(【11月13日 CNN】
ポーランドの独立記念日にあたる11月11日、首都ワルシャワで国粋主義団体主催のデモ行進が行われ、警察の推計で約6万人が参加しました。
CNNは“参加者は「ヨーロッパは白人の地」「イスラム教ホロコーストの祈りを」などと書かれた横断幕を掲げて市内を行進。覆面姿で紅白のポーランド国旗を掲げ、「祖国の敵に死を」「ポーランドはカトリック国。世俗国ではない」というスローガンを唱える参加者もいた。・・・・”と報じましたが、右派政党「法と正義(PiS)」政権は、外国メディアの一部がこの独立記念日の行進を「ファシスト」と呼んだことに怒りを表明していました。)
【チェコ 「チェコのトランプ」と日系極右政治家の躍進】
10月20,21日に行われた中欧チェコの総選挙では、実業家で「チェコのトランプ(米大統領)」と呼ばれるアンドレイ・バビシュ氏が率いる与党の中道政党「ANO2011」が得票率29・8%で他を引き離して第1党に躍進、また、反イスラム・反EUを掲げる日系人トミオ・オカムラ氏が率いる右翼政党「自由と直接民主主義」も10.7%で第3党となっています。
“食品やメディア関連企業などを経営する富豪として知られるバビシュ氏は「反エリート」を前面に出し、大胆な議員定数削減などを打ち出す。EUの単一通貨ユーロの早期導入に消極的とされ、難民受け入れに反対する発言を重ねる。首相になれば、ハンガリーやポーランドとともに、EU加盟国でありながらEU批判の声を強める可能性がある。”【10月22日 朝日】
“日系の上院議員トミオ・オカムラ(45)は日本人の父とチェコ人の母を持ち、幼少期を日本で過ごした人物だ。チェコで実業家として成功を収めた後に政治家に転じた彼は、イスラム教を宗教ではなく「イデオロギー」だと語るなどイスラム嫌いの発言を連発。チェコ人は中東発祥の肉料理ケバブを食べるのをやめ、モスク周辺に豚を連れて行くべきだなどとも主張している。”【11月2日 Newsweek】
「チェコのトランプ」と日系・反イスラム極右の両氏が躍進した選挙結果は、“欧州の旧社会主義国で政治的に最も安定していると言われてきたチェコにもポピュリズムの風が吹き、欧州連合(EU)との関係にも影響しそうだ。”【10月22日 朝日】とも指摘されています。
チェコと言えば政治的には、1968年のソ連軍の戦車に押し潰された市民による抵抗運動“プラハの春”を想起しますが、政治情勢は大分変ってきたようです。
“18〜21歳のときに日本に一時滞在。日本語も堪能で、ゴミ収集や映画館でポップコーン売りなどをした後、チェコに戻り、日本人向けの観光会社や飲食店を起業”【11月20日 産経】したトミオ・オカムラ氏の主張については以下のようにも。
****日系のチェコ極右党首「EUは肥大化、崩壊も」 トミオ・オカムラ氏インタビュー*****
先月のチェコ下院選挙で第3勢力に躍進した極右新党「自由と直接民主主義」(SPD)のトミオ・オカムラ党首(45)がプラハで産経新聞のインタビューに応じ、欧州連合(EU)の肥大化を強く批判。「このままでは崩壊する」と持論を展開した。
「反移民」を唱えるオカムラ氏は愛国主義重視について「文化などを大事にするのは日本も同じ」とした上で、EU批判も「愛国主義に基づくためだ」と解説。
「(EUが加盟国に)一方的に命じるやり方はファシズムだ」とし、特に難民の分担策には「ソ連でさえ、誰と一緒に住むかは強制しなかった」と批判した。
EUは「西欧など裕福な国に都合のよい」機関とも述べ、「東欧は西欧の多国籍企業にとって市場と安い労働力の供給源でしかない」と強調。チェコ経済は堅調だが、「企業が利益を得ているだけ。(国民の)給料は安いままだ」と訴えた。
ルペン党首率いるフランスの極右「国民戦線」など各地の反EU勢力と連携しているとするオカムラ氏は、「目指すのは可能な限り緊密な欧州の主権国家による協力。孤立ではない」と強調。
反EU勢力が後退しているとの見方には、オランダやオーストリアなどの総選挙結果を踏まえ、「議席は増え、強くなっている」と反論した。
1989年の民主革命を直接経験したオカムラ氏は「当時は意見が自由に言えるようになると期待した」と語る一方、「今では主流派と違う意見を自由に言うと『ポピュリストだ』とたたかれる。おかしい」との認識も示した。【11月20日 産経】
