孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ東部  平和維持部隊覇権で米ロ対立 米の対戦車ミサイル供与決定の今後への影響は?

2017-12-26 21:48:17 | 欧州情勢

(ジャベリン対戦車ミサイルは最終誘導の必要のない、いわゆる撃ちっぱなしミサイル。あらかじめロックオンしておき、あとはミサイルが自動追尾するもの。兵士一人でも運用できるようです。【http://www.newsounds.jp/html/2004/archives/cat_jointoperations.html より】 こんなものに狙われたら、戦車は“走る棺桶”になりそう)

アメリカとロシアの対立:平和維持部隊をどこに派遣するのか?】
最近ではあまり報じられることがないウクライナ東部の状況ですが、依然として「凍った紛争」としてくすぶり続けているようです。

ウクライナ政府及びこれを支援する欧米の立場からすれば、2015年の停戦合意(ミンスク合意)をロシアが遵守して、ウクライナ東部から武器を撤収させることが事態打開のカギとなりますが、ロシアの実態がよく見えません。

そこで、平和維持部隊をウクライナ東部(ドンパス)に派遣しよう・・・との話が進められています。

一方のロシア側には、こうした平和維持部隊の派遣で、ウクライナ東部の親ロシア派支配を固定化したいとの思惑もあるようです。

****ウクライナ東部に平和維持部隊、米が露に提案へ****
米政府は、戦闘が続くウクライナ東部に2万人規模の平和維持部隊を派遣する構想をロシアに示し、同国が紛争を終結させる用意があるかどうか探る意向だ。西側当局者が明らかにした。
 
西側当局者によれば、米国は数日中にロシアにこの構想を提案するとみられている。こうした和平への動きが出てきた背景には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの分離・独立派への軍事支援を停止したいと思っているとの観測が、フランスやドイツなど一部の欧米諸国で高まっていることがある。
 
平和維持部隊派遣の構想はトランプ米政権の対ロシア戦略の一環でもある。米国はロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約に違反する動きをしていると非難し、こうした軍縮条約を順守するよう働き掛けている。
 
しかし、ウクライナからの部隊と武器の撤収を義務付けた2015年の停戦合意(ミンスク合意)をロシアが守るつもりがあるかどうか、西側諸国は依然として懐疑的だ。
 
米国の提案は、9月に開かれた国連安全保障理事会でロシアがウクライナへの平和維持部隊派遣を提唱したのを受けたものだ。
 
ロシアの提案では、平和維持部隊はウクライナ東部の独立派地域と、中・西部の政府軍地域の境界線に配置されている欧州安保協力機構(OSCE)の停戦監視団を保護することになっている。

西側諸国の外交官らは、親ロシアの独立派によるウクライナ東部ドンバス地方の支配を固定させる恐れがあるとして、この提案を拒否した。
 
だがその後、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が平和維持部隊にドンバス全域への自由な出入りを認める対案を提示すると、プーチン氏は前向きな反応を示したという。ロシア、西側双方の当局者が明らかにした。
 
西側とロシアの政府当局者によると、ロシアによるウクライナ紛争への介入は、米ロ関係の改善の最大の障害になっている。米国のウクライナ担当特別代表であるカート・ボルカー氏は今夏以降、紛争調停のためウクライナやロシアの政府当局者と会談を重ねている。
 
米国など西側当局者は、平和維持部隊は国連安保理の決議にはよらず、OSCEの指揮下に入るか有志連合の形態になる可能性があるとしている。
 
複数の米政府当局者によれば、ホワイトハウスはウクライナ政府にジャベリン対戦車ミサイルなど殺傷能力の高い兵器を供与することを原則的に承認した。ただ、そうした兵器をいつ供与するかはまだ決まっていない。
 
これらの当局者は、殺傷能力の高い兵器の供与は平和維持部隊の派遣に懐疑的なウクライナ政府を説得する材料になると期待している。ロシアに対しても、平和維持部隊の派遣が実現できなければ、西側はウクライナ政府への軍事支援を強化する構えだと警告できるとみている。【11 月 10 日 WSJ】
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“プーチン大統領がウクライナの分離・独立派への軍事支援を停止したいと思っているとの観測”の真偽は知りません。

確かにロシアにとっては、いつまでも支援を続けることは財政的にも負担になりますし、欧米との関係改善の障害となります。実際、シリアからも撤退を進めているとも言われています。

