(1月22日、3月4日のイタリア総選挙に向けて選挙綱領を発表する、各種世論調査で支持率トップを走る「五つ星運動」のルイジ・ディ・マイオ新党首【1月23日 ロイター】 31歳の元ウェイター 総選挙で「五つ星」が主導権を握れば首相にも 「私は若者の失業率が60%の地域出身。私の経歴をばかにする人は、この国の若者をばかにするのと同じ」【12月29日 産経】)
【「勝者不在」の欧州政治の混迷】
1月14日ブログ“EU 東西分断とポピュリズム台頭 両者が集約する難民対策で困難なかじ取り”でも取り上げたように、欧州では国民の現状・既成政治への不満を背景にした、反EU・反移民的な傾向が強い極右・ポピュリズム政党が大きな影響力を持つ状況にあります。
昨年は、オランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ総選挙等で、極右。ポピュリズム勢力の最終的勝利はなんとか回避したものの、その波は未だ収まっておらず、「執行猶予」状態にあるとも言えます。
ドイツでは昨年9月の総選挙で、難民の流入を背景に新興右翼政党「ドイツのための選択肢」が躍進する一方で、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(同盟)は議席を減らしました。
メルケル首相は、小政党との連立交渉を始めたものの昨年11月に頓挫。戦後初の少数与党政権や再選挙の可能性も指摘されていましたが、現在は、議会第2党の中道左派・社会民主党と再び大連立を組む方向で何とか協議を進めています。
ただ、“社会民主党は22日、正式な連立交渉開始が21日の社民党党大会で承認されたことを受け、交渉準備に着手する。社民党では予備交渉での合意見直しの要求も強まり、交渉が一段と険しさを増すのは必至だ。”【1月23日 産経】と、まだ政権樹立に向けた苦労が続きそうです。
こうした不透明な欧州政治状況を強く反映したものになりそうなのが、3月4日に予定されているイタリア総選挙です。
****勝者なき欧州政治、新興政党台頭で遠のく安定****
反既成政党への支持拡大で大胆な政策実施が困難に
3月実施予定のイタリア総選挙も、2017年に欧州で相次いだ選挙と同じ「勝者不在」の結末を迎える公算が大きい。
ドイツからオランダまで、欧州の有権者は主要政党に見切りを付け、新興政党の支持に回った。その結果、欧州政治を取り巻く環境はひどく分断され、新政権の樹立を困難にした。
そのため欧州諸国の多くが、受け入れ難い選択肢を迫られている。大胆な政策の実行を難しくする少数与党政権か、有権者の怒りを増幅しかねない主流派による超党派の連立政権のいずれかだ。
イタリアのエンリコ・レッタ元首相は「イタリアの選挙も、スペインやドイツ、オランダで見られたような分裂の道をたどるだろう」とし、「そうなれば欧州の状況はさらに厳しさを増す」と述べる。
イタリア政治の世界は、少数政党や枝分かれ政党が連立協議に過度な影響を及ぼし、これまでも常に深く分断されてきた。
その結果、脆弱なつぎはぎの連立政権となり、総じて短命に終わった。10年前、当時のロマーノ・プローディ政権には9つの政党が参加。各党の要求に応えるため、プローディ政権は100人を超える閣僚・次官を抱えた。だが2年も持たなかった。
イタリアの現議会もその伝統を維持している。2013年の議会発足時の政党数は15だった。だが現時点で23の政党が乱立、これにはメンバーが1人だけの政党が5つ含まれる。
3月総選挙に施行される新たな選挙法では、連合形態のグループが優位な仕組みとなっており、数多くの新たな枝分かれグループの形成を促している。
他国もイタリアと同様、新興政党が主流政党から票を奪う構図となっており、少数与党政権の誕生が相次いだ。
オランダでは、マルク・ルッテ首相が政権を樹立するのに7カ月を要した。ルッテ政権は異例の4政党による連立を組んでいる。アイルランド、ポルトガル、英国は、いずれも少数与党政権だ。
スペインでは、シウダダノスとポデモスの新政党が2015年の選挙で躍進、過去何年にもわたり続いていた2大政党政治にくさびを打ち込んだ。新政権の樹立ができず、その年の後半に再選挙の実施に追い込まれる。現在のマリアノ・ラホイ首相は少数与党政権を束ねている。
これまで安定政権のとりでだったドイツでさえ、(中略)メルケル首相は連立政権を樹立できていない。前政権を支えた超党派の「大連立」への回帰は可能性の1つだ。
だが、既存政党が新興グループや反エスタブリッシュメント(反既得権益層)の流れを封じ込めるために団結して大連立を形成したと有権者が受け止めれば、イタリアでは、すでに傷ついている既存政党の信認をさらに損ないかねない。