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主張の字面をなぞれば、もっともに聞こえる部分もありますが、その主張の結果が“チェコ人は中東発祥の肉料理ケバブを食べるのをやめ、モスク周辺に豚を連れて行くべきだ”ということで、その考えはあらぬ方向に逸脱しています。
“チェコではイスラム教徒は人口のわずか0.1%で、深刻な難民問題も発生していない。それでもオカムラの主張が国民の共感を得る背景には、国家消滅の脅威に怯えてきたチェコの歴史的な経緯と、欧州各国で相次ぐテロへの恐怖心があるとみられる。”【11月2日 Newsweek】
チェコでは実際にイスラム教徒と付き合う機会がないだけに、“恐怖心”“拒否感”だけが肥大して独り歩きしている感も。
また、アメリカにおいてトランプ大統領を誕生させた「ラストベルト」と似たような、変化する産業構造の中でかつての基幹産業が斜陽化し、取り残されていく不安感も国内にあるようです。
****民主化後「取り残された」 チェコ、斜陽の鉱工業都市ルポ 新興・極右政党が台頭、強まるEU批判****
チェコで10月に実施された下院選挙は欧州連合(EU)に懐疑的で、反移民・難民を主張する新興政党が躍進し、注目された。
特に支持を集めた地域の一つが北東部。かつての鉱工業が斜陽化する中、民主化後の発展やEUのあり方に不満をくすぶらせる住民らが変化を求め、吸い寄せられていた。
「うるさかったが、当時は活気があった」
ポーランド国境近くの第3の都市オストラバ。中心部を少し離れると、さび付いた巨大な建造物が威容を誇った。「ビートコビツェ製鉄所」。一大工業地帯として近代以降栄えた地域の象徴だが、1989年の共産体制崩壊後に閉鎖。今は観光名所となっている。
「うるさかったが、当時は活気があった」。近くに暮らす無職、ペトル・ジャークさん(69)の言葉に郷愁が漂う。
チェコ経済は堅調だが、失業率は首都プラハの2.7%に対し、オストラバは7.4%。昨年は地元の石炭採掘大手も破綻。
市場経済化に成功した同国でも、この地域は産業の転換に遅れ、街の人口は民主化後、約1割減った。「街を出る若者も多く、取り残された感じ」(ジャークさん)
「既存政党の政策に新たなものはない」
下院選では大富豪、バビシュ党首の「ANO2011」が得票率約30%で首位、極右「自由と直接民主主義」(SPD)が約11%を得票して議席数で第3党に入ったが、この街ではそれぞれ約35%、約14%と一段の強さを見せた。ともにEUの権限強化や移民・難民受け入れに反対する。
「既存政党の政策に新たなものはない」。街の中心部で無職、ビエラ・バルコバさん(65)がANOに投票した理由を語った。
批判の先は民主化後、国を担った社会民主党と市民民主党の左右二大政党など。汚職も問題化し、4年前の前回選で反汚職を掲げ台頭したANOは中道左派、社会民主党と連立を組んだ。
周辺には真新しい商業施設があり、失業率が低下するなど地元経済は徐々に改善されてもいる。バルコバさんは「バビシュ氏のおかげ」と実業家出身の財務相としての手腕を評価。「ポピュリスト」との批判にも「メディアのネガティブキャンペーン。今は新しい政治が必要」と一蹴した。
「小国も同等に扱うべきだ」
「チェコの愛国者」。街角で無職のカルロ・チェルニーさん(70)がたたえたのは日系人のオカムラSPD党首。イスラム教を過激に批判し、反難民を明確にする姿勢を「正直」と評した。チェコは難民をほとんど受け入れていないが、欧州で相次いだテロへの不安をSPDが吸い上げた。
反難民感情の背景には少数民族ロマの問題も横たわる。専門家によると、共産体制下で労働力として街に移住させられてきたが、民主化後は職にあぶれた。「働かずに福祉を受ける」とチェルニーさん。犯罪にあう住民もおり、その経験が異文化への抵抗感につながる。
難民をめぐる反発はEUに向かう。EUが決定した分担策にチェルシーさんは「旧ソ連のよう」と反発。ANO支持のバルコバさんも移民政策ではSPDに同調し、「小国も同等に扱うべきだ」とドイツなど大国主導のEUを批判する。
EUへの批判的な世論はオストラバに限らず、チェコで近年強まっている。東部パラツキー大学の政治学者ヤクブ・リセク氏は「オーストリアや旧ソ連などの大帝国に従属させられた歴史が、理性的といえないが、再び国外勢力の影響下に置かれたとの感情につながっている」と解説した。【11月23日 産経】