ただ、ロシア軍のシリア撤退が可能になったのは、軍事的にシリア政府軍の優位が確定して、支援するアサド政権存続が見込める状況になったことによります。

ウクライナでも、手を引くとしたら、介入の“成果”を確保する必要があります。

欧米とロシアの思惑の違いは、端的には“平和維持部隊をどこに派遣するのか”という問題になります。
ロシアの排除を狙う欧米側はウクライナ・ロシア国境への派遣を、親ロシア派支配固定化を狙うロシアは親ロシア派と政府軍の停戦ラインに派遣することを求めています。

****<ウクライナ東部紛争>国連部隊派遣で米露が対立****
親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍の戦闘が続くウクライナ東部紛争を巡り、米国とロシアが事態解決のため投入を検討する国連部隊の派遣先で対立している。

米国はロシア軍監視のため、ウクライナ・ロシア国境への派遣を狙うが、ロシアは親露派と政府軍の停戦ラインに派遣することを主張。双方の溝は埋まっていない。
 
ウクライナ東部紛争は2015年2月に停戦で合意(ミンスク合意)。東部2州内に停戦ラインを引き、双方が重火器を撤去して全欧安保協力機構(OSCE)が停戦を監視する内容だが、合意は守られていない。OSCEによると、今年の民間人死傷者数は400人を超えた。
 
ウクライナ政府は早くから東部2州への国連平和維持軍の投入とウクライナ・ロシア国境の監視を主張。米国もウクライナの立場を支持し、7月に新たな特使を任命した。
 
だがプーチン露大統領は9月、OSCEの停戦監視団保護を目的とした国連部隊を停戦ラインに派遣することを提案。これにウクライナや欧米諸国は強く反発する。部隊派遣を利用して「ロシアが親露派支配地域を固定化しようとしている」との懸念があるためだ。
 
今月7、8日にウィーンで開かれたOSCEの外相理事会で両国は激しく対立。ティラーソン米国務長官は「(紛争の)暴力の原因をはっきりさせるべきだ。ロシアは反政府勢力を武装化させ、指導している」とロシアを強く非難。

一方で、会議後の記者会見では国連平和維持軍の派遣に言及し、「(軍の)派遣ができるかどうか、ロシアと協議を続ける」と交渉の進展に期待を示した。
 
一方、ロシアのラブロフ外相は、米国などの主張について「問題を力によって解決しようとするに等しい」と反発。ロシアの主張はミンスク合意に記された停戦監視団の「保護」にとどまっており、平和維持軍の派遣は合意違反だと主張した。【12月12日 毎日】
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力でクリミアを奪い取り、更にドンパスに介入しているロシアが「問題を力によって解決しようとするに等しい」など批判するのも笑止ですが、そこはスルーします。

この平和維持部隊の話は、その後ニュースを見ていませんので、現在も上記記事のような“意見の相違”の状況にあると思われます。

クリスマス・新年の停戦合意
ただ、まったく動きがない訳でもなく、クリスマス・新年の停戦合意は成立したようです。

****ウクライナ問題で新たな停戦合意****
ウクライナ問題をめぐる三者協議(ウクライナ、OSCE・欧州安全保障協力会議、ロシア)が20日、ベラルーシの首都・ミンスクで定例会合を開き、各側は、キエフ時間23日早朝から無期限の停戦に合意しました。
 
OSCEのサイディク特別代表は、会合後の記者会見で「クリスマスと新年をまもなく迎えるため、ウクライナ東部地域の平和と安全を保障しなければならない」と強調した後、「各側が会合でこの前の合意に基づいてクリスマスまでの捕虜交換にも触れた。三者は新ミンスク合意を完全に守ると表明した」と述べました。

なお、三者協議の次期会合は2018年1月18日に開くということです。【12月21日 CRI】
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今朝のロシア系TV(多分)では、政府軍・親ロシア派両者の捕虜交換(数十人対百数十人規模)のニュースも報じていたように思います。

トランプ大統領の「ジャベリン」の供与決定で、紛争収束か再燃か?】
こうしたウクライナ情勢に大きな影響をあたえそうなのが、アメリカによるウクライナ政府へのジャベリン対戦車ミサイル供与決定です。

****米、ウクライナに対戦車ミサイルなど提供へ****
米国務省は声明で22日、同国がウクライナに「強化された防衛装備」を提供することを明らかにした。2014年以来、1万人以上の死者を出しているウクライナ政府軍と分離独立を求める親ロシア派武装勢力の紛争をエスカレートさせる可能性がある。
 