足元の世論調査によると、反エスタブリッシュメントを標榜する五つ星運動が30%弱を得票し、第一党に躍り出る勢いだ。そのため多くの議員や党指導者は、3月の選挙により、いずれの政党も過半数議席に届かない「ハングパーラメント」になると予想する。
イタリアのセルジョ・マッタレッラ大統領は第一党となった政党に少数与党政権の樹立か、主要政党に超党派の大連立を求めるかもしれない。
硬直したイタリア経済の立て直しには強力な政権の誕生が欠かせないが、いずれのシナリオもその先行きに暗い影を落とす。
五つ星運動は連立政権への参加を拒んでおり、すでに既存政党による大連立には反対する立場を表明している。
五つ星運動の首相候補ルイジ・ディマイオ氏は「同盟や連立といった言葉は廃止する」と主張。代わりとなる選択肢は、大連立政権の樹立ではなく「再選挙実施だ」と述べている。
TSロンバードの政治アナリスト、コンスタンティン・フレイザー氏は、大連立を組めば、有権者が支持しないことをやるのは避けられないとして、「主要政党が連立相手として手を組めば、反対派はポピュリスト(大衆迎合主義)へと向かう」と話す。
シンクタンク、ブリューゲルのフェロー、アレッシオ・テルツィ氏は、イタリアで超党派の連立政権が誕生すれば将来的に厄介な方向に進むと指摘。「ドイツとは異なり、イタリアにおける大連立は危機管理モードにおいてしか機能しないため、国に安定を与えることができない」という。【1月4日 WSJ】
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【単独過半数獲得のハードルが高まったイタリア選挙制度】
イタリアの政党支持率・選挙後の予測については、下記のように報じられています。
“(2017年12月)22日付の世論調査の政党支持率は、首位の「五つ星」29%に続き、レンツィ前首相の与党・民主党(中道左派)が22.8%。ベルルスコーニ元首相が率いるフォルツァ・イタリア(中道右派)は16.2%だった。
フォルツァ・イタリアは、反移民の右翼政党「北部同盟」などと右派の政党連合を組めば支持率約37%で、「五つ星」などを上回るものの、獲得議席は過半数には届かないとの見方が強い。
選挙では、経済政策に加えて、イタリアを目指して北アフリカから地中海を渡る移民問題が主な争点となる。”【12月29日 毎日】
“イタリア議会は10月、比例代表制だった両院の選挙を、議席の3分の1を小選挙区制で、3分の2を比例代表制で行う改正選挙法を可決。下院で40%以上を得票した政党に過半数議席を付与する「ボーナス制度」も撤廃し、単独過半数獲得のハードルが高まった。”【同上】という選挙制度改革は、主要政党で唯一、他政党との連立を拒否してきた「五つ星」に不利に働くとみられており、「五つ星」をターゲットにした改正とも見られています。
【既成政治を批判し、インターネットを活用した「ダイレクトデモクラシー」を重視する「五つ星」】
人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏が既成政治を批判して立ち上げた「五つ星」については、昨年11月に来日した「五つ星」のフラカーロ下院議員の講演などをもとに、インターネットを活用した「ダイレクトデモクラシー」の重視など、以下のようにも。
****社会を変えるのはヒーローではなく市民~イタリアの「五つ星運動」****
(中略)イタリアで市民運動として始まった「五つ星運動」は、2009年の党創設以来、ローマやトリノで女性市長を誕生させ、市町村議会から国会まで2000人以上の議員を輩出してきました。
2013年の総選挙時には全体の25%もの票を集め、現在ではイタリアの第2党です。さらに最近の世論調査では約30%という、イタリア一の支持率を得ています。
こうした背景から、2017年に新党首として選ばれた31歳のルイジ・ディマイオ(若い!)は、イタリアの次期首相として期待されているのです。
(中略)「五つ星運動」は、「政党ではなく、国民の手に権力を取り戻したい」という思いから、ダイレクトデモクラシー(直接民主)を目指して生まれた市民運動なのだと話していました。
「五つ星」とは、社会が守るべきテーマ(持続可能な発展、持続可能な交通、水資源、環境、インターネット社会)のことを指しています。
「五つ星運動」の始まりは、約30年前に人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏がTVで政党批判をしたことにさかのぼります。(中略)