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【「非リベラル国家」を目指すハンガリー・オルバン政権に中国が接近】
チェコに見られるような“反EU感情”は、ハンガリーやポーランドなどの中東欧諸国に広く見られ、EUを東西に分断する溝を作っていることは、これまでも取り上げてきたところです。
****中国が東欧接近、「欧州分断」に広がる警戒 ハンガリーで4000億支援表明****
中国と東欧16カ国は27日、ハンガリーの首都ブダペストで首脳会議を開き、中国の李克強首相は地域発展に向けた資金協力拡大を表明した。会議は6回目。中国は東欧と関係を深めて欧州の対中政策に影響を与えるのが狙いとされ、欧州連合(EU)は東欧の中国接近に警戒を強めている。
「中国と東欧の協力は相互利益に基づく。グローバル化に沿っており、合理的だ」。現地報道によると、李氏は27日、演説でこう強調し、16カ国の支援を目的とする融資枠の新設など、計約30億ユーロ(約4千億円)規模の協力を表明した。
会議は2012年から毎年開かれ、東欧からEU加盟11カ国と非加盟5カ国が参加。対話の枠組みは首脳級だけでなく、文化など多くの分野に及ぶまでに拡充された。
西欧より開発が遅れる東欧には中国の協力に期待は大きい。会議は個別だと難しい中国要人との接触を確保する機会だ。
特に関係強化に熱心なハンガリーは「中国には発展を可能にする資源がある」(オルバン首相)とし、中国の支援を受けるハンガリー・セルビア間の高速鉄道整備の入札も会議に合わせて発表。鉄道は広域経済圏構想「一帯一路」の一環として、中国が押さえたギリシャの主要港から物資を欧州に運ぶ重要な手段となる。
一方、EUは中国が東欧をテコに対中政策でEUの足並みを崩す思惑だと懸念する。南シナ海問題では中国の主張を退けた仲裁裁判所の裁定を受けたEUの声明から、ハンガリーなどの抵抗で中国を名指しする文言を削除。
中国を念頭に最近まとめた欧州企業の買収防衛策は、EUに阻止権限を与える当初案から東欧などの反対で後退した。
ドイツのガブリエル外相は「一致した戦略がとれなければ、中国は欧州の分断に成功する」と危機感を表明。だが、東欧では「中国との経済関係強化は独仏などもやってきたことだ」(ハンガリーの中国専門家)などと西欧側の「ダブル・スタンダード」に反発が上がる。
実際には東欧の態度も一様でない。中国メディアによると、16カ国への中国投資は12年以降、3倍に増えた。だが、西欧に対する投資規模には及ばず、十分な成果を得られない国では失望感も出てきた。
ドイツの中国専門家は「中国が欧州の投資先として重点を置くのはなお英仏独だ。東欧には政治的影響力を確保できれば十分ともみている」との見解も示している。【11月28日 産経】
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ハンガリー・オルバン首相はロシア、中国、トルコの名を挙げて、民族的基盤に則った、自由の制限された「非リベラル国家」を目指すとしていますので(2016年7月12日ブログ“ハンガリー 「3分の2」で改憲・新憲法 国家・民族重視の「非リベラル国家」を目指すオルバン政権”)、中国との協調は極めて自然な流れでしょう。
むしろ価値観が異なるEUに残留していることが不思議なぐらいですが、実際には補助金や労働者の移動などでEUのメリットを最大限に享受しているのもこれらの国々です。
【ポーランド 政権批判の外国メディアへの締め付け】
ポーランドもハンガリー・オルバン政権と同様の“非リベラル”傾向を強めています。
****メディアの中傷からポーランドを守れ、NGOが報告サイト開設****
ポーランド外務省の支援を受けた非政府組織(NGO)が、ポーランドを中傷する外国メディアの報道を見つけた人が報告できるウェブサイトを開設した。
ポーランド名誉毀損防止同盟(RDI)は今週、ポーランド語で「騎士(Rycerz)」と名付けられた計画を発表。
同団体のミラ・フシャラカ氏は、メディアが不正確で操られた情報に基づいて情報を発信する場合もあるとして、ポーランドについて「どのように言われ、書かれているのかについて対応する必要がある」と述べた。
RDIのウェブサイトでフシャラカ氏はさらに、独立記念日の行進についての西欧諸国のメディアの発表した記事を見れば、このような活動が必要だと分かるだろうと付け加えた。