この動きはさらに、ドナルド・トランプ大統領が求めるロシアとの関係改善にも水を差す恐れがある。
 
ABCニュースは今回の発表の前に、国務省当局者4人の話として、米国はウクライナにジャベリンなどを含む対戦車ミサイルを提供する計画だと報じていた。
 
この報道によると、供与される4700万ドル(約53億円)相当の防衛装備には対戦車ミサイル210発、発射装置35基が含まれる他、追加物資の購入も必要になるという。
 
今回の発表の前日、欧州連合(EU)首脳は、ウクライナへの介入をめぐりロシアに対する厳しい経済制裁を6か月延長することで合意していた。また約1週間前には、カナダ政府がウクライナへの自動火器の輸出を承認していた。【12月23日 AFP】
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アメリカ議会は2015年段階で、下院は賛成348、反対48でオバマ前大統領に防御兵器提供を求める決議を採択していましたが、オバマ前政権は、ウクライナへの武器供給は外交の邪魔になり、エスカレーションにつながると懸念して実行していませんでした。

プーチン大統領との関係改善にこだわるトランプ大統領も、前政権を踏襲して結論を先延ばしにしてきましたが、ロシアにミンスク合意を守らせるためには武器供与という圧力をかけるべきとのマティス国防長官やマクマスター国家安全保障補佐官など政権周辺の声に押される形で今回決定になったようです。

当然ながら、ロシアは反発しています。

****米がウクライナに武器供与、対ロシア強硬姿勢示す****
ウクライナに対戦車ミサイル「ジャベリン」を提供するというドナルド・トランプ米大統領の決断は、防衛を目的とする殺傷能力の高い兵器を提供することが、混乱の続くウクライナ介入へのロシアの代償を高めるために必要だという同政権の安全保障担当者の間に広がる見方を反映したものだ。

また西側諸国は、これによりウクライナの将来を巡る交渉における立場を強化できる。
 
ただ、この決断はホワイトハウスの来年の対ロシア政策を占う上でも注目に値する。トランプ大統領は、ロシアのウラジミール・プーチン大統領との関係を改善したい意向を表明している一方で、ロシア政府は冷戦後の秩序を逆転しようとする修正主義勢力であり阻止しなければならないと考える側近に囲まれている。
 
この米国の決断に対し、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は即座に、ウクライナを勢いづかせ東部のドネツクやルガンスクの分離主義勢力を「新たな流血行為」に着手させ、戦闘を激化させると批判した。
 
インタファクス通信によると、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、米国の決断を「ロシアに対する制裁と相まって、ウクライナの占領を継続し義務を履行しないロシア政府への適切な対抗措置だ」と称賛し、ジャベリンの使用は防衛目的に限定されると強調した。
 
米国のバラク・オバマ前政権は、ウクライナ政府に対しジャベリンなど殺傷能力の高い兵器の提供を見送った。
こうした対応では戦闘の行方を決することができない一方で、ロシアがウクライナ東部への軍事介入を強める口実を与えると懸念したためだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相など重要な同盟国首脳も強く反対していた。
 
米国務省は11月、ジャベリンをジョージアに販売することを承認しロシアの反発を買った。ジョージアも国土の一部をロシアが支援する分離主義勢力とロシア軍によって占領されている旧ソビエト連邦共和国だ。
 
オバマ政権で米国防総省の上級幹部だったイブリン・ファーカス氏は、米国政府が兵器購入に必要な資金をウクライナに提供するかといった重要な疑問への回答がなされていないと述べた。
 
ウクライナを巡る協議は何カ月も行き詰まり状態が続いており、同国東部では最近、戦闘が激化している。【12月25日 WSJ】
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“米国が供与を決めた「ジャベリン」は、対戦車用のほかヘリコプターへの攻撃能力も備えるが、米国務省は「防御用兵器」と説明している。米国は、これまでウクライナに装甲車、夜間用ゴーグルなどを供与してきたが、ウクライナ政府は親露派勢力の脅威に対抗するため、対戦車ミサイルなどを供与するよう強く求めていた。”【12月23日 毎日】とも。

今回の「ジャベリン」供与決定という対ロシア圧力が、ロシアを紛争収束の方向に向かわせるのか、それとも状況を刺激して、ロシア側も「じゃ、こっちも・・・」と紛争を再燃させる方向に作用するのか・・・よくわかりません。