五つ星の議員には「任期は2期まで」、「国民の平均給与以上の議員報酬は寄付をする」などのを決まりがあります。また、公的助成金や大企業・多国籍企業からの支援は受けず、活動資金は市民からの寄付に頼っています。
「大企業や多国籍企業から寄付を受ければ、彼らが私たちをコントロールする。でも、市民から援助を受ければ、市民が議員をコントロールすることになります。そして、それこそ私たちは望んでいること。すべての政治家は、市民から監視され、コントロールされるべきだと思っているのです」
さらに、五つ星運動の大きな特徴で、日本でも参考になるものに、インターネットの活用があります。たとえば、党内の立候補者選びをオンライン投票で行うほか、党のマニフェスト案や国会に提出する法案などもオンラインで公開され、党員同士でオープンな議論を行っています。党の運営にも「ダイレクトデモクラシー」が重視され、誰もが参加できる仕組みをSNSなどを利用して実現しているのです。
ほかにも、「E-LEARNIG」というアプリがあり、このアプリを通じて議員だけでなく市民も、市町村の決算の読み方、公的文書を入手するための方法、市民にどのような権利があるのかなどを学ぶことができるそうです。(中略)
もちろんオンラインだけでなく、リアルな場での対話も大事にしています。とくに意見が違う人たちと話し合うには、顔を合わせて話すことが必要なのだとフラカーロさんは強調していました。(後略)【2017年12月27日 マガジン9】
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【“ポピュリズム”批判】
「五つ星」については、既成政治の打破という側面の一方で、“ポピュリズム”との批判がつきまといます。
*****ポピュリズム****
ポピュリズムとは、一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想、または政治姿勢のことである。日本語では大衆主義や人民主義などのほか、否定的な意味を込めて衆愚政治や大衆迎合主義などとも訳されている。(中略)
ここ数世紀の学術的定義は大きく揺れ動いており、「人民」、デマゴーギー、「超党派的政策」へアピールする政策、もしくは新しいタイプの政党へのレッテルなど、しばしば広く一貫性の無い考えや政策に使われた。
英米の政治家はしばしばポピュリズムを政敵を非難する言葉として使い、この様な使い方ではポピュリズムを単に民衆の為の立場の考えではなく人気取りの為の迎合的考えと見ている。(中略)
近年では、「複雑な政治的争点を単純化して、いたずらに民衆の人気取りに終始し、真の政治的解決を回避するもの」として、ポピュリズムを「大衆迎合(主義)」と訳したり、「衆愚政治」の意味で使用する例が増加している。
村上弘によれば、個人的な人気を備えた政治家が政党組織などを経ずに直接大衆に訴えかけることや、単純化しすぎるスローガンを掲げることを指すとする。(中略)
民主制は人民主権を前提とするが、間接民主制を含めた既存の制度や支配層が、十分に機能していない場合や、直面する危機に対応できない場合、腐敗や不正などで信用できないと大衆が考えた場合には、ポピュリズムへの直接支持が拡大しうる。その際にはポピュリストが大衆に直接訴える民会・出版・マスコミなどのメディアの存在が重要となる。(後略)【ウィキペディア】
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“大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想”という点では民主主義そのものでもありますが、“一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用”“一貫性の無い考えや政策”“複雑な政治的争点を単純化して、いたずらに民衆の人気取りに終始”というあたりが、評価の分かれ目になります。
アメリカ・トランプ大統領などは、悪い意味でのポピュリズムの傾向を強く有しているようにも思えます。
欧州にあっては、難民・移民やEUへの感情が、“願望、不安や恐れ”“単純化”“人気取り”とも結びついてきます。
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(イタリアの)ジェンティローニ首相は(12月)28日、議会解散前の記者会見で、「選挙戦では不安や幻想をかきたてないようにすべきだ」と述べ、大衆迎合主義の横行にクギを刺した。しかし、選挙戦では実現不可能な公約が飛び交うのは必至。
