました。
【規制緩和に向けた動き】
トランプ大統領が1兆ドルのインフラ投資計画における民間投資刺激のために規制緩和に乗り出すという話は一昨日ブログ「アメリカ トランプ政権の「インフラ・ウイーク」 現実性が疑問視される“1兆ドルのインフラ投資計画”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170611でも取り上げました。
****トランプ米政権、製造業関連規制の緩和計画を週内に発表****
トランプ米政権は今週、国内製造業の成長の妨げとなる規制を緩和する計画を明らかにする方針だ。環境許可や労働者の安全、労使関連の規則などに影響する可能性がある。政権関係者が明らかにした。
米商務省は、規制の合理化や製造業者の負担軽減に向けた措置について3カ月以上にわたり調査や業界との意見交換を実施し、提言をまとめた。
報告書の内容について知る政権関係者によると、環境保護局(EPA)の複雑な認可ルールが焦点となる見込みだ。
この関係者によれば、報告書では企業や業界団体から出された意見を分析し、「多くの問題を指摘した上で責任ある措置をとる方法を提示」する。オバマ前政権が決定した多くの規制を検討対象としているという。
トランプ大統領は、完全に実施されていないオバマ政権時代の環境規制の一部を撤回する措置を既にとっているが、商務省がまとめた提言では法制化済みのルールも見直しの対象となる可能性がある。【6月12日 ロイター】
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そうした規制緩和の流れのひとつ。
****米内務長官、ユタ州国定記念物の指定範囲縮小を提言****
ジンキ米内務長官は12日、「ナショナル・モニュメント」(国定記念物)として指定されているユタ州ベアーズ・イヤーズ地域について、指定範囲を縮小するようトランプ大統領に提言したことを明らかにした。鉱業業界は歓迎する一方、環境保護団体からは非難の声が上がっている。
5463平方キロに及ぶベアーズ・イヤーズ地域はオバマ前大統領が任期終盤に国定記念物として指定。27ある国定記念物のうち、連邦政府所有地の開発拡大を計画するトランプ政権が指定を見直すのは初めて。
ジンキ内務長官は記者団とのテレカンファレンスの中で、4日間にわたってユタ州を視察した上で、10日に大統領に暫定的な提言書を送付したと明らかにした。(後略)【6月13日 ロイター】
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確かにアメリカの国立公園、それに類するエリアというのは非常に広く、アメリカを旅行した際にも「こんなに広い保護区を設定して、人々の生活・産業に支障はでないのだろうか?」という素朴な疑問も感じましたので、問題意識自体は間違いではないでしょう。
検討・決定する人々の意識が心配なだけです。
【世界が付き合わされる“裸の王様”】
アメリカはいつまで初閣議に見られるような“裸の王様”を続けるつもりなのでしょう?
****<米・州政府など>「利益相反」トランプ大統領を提訴へ****
◇首都ワシントンとメリーランド州が「憲法の報酬条項違反」と
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は11日、トランプ大統領が家族の手がけるホテル業などを通じ、外国政府から利益を受けていることは合衆国憲法の「報酬条項」に違反するとして、首都ワシントンと、隣接するメリーランド州の両政府が12日に連邦裁判所に提訴すると報じた。
トランプ政権は入国禁止令を巡り地方政府と係争中だが、大統領としての国益追求とビジネス上の利害が対立する「利益相反」を巡り、新たな司法闘争を抱える可能性がある。
同様の訴訟は1月にワシントンの市民団体が起こしているが、地方政府による提訴は初めて。
ポスト紙によると、サウジアラビア政府はトランプ氏就任後、複数回にわたり市内のトランプ・インターナショナル・ホテルの客室を確保。在米クウェート大使館は当初別のホテルで予定していたイベントを同ホテルで開催した。昨年9月にオープンした同ホテルは、外国政府関係者らがトランプ政権の好意を得ようとして利用する可能性があり、政治倫理上の問題が指摘されてきた。
同ホテルの事業はトランプ氏の大統領就任後、長男に引き継がれたが、原告側はトランプ氏がホテルを含む一族のビジネスについて定期的に報告を受け、所有権も手放していないと指摘。宿泊費などの形でトランプ氏側が収入を受け取ることが、米政府当局者が外国から報酬を受け取ることを禁じた憲法の報酬条項に違反する一例だと主張する。
トランプ氏は就任前に携わってきた計150に上るとされる事業を長男らに引き継ぎ「経営から完全に離れる」(顧問弁護士)と説明してきたが、確定申告書の公表は拒否している。原告側には訴訟を通じて大統領の確定申告書開示を促す狙いもある。【6月12日 毎日】
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ただ、現実政治の枠組みにおいては、現職大統領の疑惑追及はなかなか困難です。
****【ロシアゲート疑惑】トランプ氏ひとまず逃げ切り? 「圧力」証言のコミー氏、動機に疑問****
コミー前FBI長官の議会証言で新事実が明らかにならなかったことで、トランプ大統領はひとまず逃げ切りに成功した形だ。
逆に、トランプ氏との会話記録をメディアにリーク(情報漏洩)したことをコミー氏が明らかにしたことは、自らが標榜してきたFBIの「独立性」や、トランプ氏追及の動機を疑わせることになった。
コミー氏は公聴会で、前日に提出していた準備書面に沿って証言した。トランプ氏がフリン氏の捜査中止を求めて圧力をかけた問題が司法妨害に当たるかどうかは、疑惑の捜査に当たっているモラー特別検察官の判断に委ねるとした。(中略)
モラー氏の捜査では、トランプ氏の行為が司法妨害とされるかが焦点。ニクソン、クリントン両元大統領への弾劾の動きも司法妨害が要因となっている。だが、与党・共和党はコミー氏の情報漏洩を問題視しており、トランプ氏弾劾の機運は広がりを欠いている。【6月9日 産経】
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しばらく世界は、“将軍様”だか“裸の王様”だかと付き合っていかなければいけないようです。