実際に供与・配備される間に、寸止めでロシアの譲歩を引き出す必要がありそうです。

長引く紛争の犠牲となる捕虜・女性・子供
長引く紛争の犠牲となる捕虜や女性・子供に関するニュースが2件。

****ウクライナ紛争ではびこる性暴力****
<ウクライナ政府軍も親ロシア派武装勢力も、捕虜や民間人を屈服させるためにレイプを奨励している>

(中略)ウクライナ東部では14年から親ロ派武装勢力と政府軍の戦闘が続き、これまでに1万人を超える死者が出ている。

混乱が続くなか、政府軍と武装勢力双方による性暴力が吹き荒れているが、加害者が罰せられるケースはほぼ皆無だ。生き残った被害者が徐々に声を上げ始め、前線の拘留施設で行われているレイプや虐待、売春の強制や性器の切断、性奴隷扱いなど性暴力の実態が見えてきた。

人権監視団が把握しただけでも、性暴力の被害は何百件にも上る。報復を恐れたりレイプされたことを恥じたり、警察に届けても相手にされないなどの理由で泣き寝入りになっている件数ははるかに多いだろう。

ジュネーブ条約を無視
親ロ派の支配地域では住民は武装勢力の横暴に逆らえず、性暴力の取り締まりなど望めない。
一方、ウクライナ政府の支配地域でも性暴力事件で警察が捜査に乗り出すことは期待できず、せいぜい形式的な捜査が行われる程度だ。ウクライナ政府は兵士が犯した罪を不問に付しているとの批判も聞かれる。

ウクライナ東部に派遣された国連の人権監視団が今年発表した報告書は、捕虜を辱め、拷問して自白を引き出すために「拘留施設ではパターン化された性暴力が行われている」と指摘する。(中略)

ただ、性暴力が組織的に行われているかどうかについては調査結果はまちまちだ。国連監視団はそうした証拠はないと報告しているが、組織的に行われているとの指摘もある。(中略)

加害者は親ロ派だけではない。国連と国際人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチが集めた証言によると、ウクライナ保安局(SBU)と政府系民兵組織は、親ロ派の疑いがある人物を拉致し、ジュネーブ条約に違反して秘密の場所で拷問しているという。(中略)

しかし加害者が起訴されるケースは例外的だ。国連の記録によれば、16年末までにウクライナの軍検察が内戦関連の性暴力事件で捜査に乗り出したのは、わずか3件にすぎない。軍検察によると、3件とも証拠不十分のため立件は見送られたという。(後略)【12月18日 Newsweek】
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レイプ・拷問・監禁などの生々しい描写は省略しました。その非人道的行為は読むに堪えないものがあります。

****ウクライナ東部で地雷に脅かされる子ども22万人、週に1人が被害****
ウクライナ東部は、現在地球上で最も多くの地雷が埋まっている場所のひとつです。地雷、不発弾などの爆発性戦争残存物(ERW)が散乱する地域に暮らし、遊び、学校に通う子どもたち22万人が脅かされています。

「4年前には子どもたちが安全に遊べた場所が、今では殺傷能力のある爆発物で台無しにされていることは、許しがたいことです」とユニセフ(国連児童基金)・ウクライナ事務所代表のジオバンナ・バルベリスは述べました。

「すべての紛争当事者は、このような地域を汚染し子どもたちを常に命の危険やけがをするリスクに晒すような、非道な兵器の使用を今すぐ止めるべきです」

入手可能なデータによると、今年1月から11月の間に、ウクライナ東部に長さ500キロメートルにわたって延びる政府と非政府勢力の支配地域を隔てる境界線地域は、戦闘が最も激しい場所で、平均して週に1人の割合で子どもが紛争に関連した被害に遭っています。

子どもたちが負傷する主な原因は、地雷、爆発性戦争残存物、ならびに不発弾によるもので、同じ期間に記録された全死傷者の約3分の2を占めています。多くの子どもたちは一生、障がいを抱えて生きることになります。

爆発物を拾い上げたときです。14歳の男の子アレクシーは、ユニセフ職員にこう話しました。「拾ったときに何かを押したみたい。そしたら爆発した。血だらけになって指がダラリとぶら下がっていた。僕はとても怖くなって震え始めた。気を失いそうになったんだ」(後略)【12月21日 PR TIMES】
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こうした状況に政治指導者が目を向け、来年は改善されることを願います。
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