イタリア経済は最近、ようやくユーロ危機から回復の兆しを見せているが、次期政権成立までの混乱は国内のみならず、ユーロ圏全体の不安材料になる可能性が高い。【2017年12月29日 産経】
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また、インターネット、ツイッターなどのソーシャルメディアの普及が、“大衆に直接訴える”現実的手段を可能にしていることが、ポピュリズムの台頭の背景にあるように思えます。
【現実対応の軌道修正も】
ポピュリズムと評されることが多い「五つ星」ですが、ユーロへの批判的姿勢はこれまでもだいぶ軌道修正してきています。また、既成政治たる“他政党”との連立拒否についても、前述のように「五つ星」に不利な選挙制度を意識してか、総選挙に向けてやや修正を見せています。(あるいは、ポピュリズム的な“風向き次第で主張を変える節操のなさ”でしょうか)
****伊五つ星運動、選挙綱領を発表 ユーロ離脱の国民投票盛り込まず****
3月4日のイタリア総選挙に向けて、各種世論調査で支持率トップを走る反体制派政党「五つ星運動」は22日、20項目から成る選挙綱領を発表した。ユーロ圏離脱の是非を問う国民投票は盛り込まれなかった。
「五つ星運動」はかつては国民投票を強硬に訴えていたが、最近では穏健派に配慮する形でその主張を後退させている。金融市場では、国民投票が行われればユーロの打撃になりかねないとして警戒感が強い。
9月に選出された「五つ星運動」のルイジ・ディ・マイオ新党首は、アドリア海に面した港湾都市ペスカーラで開かれた党の会合で綱領を披露。総選挙後に他の党と交渉する際のたたき台になる、と語った。
世論調査によると、「五つ星運動」は支持率が約28%で、与党の民主党を約5ポイントリード。ベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」を中心とする中道右派連合の支持率は合計で約37%と、最多議席を獲得する見通しだが、過半数には達しないとみられる。
「五つ星運動」はこれまでは、他の党とは連立を組まないとの方針を掲げてきたが、今回公表した選挙綱領では、この方針が撤回された。【1月23日 ロイター】
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【結果的には、既成政治の悪弊そのもののベルルスコーニ元首相復権?】
それにしても、「五つ星」の動向もさることながら、汚職・性的スキャンダルまみれの“お騒がせ”ベルルスコーニ元首相がキーマンとして再び復活するというのは、“それでいいのか・・・”という徒労感も。
****あのベルルスコーニが再び政局の中心に****
予測のつかない3月の総選挙に向けて、中道右派連合を率いるお騒がせ元首相に追い風が
イタリア総選挙の実施日が3月4日に決まった。どの政党も過半数を獲得できない見込みで結果がどうなるかは不透明だが、1つだけ確実なことがある。
選挙戦の成り行きのカギを握るキングメーカーは、ほかならぬ81歳のシルビオ・ベルルスコーニということだ。
そう、首相を4期務め、「ブンガブンガパーティー」の言葉を有名にしたあの男だ。11年11月に首相を辞任したベルルスコーニは13年に脱税で有罪となっており、公職に就くことはできない。それでも彼が率いる中道右派連合は、総選挙に向けていま最も勢いがある。(中略)
新制度で最大限の恩恵を受けるのは、選挙前に連立で合意した政党。つまり、ベルルスコーニ率いる中道右派連合だ。
94年と01年、08年の選挙で勝利したときもそうだが、ベルルスコーニの最大の強みは常に政党連合を作ってきたことだろう。(中略)
難民・移民の流入に対する有権者の怒りや、五つ星が招きかねない混乱に対する不安は、ベルルスコーニ率いる中道右派連合に有利に働きそうだ。
彼らが絶対多数を獲得することは難しいだろうが、可能性はゼロではない。
いずれにしても躍進をみせれば、老いたベルルスコーニにとっては大きな返り咲きだ。
過半数を得られればベルルスコーニが首相を選ぶだろうし、中道右派と中道左派の大連立政権の交渉で中心的役割を果たすことだって考えられる。(後略)【1月16日号 Newsweek日本語版】
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既成政治打破を掲げる「五つ星」台頭が、結果的には既成政治の悪弊そのもののベルルスコーニ元首相復権を現実のものにするのか・・・・。