11月11日の独立記念日に極右団体が企画した行進の参加者の中には外国人排斥のシュプレヒコールを上げた人たちもいたが、単に祝日を祝いたいだけの人たちもいた。右派政党「法と正義(PiS)」政権は、外国メディアの一部がこの独立記念日の行進を「ファシスト」と呼んだことに怒りを表明していた。
フシャラカ氏によると、常勤の通信員とボランティアがシステムにログインし「中傷と思われる内容を含む情報」を報告する仕組みになっており、情報を発信したメディアや個人に連絡を取って訂正を求めるという。【12月1日 AFP】
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都合の悪いメディア報道を“フェイクニュース”と攻撃するトランプ大統領に代表されるように、政権批判を許さないような雰囲気が世界で広まっているようにも。
【東欧を二流国家群として扱った西欧 自分たちの心を自由化することを忘れた東欧】
西欧主導のEUの側が新規加盟した中東欧の声を十分に汲み上げてこなかったことが、中東欧諸国に“小国がEU内で無視されている”という反感にもつながっています。
****EUを信じる西と信じない東、広がる亀裂****
独ディ・ツァイト紙政治担当編集委員Jochen Bittnerが、10月23日付けニューヨーク・タイムズ紙に、EU内では後から加盟した東欧諸国と元加盟の西欧諸国との間に亀裂があり、双方に責任がある、とする解説記事を書いています。要旨は以下の通りです。
1990年代初期の欧州共産主義の崩壊後、チェコ、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリーの4か国はヴィシェグラード・グループを作った。同グループは、EUとの結びつきを強め、2004年にEUに加盟した。
当初共産主義崩壊後の統合の旗手であったヴィシェグラード・グループは、今日では西欧が中東欧を完全には統合できないことの象徴となっている。4か国の政治家はEU反対を唱え、「EUは押しつけがましい」と批判している。
4か国は、西側の主流に与することを拒み、イスラム難民の受け入れを拒否し、民主主義のチェック・アンド・バランスを煩わしいものと考える。
こうした傾向はヴィシェグラード・グループにとって新しいことではなく、過去10年の間に見られた。過去10年、EUは北の債権者と南の債務者の間の債務危機に忙殺され、EUを信じる西と信じない東との亀裂が広がるのを見落とした。その間に中欧で疎外感が定着した。
こうなったことについては東西の双方に責任がある。
西欧は、東欧はEUに加盟しただけで満足したものと考え、東欧を二流国家群として扱った。ヴィシェグラード・グループ諸国がEUで何か提案しても無視されるか、拒否された。西欧は東欧との経験の違いを重視しなかった。1945年以降、米兵はエルベ川の東に足を踏み入れなかった。
ヴィシェグラード・グループ諸国が西側の約束に幻滅を感じたのは理解できる。ヴィシェグラード・グループ諸国はEUに加盟した時、安定を期待したが、加盟直後EUはまずユーロ危機、次いで大量の移民流入で揺れた。
自由は、安全ではなく新たな不安定を意味した。多くの中東欧の人にとって、西側の一員になりながら依然取り残されることを恐れなければならないのはショックであった。
それとともに、中東欧では、40年間の共産主義支配の結果、国民相互、政治グループ間の不信感は大きい。専制主義時代の遺産はいまだに残っている。
この間、中東欧の国民は自由に適合する努力を怠った。経済は自由化したが、自分たちの心を自由化することを忘れた。
東西は両者が共存する治療法を施さなければならない。EU内の東西の対立は、放っておけばBrexitが些細なことに思われるような重大な事態になる恐れがある。(後略)【12月1日 WEDGE】
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“経済は自由化したが、自分たちの心を自由化することを忘れた”中東欧の不満に、どのように応えていくのか・・・難しいところです。
価値観を共有できないなら、統合はありえず、“離脱”の方が簡単です。
もっともリベラルな西欧的価値観も西欧諸国内で揺らいでいますので、価値観を云々すること自体が“昨今の世界の流れ”に沿っていないのかも。残念ながら。